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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第九章 漁船の復活

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9-7.魔力機関製造分担

 漁船のエンジンに代わる魔道具──魔力機関──の試作品に更に改良を加えたマコは、翌日それを持って倉庫を訪れた。今日はマモルだけでなく、フミコとシュリも一緒だ。

 倉庫に技師はいなかったので、試作品を置いて、聞いていた家を訪れ、彼を伴って倉庫に戻った。


「これが、エンジンの代わりかい? 随分とシンプルなんだな」

 技師は、長さ一メートルほどの板に軸受で固定された八十センチメートルほどの長さの円柱状の軸を遠慮なく見ながら言った。

「はい。複雑な機構を考える知恵はないから、必然的にシンプルになっちゃうんですよ」

 マコは卑下する風でもなく、笑顔で言った。

「そうかね。で、これはどういう構造で、どう動くんだね」


「えっと、まずは構造から説明しますね。台の部分を除くと、大きく四つのパーツからできています。この横になった軸が魔力機関の本体ですけど、後ろの金属と前の木材をくっつけています」

 木材には、持ってきた樹液を染み込ませて強度を上げた。試運転を何度か行なっているうちに、金属との結合部分が割れてしまったための苦肉の策だ。


「次に、この円柱に巻き付けてある金属の円筒ですね。これは前後に動かせるようになっています。一番前に持って行った時には、金属部分に重ならない必要があります。

 最後に、外からは見えませんけれど、円柱の金属部分の中心に金属の細い軸を入れてあります」

「金属に金属の軸を入れているのかね?」

 技師が首を傾げた。

「はい。魔力機関として造る時に、分割しておいた方が造り易いんです」

「ふうん、そういうもんかね」

 技師は、魔力機関を支えている軸受や台も含めてじっくりと観察した。


「それじゃ、試運転をしますね。フミコさん、魔力を注いでください」

「え? わたし?」

 突然のことに、フミコは驚いた。同行するように頼んだのはマコだが、理由は言っていなかった。

 魔力の注入をフミコに頼んだのは、この魔力機関をマコでなくても使えることを見せるためだ。

「はい、よろしくお願いしますね」

 にっこり笑うマコに、フミコは困ったような微妙な笑みを浮かべつつも前に出て、魔力機関に手を翳した。フミコは魔力をそれほど遠くまで伸ばせないので手を近付ける必要がある。


「彼女は何をしているんだね?」

 技師が聞いた。

「魔力機関の燃料になる、魔力を充填しています」

「燃料タンクに相当するものは無いのかね?」

「はい。これが魔力機関の本体で、燃料タンクでもあります」

「ほうほう。それは便利だな。船内の配置を心配していたんだが、問題なさそうだ」

 それは本番の魔力機関を造ってからでないと何とも言えないんじゃないかな、とマコは思ったものの、燃料タンク分の容積を節約できることは確かなので、問題になることはないだろう。


「はい、終わったよ」

 フミコが魔力の充填を終えた。

「じゃ、そのまま動かしてみて下さい」

「解った」

 マコに言われるまま、フミコは円筒に付けられた把手を摘まんで動かす。円柱の軸が回転を始めた。

「ほう。それがスイッチになっているのかね。動かしてみていいかね?」

「はい、どうぞ。フミコさん」

「うん」


 フミコは一旦魔力機関の動きを止めて、技師に場所を空けた。技師はフミコがやっていたように、円筒をそっと動かした。

「ほお、動いたね。スライドさせた分だけ、速く回転するのか」

「はい。正確には、円筒と金属軸の重なりが多くなればなるほど、ですね」

「なるほどね。回転を速くすると音が大きくなるのは仕方ないか」

「どうしても振動で、外の円筒や支えている軸受とぶつかりますから。それで、これは試作品なんですけど、実際に漁船の動力として使うならもっと大きいのが必要になると思うんです。これだと、時間も短いし、多分パワーも足りないんじゃないかと思って。

 それで、これの大きいの、造れそうですか? 魔力機関にするのはあたしがやりますので」

「ふうむ」

 

 技師は円筒を操作しながら、魔力機関をじっくりと観察している。やがて操作を止めると、マコを振り返った。

「このスライド部分、今は金属軸の半分しかないが、もっと増やせるのかね?」

「はい。最大で軸の長さいっぱいまで。軸受を付けないといけないから、全部というわけにはいかないけど」

「こっちの木製の部分、これは木じゃないといけないかな?」

「いえ、なんでも構いません。でも、金属軸とは別になっている必要があります。ぶっちゃけ、スライドさせた円筒が抜けないようにしているだけだから、無くてもいいんですけどね」

「なるほど。ここも、こっちの金属軸と一緒に回転する必要があるかな?」

「いえ、ありません。試作品を造る時、一緒に回転させちゃった方が楽だったので」

「このスライド部分と回転軸はどれくらい隙間があればいいんだね?」

「〇・一ミリ以下です。それ以上広がると、回転しないです」

「そりゃまた難儀だわな。ふむ。これはスライドさせるんじゃなく、半円形に切って両側から軸に近付ける形でもいいのかね?」

「はい、大丈夫です。細かな出力調整が出来なくなりますけど」

「そうなるわな。軸と一緒に回転させるのはいいんかね?」

「それは、えーと、はい、大丈夫です」

「しかしそうなると……うむむ……」


 技師は唸った。魔道具は、構造が単純な分、改良の余地が少ない。それでも魔力機関は、魔力灯や魔力懐炉に較べれば複雑な部類に入る。しかし、異変前に使われていた内燃機関に較べると、呆れるほどに単純な造りだ。

 マコの造った試作品のまま大型化すると、まず間違いなく強度的に耐えられずに壊れることが、技師には予想できた。それを解決するには、この単純極まりない機械を改良する必要があるものの、どこを変えればいいのか即座には判断できなかった。数ヶ所はすぐにも思い付くのだが、それだけで大丈夫かどうか……


「そういや、中心にも細い軸が入っているんだったか」

「はい」

「それも別の部品になっている必要があるのかい?」

「ええ、そうなんです。太さは直径一ミリメートルとか、その程度で充分なんですけど」

「全体が太くなっても?」

「全体が太くなっても、です。むしろ細いままの方がいいですね」

「むむむ……この軸は中空じゃ駄目なんだよな……加工が難しいな……」

「あ、中心の軸については、後からあたしが加工しても良いですよ。魔法付与しないといけないから、そのついでで出来ますから」

「む……そこは嬢ちゃんに任せるとして、まぁ、なんとかやってみらあな」

「よろしくお願いします」


 技師に魔力機関の製作を請け負ってもらい、マコは一つ肩の荷を下ろした。今までの魔道具と違って可動部があり、また大掛かりにもなるので、機械工学や材料工学に精通しているわけではない自分が造るには不安があったから。

「そういや、そっちの嬢ちゃんがやってた“魔力を込める”ってのは、誰でもできるんかね?」

 技師が聞いた。

「はい。この後何日かかけて、ここの漁師さんたちに魔法の使い方を教えます。魔力をモノに込めるのは割と簡単なので、誰でもできるようになりますよ」

「そうか。そっちはよろしく頼むわ。こっちも出来るだけ早く、デカい奴を造っておくわ」

「はい、よろしくお願いします」

「なに、気にすることないわな。何しろ、こっちが世話んなってることだからな」

 技師は笑って言った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「それで、フミコさんにもやって欲しいことがあるんですけど」

 倉庫から出たマコは、並んで歩くフミコに言った。

「何かしら?」

「えっとですね、漁師さんたちに魔法の使い方を教えて欲しいんですよ」

「……無理無理無理っ!! わたしそういうの、無理だからっ!!」

 暫時の沈黙の後、フミコは立ち止まり、全力で首を振った。

「そんなことないですって。あたしでもできるくらいなんだから」

 最近のマコは比較的社交的な性格に傾いているものの、元は引き籠り気味の女の子だった。その自分が教師としてみんなに魔法を教えているのだから、フミコでも充分その役を果たせると、マコは考えた。


「だってマコちゃんは凄い魔法使いだもの」

「関係ありませんって。教えるのは基本的な魔力操作の方法と物体に魔力を込める方法だけですから。フミコさんの出来ることだけだから教えられますって」

「いや、だけど」

「どっちにしろフミコさんしかいないんですから」

「いやいや、マコちゃんがいるでしょう」

「もちろん、あたしも教えますよ。でも、二人で分担すれば、倍の人数に教えられますから」

「だけど……」


 その後も何だかんだと騒ぐフミコを何とか説き伏せ、教師役を引き受けさせた。

 フミコには、魔法教師としての教育を施していなかったので、ホテルに戻ったマコはフミコに教育内容を伝えた。

(異世界ノートだけじゃなくて指導要綱も持って来て良かった)

 何もなしに教えるより、教える内容のまとまった資料があった方が、遥かに効率的だ。それはフミコにも言えることなので、マコは基の指導要綱を参考にしながら、漁師たち用の簡略化した指導要綱を、フミコに教えながら一緒に作成した。


「でもマコちゃん、魔力をモノに込められたかどうかって、どうやって確認するの?」

 フミコが聞いた。

「それは、モノに自分の魔力を纏わせれば……あ、それ出来るの、マンションにも数人しかいなかった……」

 フミコだけでなく、ほとんどの人は、自分の魔力は感じられるが他人の魔力を感じ取ることはできない。もちろん、魔力(フリー)も感じられない。

 マンションの教育ではどうしていたかな、と指導要綱を見ると、確認のことは書いていなかった。自分が教える時にはごく自然に魔力を伸ばして魔力(フリー)の存在を感知していたから、他の教師役たちも同じだと思ってしまった。

 今までは、魔力の蓄積が必要な魔道具は、一部の街灯に使っている蓄積型魔力灯だけなので、たとえ出来なくても困ることがなく、気付かなかっただけかも知れない。


「うーん、じゃ、魔力を込めるところだけ、まとめて一緒にやりましょうか。教えるのはフミコさんで、実技をあたしって感じで」

「一緒にやるなら教えるところもマコちゃんでいいんじゃない?」

「そこは分担しましょうよ。せっかく二人いるんですから」

 フミコの提案を、マコは笑顔でいなした。



マコの使える魔法:

 発火

 発光  ─(派生)→ 多色発光

 発熱

 冷却

 念動力 ┬(派生)→ 物理障壁

     ├(派生)→ 身体浄化

     └(派生)→ 魔力拡声

 遠視

 瞬間移動

 念話

 発電


マコの発明品(魔道具):

 魔力灯 ─(派生)→ 蓄積型魔力灯

 魔力懐炉

 魔力電池

 魔力錠

 魔力枷

 魔力機関(new)

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