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いつか咲く君に 5

 そいつのペンネームは「うっちゃり八兵衛」 美少女ゲーム誌の読者コーナーでわざわざ相撲や時代劇キャラの名前をパロってくるあたり、年齢高めな投稿者かもしれない。イラストも年齢高めな女性キャラが多い気がする。画力は可もなく不可もなく、ニッチな作風で生き残りを図る中堅常連といったところか。が、この絵柄、どこかで見たような気もする。

 妙に気になったので数年前、やはりバイトで引き受けた同じ雑誌を押し入れから引っ張り出す。この時は初めてのバイトということもあり、恩返しの意味で雑誌も買っていた。読者コーナーを開くとやっぱりあった。うっちゃり八兵衛のペンネームが。しかし今とは比較にならないほどのド下手クソ。これでは記憶に残らないのも無理はない。出版時期を確認すると2年前。ということは、このうっちゃり八兵衛は2年間自己流で描き続け、まあまあ見れる画力を身に付けたということか。継続は力なりだ。ペンネームの隣には在住県も表記されてるが、かなりの地方。上京する夢も持てず、読者コーナーで気晴らししてるってとこか。そういえば読者コーナーの常連には地方在住が意外と多い。そういうニーズもあるのだろう。


 俺はこのうっちゃり八兵衛の絵柄を意識しつつ、2回めのバイトのイラストを仕上げる。作風がかぶっていると向こうも嫌な気になるかもしれない。クライアントの信用も落とせない。


 2回めのバイトも仕上がった頃、野瀬さんがイラストの回収に来る日がやってきた。またあのアニメについての話を延々聞かされるのかと思うと少しブルーになるが大事なお得意様だ。話し相手くらいはボランティアと思ってやっておいて損はあるまい。と、思ったら予想に反し、野瀬さんは家に来るなり深々と頭を下げた。

「すいません! 実は……今月、江藤さんにやってもらう仕事がないんです」

 ある程度予想はしていたものの、現実を突きつけられるとさすがにヘコむ。やっぱり俺の絵には魅力がないんだろう。それは俺自身よく分かってる。そろそろこの仕事も潮時か。


「いや、野瀬さんが頭下げることないっすよ。それにしばらくは野瀬さんが紹介してくれたバイトで食い繋げますし、全く仕事がないってわけでもありませんし」

「まことに、まことに申し訳ない! 来月はちゃんと仕事持ってきますから」

 野瀬さんの頭は上がる気配がない。見かねて俺は仕上げた仕事、そしてサクライラストを出してチェックを促す。野瀬さんが申し訳無さそうにチェックする。

「ええ。いつも通りOKです。今回はあのゲームのキャラなんですね。こういうイラストを描く常連さんはウチにはいないからありがたい限りです」

 野瀬さんが話をはぐらかすようにサクライラストを褒めちぎる。いまやこのバイトが俺と絵の仕事の唯一の接点と思うと複雑な気持ちになる。

「そういえば、野瀬さんの雑誌の読者コーナーにも1人、俺と似た絵を描く人がいますよね。うっちゃり八兵衛とかいう。いったい、いつ頃から投稿されてる人なんです?」

 俺の何気ない問いに野瀬さんはまた身を乗り出してきた。


「やっぱり! 江藤さんもそう思いますか! いや〜、お目が高い! 実は私も彼には目を付けてるんですよ! 初投稿が5年くらい前でしてね、その時すでに年齢が……おっと、個人情報は明かせませんが、なかなか熱心な常連さんでね、毎月10枚ほどのイラスト描いて送ってくれてるんですよ」


 10枚! 野瀬さんの冗談かと思った。ではうっちゃり八兵衛は5年もの間、毎月10枚前後のイラストを描いて投稿し続けていたのか。絵のクオリティは低いとはいえ、本人は真剣に描いてるんだろう。それだけやってりゃ自己流でもそこそこ上達するわけだ。しかし1、2枚程度しか掲載されないのに、あとは没を覚悟で描いてるのか。その情熱には頭が下がる。

 それから野瀬さんはうっちゃり八兵衛についてなかなかアツく語ってくれた。俺としても興味あったので退屈はしなかった。1時間があっという間に過ぎ去った。


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