番外編「隆盛と初の話」
注意っ!
今回は、本編途中に差し込んだ番外編です。
男の娘の話がメインなので、拒否感がある人にはお勧めしません。
前回の続きは明日、投稿しますので、そちらをお待ちください。
明が一番最初にそそくさとレストランから出ていった。
レストランに残された三人は言いようのない脱力感に襲われていた。
「・・・・・僕の目に明が女の子に見えたのは、あの女らしさが原因なのか・・・・・?
まさか、感情に流されて僕の目が明を女と見間違えたのか・・・?
いや・・・確かにあの骨格は女性のものだったはずだ・・・・・・
それなのに・・・・・。
ああ・・・。感情に流されて目がダメになったら絵描きは終わりだ。
家にかえってもっともっと誠実に物を観察して絵を描かねば・・・・・。」
不知火は、そんなことをブツブツ言いながら、取りつかれたようにレストランから出ていった。
「・・・・・・。」
「・・・・・二人っきりになっちゃったね?」
残された隆盛と初は、向かい合ったままポツンと座るのみだった。
「しゃあねぇ、席に着いたんだし、俺達だけは何か頼んでやらないと店が可哀そうだ。」
そういって隆盛が初にメニュー表を渡す。
「俺はブラック頼むからよ。お前は欲しいものあるんだったら、選べよ。」
初には隆盛が誰だかわからなかったが、見るからに強そうな体格の隆盛にそう言われると、なにか注文しないわけにはいかない。必死になってページをめくり、「じゃぁ、私、チョコパフェで。」と答える。
隆盛は、それを聞くと黙ったまま呼び鈴ボタンを押すのだった。
「お前さ。俺が誰だか知らないのか?」
その問いに初は首を左右に振ってこたえる。
「マジか。俺の噂とか聞いた事ねぇのか?友達から。」
「友達はいないの。学校では心を許さないようにしてるから・・・・・。」
初は、普通に答えた。
あくまで、普通に。
それがどれほど特殊な事か、自覚もないままに・・・・。
黙ったまま聞いていた隆盛は腕組をほどくと、テーブルに肘をかけて、覗き込む様に初の顔を覗き込む。
「な・・・・・なに?」
隆盛があんまりマジマジと顔を見つめてくるので初は、思わず問う。
「男にゃ見えねぇなぁ・・・・・・。」
それは初にとって、これ以上ない誉め言葉だったので、初は紅潮した顔を隠すように俯いてしまった。
「そのなりがバレないように学校じゃ友達作らねぇってわけか・・・・。」
初が深く頷くと隆盛は納得したかのように「そういう理由で明もなにも言わなかったんだなぁ・・・・。」と呟いた。
その時、二人の注文がテーブルに届いた。
初は、チョコパフェを見ると両手を合わせて「わぁっ!!美味しそうっ!!」と可愛く首を傾ける。
その姿を見つめながら隆盛はコーヒーを啜る。
「な、・・・なに?」
再び見つめられていることを悟った初がまた問う。
隆盛は、小さな笑みを浮かべながら「いや、チョコパフェ一つで子供みたいにはしゃぐんだなって、思ってさ。」と、答えるだけだった。
初は、自分でもわからないが、なぜか恥ずかしくなって顔を伏せてしまう。
そして、しばしの沈黙が続く。
その沈黙に耐えられなくなった初が隆盛に聞いた。
「君も明ちゃんのこと好きなの・・・・・・?」
その質問に隆盛は目を白黒させた後・・・・顎に手を当てて考え込む。
眉間によるしわの深さは男らしさの象徴のように初には思えた。
そうしていくうちに自分の胸が小さくトキめいていることに気が付いた。
(ああ・・・。男には見えないって言ってくれたから、僕ははしゃいじゃっているんだな・・・・)
初がそう、自分の気持ちを判断したとき、隆盛もまた明への気持ちを判断したようだ。
「好き・・・・か・・・・・。」
「そう・・かもな。まぁ、・・・・・もちろん。アイツが女って前提だけどな・・・・・。」
隆盛にそう言われて、初はカッと来て、テーブルを叩く。
「なにそれ?・・・・・女の子じゃないとだめなのっ?」
そう言われて隆盛は驚いたように「あたり前だろ・・・・何言ってるんだ、お前」と答えるのだった。
「ふんっ!そんな生半可な気持ちで明ちゃんを好きだなんて言わないでっ!」
初がそう言ってキッと睨むと、隆盛は愉快そうに笑う。
「ははは。お前、やるな。俺に向かってそんなタンカ切る男は、そういないぞっ!!」
「今は女の子だもんっ!!」
そう言い返す初を楽しそうに隆盛は見つめていた。
そして、やがて隆盛は、コーヒーを飲み干して席を立つ。
二人分の伝票を持ったまま。
「あ、それ。私の分・・・・・」
そう言って隆盛を止めようとする初だったが、隆盛は優しく笑うのだった。
「今は、女の子なんだろ?
じゃぁ、ここの会計は俺が出してやるよ。
また明日学校でな・・・・。」
そういって、去り行く隆盛の背中を見つめていると込み上げてくる熱いものを感じながらも初は、言う。
「これを借りにだなんて思わないわよっ!
私も明ちゃんが好きっ!!初めての同級生の女装友達だもんっ!!
あんたなんかに渡さないんだからっ!!」
隆盛は何も答えずに背中越しに手を振ってこたえるだけだった。
その後ろ姿を見ながらソファーをズルズルと滑り落ちるように崩れていく初は、自分でも理解できないほどの胸の高鳴りに戸惑うのだった。
「違うもん・・・・・・
私は、女の子の方が好きだもん
いまは・・・・・明ちゃんが好きだもん・・・・・
違うもん・・・・・・。
これは・・・・私が女の子って褒められたから舞い上がっているだけなんだから・・・・・」
初は、そう言いながら、火照った顔の熱のせいであっという間に溶けてしまうクリームを口にするのだった。