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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第七章 インフラ整備とクリスマス

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7-1.街灯と連携魔道具製作

「レイコちゃん、相談って言うか、提案があるんだけど」

 朝食を食べながら、マコが言った。

「何をしたいの?」

「夜になると外暗いでしょ? だから街灯を付けたらいいんじゃないかなって」

 レイコは食べる手を止めて首を傾げた。

「街灯ってどうやって? 電灯を付けるにしても、電池が無くなったら交換するものがないわよ?」

「電池は充電式もあるでしょ。じゃなくて。あたし、魔法使いだよ。魔力灯に決まってるじゃん」


 ヨシエがぴくっと身体を震わせた。それに気付いたのか気付かなかったのか、ヨシエの母が口を開いた。

「魔力灯は、手で持っていないと点灯しないのでは?」

 それはレイコの疑問と同じだったろう。ヨシエの姉とも。

「えーとですね、魔力を持っているのは人間だけじゃないんです。動物も持ってるのは言ったと思いますけど、それだけじゃなくて植物にもあるんです」

 動物が魔力を持っていることは裏山への調査に入る前に伝えているが、植物も持っていることは、必要がなかったのでマンションの住民にはほとんど言っていなかった。魔法教室の生徒くらいだ。


「つまり、魔力灯を広場の木に括り付けるの?」

 ヨシエの姉か聞いた。

「それでもいいんですけど、植物の魔力って表に出ている分はとっても少ないから、それだと効率が低いと思うんです。だから、長くて薄い板を魔力灯にして、幹に巻いておけばいいかなって」

 木の幹に留まっている魔力は、〇・一ミリメートルあるかないか。それでも、魔力灯にした鉄片を貼り付ければ鉄片の周囲は光る筈だ。と言うか光る。マコはすでに、魔力灯を幹に押し当てて試していた。帯状の魔力灯を巻いておけば、幹の全周が仄かに光を放つことになる。


「それは、できるならやって欲しいけれど、材料は? 木に巻くなら、薄くないといけないでしょ?」

 レイコが聞いた。

「魔力懐炉作った時の自動車のボンネットとかの余りがあるから。あれから〇・一ミリメートル厚の帯を取れると思う」

 理論上はもっと薄くできるかもしれないが、マコの魔力操作の精度が〇・一ミリメートル単位なので、それ以下の厚みにするのは難しい。

「なるほどね。それじゃお願いしようかしら」

「うん。魔力懐炉の生産も一旦終わってるし、午前中に適当に作って、何本か木に巻いておくよ。夜中に見て、良さそうだったら他の木にも付ける感じで」

「そうしましょう。それにしても、そろそろマコへの報酬を考えないといけないかしらね」

「報酬?」


 レイコの言葉にマコは頭に疑問符を浮かべる。

「マコのお陰で、冬はみんな凍えずに済みそうだし、冬の間の食糧もなんとかなりそう。簡易住宅の建設もマコの協力がなければこんなに早くは進まなかっただろうし、引っ越しもスムーズに進んだ。これだけマンションの人たちに貢献している人は他にいないわよ。だから、個人的な報酬が必要と思って」

「いやいやいや、それ言ったらレイコちゃんの方でしょ。事の最初から一号棟をまとめて、他の棟や近くの農家なんかとも協力して、今じゃマンション全棟を管理して。あたしがいなくても何とかなるけど、レイコちゃんがいなかったらそもそも秩序を保ててないよ」

 母の言葉に、マコはレイコこそがこのコミュニティに一番貢献していることを力説した。


「お二人とも、今ではここにはいなくてはならない人物ですよ。どちらも同じくらいに」

 ヨシエの母が、笑顔で言った。ヨシエも、その姉も、こくこくと頷いている。

「本当はそれじゃいけないんですけどねぇ。わたしがいなくても回るようにしておかないと」

「それは追々でしょう。まだ何ヶ月しか経っていないんですから。非常時は、強力なリーダーが引っ張って行った方が上手く回ります。後進を育てるのは、それからですよ」

「それとは少し違う気がしますが……そうですね、まずは落ち着くまで走り切ることが優先ですね」

 レイコが締めて、マコの報酬の話は有耶無耶になった。


 マコとしては、毎日なんとか食べていけることに対し、魔法で貢献していると言うか、みんなに恩を返しているだけのつもりなので、これ以上の報酬云々は考えたこともなかった。そもそもの最初はみんなへの貢献など考えておらず、ただ『魔法を使いたい』『魔法を極めたい』とだけ考えて、自由気儘にやってきたのだ。他のことはレイコに丸投げして。

 だから、いきなり報酬と言われても困ってしまう。これから先も同じ話が出てきたら、有耶無耶にして誤魔化しておこうと思うマコだった。


 みんなが話をしている間、キヨミは空気のように場に溶け込んで、もくもくと自分の食事を進めていた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 午前中に作っておいた板状の魔力灯を、昼食を食べてから広場の木に巻いた。最初はあちこちの木に分散して巻こうかと思ったのだが、どれくらい明るくなるのかを確認するなら集中させた方がいいだろうと考え直し、マンションの入口にほど近い十本の木に巻きつけることにした。


「先生、ちょっといいですか?」

 幹に魔力灯を巻き付ける作業中に声をかけてきたのは、魔法教室第一期の生徒のミツコだった。ヨシエも一緒に立っている。

「ちょっとだけ待って。これ巻き付けちゃうから。……これで良しっと。なあに?」

「はい。えっと、これ持ってみてください。あ、手袋は外してくださいね」

 手渡されたのはジュースの空き缶。三五〇ミリリットルのスチール缶だ。一度潰されたものを恐らく魔力で戻したらしく、少し凹みがある。飲口側の蓋は切り取られ、中は綺麗に洗ってあるようだ。


 前に作った魔力灯かな? けれどそんなものをわざわざ持って来るわけもないし、と手袋を脱いだ手で受け取る。

「あれ? これ、魔力懐炉?」

 空き缶を持った掌がほんのりと温かい。しかし、マコは空き缶で魔力懐炉を作ったことはない。

「これ、ミツヨちゃんが作ったの?」

「えっと、半分当たりで半分外れです。これは、ヨシエちゃんと一緒に作りました」

 ヨシエがこくりと頷く。


「え? それはつまり、あれか。二人で順番に魔力を注いで作ったとか、二人の魔力を一緒に入れて作ったとか、そんな感じ?」

「はい、その後の方です」

「なるほどねぇ。一人だと作れないけど、二人で協力すると作れるわけか」

 それは考えなかったな、とマコは思う。同時に、そこに良く気付いたな、と素直に二人を称賛する。

「でも、二人揃えば誰でも作れるってことでもないんですよ。先生に魔道具の作り方を教えて貰った五人の中でも、この方法で魔道具を作れたの、ワタシとヨシエちゃんの二人が組んだ時だけだし」

「なるほどねぇ。魔力量の合計……はあんまり関係ないかなぁ。魔道具を作るのにそんなに大量に魔力が必要なわけじゃないし。二人の魔力量が同じくらいでないといけないのか、それとも二人の魔力の相性かなぁ?」

「理由は考えていませんでした。でもこれで、手伝えることも増えましたよね」

「そうね。まずは魔力灯を木に付けることが決まったら、作って貰おうかな。あたしがこんな感じで金属板を切り出すから、二人がこれを魔力灯にする感じで」


 マコは、残っている細い帯状の魔力灯を二人に見せた。

「ヨシエちゃんから聞きました。確かに、空き缶の魔力灯を木に括りつけてもあまり明るくなりそうにないですもんね」

「木の魔力って動物に比べると薄いからね」

「でもそれで、帯を魔道具にして幹に巻くっていう発想が凄いです」

 ずっと黙ってたヨシエが言った。

「ありがと。でもみんなだって凄いよ。一人で魔道具を作れないから二人で作ろうって思い付くんだから。あたしは考えもしなかったもん」

「実はそれもヨシエちゃんの発案なんですよ」

「凄くはないです。半人前だから、二人ならって思っただけで」

「うん、そういう発想が出来ることか大事よ。魔法を使う上でも、それ以外でも」

「はい」

 ミツヨは答え、ヨシエは頷いた。


「えっと、それじゃ練習に魔力灯を二本作ってみようか」

「今からですか?」

「うん。あ、二人は時間大丈夫?」

「ワタシは大丈夫です。ヨシエちゃんは?」

「私も平気」

「じゃ、早速作ってみよう」


 マコは二人を伴ってゴミ置場に来た。魔力懐炉の作成で余った自動車のボンネットから、幅三センチメートル、長さ一メートルの鋼の帯を二つ、瞬間移動で切り出す。

「え。先生、今のこれ、どうやったんです?」

 突然目の前に現れた鋼の帯を見て、ミツヨが目を丸くした。

「あ、ミツヨちゃんは見るの初めてだっけ。瞬間移動で物質の一部だけを移動させたのよ。精密な魔力操作ができないと、思った通りの形に切り取れないけどね」

「ああ、なるほど。ワタシは瞬間移動できないからなぁ。ヨシエちゃんはできたよね」

「うん。でも、まだ、一メートルくらい」

 ヨシエも瞬間移動の練習を重ねているが、まだ距離を伸ばせていない。


「そこはジロウくんの方が上なのね。……あ、すみません、話が脱線しちゃって」

「別にいいよ。疑問を言葉にするのも雑談も大事だからね。えっと、じゃ、これをそのまま、魔力灯にできる?」

 ミツヨとヨシエは、地面に置いた鋼の帯の両側にしゃがみ込み、両腕を広げて掌を等間隔に配置した。しばらくそのまま、時間が過ぎる。


「すみません先生、長くて無理みたい」

 なんとか魔道具を作ろうと四苦八苦していた──傍目から見ればしゃがんで手を翳しているだけだったが──二人は、五分ほどして根を上げた。

「大きいとまだ難しいか。なら、小さくしちゃえばいいんだよ」

「小さく?」

「うん。これ、どうせ木に巻き付けるんだから」

「あ、丸めておけばいいんですね」

「そうそう。あ、一応角は落としてあるけど、皮膚を切ったりしないように注意してね」

 二人は頷いて、二本の鋼の帯をそれぞれ丸めた。魔法で。それなら怪我をする心配もない。魔力を消費することになるので、下手をすると魔力灯を作るための魔力が足りなくなるが、魔力の残量の把握と使用量の加減も魔法の練習の一環だ。マコは余計な口を出さずに見守った。


 渦巻き状にした鋼の帯を重ねて置き、二人はまた掌を翳す。今度は四つの手を重ねるようにして。

「できました」

 今度は三十秒とかからなかった。

「早いね。えっと、ちゃんと出来てるか確認したいから……あっちの倉庫に行こうか。二人とも、それ一個ずつ持って」

 魔道具に魔力が込められていることは自分の魔力で触れれば判るが、それがどんな命令を与えられているのかは判らない。渦巻き状の魔力灯を掌に乗せた二人を伴って、ゴミ置場の隣に造られた、陽の光の入らない倉庫に入った。

 暗がりの中、二人の掌がぼうっと光を放つ。


「ちゃんと出来てるね。それじゃ、作ることになったらお願いね」

「はいっ」

 ミツヨは元気に返事し、ヨシエは笑顔で頷いた。

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