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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第七章 インフラ整備とクリスマス

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7-3.有線通信機

 米軍からの支援物資……いや、海竜討伐の報酬が、日々届き始めた。それらは、大急ぎで作られた氷室やマンション内の空室へと、あるいは、まだ転居の始まっていない簡易住宅を仮の倉庫にして、続々と運び込まれた。贅沢はできないものの、これでこの冬は何とか凌げるだろう。

 もちろん、これでいいとはレイコは思っていない。異変、マコの言う異世界転移が起きて数ヶ月で訪れてしまった最初の冬を乗り切るためだ。春を迎えたら、自給自足の道を模索することになる。無論、完全な自給自足でなく、近隣のコミュニティとの取り引きを前提にしているが。


 報酬が届き始めて数日経った頃、マンションの一号棟と二号棟それぞれの管理人室が、通信線でようやく繋がった。時間が掛かったのは、ケーブルの製作にかなり手間取ったためだ。銅線は残っているものの、消失してしまった被覆材の代用品の調達に手間取った。最初は紙で試したが、短い距離ならともかく、それなりに距離のある建物間を紙巻きの銅線でつなぐことは、事実上不可能だった。

 代用品として、裏山で発見された、常温でビニール状に硬化する樹木の樹液を使うことになった。質感はビニールとは異なるものの、それを使うことでケーブル製作の目処が立った。


 しかし、問題のすべてが解決されたわけではない。


「で、問題はこれなんだけど」

 通信機の通話試験に呼ばれたマコは、この件を主導していた住民の指差した物を見た。

「電池、ですか?」

「そ。今はこれで動いてるけどね、新しい電池を調達できないと、どうにもならないからね」

「充電池は使えませんか?」

 レイコが聞いた。

「使えなくはないんだけど、充電する手段がね。太陽電池もあるけど、趣味の工作で使うような小さい奴しかないし」

「そうですか。一先ずはある電池を使うとして……マコ、これどうにかできない?」

「へ?」


 レイコに突然振られて、マコは疑問符を頭に浮かべた。

「魔力灯みたいに、魔力を使った電池を作ったりできないかしら」

「ああ、そう言うこと。そうだなぁ……」

 マコは考えた。

 魔力灯や魔力回路と同じ要領で、触れた人の魔力を電気エネルギーに変える魔道具を使うことは可能だろう。しかし、光エネルギーや熱エネルギーと違って問題がある。確かに熱も使い方を間違えると火傷する危険性はあったが、それは間違えれば、だ。

 電気の場合、間違えなくても確実に感電するだろう。


 問題は他にもある。

「あの、これって受信側にも電池必要ですよね?」

 マコは聞いた。

「うん、もちろん」

「じゃ、人がいない時でも電流が流れるようにしないと駄目か……」

 マコは独り言ちた。

「ああ、呼び出しだけなら電池は要らないよ。通話の時は、受信側も電気必要だけど」

「え、そうなんですか? それならなんとかなるかな」

 感電の問題は残るが。

「それと、魔法で作った電気って電流がどっちに流れるか解りませんけど」

「うーん、整流器を付けよう。部屋を探せば出てくるだろ」

「あと、電圧とか判らないんですけど」

「それもあるか。弱い分にはいいけど、あまり大電流が流れると壊れるだろうからなぁ。弱すぎるのも困るし。電圧計を作ってやるよ。それでなんとかなるかな?」

「はい、何ボルト必要か教えてもらえば、多分」


 他にもあるかな?と考えつつ、思いつかないので、何かあったらまた伝えることにして、その場は解散になった。

「随分と色々聞いていたけれど、難しい?」

 管理人室から出た後で、レイコが聞いた。

「単に光らせるとか温めるとかじゃないから。まぁ、取り敢えずやってみるよ」

「頼んだわよ。ただ生きるためなら兎も角、快適に生活を送るためには魔法が必須になっちゃったんだから」

「頑張ってみるよ」


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 取り敢えずどうしよう、と考えたマコは、その日の魔法教室の授業を終えた後、例によって自動車から適当な大きさの鋼板を取って来た。それに、小物入れや机の引き出しを引っ掻き回して、豆電球を見つけた。

「何の電球かな? まぁ、いっか」

 裸になったコードを口金に巻き付け、もう一本を電極にセロファンテープで貼り付けて、これも引き出しに転がっていた電池で光が灯るか試してみる。

「うん、大丈夫っと」

 電池から外したコードを、鋼板の左右に開けた穴に通して括り付けた。正直、この鋼板から電気を発生させる魔道具を作ったとして、電流がどう流れるものか見当もつかない。


 取り敢えず鋼板いっぱいに魔力を注ぎ込み、魔道具にするための準備を整える。ここからだ、と鋼板の魔力に命令を与えるための魔力を注ぎ込む。

「わひゃっ」

 命令付けた途端、豆電球が強力な光を放った。命令を送るのに使った魔力が一気に電気エネルギーに変換されて、豆電球に電流が流れたらしい。

「うわぁ、びっくりした。でも、電流が流れることは判ったね。今のでフィラメント切れなかったかな?」

 じっと豆電球を見るが、フィラメントは無事なようだ。


「じゃあこれに手を当てると……絶対感電するよね。なら」

 魔力を身体から伸ばして、鋼板の中央付近に触れる。直径一ミリメートルほど。

「これじゃ流石に光らないか。もう少し多くして」

 徐々に鋼板に触れる魔力を広げてゆく。直径が五ミリメートルに達したところで豆電球が灯った。更に魔力を注ぎ込む。豆電球が明るく輝く。消費される分の魔力を追加供給して、光度を保つ。

「厚みは一ミリ弱……〇・八ミリか。直径一一・三ミリ。これで、一・五ボルトくらいなのかな? わかんないけど。それは電圧計を作ってもらってからでいいや。あとは、感電対策かな……」


 魔力を引っ込めて電流を止めたマコは、右手の人差し指を恐る恐る伸ばした。

 指を近付けると、鋼板に触れる前に豆電球が光り出す。

「あー、あたしの魔力、分厚いから触れる前から光るのか」

 離れているからか、感電はしていない。

 更に指を近付けると、指が鋼板に触れる寸前でぴりっと指が痺れた。

「痛っ」

 思わず指を離す。豆電球の光が消えた。


「今の、〇・一ミリも無かったかな。えっと、なら、触れないように絶縁体の何かを挟めば……何か適当なものは……」

 部屋の中を見回し、引き出しを開け、ふと頭にゴミ置場の端材が頭に浮かぶ。

「あれを貰っちゃおうっと」

 取りに行こうかと思ったが、面倒になったので魔力を伸ばす。

(距離はざっと三〇〇メートル……余裕だね)

 魔力で木材を探り、二枚の木片、と言うより木の薄板を瞬間移動させる。〇・一ミリメートル厚と〇・二ミリメートル厚の、二枚の薄い板。板というよりは(かんな)の削りカスのようだ。丸まることなく、平らな形状を保っているが。


 先程の痛みを忘れられないマコは、まず〇・二ミリメートル厚の木板を鋼板──魔力電池──の上に置いた。また恐る恐る人差し指を近付ける。豆電球に光りが灯り、徐々に明るくなり、指が木板に触れた。

「おー、これだけ離れてれば大丈夫っぽい。後は指を増やしたらどうかな」

 中指の先を当て、薬指も。三本の指を当てると、豆電球はかなり明るく輝いた。指に痺れもない。

「大丈夫そう。薄い方でもやってみよう」

 指を離し、気を付けないと折れそうに薄い板を載せ換える。再び指を近付けると、板に触れた瞬間にばちっと来た。

()ったぁ。〇・一ミリだとぎりぎりなのかな。じゃあ、〇・二ミリの板を上に載せれば大丈夫か。あと、防水した方がいいのかなぁ。汗が染み込んだら感電するかも知れないし。それも考えなきゃ。

 後は、使う人を選ぶよね。魔力の厚みが一ミリ以上ある人じゃないと充分に発電できないし……大抵の人は大丈夫だと思うけど」


 しばらく考えたマコはふと窓の外に目を向けた。空が暗くなりかけている。

「あ、しまったっ。キヨミさんを散歩に連れて行かないとっ」

 何しろキヨミは、無理にでも連れ出さないと一日中部屋に籠ってしまう。荒天なら兎も角、そうでなければ出来るだけ外に連れ出さないと、彼女の身体に悪い。


 マコは慌てて部屋を出た。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 マコが魔力電池を試作した翌々日、電圧計が出来上がった。

「ちょっとちゃちだけど。針がこの赤く示した場所を示せばOK。それで十六ボルトから二十ボルトのはずだから」

「解りました。お借りします」

「電池はどうなの? できそう?」

「はい、試作品はできました。ちょっと制限は付きそうですけど、なんとかなると思います」

「へえ。流石は魔法使い」

「できたら持って行きますね。何号室でしたっけ?」

「一五〇二」

「一五〇二号室ですね。解りました。できたら届けます」

「うん、よろしく」


 見送ってから気付いたが、十四階から上の住人は、十二階以下の家に同居するか、外の簡易住宅に住む方針の筈だ。彼は特例なのだろうか? そんなことを思いつつも、些細なことなので、マコは気にしないことにした。


 先日作っておいた魔力電池は、左右を少しだけ開けて上下を木板で挟んである。豆電球は取り外し済みだ。そこに、作ってもらった電圧計から伸びている二本のコードを繋ぐ。気を利かせてくれたのか、コードの先には金属製のクリップが付いているので、繋ぐのは簡単だった。

 マコは指を木板で挟んだ鋼板に置く。針が振れた。目盛も数字も書かれていないが、針の下の厚紙に塗られた赤い色が十六ボルトだと言っていたから、二ボルトくらいだろう。

 載せる指を一本ずつ増やして行き、全部の指を使ってもまだ足りない。それならと掌全体を載せてみた。

「あっ、行った」

 針は赤い印を少しだけ赤い印を振り切っている。


「これくらいなら平気かな。相談してみよう。その前にいくつか解決しておきたいことがあるから……」

 マコは異世界ノートを取り出して、魔力電池の問題点を纏めると共に、解決方法を考え始めた。



マコの使える魔法:

 発火

 発光  ─(派生)→ 多色発光

 発熱

 冷却

 念動力 ─(派生)→ 物理障壁

 遠視

 瞬間移動

 念話

 発電


マコの発明品(魔道具):

 魔力灯

 魔力懐炉

 魔力電池(new)

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