それはきっと、幸せな変化
「魂の入れ違い」
イスラム世界では性同一障害をこのように解釈している。お姉様はその事を少し気にしておられたけれど、私達にできることはないと仰ったので、私にはどうすることも出来ない。できることと言えば、初をこれからも友達として支えてあげること。
でも、私は今。そんな初と隆盛を取り合っている仲。そのことが少し悲しい。
譲ってあげるべきなのだろうかと、思ったこともある。なんといっても私は一度、隆盛を振った立場だし、他にも恋人候補の男性がいるわけだから・・・・・。
でも、それは、以前にお姉様にキツく叱られた。
「それはいかんぞ。これは女同士の戦いじゃ。
初が男じゃからと、手心を加えるなど、初の女としてのプライドを傷つける行為じゃ。明よ、お前が本当に初のことを思うのなら、女として戦え!
それにな、譲るなどと・・・・。そんなことをしたら隆盛の気持ちはどうなる?
あ奴は、美形じゃし格闘技で名を馳せておる有名人じゃ。女にモテないはずもない。その隆盛がお前にターゲットを絞っておるのじゃぞ? その思いの深さを察して、他の事情は今は考えずに隆盛と正面から向かいあってやらねばならん。
明よ。お前は優しい子じゃ。だから、そのような考えに至ったのは妾もようわかる。
だが、それでもな。お前が考えたことは、隆盛にも初にも失礼な事なのじゃと考えを改めよ。」
お姉様は、豊穣神としての性質上、恋も司る女神。そのお姉様の言葉だからこそ、この言葉は私の胸に深く刺さっている。
私は初の友達。だからこそ、初に譲るなんてことをしてはいけないんだ・・・。
そして、隆盛と正面から向かい合ってあげないといけない。
優しく私の手を引いてほんの少し前を歩いてくれる隆盛の背中を見て、トキメク胸の高鳴りが私の本当の気持ちなのだとを信じて・・・・。
隆盛は、皆のいる場所から少し離れたところに来ると、川に突き出すように地面から生える大岩に場所を決めた。
「ここで座って、少し話そうぜ。」
優しい笑顔でそう言われてしまうと、私は「・・・は、はいっ・・。」と、畏まってしまう。
もう、既に隆盛のペースだったからだ。隆盛は、その大きな体と逞しい肉付きで王者のような風格があって、私はそれに寄り添うお姫様のようになりたいと、ぼんやり考えていた。
そこは支配者と擁護される立場のもののような関係。きっと、男の子3人の中で隆盛が最も私のドМ的な欲望を満たしてくれる存在だと思う。
「足元、滑るから、気を付けろよ。」
隆盛は、恐る恐る岩を登る私に気を付けるように言ってくれるけど、女の子になってしまった私の足取りは隆盛にとって危なっかしいものだったらしく、いきなり私の腰を両手で掴んだかと思うと軽々と持ち上げる。
いきなり、ガシッと掴まれた私が「やんっ!」と、声を上げると隆盛は「変な声出すなよ。興奮しちまうだろ?」と、笑った。
「もうっ!! 仕方ないでしょっ!? 急に持ち上げるんだからっ!」
私が抗議しても隆盛は「なんだ、それ。可愛すぎるだろ。」といって笑う。何がおかしいのよっ!
でも、少し乱暴に持ち上げられた時、私は隆盛の力強さに惹かれていた。まるで小さいころにパパに抱き上げられた時のような感覚。すべて安心して任せられる隆盛の逞しさに男性を感じてしまうのだった。
「も、ちょっと、座ってゆっくり話そうぜ。」
隆盛は、落ち着くように促すとその場に座る。私は隆盛の肩を補助にして隆盛の隣に座ると、隆盛は私にじり寄って密着する。
「そうじゃない。こうだろ? デートなんだから‥‥。
隆盛は私の肩を抱き寄せると私の顔をキスが出来そうなほど、近づけた。
「は、はははは・・・はいっ!」
顔から火が出そうなほど、頭に血が上っていた私は、従順な返事をしてしまう。
ちかいっ!! て、言うか顔、近すぎるっ!!
隆盛の男らしい彫りの深い顔は、女の子になった私にとって眩しすぎる。男らしいりりしい目元に、意外と長いまつ毛。クリッとした二重瞼の瞳は、光を反射してキラキラと光っている。
整った太くて高い鼻筋は、野性味を帯びていて、私は肉食獣に捕らえられた草食動物のように委縮してしまう。
・・・いえ、違うわね。私は求めている。この野性味に蹂躙されるように唇を奪われることを・・・・。それがお姉様の生命の舞の影響であることは、火照りだした私の体の女の子の部分が証明していた。
・・・・ああ。駄目よ、このままお姉様の呪力に流されないで理性的に行動して・・・。
明。しっかりして・・・・。
そう思いながらも、私は隆盛に期待してしまっていた。
でも、隆盛はそれ以上過激なことはしてこなかった。すぐに川面に視線をずらすと、足を延ばして流れる川の水に足を漬けて「冷たてっ・・・。」と、子供みたいに喜んだ。
それから、「たまにはこうして、二人っきりでゆっくり話すのもいいかなって・・・・。」と言って笑う。
私はそれで隆盛が意外にも過激な攻め方で私を虜にしようとしているのではなくて、私との関係で安らぎを求めていることに気が付いた。せっかく、水着デートだというのにこの肉体に溺れさせてくれないのは少し残念だけれども、私は、本来、こういった甘い恋愛をして見たかった。だから、ほんの少し、ほんの少しだけ残念だったけど、隆盛の提案に従った。
「そうね。なんか、いっつもバタバタしている印象があったし、たまには熟年夫婦みたいにまったりと過ごすのもいいかも・・・・。」
「熟年夫婦ってお前な・・・・・。まぁ、いいか・・・・。」
それから隆盛は、私への思いを語ってくれた。
「不思議なもんだ。お前が女だって知ってから、俺の心はお前に夢中になっちまった。
夢の中でお前の全裸を見てしまったから、好きになっちまったんだけど・・・・。今はそれだけじゃない。
お前の女の子らしい仕草も言葉遣いも、ちょっと他の女には見かけないし、お前の優しさとか女だと発覚してから、より際立って見えるように思える。
さっきだって、お前を抱き上げた時に可愛い声上げるから、俺は結構胸がドキドキしてるんだぜ。
きっと、他の女子にはない、女の子らしさがお前にはあるからだ。やっぱり、男って女の子らしい女の子が大好きだからさ、お前の仕草って本当に可愛いって思えるんだ。
本当に不思議なもんだ。ただの親友だったころは、お前は、心を許せる、リスペクト出来る存在だったけど、今は、抱きしめたくなる可愛い女の子って認識に180度変わっちまうんだから。」
隆盛は、照れくさそうに私への思いを語ってくれる。
「隆盛。それは私も同じだよ。
私、女の子らしくなってから、隆盛のその逞しい体が好き。どうしようもなく強引に迫ってくれる行動力も、その時に感じる私への思いの真剣さが好き・・・。」
そして・・・・私は本当に隆盛が好き・・・・・。
「隆盛。私、アナタのことが好きよ。
こうやって肩を抱き寄せられたら、私、とても幸せで全てを捧げたくなるもの。
でも、それは、あの二人もそう。私は三人とも本当に好きなの・・・・。
だから、今、アナタに好きって言っても、それはアナタだけに向ける気持じゃないの。
ごめんね。私、いい加減な女の子だよね。」
私がそう言うと、隆盛は、もっと深く私の肩を抱き寄せた。
「構わねぇよ。いや、こっちが一度決断したお前にそれを強制したんだ。文句はない。
むしろ俺にそう告白してくれたのが嬉しいよ。いや、本当に。
それに俺は最後にお前を振り向かせて見せるからよ。」
隆盛の力強い言葉に真剣さと愛情を感じる・・・・・。
私は、隆盛の胸に頭を寄せながら
”ああ・・・・この人だけを好きでいられたら、どんなによかったか・・・・” と、思わずにはいられなかった。
ずっと親友だった隆盛は、私が女の子になった途端にステキな男の子になってしまった。それは私にとって本当に不思議な変化だったけれども、今、隆盛の優しい胸元に抱き寄せられる私の心には、幸福感だけが満たされていた・・・・・。
この人とずっとこんな幸せな時間を過ごしていたいなって、真剣にそう思っていた・・・。
※少し遅くなってしまいましたが2022年5月29日正午よりにYouTubeで拙作「俺の赤ちゃん、産んでくれ!!」のボイスドラマを公開します。
第一話「ボク。女の子になりました。」https://www.youtube.com/watch?v=DvK3bMoPqgY
「俺の赤ちゃん、産んでくれ!!」は、TS娘が幼馴染の同級生の男の子に自分の赤ちゃん産んでくれと頼まれるTSラブコメです。
初めてのボイスドラマ制作で編集はまだまだ拙い出来ですが、よろしくお願いいたします。
主人公 CV:こずみっく
京口沙也加 CV:山城絢奈
その他の女性の声 CV:桜庭彩華
久礼誠一 CV:グラノーラ
(敬称略)