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他言厳禁やでっ!!

お盆が来たっ!!

帰省先のお祖父じいちゃんに会うのは久しぶりのことだし、女の子の私と出会うのはお祖父ちゃんにとって初めての事だった。

パパがレンタルしたワンボックスカーで田舎に帰る。パパにとっての故郷だ。

その為か、見慣れた景色が見えてくると、パパは饒舌になる。

「ここは昔、丘だったんだよ? 子供の頃は、あそこにあった丘に一本生えている大きな木を秘密基地の拠点にして、皆で集まったものだよ。」

「ねぇ、パパ。秘密基地ってなぁに?」

「ああ・・・。今の子にはわからないかな。

 秘密基地は秘密基地さ・・・・。」

パパは時々、よくわからないことを言うけれども、それが、パパの楽しい思い出なんだってことは理解できる。

「その丘も今では、スーパーの敷地に整備されている。

 何とも寂しいが、これも人間が生きていくには仕方のない事だねぇ。いや、寂しい。」

帰省の道中にはパパの懐かしい思い出が詰まっている。それが変わっていくのを寂しそうに語れるようになるという事は、大人にしかできないこと。それだけの年月を超えないといけないことだから。

そうして、パパの懐かしくも寂しい思い出話を聞いていると、お祖父ちゃんの家に着くのは、そんなに長い道のりに感じないから不思議なもの。

あっという間についた気がする。

そして、本家の玄関の呼び鈴を鳴らすと、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが慌てて出て来たっ!!


「うおおおおおおおっ!! ほ、本当に女の子になってるっ!?」

お祖父ちゃんは、ビックリして言う。

お祖母ちゃんは、「あら、凄い別嬪に・・・。」と言いかけてから、私の胸を見て、鷲掴みにする。

「きゃああああっ!? な、なにするのよっ!!」

お祖母ちゃんに掴まれて、悲鳴を上げながらも私は押しのけて抵抗する。

「な、なに。今の感触? 何、そのサイズ?  い、一体、誰に似たの?」

お祖母ちゃんは驚愕しながら、そう言った。

しかし、お祖父ちゃんは、ジッと目を細めて「そうか。その容姿・・・・。それが話に聞く、コヒ(い)ミズサマか・・・・。」と、言うのでした。


本家にお邪魔すると、まずは仏壇に御挨拶してから、客間に通された。そこには、私の家族と本家の一同が並び合わせて、お祖父ちゃんの話を聞く。

私としては、久しぶりに会った2つ年下の従弟の優一ゆういち君とお話ししたかったけど、とてもそんな空気ではなかった。

お祖父ちゃんは、私達が来ることを聞いていたので、前もって、我が一族の由来について書かれた古文書を用意してくれていて、座卓に古文書を広げて該当する場所を指差しながら説明してくれた。

「ここにな。お前の性別を変える原因となった伝説が書かれておるよ。

 ワシも、ワシの曽祖父から、子供の頃に冗談交じりに聞かされたことがあったんじゃ。

 ワシらの一族は元々、蛇だったと・・・・。」

その言葉は、榊家の人間以外の者が聞いたら、バカ話だった。でも・・・・。榊家の者にとって、これは、バカ話でも昔話でもない。実話である確証。私がいるのだから・・・・。

だから、全員が神妙な顔でお祖父ちゃんの話を聞いた。

「ワシらの先祖は、常陸国鹿島の地にて太刀を学んだ武士が旅の道中に化物退治をした報酬に例の蛇を嫁にしたのが、始まりと書かれている。この人は、元々は平家の武士じゃったようじゃがの、家を出ることになり、榊を名乗ったらしい。」

お祖父ちゃんは、そこまで話してから、新たに絵巻を手に取って開き、

「そして、ここに何世代目かの複写の絵が残されておるが、確かに「コヒミズサマ」と書かれておるじゃろう?」と、指差したのだった。

「ああっ!!」

と、全員が声を上げた。

そこには、お姉様らしき女神とその前に平伏する武士と蛇の絵が描かれていた・・・・・。

「ワシもな、一族がこの地の大庄屋で戦国時代までは武士であったことはよく聞かされていた。しかし、この昔ばなしまではなぁ・・・・。与太話扱いで、そこまで詳しく聞いたことが無かった。だが、あかりよ。お前の話とこれらの書物の話は、一致する。

 ワシが我が子にも話したことが無い与太話をお前が知るはずもないし・・・・・。この奇跡が事実であったと・・・・。すぐに受け入れることが出来たんじゃ。」

お祖父ちゃんは、そう言ってから私を真っすぐに見つめた。

そして、「すまぬ・・・・すまぬのう・・・。ワシらの先祖の罪をお前一人に背負わせて・・・・。すまぬ」といって、大粒の涙を流した・・・・。

・・・・

・・・・・・うわ~~~。罪悪感、半端ないわ~~~。

いえ。確かに、最初に先祖のばちを被ったのは私ですよ? 女の子になりました。女の子に変えられました!!

でも・・・・それが心地よくって、お姉様の意向を無視して、女の子で生きていきたいと思ったの、私ですからっ!!

ああ~~~。だ、だから。お祖父ちゃん。泣かないでぇ~~~・・・・。

って、よく見たら、榊家。全員泣いてるっ!!

本家の叔父さんも叔母さんも、従弟の優一ゆういち君まで泣いてるしっ!!

ど、どどど、どうしようっ!! お姉様っ!? どうしようっ!!


私がお姉様に救いを求めた時、奇跡が起きた。

日の光が消えたかのように家中が一瞬にして暗闇になったかと思うと、神々しい光と共に幻影のようなお姉様が突然、天井からスーッと降り立つように現実に姿をお現しになり遊ばれたのですっ!!

こ、こここ、こんなことって、私も初めてすぎて、声も出ない。

榊家の誰もが本家の大黒柱を背に立つお姉様に呆気に取られて声も出せずにいると、お姉様の口が開き、麗しいお声でお話しかけ下さいました。


「聞け。榊家の者よ。これから、妾が話す事。今日起きることは、他言を禁ずる事きつく申し渡す。

 よいか、明の身に起きたこと。これは、神罰ゆえにもはや変えることは出来ぬ事ゆえ、諦めよ。

 しかし、こののち、再び同じことを犯さぬように、お前たちに命ずる。もともとは明の子に社を立てさせるつもりであったが、こうして一族が会したのも何かの縁。榊家の者は、力を出し合ってこの地に妾の社を立てて、子々孫々まで崇めよ。これを破れば、もはや、榊家を許すことは出来ぬ。榊家に耐えがたい病魔の苦しみを与えて滅ぼす。この事、ゆめゆめ忘れるではないぞ!」


その場にいたお姉様は、いつも私の心の中にいるお姉様と同一の神とは思えぬほど神々しくて、お姉様の言葉を聞いた途端、榊家の皆だけでなく、私までその場に平伏して、まるで金縛りにでもあったかのように頭を上げることが出来なかった・・・・・。

榊家の誰もがブルブルと震える中、急に日の光が差したかと思うと、一瞬にして、金縛りのような状態が解けて・・・・その後に全員、ゾッとするような寒気と共に滝のような汗が流れだして止まらなかった・・・・。人の身が受けてはならない神姫の御威光を浴びたのだと、誰もが直感した・・・・。


それから、1時間は皆放心状態だったけれど、やがて、お祖父ちゃんが「これは・・・えらい事じゃ。すぐに実行せねばならんでっ!! それと、ええか? 今日のことは他言厳禁やでっ!! あれほどの神様のいう事じゃ、破れば恐ろしい祟りが来るでっ!!」と叫んだ。

榊家一同、ご本家統領の言葉に平伏する。これが、元武家のしきたりか・・・。でも、何で関西弁になった?

お祖父ちゃんは、自分の所有する広大な土地の中から、その日のうちにお社に相応しい300年物の銀杏がある土地を選び社を立てることに決める。費用はパパが800万、ご本家が1000万円出してお社を立てることが決定した。

「ここにお社を立てて、子々孫々までコヒミズサマをお祭りせねばっ!!」

榊家が一つに纏まった瞬間だった。


・・・・・・ああ~~~。な、何かっ!! 余計にどえらいことになっちゃってるっ!!

こ、こんなことなら、素直に私がやりましたって言えばよかったぁ~~~っ!!

罪悪感が私の心を殺す勢いでナイフを振るっているかのように、心が痛む。

でも、そんな私にお姉様が慰めの言葉をくださった。

「よい。お前が気に病むな。

 お前がどのような選択をしようとも、最終的には妾はお社を立てさせるつもりじゃった。

 だって、妾。神様じゃもの。お社は欲しいのじゃ。」

そう言いながら、お姉様は、愉快そうに笑った。

ああ~~。まんまとしてやられたっ!!

そう思いながらも、私はお姉様が私をかばってくれたことも忘れない。

「お姉様。みんなの前で私の罪を隠してくれましたね。

 今日は十分にサービスさせていただきますっ!!」

「ふふふ。お前は妾の弱いところをちゃんと知っておるからのぉ・・・。

 今夜は楽しみにしておるぞっ!!」

そういって、また愉快そうに笑うのでした・・・・・。

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