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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第七章 インフラ整備とクリスマス

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7-4.魔力電池

 魔力電池を使うに当たって、いくつか問題がある。マコはそれを、異世界ノートに箇条書きにしていった。


・絶縁するために使っている木板が汗で濡れたら感電しないか?

・体表面の魔力の薄い人では電力が足りない。

・電圧を調整しにくい。


「取り敢えず、これくらいかな。うーん、どうしよう……」

 まず、体表面魔力の厚みについては、魔力電池を大きくして、両手を載せられるようにすれば、ある程度は解決できそうだ。それでも、魔力の厚みが〇・六ミリメートル以下の人では両手を使っても充分な電力を得られないかも知れない。けれどそれ以上はどうしようもない。

 ほとんどの人は、一ミリメートル以上の魔力厚があるから、両手を使えれば概ね大丈夫だろう。足りなければ、一先ず諦めて貰うしかない。


「だけど、そうすると別の問題も出てくるね」


・魔力を両手で供給すると、通信機を操作できない。


 先日、通信しているところを見せてもらったが、通話時にはボタンを押していた。両手が塞がってはそれができない。それに音量の調整もできない。

 考えた挙句、魔法ではどうしようもない、いや、魔法教育なしではどうしようもないと考え、電圧調整と合わせて通信機の製作者に丸投げすることにした。


 感電対策は、電圧計から伸びているコードを見て閃いた。コードやケーブルの被覆材代わりに使っている樹液を木片に塗ればいいのではないか、と。

 それなら、通信機への改造の相談と一緒に聞いてみよう、とマコはノートからページを一枚切り離して、異世界ノートから魔力電池の制限や通信機で検討して欲しい内容を書き写した。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 一五〇二号室を訪ねると、住人は眠そうな目で出て来たが、やって来たのがマコだと知ると顔を綻ばせた。え、何か勘違いされてる?とマコは顔をしかめそうになったが、ぐっと堪えた。

「もうできたの? 電池の代わり」

「え、いえ、まだです」

「あ……そう……」

 いきなり死んだような目になる男。さっき喜んだのはマコに懸想していたわけではなく、新作電池ができたものと勘違いしたためらしい。似たところはないのに、興味のあるものにしか反応しない所はキヨミを彷彿とさせる。


「えっと、電池はもうちょっとなんですけど、それについて相談と言うか、お願いしたいことがあって」

「通信機のことで? 何?」

「えっと、一つはコードに使った樹液があったら分けて戴けないでしょうか? 電池にも必要になって」

 裏山に取りに行ってもいいが、既にあるなら貰いたい。

「ああ、あれね。少しはあるけど、足りるかな」

 住人は扉を開いたままどたどたと部屋に入って行った。玄関から見える部屋の中は、ゴミ……ではないのだろうが、ゴミにしか見えないものでいっぱいだった。マコの住む部屋より間取りは広いはずなのだが、一見したところそうは見えない。

 これじゃあゴミ屋敷と変わらないな、外にはみ出てないからゴミ屋敷よりはマシか、などとマコが失礼なことを考えていると、男が戻って来た。


「はい、これ。俺はこれしか持ってない」

 男がマコに差し出したのは、何かの瓶だ。中には茶色い粘土のようなものが入っている。

「これを温っためると溶けて液状に戻るから、その間に線に塗ってコーティングしてるんだよ」

「そうですか。でもこれだけだと足りなそうですね……裏山に行って採って来ようかな」

 途中から呟きになったマコに、男は答えた。

「沢山いるなら、管理人に聞くといいよ。ケーブルを作るのに大量に採って来たのがあるはずだから」

「あ、そうなんですね。ありがとうございます、聞いてみます」


「用はそれだけ?」

「あ、あといくつか、これなんですけど」

 マコは用意して来た紙を差し出した。

「魔力電池を作ってたら、他にもいくつか問題が出て来ちゃって。通信機で解決できませんか?」

「問題? 魔法の問題を技術的になんとかできるのかな? どれどれ」

 男が受け取った紙に書いた内容を、マコは口頭でも簡単に説明した。

「ふーん。この、両手を使えない場合に操作できるようにって、いるかな? 片手で電力が足りない人って、どれくらいいる感じ?」

「そうですねぇ……全員調べたわけじゃないけど、全体の五パーセントくらいだと思います」

 マコは、これまでに見た人たちの魔力の厚みを思い出して答えた。

「俺なんかどう?」

 マコは男に魔力を伸ばした。体表面を覆っている魔力の厚みは一・八ミリメートル。

「充分です」

「だったら、両手使うことは考えなくていいんじゃないかな。無線機の操作だけなら、足を使うとかで対応はできるけど、通信しながらメモ取るとかできなくなるし」

「あ、言われてみれば、そうですね」

 マコは頭を掻いた。


「じゃ、それはそう言うことで。こっちの電圧は、どうにかならない?」

「はい。魔力電池に手を置いて使うんですけど、人によって手の大きさも違いますし、手がはみ出たりしたら、それだけでも変わっちゃいますから」

「なるほどね。じゃ、それはこっちでなんとかしよう」

「お願いします。じゃ、管理人さんの所に行くので」

 マコは頭を下げてから、その部屋から離れた。


 これで問題の二つは解決した。解決と言うより、一つは保留にしてもう一つは丸投げだが。

 残る一つの問題解決のため、マコは一階の管理人室に向かった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 歩いて一階まで降りたマコは、帰りは瞬間移動で家の玄関に戻った。八階から十五階に登り、それから一階まで降りて、歩いて戻ることが面倒になったのだ。後でキヨミを散歩にも連れて行くし、今日の運動は充分だろう。


 適当な大きさで固まっている樹液を三個貰って来た。それを外の井戸水で丁寧に洗い、魔法で軽く乾かしてある。あまり温度を上げすぎると溶けてしまうので、本当に軽く、だ。

 他に、陶器の器と木のヘラを探して来て自分の部屋の机の上に置き、椅子に座った。もちろん、木板は予め用意してある。

 固まっているとは言っても、樹液に触ると弾力がある。ゴムのように弾ませるには硬いが、ビニールの代わりには充分だ。

 それをひと塊り器に入れて魔法で熱を加えようとして、ふとマコは動きを止めた。

(いっそのこと、全部魔法でやってもいいのかな?)


 そう考えついたマコは、陶器の器と木のヘラを傍にどけ、〇・二ミリメートル厚の木板を机の真ん中に置く。樹液の塊の一番小さなものを魔法で持ち上げ、木板の中央に少し浮かせて止める。木板の上に魔力を敷いて上向きの力にしながら、中央の樹液の塊を熱する。結構な高温にして、やっと樹液が溶け始めた。

(これで何度くらいだろう? 魔力は料理の時より少な目だから、百度ないくらいかな?)

 溶けた樹液はマコの敷いた魔力の上に広がってゆく。広がり方は当然円形なので、ヘラで伸ばすように、力に変えた魔力で方形に広げてゆく。


(これでいいかな? 板の上に置いてっと)

 温めるのをやめ、皿代わりにしていた魔力の変換もやめると、樹液が木板の上に着地した。木板より一回り小さい樹液を、魔法で隅まで広げて行く。

 木板いっぱいに広げたら、あとは冷えて固まるのを待つだけだ。魔法で冷やしてもいいが、マコは自然冷却を待つことにした。その方が、樹液が木目に染み込んで、後で剥がれるようなことがない気がする。


 樹液が乾くのを待つ間、今度は〇・一ミリメートル厚の木板にも、溶かした樹液を塗った。この厚みでは感電したが、ケーブルの被膜としても使っている樹液を染み込ませれば、感電しなくなるのでは?と考えたのだ。厚めの板と同じようにして樹液を板の上に広げ、乾くのを待つ。その間に、積み上げられた自動車から数枚の鋼板を切り取って来た。通信機は少なくとも二台あるし、この後も増えていく。それに、魔力電池の予備も用意しておいた方がいいだろう。


 そこで、マコはふと気付いた。魔力電池の持ち運びをどうするか。魔力灯は光るだけだし、魔力懐炉も何枚も重ねたりしなければ熱くなりすぎることもなかった。

 しかし、魔力電池を直接手に持ったらその場で発電し、感電してしまう。樹液でコーティングした木の薄板で挟むつもりだったが、発電してしまうことには変わりがない。


 色々と考えた挙句、魔力電池を入れるための木の箱を作るのがいい、という結論に達した。魔力電池と絶縁用の木板を中に重ね、蓋を付けて、使う時はそれを開ける。魔力電池の下は中空にしておけば、万一何も繋いでいない時に発電してしまっても、放電されるだろう。


 その思い付きを異世界ノートに書き留めている間に、木板に塗った樹脂が乾いたようだ。それを手に取ったところ、ごく薄く紙のようだった木板が硬くなっていることに気付いた。樹脂を染み込ませたのだから当然と言えば当然なのだが、がちがちではなく、薄いプラスチック板のような感じだ。これなら、消失したプラスチックの代わりに使えるかも知れない。


 一先ずそのことは後回しにして、木板を、電圧計に繋いだままの魔力電池に載せる。一呼吸おいてからそこに手を重ねた。電圧計の針がさっと振れて、赤いマーカーを少し振り切った。

「よし、大丈夫。後は薄い方で」

 木板を〇・一ミリメートル厚のものに載せかえ、今度は恐る恐る指を触れる。針が僅かに振れたが、指に痺れは来ない。意を決して、先ほどと同じように手を載せる。感電しない。


「良かったぁ。これで基礎は完成だね。あとは樹液をもっと貰って来て、箱は大工さんに相談しよう。樹液ってどれくらいあるのかな? 何個作るかはそれがわかってからにしよっと」


 もうすぐ昼の時間だ。出掛けているみんなが帰って来る前に昼食を用意しておこうと、マコは作業を一旦終えて立ち上がった。

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