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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第九章 漁船の復活

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9-1.春までに

 マモルの胸で泣きじゃくっていたマコは、いつの間にか泣き疲れてマモルの腕の中で眠ってしまった。知った顔に会えて安心したこともあるだろうが、マモルの魔力に触れたこともあるに違いない。

 駐屯地司令はマコが目を覚ますまで滞在することを提案したが、マモルは「この()の母も、夜も日も明けないほどに心配しているので、出来るだけ早く親元に送り届けたいのです」と断り、自らマコを大切そうに抱き上げて、ヘリコプターへと乗り込んだ。


 マコが誘拐犯から奪った装備は、犯人特定のための手掛かりとして、同乗していたスエノが受け取った。今後に備え、犯人を特定しておいた方が安心だ。

 可能ならば報復まで行いたいところだが、恐らく国家レベルの相手だ。狙われたのがマコと言うことで、捜査には米軍も協力してくれるだろうが、それでも報復まで出来るか疑わしい。

 この駐屯地に来る前に発見した、マコを攫うのに使ったと思われる乗り捨てられた電気自動車も米軍が回収する予定だ。自衛隊で回収したいところだが、距離があり過ぎて現在の隊の状況では事実上不可能だ。


 飛び立ったヘリコプターの機内でも、マモルはマコを抱いたままだった。

「座席に寝かせてあげればいいのに」

 スエノが揶揄うように言ったが、マモルは気にすることもなく──いや、僅かに頬を染めたが──壊れやすい卵を抱くように、大切にマコを抱き続けた。


 マコが目を覚ましたのは、ヘリコプターが小学校の校庭に着陸し、降りたマモルとスエノがマンションへ向かって歩いている最中だった。

「ふあぁ……ふぇ? え? ま、マモルさん?」

 マモルの腕の中で目覚めたマコは、状況を把握すると慌てふためいた。

「わ、え、マモルさん、恥ずかしい、お、下ろして」

「暴れたら危ないですよ。マコさんを守るのは自分の任務ですから」

 マモルは腕の中のマコに優しく微笑んだ。

「いえ、あの、抱っこするのは違うんじゃ、恥ずかしいし」


「マコっ」

 マモルに抱かれてわたわたするマコの耳に、自分を呼ぶ母の声が届いた。レイコは、ヘリコプターを見た途端、マンションから全力で駆けて来たのだった。その姿を見て、ようやくマモルもマコを地面に下ろした。

「マコっ」

「レイコちゃんっ」

 駐屯地でマモルに飛び付いた場面を再現するように、マコは母の胸に飛び込んだ。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 魔法使い誘拐事件の捜査は、米軍協力の元、と言うより米軍主導で行われた。正直、自衛隊は復興に全力を挙げているため、捜査に充分な人手を割くことができなかった。

 代わりに、と言うわけでもないだろうが、マンションの警備に人員を派遣することになった。自衛隊にとって、今やマコの魔法は復興になくてはならないものになっていたから、当然のこととも言えた。


 一部の証拠品の回収には、マコも協力した。と言うか、マコ以外にできなかった。誘拐犯の装備品を地下百メートル辺りに瞬間移動で埋めてしまったのだ。そうそう掘り起こせる深さではない。

 犯人特定の可能性を上げるためにそれもあった方がいい、と言うことで、マコは米軍のヘリコプターに同乗して現地に赴き、一度埋めた装備を地中から取り出して米軍に提供した。

 これにはレイコも文句を言わなかった。我が()を狙う輩は特定できていた方が安心できるし、回収に行くのに米軍人の他に自衛官も何人か同行したので、安全上も問題ないと判断したためだ。


 日本の復興に手出しをしないことに決めている米軍が、誘拐されたマコの捜索やその後の捜査を買って出たのも、被害者がマコであること以外に理由がなかった。米軍ですら手を焼いた飛竜や海竜を圧倒したマコの力を、他勢力に奪われるわけにはいかない。ただ、抱え込むにも魔法に対抗する手段がない以上、本人の意に反して拘束することも望ましくない。

 折角、良好な関係を築けているのだから、それを今後も維持した上で、いざと言う時には協力を得るために、機会があれば恩を売っておきたいというところだろう。


 誘拐事件への協力について、米軍からは何も要求がなかった。それがレイコに気を揉ませた。いつ何を要求されるか判ったものではない。しかし、こちらから言い出すと薮蛇になりそうでもある。

 万一、容認できない要求をされた場合は、海竜の件を持ち出すつもりだ。食糧や香辛料を提供してもらったのは、あくまでもマコにも所有権のある海竜の代替であり、マコを危険に晒したことに関しては謝罪の言葉だけだ。可能性としては、米軍も今回の件でそれと相殺と考えていることもあり得る。

 どちらにしろ、この件でこちらから何か行動を起こす必要はないだろう、とレイコは判断した。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 自衛官の派遣は、マコにとって嬉しいことでもあった。派遣された自衛官は十八人、内、十六人はマンション敷地内の警備、そして二人はマコの個人的な警護についた。

澁皮(しぶかわ)シュリです。本日よりマコさんの警護の任を仰せつかりました。よろしくお願いいたします」

 一人は、米軍基地へ赴いた時に警護してくれた女性自衛官の一人、シュリだった。顔見知りである彼女が選ばれたのは、マコへの配慮だろう。

 そしてもう一人は。

「四季嶋マモルです。同じく、マコさんの警護に就きます。よろしくお願いします」

 仏頂面で言ってから、マモルは微かに微笑んだ。マコは満面の笑みで二人を、特にマモルを迎えた。


「表面上は他の自衛官と同じく周辺の警備を行いますが、少なくともどちらか一人は常にマコさんの近くにいます」

「マコさんの安全は必ず守ります」

「はいっ、よろしくお願いしますっ」

 マコは二人に笑顔で応じた。その笑みの九割はマモルに向けられていた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 春になるまでに、色々と変化していった。

 まず、近隣の二つのコミュニティとの通信が確保された。他のコミュニティとの通信線も順次敷設していく予定だ。道路には樹木に魔力灯を巻いて街灯にするが、木が生えていない箇所もあるので所々、場所によっては結構な距離に渡って途切れている。そのため、春を待って別の場所から植樹することになっている。

 さらに、無法者どもに襲われたコミュニティからの要請もあり、警備の自衛官が巡回するようになった。これによって、レイコの纏めているマンションのコミュニティと周辺のいくつかの小さいコミュニティは、事実上、一つの巨大なコミュニティとなっていた。


 魔法教室も、教師の数を増やして育成を加速させている。相変わらず魔力を知覚させるのはマコしかできないので、魔法教室の開始日を月曜に固定せず、一日ずつずらすことでマコの負担を減らした。

 自衛官への魔法教育も育成した教師に任せ、マコは有志に魔道具の製作方法や、他人の魔力を感知させる方法を教えている。魔力感知はまだ誰もできるようになっていないが、魔道具の製作は二人の住民ができるようになった。

 二人とも、ミツヨやヨシエに比べて魔力量は劣るにも関わらず、一人で魔道具を作れるので、魔道具の製作に魔力量は関係ないらしい。


 対して、魔力を知覚させるには、ある程度の魔力量が必要なのだとマコは考えた。今のところ、自分の魔力を相手の体内に通すしか方法が見つかっていないが、そのためには魔力で相手の魔力(フィルム)を突破する必要がある。魔力(フィルム)の突破はマコでも遠隔からでは不可能だ。恐らく相応の魔力を集中する必要がある。

 これは他人を瞬間移動させるにも必要な能力で、ジロウがムクオを相手に試しているが、まだ成功はしていない。ジロウの魔力は住民たちの中でも多い方(と言ってもマコの十分の一以下しかないが)なのにできないと言うことは、魔力量に依存するとしたら、余程大量の魔力を必要とするのかも知れない。


 魔法使いの育成だけではなく、マコは魔法の探求自体も忘れていない。現在の研究内容は主に二つ。


魔力(フィルム)を自分で生成できないか。

魔力(セルフ)魔力(コマンド)に変える条件は何か。


 魔力(フィルム)を突破することはマコでも難しいし、他にできる人は今のところいない。それならば、魔力(フィルム)を空間に作り出せれば、他人の魔力の侵入を防ぐことができるのではないか、と考えた。

 使い道がそれほど多くあるとは思えないが、例えば、隣のコミュニティを襲った魔法使いの魔力探査範囲を魔力(フィルム)で覆えば狭めることができる。また、出産現場に立ち会って予め魔力(フィルム)で包んでおけば、産まれたばかりの赤ん坊が魔力を放出してマンションの敷地内全域に大音響の産声を上げた時のような事故を未然に防ぐことができる。


 魔力(セルフ)魔力(コマンド)化については、謎が多い。自分の魔力を直接魔力(コマンド)にすることはできるのだが、他人の魔力を魔力(コマンド)にはできない。しかし、魔力枷のように、魔力(フリー)魔力(コマンド)を介在すれば、誰の魔力(セルフ)でも魔力(コマンド)に変えることができる。

 そもそも、単に魔力をエネルギーに変えることも、マコが他人のそれを直接変えることはできないのに、魔力灯や魔力懐炉といった魔道具を使えば、誰の魔力でもエネルギーに変えることができる。


(むー、まだまだ魔法には謎が多いなぁ……極めるのは時間がかかりそう……そもそも極めた人っているのかな? 元の異世界に)

 異世界の住人に使い方を聞ければいいんだけどなぁ、とマコは思いつつ、できもしないと解り切っていることをいつまでも夢想するのも無駄なので、ただひたすら考察し、思いついたことを実験し、上手くいかずにまた考える、と言うことを繰り返した。

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