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つかわすっ!!

榊家の面々に捕まってお酒を飲まされながら、榊家の由来や家訓を延々と聞かされていたお兄ちゃんは、真っ赤な顔をしながらも、その時の様子を楽しそうに語る。


「榊家の由来を延々を聞かされた時に、俺も本当の意味で榊一族になれたしたよ。」


パパの再婚相手であるママの連れ子のお兄ちゃんは、子供の頃から榊一族には、どこか馴染めないところがあったのだという。その理由として、自分の体の中には、榊家の血が一滴も入っていないことを子供ながらに感じていて、自分自身が榊家の大人達からどう見られているのか、想像して壁を作っていたのだという。

パパはお兄ちゃんを大切に扱ってくれていたけれど、それでも壁は壊せなかった感があった。

その証拠にパパはお兄ちゃんのことを「たける君」と呼ぶ。話し言葉も他人行儀だ。

それは、パパもお兄ちゃんが作っている壁を壊すことが難しいことを感じていたから。パパとママは話し合って、お兄ちゃんに対して親子の距離を詰めることはせず、お兄ちゃんの方から歩み寄ってくれるのを待とう、という結論に至った。パパはお兄ちゃんを大切に扱った。声優になりたいとママに相談したときも専門学校の学費を出すことは勿論、お兄ちゃんの自室に防音室を作ったりしたし、上京の際には、それ相応の支度金を門出だと言って送った話をママから聞いている。

それでもお兄ちゃんの心の中に住み着いた ”自分は榊一族ではない” という負い目のようなものを打ち消すことは出来なかった。お兄ちゃんは、自分の芸名も旧姓ではなく、「榊 たける」にしているので、榊と言う名が嫌いなわけじゃないし、誇りにも思ってくれていると思う。

ただ・・・・。当人にしかわからない何かが壁を作っていた。

だから、いつしかお兄ちゃんはお盆の帰省についてこなくなったし、榊親族に対して心を閉ざしていたところがあった。


でも、それが今晩、打ち消された。

それはお兄ちゃんにとってもママにとってもパパにとっても・・・・・勿論、私にとっても嬉しいの。

「俺は榊 たける・・・・。榊家の一員だ。

 そして・・・・いつか俺は、お前と結婚して妻にして、本当の意味で榊家になるんだって、思いながら話を聞いていたんだ。」

お兄ちゃんは、ドキリとするようなことを言ってきた。

そういえば・・・お兄ちゃんと私に交際を申し込んでいる他の2人とでは決定的に違うところがある。

それは、お兄ちゃんは常にハッキリと結婚を口にしているところだ。もちろん、私の6歳年上のお兄ちゃんは成人しているから、結婚を意識して当然。他の二人は、まだ高校生だから結婚を口にすることを現実的にとらえ切れないと思うから、積極的にその言葉を使わないのは仕方が無いと思う。

そう思うのだけれども、言われる立場の人間としては、両者の立ち位置は全く異なる。

「お前が欲しい」

それは3人とも言ってくれるのだけれども、

「お前と結婚する。」

と、明確に言ってくるのは、お兄ちゃんだけ。その言葉の重みに私は、自分でもはっきりと何かとは言えない何かを感じているのだと思う。


結婚と言う言葉を口にしても、当然、受け取り方は女性それぞれ異なる。

束縛を感じたり、重いと感じたりする人もいれば、

それを誓いの言葉として嬉しく思うひともいる。

私は、きっと後者なんだと思う。結婚という言葉を聞くと私はすぐに幸せな家庭を思い描いてしまうのがその証拠。

私はパパとママみたいな信頼で結ばれた結婚をしたい。そう思っているからこそ、具体的な夫婦生活を思い描ける。

そして・・・当然、私はお兄ちゃんとの結婚生活も簡単に思い描くことが出来る。

だから、こうして、今。お兄ちゃんに結婚を口にされるとトキめかずにはいられないのでした。


そうやって私の心が盛り上がっていることをお兄ちゃんは察しているのか、とびきり胸がキュンと切なくなるような声で

「でも、さみしかったよ。

 榊家の酒宴で盛り上がっている最中、あかり。お前がそばにいなかったからね・・・・。寂しかったよ・・・・。」

と言った。

ー こんな切なくなるようなことをどんな顔で言うのだろうか? ー

私はドキドキしながら、ちらりとお兄ちゃんの横顔を見ると、手にした線香花火に視線を落として俯くお兄ちゃんは、何とも言えない孤独感があった。

その孤独感は私の母性を強烈に刺激する。

急に胸が温かくなって、私は思わずお兄ちゃんに肩寄せながら、

「私も寂しかったよ・・・。」と、口にする・・・・。

少しの間をおいて、お兄ちゃんは私の肩を抱き寄せてくれた。

二人でその場でしゃがみこんで、線香花火を見つめていた。

その間、私達は一言も交わさなかったけれど、言葉はいらなかった。肌から感じるお互いのぬくもりが全てだったから。

線香花火は、やがて火種が収縮して、最後の火花を飛ばしてから、フッと光が消える。

最後を迎えた線香花火の先から白い煙が急に薄暗くなった夜の闇に光る様に立ち昇りながら夜の空に消えていく。その最後の明かりが消えた瞬間、


ガバッとお兄ちゃんは、私の方を振り向いて私を正面から抱きしめたっ!!


ああっ・・・。大好きっ!!

大好きよっ!! お兄ちゃんっ!!


感激のあまり、声に出ない言葉が私の心の中で強く鳴り響く。

好きよっ!!  好きよっ!!

と、声に出したいのだけれども、私は声に出せなかった。それほど、心打ち震えていたから・・・・。

そんな私の気持ちを見透かすようにお兄ちゃんは、私の抱擁をほどきながらその手を私の頬に当てあってから、人差し指でクイッと私の顎を上げる。

見ると優しいほほえみを浮かべたお兄ちゃんが私を見つめていた。


私は、全てを受け入れるかのように震える瞼を閉じた・・・・・・。

そして、次の瞬間・・・・。


「明っ!! 

 たけるさん。 お祖父ちゃんが呼んでるぞ~~っ!!」

と、暗がりの向こうから優一ゆういち君が叫んでいた・・・・。

その声にびっくりした私は、何か悪い事でもしていたかのように怖くなって、お兄ちゃんを突き離して、背を向けてしまった。

” ああっ!! わ、私っ!! なんてことをっ!!”

急にそっけない態度をとってしまった事に後から気がついて、お兄ちゃんに悪い事をしてしまったと思ったのだけれども、お兄ちゃんも同じ気持ちだったようで、

「・・・・くそ・・・・。

 興がそがれちまったな・・・。優一の野郎・・・・。」

お兄ちゃんはそう言うと、少し残念そうに笑顔を見せると、立ち上がる。

「・・・・いこうか?」

そう言って私に手を差し伸べてくれるお兄ちゃんは、子供の頃から私を守ってくれていたお兄ちゃんの顔だった・・・。

「はいっ!!」

何故だか嬉しくなった私は、お兄ちゃんの手を取って、一緒にお祖父ちゃんの所へ歩いていった。

途中で擦れ違った優一君の悲しそうな目が心に痛かった・・・・。


「なぁに? お祖父ちゃんっ!!」

私は、紅葉した肌を悟られるように努めて大きな声で明るく挨拶する。

すると、お祖父ちゃんは「んっ!!」と言って、先祖伝来の南北朝時代の大太刀ひと振りを差し出す。

「・・・はいっ?」

私とお兄ちゃんは意味が解らずに、間抜けな返事をする。

「つかわすっ!!」

お祖父ちゃんは、そう言って大太刀を突き出すだけだった。

はぁっ?

意味が解らないとパパの方を見ると、パパもすっかり出来上がっていて、号泣しながらその様子を見る。

「我が榊家先祖伝来の大太刀3本の内の一振りじゃ。

 これをもってお前たち夫婦を榊家新当主として認めるっ!!

 みと…めるっ!!」

そう言って、お祖父ちゃんは、泣き崩れた・・・・。

ええ~~っ? 何それ~~?

私とお兄ちゃんは困惑した顔で見合わせて、「こ、こんな大切なものは受け取れません。」と必死で断ったのだけれども、お祖父ちゃんは、

「つかわすっ!!」

と、言って泣くばっかりだった・・・・。

きっと、それが榊家にとってどれほど心からの祝福なのか、私達には想像もできないくらい最大限の祝福なのだろう。

私達は、仕方なく、その大太刀を受け取るのでした。それと同時に湧き上がる拍手。

本家一同、大感激しながら、私達に祝福の拍手をしてくれていた。

その拍手の雨の中。


「えらいことになったな…」

「はい・・・・。」


私達は困惑するばかりでした。




でも、翌朝。酔いから覚めたお祖父ちゃんは、

「大太刀を返してくれ。昨日は、酒が過ぎた。」と、真顔で言ってきた。

はあああああ~~~~っ!!?

なに、それっ!! 意味わかんないっ!!

混乱する私にお姉様がそっと言う。

「あのな。これが榊家の気性じゃ。

 大蛇は酒に弱いものじゃ・・・・。明、お前も気を付けるのじゃぞ・・・。」

そう言ってから、お姉様はクスリと笑った・・・・・。




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