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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第八章 事件続発

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8-7.新生児

「マコさんっ」

「え?」

 マコの身体が突然横に突き飛ばされ、床に転がった。飛んで来た火球が男の肩に当たる。

「うぐあぁぁっ」

「この野郎っ」

「火をっ」

 マコを突き飛ばした男性が床に転がり、自衛官の一人が火球を放った男に殴りかかり、男性二人が布団を掛けて火を消した。


 その間、マコは床に転がったまま、夢の中のように成り行きを呆然と見ていた。


 マコが普段の状態であれば、今も魔力を部屋に張り巡らせ、火球が飛び出した瞬間に消し去っていただろう。魔力を張り巡らせていなくとも、気力さえあれば瞬間的に魔力を放出して防ぐことはできたはずだ。

 しかし、距離の離れた複数箇所に魔力を張り巡らせながら、度重なる瞬間移動や念話を連続使用して、気力の疲労が溜まっていたし、魔力もすべて回収してしまっていた。魔力を巡らせておらず、気力も減った状態では、咄嗟の魔法使用はできなかった。


 自衛官も、全員を拘束し、周囲に魔力の網を張っていた魔法使いも無力化されていることから、警戒レベルを下げていた。その一瞬の隙を突かれた形だ。


「大丈夫ですか? ごめんなさい、あたしがぼうっとしちゃってっ」

 はっとして、マコは起き上がり男に駆け寄った。

「申し訳ありません。本来なら自分たちが守るべきなのに、民間人の方に守って戴いた挙句、傷まで負わせてしまい……事前に魔法使いが二人以上いる可能性を指摘されていたのに……」

 自衛官の隊長も男性とマコに頭を下げる。


 火を消し止められた男性はしかし、笑って起き上がった。

「服と肌がちょっと焼けただけです。なんてことありません。魔法教室を受けていなかったら危なかったかも知れません」

 男性は、火球が着弾した後だが、肩の魔力を咄嗟に冷気に変えたそうだ。それで、大した火傷を負うこともなかったし、布団を掛けられた時にはすでに鎮火していたそうだ。


「よ、良かった……あたしのせいで怪我させたりしたら、どうしたらいいか……」

 ほっとしたマコは力が抜けて床に崩れ落ちそうになる。が、えいやっ、とばかりに踏みとどまった。

 ふたたび魔力を伸ばして、殴られて気絶しているもう一人の魔法使いの首にリングを嵌め、魔力を抑止する。

「はぁ、ちょっと疲れました。後はお任せします……」

 へたり込みそうになるマコを、駆け寄った女性自衛官が抱き留めた。意識を失いはしなかったものの、マコは立っているのも億劫なほどに気力を擦り減らしていた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「……本当にマコさんに何もなくて良かったです」

 翌週、一台の荷馬車に鉛版を載せてやって来たマモルは、馬の世話を終えた後、前のようにマコと隣合ってベンチに座り、隣のコミュニティの襲撃事件について話していた。

 今日の鉛版は木箱十二箱分だが、その内二箱分を魔力電池に、残りの十箱分を魔力懐炉に、という依頼だ。魔力電池はマコがすでに作り上げた。ケースや絶縁版は自衛隊が自力で用意するそうだ。魔力懐炉はミツヨとヨシエにやってもらっている。鉛版に魔力をいっぱいに詰めるのではなく、加減が必要なので四苦八苦しているようだ。これもいい練習になるだろう。


 件の襲撃者たちに、魔法使いは警戒担当と火球による攻撃担当の二人だけだった。一人で一日以上も半径五百メートル超の範囲に魔力を維持していたことにマコは驚き、自分もまだまだだな、と戒めた。

 魔法使いたちは魔力を抑制する魔力錠を首に付けられたまま、他の者たちはマコの作った魔力枷を手足に付けてられて、放逐された。魔力枷は触れた魔力を下向きの運動エネルギーに強制的に変える。要は魔力灯の運動エネルギー版だ。当然、無理に外すと手足が切断されると脅してある。錘を手足に付けて行動するようなもので、まともに動けないだろう。

 それを付けたままであればここで働いてもいい、とコミュニティの代表は言ったが、誰も首を縦に振ることはなく、何処かへ立ち去った。住民たちの冷たい視線に耐えながら働くことなどできなかったのだろう。


 犯された五人の女性のうち、二人は妊娠していた。避妊などしていなかったのだから当然だ。彼女たちは胎児を流すことを望み、受精卵が八個の細胞に分裂した段階で、マコの瞬間移動で体外に摘出された。父親を知らないマコは複雑な気持ちだったが、結局は二人の意思に従った。


「無事だから良かったですが、報告を聞きながら気が気ではありませんでした。特にマコさんが攻撃を受けたところでは」

「すみません、ご心配をお掛けして。それにありがとうございます、心配してくださって」

 マモルの心地良い魔力に触れながらマコは言った。

「いえ、その、マコさんは隊にとっても大切な人ですからね。日本国民でもありますし。自衛官として当然です」

 ちょっと慌てて言ったマモルの頬が、少し染まっている。


(これは、個人的に心配してくれたことの照れ隠しだよね? それってマモルさん、あたしを個人的に大切に思っているってことだよね? でも本当にあたしが自衛隊にとって重要だからってだけかな。判んないよ。あーん、どっちなのぉっ?)

 ほわほわしながらマモルを見つめるマコの頬も、桃色に染まっていた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 マモルの魔力に触れて平和ぼけしているマコの全身に、突然怖気が走った。

(何これ!? 誰かの魔力?)

 次の瞬間、マンション全域に爆音が響き渡る。

「ほぎゃああああああああああぁぁぁぁぁっ」

 マコもマモルも、いや、マンション中の人間が両耳を押さえた。

(これは、魔力が力に変わって空気が振動している?)

 マモルを見ると、何かを言っているようだが、口を動かしているだけで何も聞こえない。取り敢えず、この騒音を何とかしないと始まらない。


 マコは、この魔力の元を探った。

(四号棟の、一階。確か今日、誰かのお産の予定があるって聞いたような)

 二ヶ月前にも出産があり、その時に、自動車もないのに産婦人科の医院まで妊婦を連れてゆくのは無理だと言うことで、その住人が住んでいた四号棟の一階の一室を産室代わりに使った。今日、そこで二人目の赤児の出産があった筈だ。


 マコは両耳を押さえたままその部屋の前に瞬間移動した。魔法で扉を開けると更に声が大きくなる。

「ほぎゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 マコは靴を脱ぎ、耳を押さえたまま中に入った。

 中では、看護師二人と呼ばれた産科医が倒れている。意識はなさそうだ。ベッドの上の母親も脚を広げられたまま気を失っているらしい。そう言えば、部屋の外に男性がひっくり返っていた。父親だろう。

 ベッドの足元で倒れている産科医の腹の上で、産まれたばかりの赤児が無防備な状態で泣き喚いている。この()が騒音の発生源だ。


(何とかしなくちゃ。どうしよう……そうだ!)

 マコは室内を見回し、適当な物がないかと探し回る。金属製の薄い皿を見つけて瞬間移動で目の前の空間に持って来て、力に変えた魔力で浮かせたまま、魔力錠に変えた。ただし、『〇・二秒間に五十パーセントの確率で魔力(ダスト)に変わる』ではなく、確率なしに『魔力(ダスト)に変わる』だ。これなら、魔力(コマンド)が体内に残らないので、魔力錠を身体から離して一晩もすれば、魔力は回復する。


 空中の金属皿を魔力錠に変えた途端、見る間に騒音は引いていった。空中に放出された赤児の魔力が連鎖的に魔力(ダスト)に変わったためだ。マコは耳から手を離し、魔力錠を手に持って赤児の腹にそっと載せ、赤児を抱き上げた。今はもう、普通に産声を上げている。

 赤児にはまだ臍の緒が繋がっている。どうしたらいいのか、マコには解らない。

「先生、起きてください。先生」

 マコが産科医の身体を魔法で揺する。産科医はうーんと唸って起き上がった。


「いったい何が……耳がキーンとしてるわね。ええと、あなたは?」

「この児の産声が大きすぎて、みんな気絶してました。あたしは異常事態に気付いて駆け付けました。それより、早く処置してください。赤ちゃん、このままじゃ不味いですよね?」

「え? あ、そうね」

 どうやら、鼓膜は無事のようだ。産科医が臍の緒を切り、マコから赤児を受け取り、マコは二人の看護師を起こして後を任せた。金属皿を赤児から離さないよう、しっかりと注意を伝えて。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「それじゃ、ご両親の希望で魔力錠を着けてあげたのね?」

 その日の夕食時に、マコはレイコに事の詳細を伝えた。

「うん。アンクレットにして。物心ついて魔法のことも理解できるようになるまではね」

「そう。何より、初めてのことだものね。魔法を使える赤ん坊なんて」

「使えるって言うか、使い方が解らないんだよね。無駄に魔力を放出しているだけだから。あと、ご両親には近いうちに、特別にあたしが魔法を教えることにしたよ。子供の魔力があれだけ強いからね、親も魔法について知っていた方がいいし」


「マコさんがと言うと、自衛官の方と一緒に授業を受けてもらうのですか?」

 ヨシエの母が聞いた。

「いえ。赤ちゃんも一緒なので、親子三人だけでやろうと思ってます」

「マコさんの時間は取れるのですか?」

「自衛隊の人たちの授業は午前中なので、午後に住民向けにやってるのと同じ時間帯で大丈夫です」

「そうですか。あまり無理はなさらないでくださいね」

「はい、気を付けます」

 授業時間が増える程度はどうということはないが、先日の近隣コミュニティ襲撃事件のこともあり、マコは素直に頷いた。


「先生、その赤ちゃん、そんなに凄いの?」

 ヨシエが聞いた。

「うん。そうね、すぐに封印しちゃったから良くは判らないけど、今のとこ、あたしの次に魔力は多いよ」

 おおよそ自分の三分の一ほどと見積もっている。もしかすると、もっと多いかも知れないし、今はその量でも成長したらマコを凌ぐかも知れない。


「けれど、今回はマコちゃんがいたからいいけど、いなかったら大変ね。もしかすると、もう大変なことが起こっているかも」

 ヨシエの姉が言った。

「どう言うこと?」

 ヨシエの母が聞いた。

「だって、産まれた赤ん坊が今日みたいなことになって、近くにそれを抑えられる人がいなかったら、対処のしようがないもの。泣き疲れた時になんとかするなんてことが、どこかで起きているかも」

「怖いこと言わないでよ。そんなことが起きていないことを祈るわ」

 その意見には、マコも心から同意した。



マコの使える魔法:

 発火

 発光  ─(派生)→ 多色発光

 発熱

 冷却

 念動力 ┬(派生)→ 物理障壁

     └(派生)→ 身体浄化

 遠視

 瞬間移動

 念話

 発電


マコの発明品(魔道具):

 魔力灯 ─(派生)→ 蓄積型魔力灯

 魔力懐炉

 魔力電池

 魔力錠

 魔力枷(new)

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