本宮の火祭り
拙作「俺の赤ちゃん、産んでくれ!!」の第二話がアップされています。
良かったら見てくださいね!
「酷いよっ」って、怒っているのに可愛いという、声優のこずみっくさんの演技が光る回です。
ああいうのされたら、男はたまりませんよね。
https://www.youtube.com/watch?v=H9eJ0HmC_b8
ステキな宵宮が終わった。
終わってしまった・・・・。
隆盛は家まで送ってくれたし、別れ際に私の頬に手を当てて「大好きだぜ。」と言ってくれた。そんな素敵な夜が終わってしまった。
去っていく隆盛の後ろ姿に、私は切なさしか感じていなかった。
・・・・あの温もりが去っていく・・・・。
ママは私の気持ちを察したのか、帰ってきた私をそっとしてくれたし、フェアにならないからと言う理由でお兄ちゃんは、このお祭りの間だけは極力、私に会わないようにしてくれてた。大好きなお兄ちゃん。でも、今は。今だけは会わないでいてくれることが嬉しかった・・・。
私は部屋に戻ると、自分の肩を抱いて隆盛に会えないことを寂しく思って、震えた。
ベッドに寝ころんで、隆盛の名を呼んでみる。
そして・・・・。やはり隆盛が私の王子様候補であることを認識した。
あの大きな体。逞しく分厚い胸板。そして、私を優しく見つめてくれるあの瞳を思い出すだけで、今、ここにいてくれないことのが寂しくて、私は泣いた・・・・。
何時も優しく慰めてくれるお姉様も、今日ばかりは、私をそっとしておいてくれた・・・・。
いつもお姉様がそばにいてくれないと混乱する私だったけれども、この時ばかりは、そっとしておいてくれるお姉様の思いやりが嬉しかった・・・。
・・・ああ。でも、いつまでもこうして浸っているわけにはいかない。
涙を拭いて、明日は綺麗な私を不知火先輩にも見せてあげないといけないのだから・・・・。
それは半ば義務のようであり、同時に本心でもあった。だって、私は不知火先輩の事も大好きだから。大好きにさせられてしまったから・・・・・。
そう、私は隆盛に初は、隆盛と会うことで自分が女であることを思い知らされたの、と話した。どうして私にそれが理解できたかと言えば、それは私も同じことだったから・・・・・。
親友の隆盛に女にされた・・・。不知火先輩に女にされた・・・・。お兄ちゃんに女にされた・・・・・。私には、その自覚がある。
だから、初の気持ちが私にはよくわかるの・・・・・。
あの子と同じように、不知火先輩のことを異性としても大好きにさせられてしまって私は女になったのだから・・・・。
だから、私は明日、綺麗にならなくちゃいけない。
その思いは、誠実であればあるほど、隆盛やお兄ちゃんとも向き合えるのだと、私は思っていた・・・・。
翌朝・・・。寂しい夜を乗り越えた私は、夕方まで少し体を休めてから、ママが洗ってくれた浴衣に着替えて、不知火先輩の元へと向かう。こういう時、自作の浴衣は得ね。洗える素材を選ぶことが出来るのだから・・・・。でも、選択の仕方のコツも、夏の終わりにはママに習っておかないといけないなぁ・・・・。
そんなことを考えながら、待ち合わせ場所に行くと、不知火先輩は既に到着していた・・・・。
白いTシャツにスラックス姿の不知火先輩は、どう見ても美女にしか見えず、私が到着した時、男の人に声をかけられていた。
「お待たせしました。不知火先輩っ!!」
王子様の危機を悟った私が元気よく声をかけると、男の子の中の一人が「あっ!! また、この子かよっ!!」と、大きな声を上げた。ああ・・・・。昨日の子?
君ね。可愛いからって誰にでも声をかけていたら、道を踏み外すわよ? この人、どう見ても貧乳美女だけど、立派な男性なんですからねっ!!
少年たちは、私の姿を見てスゴスゴと引き下がった。
「助かるよ・・・。あいつら、僕が男だっていうのに、”構わないから、今晩一緒にいてくれっ!!”って、しつこくてさぁ・・・・。」
OH・・・・。すでに道を踏み外してしまっていたか・・・。まぁ、男の子はどうしたって美人には勝てないものね・・・・。仕方ない・・・・か。
・・・いや。この後、不知火先輩に振られた男の子同士で集まって、寂しく夜を過ごす・・・。何も起きないはずもなく・・・・・。じゅるり・・・・・。
「道を踏み外しておるのは、明、お前の方ではないのか?」
お姉様が呆れたように言うけど、お姉様もこういうシチュエーション好きでしょ?
「うむ。夏合宿とか最高じゃ・・・。って、何を言わせるんじゃっ!!
BLの話はよいっ! 今は不知火に注目してやれっ!!」
はっ!!・・・そ、そうだったっ!! 今は不知火先輩とデートだったっ!!
って、不知火先輩。また男の人に声かけられてるしっ!!
「せ、先輩は私から離れないでくださいっ!!」
私は不知火先輩の右腕に抱き着いて、男連中を追い払う。何もわかってない人たちは、私達を見て「ちっ! 二人ともこんなに可愛いのに、レズかよっ!」と、捨て台詞を吐いた。
む~~っ!! レズじゃないもんっ!! 男と女だもんっ!!
いや・・・不知火先輩となら女装レズって手もあるわね・・・・。
って、それどころじゃないっ!! 今は不知火先輩とのデート・・・・。と、我に返った時、私の胸に挟まれた右腕を幸せそうにガン見する不知火先輩に気が付いた。
「きゃっ!! もうっ!!
不知火先輩のエッチっ!!」
慌てて腕から離れて猛抗議する私に不知火先輩は戸惑いながら「い…いや仕方ないだろう? 無自覚に男を誘惑する明が悪いんだよっ!!」と、反論された・・・・・。
あれ・・・?これ、隆盛にも言われた気がする・・・。
もしかして私って、エッチな誘惑で男子を惑わせすぎ!?
「・・・・無自覚にの・・・・。それでも、ほんの少し前までは、明のガードは固かった。あまりにもこ奴らにスキンシップされて、感覚がマヒしてきたのじゃろうなぁ・・・・・。」
お、お姉様。私、エッチな子でしたか?
「気にするな。お前は歩いてるだけで男を狂わせる華じゃ。
そのいやらしい乳と尻のデカさに惑わぬ男はおらんよ・・・・。」
ち、違うもんっ! 明、いやらしくないもんっ!!
「うう~~っ・・。男の子って何でこんなにエッチなのっ!!」
私は不知火先輩とお姉様に同時に抗議する。
不知火先輩は、やれやれとばかりにため息をついて、「それだけ明が綺麗だってことだよ。」と言った。
・・・キレイ・・・・・。私が・・・・?
私が、不知火先輩から見ても綺麗?
その言葉に私の心は動揺する。正直、自分の容姿には自信がある。男の子の頃から隆盛にも「イケメンなのに頭が悪いのが玉にきず」と、言われていたし、実際、私の顔は整っていると思うの。
でも・・・。この絶世の美少年がそう言ってくれるなんて・・・・。これほどの誉め言葉があるだろうか?
「何を驚いているんだい?
君は僕と同じ芸術家で惹かれあった。でも、それだけで人に惚れるなんてことはあり得ないよ。
特に、可愛い後輩の君をね。
明・・・・。君はどう思っているのかしらないけれど・・・・。僕は君のことを誰よりも誰よりも美しいと思っているよ。だから、飽きずに何枚も何枚も美しい君を描いていたいんだ・・・・。」
透き通る様に美しい白い肌から、宝石のように光り輝く瞳がジッと私を見つめていた・・・・。
「も、もうっ! こんな時まで美術の話ですか?」
照れ隠しにそうおどけて見せるものの、不知火先輩は「それが誰よりも僕と君を繋げている理由だよ。僕達は絵を通してお互いをリスペクトしあい、高めあっていける。世界中に色んな男女のピースがあるとして、君と僕ほど、ぴったりとハマるピースは無いのさ・・・・。」と、全く照れる様子も見せないで言う。本当にこの人は少女漫画から飛び出してきた王子様。
その真剣なまなざしから、それが本音だとわかるものの、私はその美しさの虜になって、その場にヘナヘナと座り込んでしまった・・・・。
「敏感だね・・・。明は・・・。」
そういって私を覗き込む不知火先輩の瞳は、どこまでも優しかった・・・・。
「さ、立てるかい? 火祭りの会場まで歩かないと・・・・ね?」
白い肌の細い手が私に差し出され、私はまるで魔法にでもかかったかのように、戸惑いなくその手を掴む・・・。
しっかりと私の体を抱き起してくれる先輩の体は、細くてもやはり男の人。私にはとても逞しく感じるのでした・・・・。
「・・・・もうっ!! すぐに私の前で肌を露出したり、ボディタッチしたり、エッチな誘惑してくるのは、いっつも不知火先輩じゃないですかっ!!」
ゴニョゴニョとか細い声でそう反論するのが、今の私の限界だった・・・。
顔を真っ赤にさせながら、不知火先輩に手を引かれて歩く私は、まるで幼子のよう・・・・。細くて美人で・・・・それでもやっぱり男の人として頼りになる不知火先輩の魅力に私は抗えなかった。
ヨチヨチ歩きの私を連れて歩いたので、私達が会場に着いたとき、既に火祭りは始まっていた・・・。
迫力のある大松明が、暗闇に光り輝く。男たちは怒声ともとれるような威勢の良い大声を上げて、祭囃子を歌いながら、松明を回して歩く・・・・。
「うわぁっ~。カッコいいっ!!」
そういって目をキラキラさせる不知火先輩は、当たり前だけど完全に男の子だった。いつも大人びていてクールな先輩のそんな姿が意外と可愛い。胸キュンです。
途中、一般参加の募集のアナウンスが流れると、不知火先輩は嬉しそうに「僕も行ってくるから、写真撮っててっ!! カッコよくねっ!!」と、はしゃぎながら火祭りに参加する。
もうっ!! お姫様を置いていくなんて、子供っ!! そう思いながらも、ちょっと可愛い先輩にも私は母性をくすぐられてしまうのでした・・・・。
「明ちゃんっ!」
不意に後ろから初に声をかけられて、振り向くと隆盛に買ってもらったんだと、嬉しそうに簪を見せつける。
「初・・・。あなた・・・。」
イラッとする嫉妬心が湧き上がるものの、嬉しそうな初の姿は、私の毒気をあっさりと抜いた。
「隆盛は?・・・どうしたの?」
私がそう尋ねると、初は、不知火先輩と一緒に大松明を抱きかかえてはしゃいでいる隆盛を指差した。
「・・・全く、こんなに可愛いお姫様たちを置いていくなんて・・・・。本当に男の子はっ!!」
「だね・・・・。」
私達は、そう言って笑いあった・・・。
祭りが終わると、私達は再びそれぞれのカップルに分かれて別行動をとる。
火祭りの興奮冷めやらぬ先輩は「ごめんごめん・・・。」と、謝りながらも「どう? 僕だって男らしいだろ?」と、アピールしてきた。
「全然っ!! お姫様をそっちのけで、まるで子供みたいでしたっ!!」
私はそう言ってお姫様を置いてけぼりにした少年にきついお灸をすえてやるのでした。
ショボくれる不知火先輩でしたが・・・。すぐに立ち直って「でも・・・。今日の火祭りで絵が描けるねっ!!」と、嬉しそうに持ち掛けてきた。
もうっ! 本当に子供みたい・・・・。
でも、不知火先輩の言う通り。私たちは芸術で繋がっている。誰よりも深く。だって、絵が描けると言われて、私は嬉しかったもの。絵を描く不知火先輩が見れる。ともに絵を高めあえる・・・。そう思えば思うほど、私はこの人を身近に感じる・・・・・。
そこが他の男の子たちと不知火先輩が決定的に違うところ。
きっと、私達は世界中の誰よりもぴったりとハマる男女のピースなんだと、思い知らされた一日でした・・・・。