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いつか咲く君に 10

 野瀬さんが持ってきてくれたのは投稿者間でやりとりするメッセージとでも言おうか、雑誌ではファンコールと呼ばれるものだった。早い話が誌面で個人的な挨拶しましょうよというもの。まあ読者コーナーではよくあるもののひとつだ。しかしその数が結構多い。ほぼ常連全員分あるんじゃないかという分量だった。もちろん俺はサクラなのでそういうものを掲載するわけにもいかず没られたのだろう。この一事をもってして俺、いや、魔界彗星がサクラということはだいたいバレてたんじゃないのかという気もするが、雑誌自体がなくなるのならどうでもいいような気もする。俺は封筒の中からそのファンコールのハガキを取り出す。


『魔界彗星様! あなたの美麗なイラストが大好きです。今後も頑張ってください』

『魔界彗星さんの描く憂いを帯びた女性がツボです。これからも応援してます』


 サクラの俺に対して歯の浮くようなお世辞がズラリ。まあ彼らにとっては弱小雑誌で共に戦う同志のようなもんかもしれない。それに魔界彗星は画力だけはトップクラスだから、特に主張のないイラストでも気にはなるのだろう。みんなよくやる。が、しばらくそのハガキを眺めていて、この中にうっちゃり八兵衛はいないか気になった。裏面の個人情報はさすがに黒く塗り潰されてるがペンネームは残してくれてる。これは恐らく野瀬さんの仕事だろう。こんな手間暇かけてまで読者のハガキを俺に届ける意味もない。あるとすれば義理だろう。

 ま、ペンネームがなくても絵柄でだいたい分かるんだけどね。が、ひと通り目を通してもうっちゃり八兵衛からの俺宛のファンコールはなかった。意識してると思ってたのは俺の自意識過剰だったか、あるいは嫌われてたかのどちらかだろう。


 それから数日後、俺の最後のバイトをした雑誌の最終号の発売日となり、俺はそれを書店で求めた。俺の最後の仕事かもしれないという記念的な意味。もうひとつ、うっちゃり八兵衛がどんな絵を描いてきたのか気になった、てのもある。


 ゲーム記事そっちのけで読者ページを開く。あいつの絵はすぐに分かった。が、それは今までのあいつの作風からは大きくかけ離れていた。

 セーラー服を着た、あいつにしては年齢低めの女の子の絵。その子があぐらをかいて不思議そうな表情でこちらを見上げている、なかなか頑張った絵だった。画力こそ先月とは大差ない素人レベルだが、絵としての魅力が格段に違う。その一方で俺の絵は例によって最後のページにひっそりと掲載されている。まあそれはいいか。


 これなら俺の絵とかぶる心配などなかった。向こうもそれを見越してわざわざ作風を変えてきたか。いや、毎月10枚送ってるそうだからたまたまとも考えられる。が、俺にはこれを描いたあいつの意図がなんとなく分かる気がした。

 あいつは俺の画力でこの絵を描きたかったのではあるまいか。もっといえば、俺ならこういう絵を描くであろうと想定したのではないか。それほど今回のあいつの絵は俺の絵柄を意識しているように思えた。

 俺は居ても立ってもいられず、コピー紙にあいつのイラストのラフを描く。うん、適当に真似て描いただけなのに妙にしっくりくる。まるで俺の癖をトレースしてるみたいだ。考え過ぎかも知れないが、あいつは俺の絵柄を盗んでるうち、俺と同じ描き方を身に付けたのかもしれない。半年足らずの短期間で。そこで雑誌が廃刊になるというのはどうにもお気の毒だが大した話でもなかろう。投稿を続けたければ他誌に移ればいいだけだ。


 巻末には急なお知らせとして休刊が伝えられていた。この様子だと先月までほぼ告知なしだったのだろう。読者、とりわけ投稿者のショックは察するに余りある。他誌に移ればいいとはいえ、それなりに愛着もあるだろうし。かくいう俺にしたってサクラとはいえ数回関わっただけで結構な思い入れがあるのだから。見知ったメンバーが散り散りになる気持ちも分かろうというものだ。


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