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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第九章 漁船の復活

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9-6.新しい魔道具の試作

 ホテルに戻ったマコは、再び魔道具の試作を始めた。基本的には鋼の薄板から作った二つの円筒を組み合わせた物と同じだ。異なるのは、内側が円筒ではなく中身の詰まった円柱の軸であることだ。

 新しく切り出した鋼の薄板で、倉庫から貰ってきた金属軸に合わせた大きさの円筒を作り、ぴったりと嵌める。ほんの少し余裕を持たせて巻き付けた鋼板を紐で縛っただけだ。溶接したいが、そのためには少なくとも三千度以上の高温に上げなければならない。魔力を大量に使えば出せる温度だが、ピンポイントとはいえ室内でそんな高温を発生させるのは危険だ。


 そうして簡易的に作った円筒を魔道具に変え、軸を中に差し込む。次に、円筒を持って軸に魔力を注ぎ込む。身体から魔力を切り離して数秒すると、円筒が勢い良く回転した。が、すぐに止まってしまう。

 その状態の軸内を魔力で探ると、魔力(ノーネーム)がたっぷりと残っている。


「うーん……」

 マコは唸った。

(少し内側までは魔力がなくなっているから潤滑剤があっても大丈夫そう……なのはいいんだけど、ほんの一部しか使えないんだよね……うーん……そもそも隣接ってどれくらい離れていてもいいのかな。この感じだと、〇・二ミリくらいか……うーん)


 円筒の魔力(コマンド)を『隣接する魔力(ノーネーム)に《隣接する同じ魔力に命令をコピーして、円筒に沿った運動エネルギーに変わる》命令を与える』としてもう一度試してみる。

 軸は、先程よりも長い時間回った。しかし。

「きゃんっ」

 完全には水平でなかった円筒を滑って飛び出した金属軸は、どしんっと床に落ち、ごろごろと転がって壁にぶつかり、空回りを続けた。


「大丈夫ですかっ!?」

 マモルがマコに駆け寄った。

「はい、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで」

「どうしましょう。あれを捕まえますか?」

 マモルは壁際で空転している軸に目をやった。

「ううん、せっかくだからどれくらいの時間動いているか、見ておきます」

 結果、軸は六分ほど回転を続け、やがて止まった。


「うーん、途中で速くなったのは、筒から外れた部分の魔力が魔力(コマンド)になったから、だよね。その後はやっぱり、少しずつ遅くなるなぁ。円柱の内側になるほど魔力は減るし、回転させる力も余計に必要になるはずだし、魔力が減る上に力も必要ってなったら等比級数的に遅くなるよね。おまけに途中で止めることも出来ないから魔力の無駄使いにもなるし、うーん、どうしたもんか……」

 ぶつぶつと考え出したマコを、マモルは少し離れた所から見守った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 マコがうんうんと頭を悩ませている所へ、フミコとシュリが戻って来た。

「うわ、凄いものができてるのね」

 フミコが声をあげた。ここのコミュニティから、木材を適当に貰って来て、魔道具の改良を重ねていた。

 軸には同じ太さの木の棒を繋いで長さを延長した。それよりも長い厚手の木板に、軸受になるように板を立てて木材で延長された金属軸を支えている。そこに鋼板で作った円筒を、内側に潤滑剤を塗って軸の木製部分に被せてある。円筒にも軸受と同じような形の把手を付けてある。


「見た目はそれっぽいんですけど、まだまだです」

「動くの?」

「一応。フミコさん、この軸に魔力を注いでみてください。あ、潤滑剤が付いちゃってるから、触らないように気をつけてください」

「この銀色の部分ね?」

 フミコは軸に手を翳して、魔力を注ぎ込んでゆく。

「これでいい?」

「はい。そしたら、こっちの把手を摘まんで軸の金属の方に動かしてみてください」


「こうね。……あ、動いた」

 軸の金属部分と円筒が一センチメートルほど重なっただけで、軸が回転した。しかし、すぐに止まってしまう。

「止まっちゃった」

「それが難点なんです。これを解決しないと実用には程遠いですね」

「結構魔力を籠めたつもりなんだけど、全部使ってこれだけ?」

 フミコが首を傾げた。

「いえ、ほとんど使えていないんです。外の円筒を動かせば、もうちょっと動きますよ」

「ふうん。あ、ほんとだ。重なってる部分の魔力だけ使ってる感じなのね」

「しかも軸の表面だけ。時間は少しは稼げるようにしたんですけど」


 与える命令を《一秒間に五十パーセントの確率で、隣接する魔力(ノーネーム)を円筒に沿った運動エネルギーに変える》としたことで、燃料となる魔力を節約することができるようになった。しかしそれも焼け石に水で、大して延長出来ない上に速度が徐々に落ちてしまう。なかなか思うように行かない。


「取り敢えず、お昼にしませんか? フミコさんが、戴いた魚を調理してくれましたから」

 シュリが言い、マコも作業を中断して昼食にすることにした。魚の他に、野菜もある。狭い畑があったからそこで栽培しているものか、それとも裏手の山で採れた山菜かも知れない。

「これって何のお魚なんですかね?」

 マコは煮物の魚を突つきながら言った。特に知りたいわけではなく、単に話の接ぎ穂だ。

「何ですかね? 味はカレイみたいですが、違うんですよね?」

「ええ。形は鯛みたいでしたよ。サイズはそれほど大きくありませんでしたけど」

「フミコさん、凄いんですよ。包丁もまな板も使わずに、空中で鱗を取って(ワタ)抜きして三枚に下ろすんですから」

「マコちゃんに魔法を教えてもらってから、ちょくちょく魔法で料理しているから、慣れですって。澁皮さんも練習を重ねればできますよ」


 それを聞きながらマコはフミコの魔力の使い方を想像した。

 まず魚を念動力で宙に浮かせ、そこへさらに魔力を纏わせて鱗を剥ぎ取り、腹を割いて内臓を掻き出し、三枚に下ろしたのだろう。念動力を使いながら、重ねて念動力を使うことになる。

 マコは口を動かしながら考えた。

(魔力を力に変えるだけだけど、別々の場所で別のベクトルに変えないといけないから、結構大変なはず。フミコさんも毎日練習しているんだろうな。魔力で魚を浮かせたまま、魔力を魚に纏わせて……ん? 魔力を魚に纏わせる……魔力を動かす……魔力を力に変えるんじゃなくて、魔力そのものを動かす……)


「そうだっ」

 突然、マコは大声を出して立ち上がった。みんなの視線が集まる。

「……マコさん、どうしました?」

 一瞬の沈黙の後のマモルの声で、マコはすとんと腰を下ろした。

「す、すみません、ちょっと魔道具で思いついたことがあったもので」

 マコは顔を赤らめて目を伏せた。

「今は食事の時間なのだから、魔道具は終わってからにしましょうね」

「はぁい」

 シュリの言葉に、マコは親に叱られた子供のように身を縮め、三人はそれを微笑ましく見守った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


(魔力自体を動かすことも、ある意味“命令”のはず。それなら、蓄積した魔力を動かすこともできるんじゃないかな?)

 今ではごく当たり前のことになっていて、魔力を操作することが命令に該当することを失念していた。


 昼食前にフミコが試した状態のままの魔道具の前に座り、円筒を軸の木材部分に動かし、表面だけ失われた魔力を軸に補充する。魔力が魔力(ノーネーム)になる数秒を待って、マコは命令を与える。

(《軸の外周へ向けて移動》と)

 一旦魔力を離し、少ししてから魔力を伸ばして中を探る。

(良し、魔力はちゃんと残ってる)

 今は、移動しようにも軸のすべてに魔力が満たされているので動きようがない。行き場を失った魔力が外に漏れて魔力(ダスト)になる可能性も心配したが、幸いにして、そうはならなかった。


(良しっ)

 円筒に付けた把手を摘まみ、そっと動かす。ゆっくりと軸が回転を始めた。

(大丈夫かな~)

 金属軸の半分ほどまで円筒を動かす。軸が勢い良く回転する。さっきまでは数秒で止まっていたが、今度は回転を続けている。

 一分ほど回転を続けたところで円筒を軸の木製部分に戻した。魔力を伸ばして金属軸の魔力を探る。

「あれ?」

 マコの顔に疑問符が浮かんだ。

(思ったより魔力が減ってない……? 計算間違ったかな?)

 計算と言っても、マコの感覚に過ぎない。そもそも魔力の正確な測定方法もないのだから。


 さらに金属軸全体を調べて、計算の合わない理由が判明した。

(あ……魔力が均一的に減ってる……)

 マコは、円筒を重ねた金属軸の片側だけ魔力を消費すると考えていたが、金属軸全体で中心部分の魔力が消費されている。

 正確に言うと、魔力の消費は軸の表面だけで行われ、内側の魔力が軸の外周へと移動しているのだが、その際、外周方向だけでなく横方向にも移動したようだ。少しでも外側に動こうとして、そうなるのだろう。これは嬉しい誤算だった。


「今のは随分と長く回転していたようですが、完成したのですか?」

 マモルが聞いた。

「完成とは言えませんけれど、これは八〇パーセントってとこですね。もうちょっとです」

「それなら、割合早く終われそうですね」

「いや、むしろこれからですよ」

「どうしてですか?」

 マモルは首を傾げた。八〇パーセント完成しているのならば、もうすぐなのではないか、と。


「これが出来たら、もっと大きいので作って、出力を調整して、船に組み込んで、使い方を教えて、って、やることはまだまだありますから」

「魔道具を作製して終わり、と言うわけにはいかないのですね」

「そういうことです」

 マモルの質問に答えたマコは、再び魔道具と向かい合う。今のままでは、一部の魔法使い、魔道具を作れる魔法使いにしか使えない。燃料として蓄積する魔力に命令を籠めなければならないのだから。

(でもそれは、これしかないよね。後は場所をどこにするか)


 解決する方法自体は簡単だった。円柱形の軸に、『隣接する魔力(ノーネーム)に《隣接する同じ魔力に命令をコピーして、軸の外周に向けて移動する》命令を与える』という魔力(コマンド)に変えればいい。

 マコが悩んだのは、その魔力(コマンド)を与える魔道具を軸のどこに置くか、だ。

(例えば木材の軸との間に挟む、って方法でもいいけど、反対の端まで命令が届くのに時間がかかりそう。って言っても、数秒くらいだろうけど。それに、強度的にもどうかと思うし。それを言ったら、木を使う時点でどうかとも思うけど。やっぱり、軸の中心を細長い魔道具に変えちゃうのがいいかな)


 そう決めると、マコは新しい魔道具──魔力機関──の試作品に最後の加工を始めた。

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