台無しじゃっ!!
美術部の部活終りに私と隆盛と不知火先輩の3人でファミレスに行くことになった。
それが二人に残された時間を有効に使うために、少しでも長く私といたいからだと思っていた。
だから、私は出来るだけ二人の言葉に耳を傾け、心の赴くまま、素直に言葉を返す。
それはありのままの私を見てほしいから。そうして、自分の気持ちを真っすぐに返すことが二人に対する礼儀のようにも感じていたから・・・。
ただ、「どっちの方が抱かれてて嬉しい?」なんていうデリカシーのない質問には答えてあげない。
「隆盛。あなた、そんなことを女の子が聞かれて答えると思うの?
そもそも、そんなことを確認するのって、自信が無い証拠じゃなくて?」
むしろ、批判するような言葉を投げかける。それがこういった場合、一番効果的だという事を私は知っていた。
「むっ!! そ、そういうこと言うか?」
隆盛は、私に言われて悔しそうに口ごもる。隆盛は女の子に言い返されると、意外と大人しくなるのは初と隆盛の会話を見ていて悟った事。これが一番効果的でしょ?
ところが、少し旗色が悪くなった隆盛に不知火先輩がここぞとばかりに嫌なことを聞いた。
「ところで、川瀬は八也君との仲は、どうなんだ?
可愛いと思っているんじゃないのか? 凸凹コンビでお似合いの二人だと思うし、明と天秤にかけるなんて不純な真似はやめて、ここは、八也君を選ぶ手もあるぞ?」
「すみません。不純な娘で・・・・。」
くすん・・・。
不知火先輩。それ、すいません。私にも刺さるんでやめてもらっていいですか?
「ああっ!! ち、違う違うっ!
君は言い寄られている方で・・・・・」
私に謝られてうろたえる不知火先輩を見て、今度は隆盛が仕返しをする
「俺だって初に言い寄られている方ですけど・・・・?
それに、お泊り会の時は、初にスキンシップされているとき、先輩結構いやらしい顔になっていましたよ? 案外、良かったんじゃないんですか?」
「ば、ばばば、ばかいえっ!! あの子は男の子だぞっ!!」
あははっ!! 不知火先輩、狼狽えすぎです。
こうなると私も虐めたくなっちゃうなぁ・・・・
「じ・つ・は、不知火先輩も私よりも初みたいな可愛い男の子がいいとか?」
そう言われた不知火先輩は、急に真顔になって
「バカいえ。
可愛い男の子と言うなら、僕の方が絶対に可愛いだろうが。」
と、即答した。
あ、・・・・はい。
自信に満ち溢れた不知火先輩の言葉に私たちは何も言えなくなって、そのままファミレスまでは無言で歩くことになった・・・・。
て、いうか・・・・・。不知火先輩。いつの間に、そんな謎の性癖を‥‥?
しかし、若者同士で無言の時間などそうそう長くは続かないもの。
ファミレスでメニューを手にした途端に、会話は弾むもの。
何を食べる? 何がおすすめ? この間これを食べたら、美味しかったよ。なんてところから会話は再開するもの。
そうして、1時間ほどおしゃべりしながらファミレスにいたのだけれども、その内、隆盛が聞きたそうにしていたことをついに尋ねた。
「あのさ・・・。お前、帰省から帰って来るのって何日?」
帰ってくる日を確認する理由は一つに決まっている。その後、夏休みの最終日までに何日私に会えるか確認したいから。
それは私にもわかっていた。だから、包み隠さず私は答える。
「13日から16日までいて、帰ってくるのは17日の夕方だと思うわ。」
それを聞いて不知火先輩は隆盛の方を見て頷く。
「じゃあ、8月29日まで、僕達は交互に君に会おう。君に僕達の想いの深さを知ってほしい。
そして、8月30日に僕達3人は、君に告白する。
その答えを8月31日に聞かせてほしい・・・・。ダメかな?」
駄目かなって・・・・。何ですか? その既に決定したみたいなスケジュールは・・・・・。
ふと、隆盛をみると、隆盛の目もゆるぎない覚悟を感じる。
はぁっ・・・。もう、なんなの?
「もしかして・・・・。
3人で既にスケジュール決めてました? 私のいないところで話し合って決めていました?」
私がジト目で先輩を見ながら言うのに、先輩は身じろぎ一つせずに、真っすぐに私を見て言い返した。
「勿論さ。お姫様の負担は極力避ける。それが王子様ってものだろう?」
・・・。
・・・・・なに、そのセリフ。正気なの?
そんな狂ったセリフでも不知火先輩が言うとカッコよすぎるから、反則よっ!!
私の方が正気をなくしてる・・・・。
不知火先輩の美貌で見つめられて王子様宣言されて、納得しない女の子なんかいないんだからねっ!!
私は、真っ赤になった顔を見られるのが嫌で、下を見つめるようにして深く頷くのが精一杯だった。
決戦の日までのスケジュールが決まった。今日の話し合いはそのためのものだったのね。
そっかぁ・・・・。
私はカレンダーを見ながら、これまでの事を思い出し、「31日が来なければいいのに・・・・・。」そんなことを考えてしまう。
だって、別に私は3人の内の誰でも本当に納得できると思うの。
それなのに、こんな決断をしないといけないなんて・・・・。
ああ・・・。どうしてこんなことになったのかしら・・・・・・。
そんな事を考えているとお姉様が笑う。
「明よ。お前は何を悩んでおるのか?
せっかく、レギュラーになったというのに、自分の所にボールが飛んできませんようにと祈る子供のようじゃないか。多くの王子に婚約を迫られるお姫様役になった事がそんなに怖いか?
それでもな、お前は選ばなければいけない。
そうしなければ、隆盛と不知と武がお前を愛した気持ちを裏切ることになる。
わかるな?」
・・・・・・。はい。
私は誰かにそう言って欲しかった。だって、あの3人の中から一人を選び、2人を切り捨てるなんて決断に罪悪感を感じてしまう。フラれた2人がどれほど悲しむのか、それを考えただけで私の心は引き裂かれそうになる。。
そして、二人からもう可愛がってもらえないなんて考えただけで、悲しくて仕方ない。
あれほど情熱的に抱きしめてくれた人たちを、あれほど深く好きになった気持ちを捨て去ることが悲しくて悲しくて・・・。
それでも私は決断しないといけない・・・・・。こんな悲しい運命があるのだろうか?
私は数奇な運命を嘆いていた。
でも、嘆くだけじゃダメ。
本当にあの3人を好きになったのなら、あの3人の愛に誠実に応えないといけない責任が私にはある。
誰かにそう言って、震えるこの背中を押して欲しかった・・・・。
ありがとうございますっ!! お姉様っ!!
私、これから残された時間で精一杯、3人に可愛がってもらいます! そして、好きになります。
その上で・・・・一番好きな人を決めますっ!!
「うむ! よう言うたっ!
それでこそ、あの3人の想いも報われよう。
何、悩むことは悪い事ではない。それだけお前が本気の証拠よ。」
はい・・・。私、本気であの三人が好きですっ!!
これからどうすればいいのか、心は決まった。
まずは、もう目前に迫ったお盆の帰省の前に、やるべきことを済ませますっ!!
私は、そう言うと描きかけの同人誌の最後の仕上げにかかる。
「いやっ!!
今、それをやるタイミングかえ?」
何呆れたような声を上げているんですか? 当たり前じゃないですかっ!!
私、芸術家ですよっ!! 描きかけの絵を描き上げますっ!!
「い、いや。・・・・今やるタイミングかと聞いたのじゃ。」
勿論ですよ! 心が決まって悩みが晴れた今こそ、心の赴くままにペンと筆を執るのですっ!
そうっ!! 一本のガランスを尽くすのですっ!!
「最悪じゃっ!!
お前、最悪のタイミングで台無しな事を言うとるっ!!」
お姉様っ! うるさいですっ!!
集中できませんっ!! これ以上、ごちゃごちゃ言うと、今夜はBLCDかけてあげませんよっ!!
「いやじゃっ!! いやじゃっ!! いやじゃっ!! いやじゃっ!! いやじゃっ!!
いやじゃっ!! いやじゃっ!! いやじゃっ!! いやじゃっ!! いやじゃっ!!」
お姉様っ!! お口にチャック!!
「ふみゅうううううううううっ!!」
お姉様は、歯を食いしばって我慢する姿が脳裏に浮かぶ。これで静かになった。
心晴れやかになった今、私は最後の最後の仕上げまで、一晩のうちにやってのけてしまった。
まだ、草木も眠る丑三つ時。私は、コーヒー片手にお姉様にリクエストしてみる。
お疲れ様です。お姉様。
さ、今夜、何をかけましょうか?
「・・・・・ふあっ!! お、終わりか?
あ~、永遠の孤独を味わった気分じゃ。よおし、リクエストじゃなっ!
やはり今宵は、鬼畜眼鏡じゃっ!! 妾もあの声で、あの攻め苦を味わいたいっ!!」
もう、仕方のないお姉様・・・・。そう言いながらも私の胸もドキドキしていた。
ヘッドホンをしてPCにセットしたBLCDを再生する。
聞こえてくるお兄ちゃんの甘い低音のハスキーボイスが私の体を蕩けさせる。
ああ・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・・。
ごめんね。声はお兄ちゃんのお仕事なのに・・・・こんなエッチな妹をゆるして・・・・。
でも、これからお盆に入ってお兄ちゃんと二人っきりになる前に体制をつけておかないと、明、死んじゃうかもしれないから・・・・・。
お姉様への捧げもののBLCDを聴きながら、私は、お盆に試練が来る予感を感じていた。