変なの・・・・
私達の体には昨夜のお姉様の生命の舞の呪力が残っていて、体は未だに火の粉がくすぶっている状態だった。
全く、女泣かせの魔法もあったものね。お姉様ったら本当に余計なことを・・・・・。
私はお姉様に抗議するべく、朝一にお姉様に頼み込んで心象世界に入れて貰い、苦情を言う。
「明よ、お前は神に向かって何ちゅう口の利き方をするんじゃ。
そもそも何で妾があそこで舞を舞ったかわからぬのか?」
・・・・どうせ面白いからとかですよね?
「いや。まぁ、そういう言い方もできるんじゃが、妾は、不知火の父親監視の下で行動を制限されている男どもの行動が報われるようにな。それと、美月と初の気持ちが動くようにな。」
・・
・・・・初と美月ちゃんが?
どうしてですか? 気持ちが動くも何も初は元々、隆盛に行動的だし、美月ちゃんは百合娘だし・・・・・。
「うむ。恋愛と言うものはな。いつ、どこで、誰を一番好きになるかなんて誰にも分らんものじゃろう?
その時々の雰囲気やそれまでの関係性の積み重ね。さらに、あらたなる出会いで心はうつろうものよ。
”世界で一番君が好き”って、世界中の相手を見たこともないくせにどうして断言できるのじゃ?
それまで最高に相性のいい相手と出会ったことがないだけやもしれん。
そういう連中との新たなる出会いで恋心が芽生えてしまったら、それまで行為を向けていた相手の気持ちが薄れてしまうのは全然ありうる話じゃろうが?」
・・・・う。確かに。
それは確かにそうですね。
「美月はこれまで明に気持ちを向けていたが、不知火のような絶世の美少女に見える男なら気持ちも動くし、武のような恥骨に悪い男に出会ったら、百合娘と言えど、恋心が湧くことは十分にあり得る。」
お姉様はそう言うと天に向かって人差し指を一本立てた右掌を私の顔の前に出した。
「そういった変化は美月にとって悪い事ではあるまい?」
そう言われて私は黙ってしまった。
反論する余地はない。確かにこの変化は美月ちゃんにとっては、いいきっかけになることには違いなかった。だって、もともと美月ちゃんは百合よりのバイセクシャルって言う事ならば、普通に男性と結ばれる未来を選択する方が、これからの人生でメリットが多いことは明らかだから・・・・・。
綺麗ごとを言ってもマイノリティが報われているとは言えない時代。救いがある道を示してあげられるなら、それは示してあげるべきこと。最終判断は美月ちゃんがするんだろうけど、その選択肢を示すことは悪い事ではない。
でも、私が素直にそれに賛成しなかったのは、ただ単に恋敵が増える結果になるから。
「初も同じことじゃ。なにも隆盛だけを見つめている必要はなかろう?
あの恥骨に悪い武に恋心を抱く可能性があるのなら、その道を示してやるのも豊穣神の仕事よ。」
色恋沙汰。そう言ったものは確かに豊穣神のお姉様の領分だものね。
「でも、だからってなにも今、やらなくても・・・・・。」
そう声に出して、私は気が付いた。
今でなければいいのかと。いつどこでやればいいのか?
そして、その良いや悪いタイミングの判断が私個人の感情で決めてよい事なのかと。
だって、それは私のわがままで二人の恋愛を決める権利なんてなかったのだから・・・。
その事に気が付いた私は深く反省して、それ以上はお姉様に苦情を言わなかった。
朝食の時間だよと、外から不知火先輩のお父さんの声が聞こえてきて、私と美月ちゃんと初が外に出ると、先輩のお父さんがキャンプファイアー跡にブロックを立ててコンロを作り、そこへ鉄板を引き、新たに火を起こして、ハムエッグを焼いてくれていた。
「うわぁ~。綺麗な焼き目っ!!
ガスコンロとはまた違った火力で焼かれたハムエッグの完璧な焼き具合に初が興奮気味にはしゃいでる。全く、朝から元気な事・・・・。
そう思いながら私が、初と一緒にハムエッグを眺めていると、隆盛の元気そうな朝の挨拶が聞こえてきた。
「おはようっ! よく眠れたか?」
その声を聴いて私たちが振り向くと、沢で冷やしていた野菜を持った男子連中がやってきた。
「あっ、キュウリ・・・・。」
「男の子たちは、これを取りに行ってくれたから、今度は女子が男子たちのためにサラダを作ってやってくれ。」
不知火先輩のお父さんは、爽やかな笑顔でそう言った。
初も私も男の子たちのためにサラダを作ってあげたくて、野菜を受け取ると、サラダを作る。そして、出来上がったサラダを紙のお皿に入れて全員に配ると朝食の準備が終わる。
全員円になって向かい合って座り、朝食をとりながら今日の予定について話し合った。
「今日はお昼まで別荘の掃除をして、お昼になったら水着になって沢に降りて行って、川遊びとBBQだな。」
「川の水は想像以上に冷たいから気を付けてね。」
「そうね。初は学校の授業じゃ水着を着れないから、ここで楽しくやりましょうっ」
「うんっ! ありがとう明ちゃんっ!」
などと、語り合った後に、別荘を使わせてもらえる対価としてのお掃除を始める私達。
別荘の建物の中は私達女子が担当し、木々の伐採や崩れた土の除去を不知火先輩のお父さんの指示のもと、男子たちがやることになった。
女の子たちだけで集まって掃除となると、当然、会話の内容は男子たちの方向になって行く。
「川瀬君。凄い筋肉だったね。」
と、いう美月ちゃんの隆盛のタンクトップ姿に対する興奮から話は始まった。
「へぇ、美月ちゃん。見るところ見てるわね。本当に隆盛の体ってエッチだよね・・・。」
と、初も乗っかる。
私も「あの上腕二頭筋は、興奮するわね・・・。」なんて便乗する。
でも、初は「じょうわん・・・・? なに?」と、つまらない反応を示す。
何、この娘。
生きたBLキャラのくせに筋肉のこともわからないのかしら?
「男の子が皆がみんなマッスルな男の子に詳しいとは思わないでよね」
なんて、初は可愛げのない事を言う。
でも美月ちゃんは「わかる。あの腕に抱きしめられたいかな? ちょっと」と付き合ってくれた。
でも百合娘なのにマッスルな男性の筋肉に詳しいなんて不思議な感覚もする。
「なんでだろうね? 私、昨日から凄くドキドキしやすいの・・・・。」
美月ちゃんのその言葉に初も同意する。
「私も。 たしかにちょっとおかしいね?」
お姉様から色々と事情が聴ける私と違って二人は体の変化気持ちの変化の事情を知らないので不思議そうに首を傾げた。
「まぁ、夏の日のせいかな?」
なんて、私は惚けてみた。それから「今日の川遊び、楽しみだね。」と話を広げる。
「今日の男子の裸体は、前の水着デートよりも刺激的になりそうね。」
私がそう言うと、美月ちゃんは体をモジモジさせながら、「うん。想像しただけで、体が火照っちゃわない?」と、恥ずかしそうに告白する。それは美月ちゃんの意思ではなくてお姉様の生命の舞の力。
未だに刺激を受けている私たちの体は、男子の水着姿を見たら、またスイッチが入ってしまうことは明らかだった。
私も自分の胸を抱き寄せながら「わかる・・・。」と答えると、初が「エッチ・・・・。」と言いつつも、前かがみになっていた。
「いいなぁ・・・・・女の子はバレにくくって・・・。」
そう言って、ズボン越しにふくらみを見せる初のご立派様の存在を視認すると、思わず私も美月ちゃんも「・・・・・ステキ。」と言ってしまった。
「やんっ!! ド、どこを見てるのよっ! 二人ともっ!!」
初は、顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうにその場に座り込んでしまった。
その様子が可愛らしくて私はニヤニヤしてしまったけれど、美月ちゃんは固まっていた。
「へんね。私がこんなことを言っちゃうなんて・・・・。
私、本当に男の子の方が良いように変わっちゃったのかな?」
美月ちゃんは、自分の心の変化に戸惑っていた・・・・・。