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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第八章 事件続発

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8-3.制裁

「くそがぁー!」

 突然叫んだ男は両手から火球を連続して飛ばしつつ、マコに向かって駆け寄ってくる。

(なんかアニメみたい。それだけ連発できるならもっと有効な魔力の使い方もできるだろうに)

 炎はすべて、マコに届く前に消滅している。そのままマコに肉薄して掴みかかれば何とかなるとでも考えているのだろうか。そもそも、マコに近付けるという考えが間違っている。


 面倒になったマコは、向かって来る男の前方の魔力を力に変えた。

「ぐあっ」

 その、魔力の“壁”に全力で突っ込んだ男は、蛙の潰れるような悲鳴を上げてひっくり返った。既に仲間二人が同じ手段で排除されているのに学習しない奴だ、とマコは思う。そのお陰で楽に制圧できたのだが。


「さてと。あんたたち、集まりなさい」

 マコは静かに、へたばっている男女に声をかけた。一息ついて頭が冷え、周りに住民たちが集まっていることを意識して、別の意味で沸騰しそうになるが、頑張ってそれを堪える。魔法を使って住民に迷惑を掛けた者たちを、叩きのめしただけで赦すつもりはない。と言うより、このまま解放すればまた同じことを繰り返すだけだろう。

 また、同じようなことを考える者が今後出ないよう、魔法を悪用したものに下す罰を、衆人環視の下で与える必要がある。


 マコの言葉に、倒れていた男二人がのろのろと身体を起こし、頭を振っている。炎に包まれた女は仰向けに倒れたまま、呆然としている。もう一人の女は、腰を抜かしたかのように、へたり込んだままだ。

「すぐに集合っ」

 マコは声に出すと同時に、四人に念話でも命じた。他の人よりも数倍も大きく聞こえた声に、びくっとした四人はマコの前に駆けてくる。

「並んで、正座」

 四人は顔を見合わせた。また、マコの頭に血が上ってくる。

「さっさとしなさいっ」

 びくっと震えて、四人は地面に正座した。


 次に、まだ仰向けになっている男の顔面の上の魔力で、空気を急速に冷やす。水蒸気が水となって男の顔に降り注ぐ。

「ぶわっ、なんだっ」

 男は息を吹き返した。

「あんたも正座っ」

 マコの言葉に男は仲間を見、立ち上がって「何でてめえの言うこと聞く必要があんだよ」と凄んだ。しかしそれも、直前にマコに打ちのめされたばかりなのだから、強がりにしか聞こえない。

「さっさと座るっ。自分で座れないんなら、無理に座らせるよっ」

 男の肩と頭の上から、力に変えた魔力で押さえ付ける。

「うぐっ、わ、解ったから、やめろっ」

 やっと男は座った。


「さてと、魔力を悪用したあなたたちには、魔法の力を引き出した者の責任として、私が罰を与えます」

 輪を詰めた住民たちが見守る中、マコは宣言した。取り囲む人々も息を呑んで成り行きを見守っている。

「その罰ですが、今度、あなたたち五人の魔法の使用を禁止します」

 五人に向かって罰の内容を告げると、五人は呆気に取られたような顔をした。見守る人々も、それだけ?、と疑問を表情に浮かべている。


「そんなんでいいのかよ。そんなことを言ったって、オレたちが守るとは限らねーだろ」

 その疑問は、そこに居合わせた誰もが思ったことだろう。

「あの、オレは魔法使えないんだけど」

「ワタシも」

 二人の男女が言った。

 マコはにっこりと微笑んだ。その笑みは邪気がないにも関わらず、五人に空恐ろしいものを感じさせた。

「まず後の方の質問。あなたたちが今後、魔法を使えるようになっても、その使用を永遠に禁じる、と言う意味です。前者については……」


 マコが掌を上にして右手を前に出すと、そこにリングがひとつ、現れた。マコが、廃棄された自動車のボディーから今、切り出したものだ。同時に、魔力(ネームド)も籠めている。大きさはちょうど、腕に嵌められる程度。

「……これを、手首に嵌めてもらいます」

「……なんだよ、それ」

「説明は、嵌めてからです。手を出して」

 まだ頭の濡れている男を促すと、嫌々ながらと言った風に左手を差し出した。マコはその手を掴み、リングを手首に当てる。

「嵌められねーだろ」

「心配御無用」

 軽くリングを持ち上げ、振り下ろすと、リングが手首に嵌まっていた。直後に、魔力(ネームド)魔力(コマンド)に変える。

「……どーやったんだよ」

「魔法使いなら自分で考えなさい」


 その調子で、残る四人にも次々にリングを嵌める。それぞれの手首の太さに合わせて加工したので、抜けることはない。


「さて、ではこの腕輪について説明します」

 マコは、もう一つ作ったリングを手にして、五人の前を左右にゆっくりと歩きながら話し始めた。

「この腕輪は、嵌めた人の魔力を抑制します。要するに、これを嵌めていると魔法が使えない、まあ、完全に使えないわけじゃないけど、よっぽど頑張らないと、使うのは無理ね」

「なっ!?」

 男は前に手を出し、炎を作った。周りを囲んでいる人々に緊張が走る。しかし、炎は見る間に小さくなり、消滅した。


「今見た通り、魔法の行使はまず無理ね。以後、これで一生を過ごすように。そうそう、それを無理に外したり壊そうとしたりしないことをお奨めします」

「……外したらどうなるんだ?」

 ふふふ、とマコは笑うと、右手にリングを持ち、左手を差し出した。そこに、今度は五十センチメートルほどの角材が出現する。ゴミ置場の木材から拝借した。

 その角材にリングを嵌め、水平に持つ。

「よく見てなさい」

 マコが、作った握り拳をリングに叩きつけると、角材が綺麗に切断され、リングと共に地面に落ちた。

「このように、手首が切断されます」

 既に悪かった五人の顔色が、さらに悪くなった。住民たちがひそひそと囁き合っている。その半分くらいは、魔法を悪用した者たちに科せられた罰の重さについてだろう。魔法を使えないくらいならまだしも、手首を切り落とされるなど、罰としては重すぎると考えているのかも知れない。


「この腕輪は」マコは落ちたリングを拾ってぶらぶらと振りながら言った。「特別に衝撃に対する感度を高めてあります。あなたたちに付けた腕輪は、このくらいの衝撃では手首を切断したりしません。でも、例えば、金鋸で切ったりしたら、ずぱっ」

 マコは手刀で空を切った。

「解りましたね? では、これで解散とします。以後二度と、変な気を起こさないように」

 その言葉を最後に、マコは五人に背を向け、レイコやマモルの方に歩きながら、暖まってしまった氷室を冷やし、両隣の氷室に退避させておいた食糧を元の氷室に戻した。


「レイコちゃん、あの氷室の中にあいつらの持ち込んだ茣蓙(ござ)とかお酒とかあるから、片付けといて」

「ええ、それは言っておくけれど、良かったの? あんなことして」

「何が?」

 マコは首を傾げた。

「あんなことをしたら、マコを怖がる人も出てくるんじゃないの?」

「あ、そのこと。いいよ、あたしが悪者になるだけで魔法犯罪が減るならそれで」

「でもねぇ」

「気にしないでよ。誰かれ構わずあの腕輪を着けるなんてことはしないから」

「まあね、もうやっちゃったことだから今更撤回できないけれど。でもねマコ、あまり一人で背負い込んじゃ駄目よ。ああいう時は、まずわたしに相談して」

「それ、レイコちゃんが言うかな。レイコちゃんこそ、抱え込みすぎちゃ駄目だよ」

「気をつけるわ。わたしは管理部の人たちと話があるから、先に帰ってなさい」

「うん」


 実のところ、彼らに嵌めたリングに手首の切断機能などはない。ただの脅し(ブラフ)だ。それでも、彼らの表情を見れば、効果は充分にあったことが判る。彼らは今後、あのリングを見るたびに自分のやった莫迦なことを後悔することだろう。

 そして、マコがリングに与えた命令は『隣接する特定の魔力(セルフ)に《隣接する同じ魔力(セルフ)に同じ命令を与えて〇・二秒間に五十パーセントの確率で魔力(ダスト)に変わる》命令を与える』だ。蓄積型魔力灯に与えた命令の応用になる。

 そのため、リングを装着した人間はみるみるうちに魔力を失ってゆくので、魔法の使用が極めて困難になる。また、対象の『特定の魔力(セルフ)』は、リングごとに変えてある。つまり、装着者それぞれの魔力しか無効化(弱体化)できないので、他の人間が触ったとしても何の効果も及ぼさない。


 さらに、単に『魔力(ダスト)に変わる』のではなく、『〇・二秒間に五十パーセントの確率で』としているから、命令を与えられ魔力(コマンド)となった魔力の一部は常に体内に残るので、万一何かの原因でリングが外れるようなことがあっても、魔力が回復することはまずない。あのリングの真の脅威は、(はったりの)切断機能ではなく、ここにあった。

 そのためマコは、蓄積型魔力灯の製作方法を他の人に教えるつもりは今のところなかった。『特定の』魔力(セルフ)に限らなければ、人から人へと感染する、魔力消失ウィルスのようなものを作れることになるのだから。


「先生、いつの間にあんな腕輪を作ってたんですか?」

 ミツヨがマコに寄って来て質問した。ヨシエとフミコも一緒だ。

「魔法をみんなに教えるようになったからね。悪用する人が出てこないとも限らないから、前から考えてたんだよ」

 嘘八百である。つい最近、偶然思いついたのだから。

「どうやって作るんですか?」

「それは自分で考えてみて。ミツヨちゃんとヨシエちゃんは魔道具を作れるんだから、思い付くんじゃないかな。あ、自衛隊の人にも挨拶してくるから」

 あまり深く追求されない内に、マコは生徒たちから逃げた。


「心配して来ていただいて、ありがとうございました」

 マコは二人の自衛官に礼を言った。同時に、こっそりとマモルに魔力を伸ばす。触れていないので体内にまで侵食させることはできなかったが、充分に気持ちいい。

「仰られていた通り、ご自身でなんとかなさってしまいましたね。我々が来る必要はありませんでしたね」

「いいえ、自衛隊の方が後ろに控えていてくださったから、失敗した時のことを心配せずに力を出せたんです。本当に、ありがとうございました」


 実際のところ、自衛官がいてもいなくても、マコのやることに違いはなかっただろう。それでも、彼らが近くにいることでマコの心情に多少なりとも影響を与えた可能性はある。少なくとも、マコはそう考えた。

(それに、四季嶋さんと触れ合う時間が増えたし。そのことだけは、あいつらに感謝かな)

 他人には絶対に言えないことを、マコは思っていた。



マコの使える魔法:

 発火

 発光  ─(派生)→ 多色発光

 発熱

 冷却

 念動力 ┬(派生)→ 物理障壁

     └(派生)→ 身体浄化

 遠視

 瞬間移動

 念話

 発電


マコの発明品(魔道具):

 魔力灯 ─(派生)→ 蓄積型魔力灯

 魔力懐炉

 魔力電池

 魔力錠(new)


マコによる魔力の分類(おさらい):

 ・セルフ ─── 各個人の体内と体表面の魔力。本人が操作可能。

  ・ストア ──── 体内に貯められた魔力。

  ・フィルム ─── 皮膚上で皮膜状になった魔力。

  ・ホールド ─── 体表面上に留められた魔力。

 ・フリー ─── 物体に籠めた誰のものでもない魔力。

  ・ノーネーム ── 物体に籠めただけの状態。

  ・ネームド ─── 『名付け』た状態。

  ・コマンド ─── 命令を与えた状態。魔道具の魔力。

 ・ダスト ─── 力を失った魔力の残滓。通信障害の原因。

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