9-0.異世界転移、再び
再開ですっ!!
その日、昼下がりのロンドンの街が阿鼻叫喚に包まれた。
「はぁっ!??」
自動車に突然制動をかけられて、運転していた男はハンドルに頭を突っ込みそうになる。幸いにも、シートベルトがそれを防ぐ。鞭打ちにはなったかも知れない。何が起きたのかと身体を起こして窓の外を見ると、自動車がみんな止まっている。
「何が起きたんだ?」
エンジンが止まっている。この状況で自動車を動かすのは無理だろうとキーを抜いて、おかしいことに気付く。キーの持ち手のプラスチック部分がない。それに目を剥き、さらに車内を見回して、ダッシュボードがおかしいことに気付く。プラスチック部分がごっそり消えている。男は混乱した。
自動車が突然停止するのはいい。いや、良くはないが、整備不良やガス欠でそういうことはある。この自動車は整備したばかりだし、ガソリンもそれなりに入っていたから、故障は考え難くはあるが。
しかし、見る限りすべての自動車が止まっている。これほどの数の自動車が同時に故障することなどあり得ない。さらには車内だ。ダッシュボードを初めとして、プラスチックの部品が悉く消え去るなど、複数の自動車の同時故障以上にあり得ない。
突然、轟音が響き渡った。窓ガラスがびりびりと震える。何事かと窓の外を見ると、巨大な旅客機が建ち並ぶビル群のすぐ頭上を飛びすぎて行く。
飛び去った飛行機は徐々にその高度を落として行き、ビル群の陰に消えて見えなくなった。しばらくして再び轟音が響く。墜落したな、と男は思う。自動車と同じことが旅客機にも起きたのだろう。
いつまでもこのままにしてはいられない。
男は自動車を下りると、歩き出した。
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日本列島および朝鮮半島を異変が襲ったのは深夜帯だったため、混乱は夜が明けるとともに徐々に広がっていった。
しかし、人々の主たる活動時間帯に異変に襲われた欧州では、一気に混乱が広がった。極東との連絡が取れなくなった異変のことは誰もが聞き及んでいたが、異変で具体的に何が起きたのかを知っているのは、限られた極一部の人間だけだった。知らないことが、混乱に拍車を掛けた。
各地の都市で暴動が発生し、神に救いを求め、異変から逃れるために国外を目指した。異変の影響を免れた国々は国境線を封鎖し、異変から逃れる人々の流入を、苛烈なまでに抑止した。それこそ、侵入を試みる人々の銃殺も厭わないほどに。
それには、初回の異変で自国の一部が変貌したロシアからの情報提供が関係していた。異変を逃れた人々が地続きの自国に押し寄せることを予測したロシアは、これ以上の自国の混乱を抑えるため、異変の内から出た人間の周囲にも異変の影響が現れることを意図的に流し、間にある国々が防壁となるよう画策したのだ。
その“脅し”の効果は劇的だった。異変の近隣の国々は全力で異変からの人々の流入を阻止し、自国内で異変に覆われた地域を隔離した。その地域からの脱出を試みた人々は、本来彼らを守るべき軍人に銃を向けられた。
影響は欧州に留まらなかった。極東に加え、欧州という巨大マーケットを失ったことにより、世界経済の混乱には拍車がかかり、恐慌というべき状態にまで陥った。
加えて、人々の不安はさらに大きい。極東に加えて欧州まで異変に呑まれたのだ。次は自分の所かも知れない、という不安を払拭することは、誰にもできなかった。
「異世界からは逃げられない」とは、こういうことさっ




