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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第七章 インフラ整備とクリスマス

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7-10.サプライズ

 予定通りに自衛官八人が魔法を習うためにやって来た。男女四人ずつの自衛官は、持ち込んだ寝袋などを割り当てられた簡易住宅に運んでから一休みしてもらい、このコミュニティでのルールや魔道具や魔法教室の対価としての作業内容などの説明を、管理部の住民から受けた。

 それが終わってから、彼らの第一回目の魔法教室だ。マンション住民の魔法教室は午後行なっているが、自衛官の魔法教室は午前中に行うことにしている。特に初日は、マコがすべての教室を回って魔力を感知させる必要があるので、時間をずらした方が都合がいい。


 相手が自衛官だからといって、また、人数が増えたからといって、授業内容が変わるわけではない。魔法について説明をして、魔力を感知させ、毎日行うことを説明するだけだ。

「それでは、これから一人ずつ、皆さんに魔力を知覚してもらいます。順番に前に出て来てください」

 そして手を前に出してもらい、両手を繋いで魔力を流して感知させてゆく。六人目の男性自衛官と手を繋ぐ瞬間、今までにない感触をマコは受けた。


(え??? 何これ、気持ちいい……)

 触れた魔力が優しく包み込まれるような、さわさわと優しく撫でられるような、空を漂う雲のベッドに横たわっているような、心地いい感触。

(はうぅ、このまま眠っちゃいそう……)

「あの、マコさん、どうかされましたか?」

「は? あっ、はぅ、す、すみません、なんかほけっとしちゃって。昨夜(ゆうべ)夜更かししちゃってせいかな。ごめんなさい、すぐ続けます」

 声を掛けられて我に返ったマコは、相手の身体の中へと魔力を注ぎ込んでゆく。心地良さがどんどん高まってゆく。

(あ、不味い、気を入れてないと、また呆けちゃいそう……)


 魔力を押し包む心地良い感触に呑まれないよう、意識して心を宥めつつ、右手から流し込んだ魔力を左手で受け止めて魔力の流れを作り、それを感知させる。

「これ、が、魔力?」

「は、はい、そうです。この、この感触、忘れないでください」

 右手からの魔力の注入をやめ、左手で回収してゆく。残らず自分の身体に戻して手を離すと、恍惚とするような快感が引いてゆく。

(はぁ、もっと触れてたい……あ、駄目、まだ終わってないんだから)

 ぱしんっ。

 マコは自分の頬を軽く叩いて喝を入れた。


「じゃ、次の方」


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 それから毎日、魔法教室でその自衛官に会うたびに、マコの胸は高鳴った。もう一度、あの感触を味わいたい。そう思いつつも、あの魔力に触れたら忘我の境地に至ってしまいそうで、他人の目のある場所で触れるのは憚られた。騒めく心を抑えつつ授業をしながらも、彼に向かって無意識の内に魔力を伸ばしていることにはっと気付き、慌てて引っ込めたりしている。

 魔法教室以外でも、新しく作った魔力蓄積型の魔力灯を設置している時、あるいは、魔力灯の材料を削り出すために簡易住宅建設現場近くの自動車置場に行った時、ついつい彼の姿を探し、見つけると目で追い、魔力を伸ばしかけては引っ込めている。


(はぁ、あたしどうしちゃったんだろ。あの人の魔力が忘れられない……ずっとあの魔力に包まれてたい……って駄目ね、こんなこと考えてちゃ。今は、これに集中しないと)

 マコは新しく作った魔力灯(旧タイプ)を木の幹や枝に巻き付ける作業をしている。光量的には必要ないのだが、思いついたマコはレイコに相談し、各棟の代表者にも諮って、旧タイプの魔力灯の増設を今日の昼の間に行うことにした。数はそれなりに多く用意したものの、陽が落ちる前には作った魔力灯をすべて樹木に設置することができた。

 そうしてから、コミュニティの住民全員への連絡を行う。


〈皆さん、突然のことで驚かせてしまったらすみません。一号棟八〇二号室の、本条マコです〉


 マコは魔力を全方位に広げ、念話で話しかけた。その半径は、今のマコでも精々半径百五十メートル弱。マンション全棟と広場や駐車場全域を覆うには心許ない。場所を変えて、何度か行うことになる。


〈世の中が変わってまもなく四ヶ月になります。今日まで大きな混乱もなく生活して来られたのは皆さんのお陰です。母のレイコの分も合わせて、御礼申し上げます。ありがとうございます。

 さて、本日、陽が暮れて暗くなったら、広場をご覧ください。日頃の皆さんのご協力に感謝して、魔法使いでもあるあたしから、細やかなプレゼントです。お楽しみいただけると幸いです〉


 二度目のアナウンスを行う時に心地良い魔力に触れて恍惚としそうになったマコだが、気持ちを抑えつけて何とか三回の通知を終えた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 夜、辺りは暗くなっているが、まだそれほど遅くない時間帯。普段なら人をほとんど見かけない夜中に、今日は比較的多くの人がいた。子供たちも、親に連れられて駆け回っている。

 子供の一人がマコを見つけて駆けて来た。

「まほうつかいのおねえちゃん、ありがとーっ。とってもきれいっ」

「良かった、喜んで貰えて。楽しんでね」

「うんっ」

 子供が駆けて行く先には両親だろう男女がいて、マコに頭を下げた。マコも会釈を返す。


 昼間の内にマコが樹木に付けた魔力灯は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、その他様々な色の光を放っている。

 今日は十二月二十四日。世の中から様々な娯楽も無くなった今、今日この日、クリスマスのイルミネーションくらいは、と考えて用意した。アナウンスがちょっと大袈裟だったかな、とは思ったが、結果的には成功と言えよう。


「あ、先生!」

 魔法教室の生徒たちが何人か、マコを見つけて声を掛けた。

「こんばんは。楽しんでくれてる?」

「楽しんでますけど、驚きました。先生がこんな用意してたなんて」

「言ってくれれば手伝ったのに」

「ワタシたちにも内緒なんて酷いですよ」

 生徒たちは口々に言う。

「みんなにもサプライズしたかったからね。喜んでくれたんなら良かった」

 ひとしきり生徒たちと話して、彼らとも別れる。


 いつの間にか、マコの脚は広場の中央付近から離れる方角に向いていた。マコが向かったのは、元の駐車場、今は簡易住宅の建設が進んでいる区画だ。

(あれ? どうしてこっちに来たんだろ?)

 疑問を頭に浮かべたマコだったが、理由は解っていた。明後日には、魔法を習いに来ている自衛官の第一陣が帰って行く。その前にもう一度だけでも、あの魔力に触れてみたい。いや、本音を言えば、ずっとあの魔力に包まれていたい。


 男性自衛官四人が滞在している簡易住宅の前に立ったマコは、高鳴る胸の鼓動を意識しつつ、手を持ち上げて扉を叩いた。

「はい、どうぞ」

 扉を開けると二人の男性自衛官がいた。目的の魔力の持主も。マコの緊張が一気に高まる。

「あ、マコさん、こんばんは。どうされました?」

「こ、こ、こんばんは。あ、あの、他の人は……?」

 マコの声が裏返った。

「交代で広場を見学しようと、いまは出ています。二人に御用ですか?」

「あ、い、いえ、その、えと、四季嶋(しきしま)さんに……」

「自分でありますか」

 驚きの表情を浮かべつつ、どこか納得したようにも見える顔で、自衛官の四季嶋マモルが言った。


「しかし今、自分は待機中ですので……」

「遠慮しないで行ってこい」

 マモルの言葉を、もう一人の自衛官が途中で遮った。

「しかし……」

「構わないさ。今のオレたちの任務は魔法の習得とここでの労働だ。この待機はオマケみたいなもんだから」

 そう言う自衛官の瞳には、揶揄うような生温かい色が浮かんでいるが、マモルの魔力が気になって仕方の無いマコは気付かなかった。

「解りました。それではマコさん、お伴します」

「あ、はい、あ、ありがとうございます」


 マコがそそくさと外に出ると、マモルも扉を閉めてマコに続いた。

「どちらに行きましょうか?」

「え、えっと、そうですね……」

 何も考えていなかったマコは慌てた。二人きりになって魔力に触れたい。ただそれだけしか考えておらず、どこで、とか、どう話を進めて、などは考えていなかった。

 取り敢えず二人にはなれたものの、立ち話というのも落ち着かない。しかし今日は、夜でも広場に人が多い。マコの仕業だが。


 マコが考えを纏められずにわたわたしていると、くすりと微笑んだマモルはマコの手を取った。途端にマコは至福の感覚に満たされ、空回りしていた思考が停止する。

「あちらに建設作業員用の休憩場所がありますから、そちらへ行きましょう」

 マコはただ、マモルに手を引かれて行った。


 簡素なベンチにマコを座らせたマモルは手を離して、自分も隣に腰かけた。マモルの魔力が離れて我に返ったマコは、恥ずかしくなって俯いた。しかし、どうしてもマモルを、その魔力を意識してしまう。

「自分にどんなご用件でしょうか?」

 マモルが静かに聞いた。またマコの頭は沸騰しそうになったが、なんとか温度の上昇を抑えた。

「そ、その、変なこと言ってすみませんけど、四季嶋さんの魔力に、触れたいんです。いいですか?」

 そんなことを言われると思っていなかったマモルは驚いたものの、笑みを崩さずに答えた。

「構いませんよ」


 マコはおずおずと魔力をマモルに伸ばす。魔力の先がマモルの魔力に触れると、全身が安堵と幸福と恍惚で満たされる。そのまま魔力を伸ばしてマモルの全身を貪るように包み込む。至福だった。

「あの、今、マコさんは魔力で自分を覆っているんでしょうか?」

「は、はい、そうです。えっと、気持ち悪ければやめます」

 やや元気をなくしたマコに、マモルは慌てて答えた。

「いえ、そんなことはありません。さっき手を握った時にも感じたのですが、マコさんの魔力に触れていると、自分は、いえ、俺は、とても安心できるような心地いい感じになれます。不思議な感じです。同僚や、一緒に作業をしているここの人たちとも身体が触れたことはありますが、こんな気持ちにはなれません」

 その言葉に、マコは安堵した。


「良かった。あ、あの、あたしの魔力を、四季嶋さんの身体に入れて、いいですか?」

「身体の中に? 最初に魔力を使えるようにしてもらった時の感じでしょうか?」

「はい。嫌ならいいですけど」

「いえ、構いません。どうぞ」

「あ、あの、手袋を取ってくれますか? 直接触らないといけないので」

 マコは、自分も手袋を外しながら言った。マモルも手袋を脱いだ。

「し、失礼します」

 マコはマモルの手を握ると、そっと魔力を注ぎ込んだ。全身が快楽に包まれる。触れているのは手だけなのに。

 そのまま、マモルの全身に自分の魔力を行き渡らせる。あまりの心地良さに、マコはうっとりとした。

「これは……不思議です。身体中が幸福感に打ち震えているような……」

 マモルも幸せそうにマコの魔力に身を任せている。


 二人はただ、ベンチに座って手を握り合っていた。


「四季嶋さん……また来てくれますか?」

 マコがおずおずと聞いた。

「そうですね……部隊に戻るとここに来る用事はなくなってしまうのですが……魔力懐炉や、他の魔道具の取引はこの後もありますから、その輸送部隊に志願しましょう。また来ます。マコさんに会いに」

「ありがとうこざいます。待っています」


 様々な色の光に包まれた広場からは、まだ人々の声が聞こえて来る。

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