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コイントスで決めましょう

夏休みの終わりに私は、恋人を決めなくてはならない。

隆盛りゅうせい、不知火先輩、お兄ちゃん。ステキな男の人との複雑な恋模様も残すところ1ヶ月を切ったことになる。

そんな8月の第二週目に入った月曜日、私がいつものように美術部の部活に出ると、そこには不知火先輩だけでなく、隆盛とはじめもいた・・・・・。

「あれ~? ふたりとも、どうしたのぉ~?」

素っ頓狂な声を上げて驚く私に、不知火先輩が「デートのお誘いらしいよ・・・。」と、ふくれっ面で言う。美貌をゆがませた美少年のふくれっ面は、より美しく見えるから不思議ね。その美しさに思わずため息が漏れた。


「で、デートなんだが・・・・。」

そう言って切り出す隆盛の右腕にはがじめが抱きついていた。

いや、デートも何も。()()、何?

「もうすぐ火祭りだろ? それの誘いでさ・・・・。」

ああ・・・。夏祭りの。

私達の地元の神社に江戸時代から伝わる災害除を祈って松明を掲げる火祭りがある。隆盛はそれの誘いで来たのだった。

で、()()、何よ?

「で、あ~・・・・。俺達4人でどうかなって。」

4人? ああ、ここにいるメンバーだけってこと?

でも、美月ちゃんは・・・・? という疑問は私が口に出す前にはじめが「美月ちゃん。お盆開けるまで帰省だって。」と答えることで解決した。

「え? 盆休み明けまで帰省?

 随分長いのね。まぁ、私の所もお盆は完全に本家に戻るんだけれども・・・・。」

そういう家庭の事情を語ると、隆盛は、「それだよ。」と、指摘する。

「来週になったら、あかりは、お盆で帰っちまうだろう?

 だから、今のうちに皆でデートしようってこと。たけるさんは、盆休み中、あかりを独占できるんだし、ここはフェアに俺達だけでってことで。」

何が、どうフェアなんだろうか?

「宵宮、本宮で不知火先輩と俺で分けて会うってことにしようって決まってさ。」

夏の火祭りでのデートの説明を終えた隆盛には、もう一つ、説明するべきことがあるはずなのに、隆盛が話さない。仕方ないから、私が隆盛に問いかける。

「それは・・・いいけど。はじめは何処に関わってくるのよ?」

「え~・・・・。あの。」

珍しく口ごもる隆盛に、はじめがしびれを切らして、「もうっ!! 私と明ちゃんとの勝負もあるってことでしょっ!!」と、文句を言う。

いや、それぐらいはわかるけどさ。それで、はじめが具体的にどうなるのって話でさ。

「私も本宮、宵宮で明ちゃんとは、別の日に隆盛とデートするのっ!!

 フェアじゃないから、宣言しにきたのっ!!」

ふ~ん・・・・。

フェアねぇ・・・・・。

「だったら・・・まずは隆盛から離れな・さ・い・よっ!!」

そう言って、隆盛の腕からはじめを引き剥がそうとするのだけれども、ビクともしない。

「ふぬぬ~~っ!! う、うごかない~~~っ。」

結構強めで押しているけど、はじめは、余裕の表情で「あははっ。明ちゃん、よわ~いっ!!」

と、得意げになって勝利宣言する。

でも、顔を真っ赤にしながらも小さなはじめの腕力にさえあらがえない私は男の子から見ると、とてもか弱くて萌えるらしく、不知火先輩も隆盛も頬を緩めてニヤニヤ見てるっ!! その姿に気が付いたはじめは、慌てて隆盛から手を放す。

「う~~っ!! 明ちゃんっ!!

 あざとすぎないっ!? ズルいぞっ!! そういうのっ!!」

「あざとさでアナタにどうこう言われる筋合いないわよ・・・・。」

私達の睨みあいで我に返った隆盛と不知火先輩は「まぁまぁ・・・。」と間に入ってなだめてくれる。


「これで沢口さんがいたら、もっと面倒くさいことになっていたのかと思うと、沢口さんの帰省は助かるよ・・・。」

なんて、不知火先輩が冗談交じりで言う。

しかし、それでも不知火先輩は芸術家。すぐに真面目な顔に戻って苦情を言った。

「ただ、これ以上、美術部の部活の時間を邪魔されるわけにはいかないんだよ。

 川瀬、あと5分以内で決めてくれ。」

かなり不機嫌そうな口調に隆盛が「この先輩。美術のことになると人が変わるなぁ‥。」と、感心していた。そう、隆盛はある一定以上のレベルの人間だけを認める。一番最初に私が隆盛と仲良くなったのも、私の美術に打ち込む姿勢に隆盛が感心したことに始まるけど、不知火先輩の芸術家魂も当然、隆盛のお眼鏡に買うもので、隆盛は、不知火先輩が年上の事もあるけど、かなりの敬意を持っているようだった。

「俺としては、不知火先輩に選んでほしいのだけどね。不知火先輩は、明。お前が決めるべきだというから・・・・。こうして、お前を待っていたのさ。」

つまり、結局。私が決めるわけね。それは私と男の子を取り合うはじめも同意しているようだった。不知火先輩の気持ちを優先させている・・・と。

あれ? 私の気持ちは優先してくれないわけ?

今、この場でそういうのを決めさせるって、かなり強制的じゃないかしら・・・・・。

そう疑問に思いながらも既に決定事項のようで、いつものように私に選択肢はない。そういえば乙女ゲームのヒロインたちもイベントは強制参加だものね。景品のお姫様に許されるのは日程決めだけ・・・と。

しかし・・。この火祭り。宵宮と本宮では、趣が全然違う。

宵宮は、小さなお神輿が4町分出て、練り合わせるだけ。

本宮は、男の人が二抱えもするような大きな松明を抱きかかえて境内を走り廻る壮大なもので、見ごたえ充分。

つまり、デートに選ぶなら、普通は本宮になるってこと。

そこで本気度の大きさがわかるし、はじめもデートのチャンスが広がるというもの・・。

うう~ん。なんて意味深長な日取り決めなの?

私が悩みに悩み切った時、「あ、そうだ。神頼みで決めましょう!」と、反射的に言葉が出た。


「神頼みじゃと?

 妾に決めよと申すのか?」

ああ。いえ。そういうことじゃなくて、ただのコイントスです。

「おお。なるほどな。裏の神様の言う通りってやつか。

 まぁ、がっつり因果を含めてやるで、さっさとコイントスをせい・・・。」

お姉様は愉快そうに怖い事を言う。

え~・・・それってやっぱり神様のご機嫌次第ってことじゃないですかぁ・・・・。心の中で愚痴を言いながらも、残された時間は少ない。

仕方なく、私は10円玉を取り出して「じゃぁ、公平に、遺恨なくできる・・・これで・・・・・ね?」と、男の子たちに同意を求めてから、親指でピンッと10円玉を天に向かって跳ね上げると、手の甲と掌で包み込む様にして、キャッチ・・・・・できなかった・・・・。

「ああっ!! 意外と難しいっ!!」

「えいっ!! ・・・・えいっ!!」

と、何度となくトライする私。私の運動神経どこ行ったの? と、思うほど、私の反射神経がゴミレベルにまで落ちていて、何度やってもコインを上手くキャッチできない。

「いや~んっ!! もう、なんなのよっ!! これっ!!」

そのドジっ子さぶりも男子たちにはハマったらしく、またニマニマした顔で見られてしまう・・・・。

「も、もうっ!! ソッチでやってっ!!」

晒しものになる恥ずかしさに負けた私は、自力でのコイントスを諦めると、男子に決めてもらうことにする。

「じゃぁ、俺がトスするから、明は裏か表かを当ててくれ。

 当たっていれば、本宮は不知火先輩。

 外れていれば、俺が本宮。・・・・いいですか、先輩?」

不知火先輩を立てて隆盛は、私の予想が当たれば、本宮を不知火先輩にすると告げる。そう男気を見せられて同意しないわけにはいかない。

「わかった。川瀬の案を尊重しよう。」

不知火先輩も敢えて隆盛を尊重すると答えた。この二人、いつの間にやら良い先輩と後輩の関係を築けていた。


「じゃあ、いくぞっ! 

 明っ!」

そういって、隆盛はコインを美術室の天井にあたるんじゃないかと思うほど高々と打ち上げる。

そうやって打ちあがったコインは、隆盛の掌に包まれる頃には重力加速度に従って、ゴミみたいな私の動体視力じゃ視認できないほどの速度に上がっていて・・・・・・裏か表か、全くわからない。

「う~~。全然、見当もつかないよ~~~。」

「「まぁ、そうだろうなぁ・・・・。」」

不知火先輩と隆盛は、私の動体視力、運動神経に呆れたように、そして、察しがついていたかのように笑いながら言った。

「あ~~っ!!

 笑ったなぁ~~っ! いいもんっ!! こうなったら適当に答えてやるんだからっ!!」

半ば自棄になった私は、、「じゃぁ、表よっ!!」と、決定する。

果たして、その予想は偶然にあたっていた。


「僕が‥‥本宮だな。」

そういって小さくガッツポーズをとる不知火先輩と「私も~~っ!」と、嬉しそうにピョンピョン跳ねるはじめ・・・・。

それに取り残されたかのように私と隆盛は喜ぶ二人を見つめていた・・・・・。


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