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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第六章 海竜と魔法使い

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6-4.決着! 海竜vs魔法使い そして……

 案内の水兵が艦橋の扉を開けると、中にいた海軍下士官の一人が中に入ろうとする水兵を止めた。緊急時に用も無く艦橋を訪れる無能な兵はこの艦にはいない。しかし、客人の警護兼監視に付けた水兵が、この緊急時に艦橋を訪れる理由を海軍下士官は思い付けなかった。

 水兵の報告を聞き、後ろの民間人を見た海軍下士官は当然のように彼を叱責した。当然の“ように”、と言うより、当然のことだろう。実戦の最中に民間人を艦橋に入れ、あまつさえ戦闘参加させろ、などという戯言を、聞き入れられるわけがない。


 しかし、兵士が食い下がり、博士(ドクター)の名前と彼の言葉を告げると、自分で最終判断はできかねると考えた海軍下士官は水兵を艦橋入口に止め、この場を取り仕切る海軍士官に事の次第を報告した。

 その時、二艦の周りを回遊していた海竜が巡洋艦の前方に首を出し、後方に反らす。

「不味いっ」

 即座にマコは両手を前に伸ばしつつ急速に魔力を放出、前方の海竜を包み込み、即座に冷却する。海竜が凍りついた。

 しかし、その直前に吐き出された水球は氷へと姿を変えつつ巡洋艦に迫る。その進路に素早く魔力を展開したマコは、今度は高熱へと変換する。

「攻撃をっ」

 マコがその言葉を吐いた時には、氷の槍はすべて蒸発していた。


 シュリがマコの言葉を英訳し、しかしそれを待つまでも無く艦砲が照準を合わせて砲撃を開始する。砲弾が目標に当たる直前、海竜を包む氷にひびが入って砕け散り、際どいところで海軍の攻撃を回避した海竜は海中に逃れた。

《今のは!?》

 海軍士官が入口の水兵を問い質す。しかし、彼が口を開く前にシュリが割り込んだ。

《彼女です。すぐに彼女を窓際へ。状況を肉眼で確認する必要があります》

 水兵とシュリ、両方に罵声を浴びせかけた海軍士官は、すんでの所で思い留まる。


 戦闘中の艦橋に部外者、ましてや民間人を入れることなどあり得ない。しかし、自衛官の言葉と、それに水兵から齎された博士(ドクター)からの伝言が正しければ、彼女を利用した方が事が上手く進むかも知れない。何より、これは通常の戦闘行為ではない。未知の生物との闘争だ。それならば、魔法使いという胡散臭い少女の協力を仰いでも構わないのではないか。

《解りました。中へ。

 CICへ連絡。ゲストの民間人に協力してもらう。民間人の能力も加味して攻撃オプションを選択せよ。詳細はそちらへ向かっている、同じくゲストの博士(ドクター)に聞くように。以上》


 許可を得たマコは、シュリに守られながら艦橋の窓際に立った。その目は海中の海竜の影を追っている。

 海竜は、先ほどのマコの攻撃を警戒しているのか、単に円を描くのではなく、進行方向を変えたり深度を変えたりと複雑に動いている。速度は単純に動いていた時に比べてかなりの高速だ。マコは両手を前に出し、海竜の動きに合わせて向きを変えてゆく。こんな時にも米軍に対するハッタリを忘れないマコだった。


 女性士官の言っていた通り、海竜は飛竜に比べて好戦的らしい。会敵した回数が少ないので、もしかすると生物種は関係なく個体差かもしれないが。しかし、今はそれを考察している時ではない。海竜を撃退しないことにはそれを考える暇もない。

 飛竜の時のように力に変えた魔力で押さえ付けるのは問題外だ。何しろ、体長は飛竜の四倍もある。飛竜は二体いたとはいえ、それを十数分押さえ込むだけでマコは気力を使い果たしてしまった。海竜を押さえようと思えば可能だろうが、それで何分保つかは判らない。押さえた後、軍艦の攻撃で仕留めるまで気力が保つかどうか。マコには断言できなかった。


 しかし、手段を選ばなければ何とかできる、そうマコは思った。飛竜よりは凝った魔力の使い方をするものの、それほど技巧的な魔法ではない。今のマコなら魔力量で劣っていようと叩きのめすくらいなら出来そうだ。海竜が奥の手でも隠しているならその限りではないが、創作物に登場する(ドラゴン)などと違って、それほど高い知能を持っているようにも見えない。


 マコは前方に伸ばした掌から魔力を大量に放出し、海竜を包み込むほどの塊にしたそれを目標に合わせて動かした。

(ここでっ)

 海竜が海面に近付いたところで一気に海水を冷却する。動きの速い海竜の頭が冷却範囲から逃れ海面に頭を出したが、それも新たな魔力で包み込み、まとめて凍らせる。内側に巨大生物を含んだ氷山が現れた。


「Woooooow!!」

 艦橋が歓声に包まれる。

「待ってっ」

 マコが氷山を睨んだまま叫び、意味は解らないだろうが海竜を仕留めた少女の鬼気迫る声に、艦橋はすぐに静けさを取り戻し、視線が氷山へと集中する。

 氷山から蒸気が立ち昇っていた。その量がどんどん多くなる。海竜が魔力を熱に変えて、氷を溶かしているようだ。魔力を追加して再度凍らせることも可能だろうが、マコはやらない。どう見ても相手の方が魔力量が多いのだ。魔力(ぶつ)量作戦に出たら負けは確実だ。

 CICも状況に気付いたらしく、艦砲が目標を捉え、垂直発射管セルの扉が開く。


 海竜が氷山から出ている首を大きく振るのと同時に、巡洋艦から艦砲とミサイルが発射された。駆逐艦からも。合わせて数十発の砲弾とミサイルが氷山の一角に集中する。

 海竜が口から冷気を放ち、何基かのミサイルが無効化された。しかし、全方位から撃ち込まれるミサイルすべてに対処することは、流石の海竜にも不可能だったらしく、何発かはターゲットに命中する。

 爆煙が海上を覆った。成果を確認するため、海軍は攻撃を一旦停止する。煙が海上を這うように拡散してゆく。


 爆煙が散り切る前に、その中から長大な生物が空中へ飛び出した。そのまま海中に没する。仕留め切れなかったようだ。しかし、流石に無傷というわけにはいかないだろう。引き続き海中にを泳ぎ回っているものの、速度が少し落ちている。しかし、まだちょっかいを止めるつもりはないらしく、離れる素振りはない。(ふね)から離れずに泳いでいる。

 艦橋は再び緊迫感に包まれた。


「気を付けてくださいっ。海中に大電流を流しますっ」

 再びマコは海中に魔力を送り込む。軍艦であれば雷の直撃にも耐えられそうだが、今は二艦ともに中破状態だ。何が起こるか判らない。

 シュリが翻訳し、CICへと連絡したらしいことを耳に聞こえる声で判断したマコは、海中の魔力を電気に変換した。一瞬、海面が発光する。しかし、海竜は動きを止めることなく海中を泳ぎ続ける。電気に対する耐性でもあるのか、傷付けられ怒りで痛みを感じることを忘れてしまったのか。


「これでも駄目か。ちょっとやりたくなかったけど」

 マコは呟き、続けて魔力を送り込む。しかし今度は、海竜を包んでいない。海竜の進行方向前方に、濃い魔力の円盤を作り出す。

(これで駄目なら、魔力足りないかも)

 これで仕留める、という気持ちの元、海竜の前方に展開した魔力を力に変える。そこへ海竜が突っ込んだ。

 がんっとマコには音が聞こえた気がした。海竜の巨大が海上に浮かび上がる。


《やった……のか?》

 艦橋の誰かが言った。

「多分、脳震盪を起こして気絶しているだけです。この間に逃げるなり拘束するなり対処を」

 シュリがマコの言葉を翻訳すると、今度こそ艦橋が歓声に包まれた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 マコが出て行ってから、(ふね)はスエノに庇われた時のように揺れることはなかったものの、砲撃音は届いていたし、泳いでいる海竜が時折海面に浮かぶ様が窓から見えていたから、フミコは不安に高鳴る胸を宥めるのに必死だった。しばらく経って戦闘音が止んだ後も、いつ再開されるかと落ち着くことはなかった。

 扉の前を何度か足音が通り過ぎ、さらに数分が立ってから扉が開いた。

「マコちゃんっ、無事だったっ?」

 立ち上がってマコに駆け寄るフミコの口から最初に出たのは、フミコ自身にも意外だったことに、戦闘の帰趨ではなく、歳下の魔法教師の無事を確認する言葉だった。それで初めてフミコは、自分が心配していたものが不明な現況よりもマコの安否だったことに気付いた。


「はい、大丈夫です。フミコさんも平気でした?」

「わたしは大丈夫。ベッドに座っていただけだから。マコちゃんは? 本当に平気? 飛竜の時みたいに倒れなかった?」

「はい。正直、魔力はあの時より使っちゃったけど、身体はあの時より楽ですよ」

 海竜を包むほどの魔力を何度も冷気や電力に変えた上、最後に海竜の進行を阻む“壁”を作るために思いのほか大量の魔力を使った。おかげで、マコは自分の魔力の八割ほどを使い果たした。

 しかし、気力の方はと言えば、果てるほどには使っていない。魔力さえ回復すれば、海竜ともう一戦しても問題ないほどだ。実際には魔力の方が枯渇してしまうので、どちらにしろ連戦は無理なのだが。


「良かった。本当に心配したんだから」

「心配をお掛けしてすみません。でももう、ひと段落つきましたから」

 マコとフミコが無事を確かめ合っていると、再び扉が開いて女性士官が兵士を伴って入って来た。博士と助手、それに女性下士官たちはいない。

「マコさん、アリガとう御座いマシタ。マコさんがいなケレバ、被害はより拡ダイしてイタでしょう」

「いえ、あたしはあたしとフミコさんを守っただけです。そのために必要なことをやっただけですから」

 女性士官はそれ以上は言葉を使わず、頭を下げた。


 彼女が頭を上げた時、その顔は打って変わって真剣な表情に変わっていた。

「トコロで、先ほどのセン闘で何点か問題が発生シマシタ。それにツイテ、オツタえします」

「問題?」

 マコは不安を込めた疑問を口にする。士官は、大した問題ではない、と言うように微笑んでから真顔に戻り、言葉を続けた。

「一つは、機関が破壊サレテしまい、両艦トモ立オウジョウしています。また、回避キドウ中に通信不可リョウイキに入ってシマッタため、救援要請デキません。シカシ、戦闘カイシ直後二、北東大西洋艦隊にキュウエンを求めたノデ、捜索の時間はカカリますが本隊がゴウリュウします。

 次に、本艦ノ艦底にダメージをウケ、浸水シマシタ。これモ、隔壁を閉じマシタので、本隊ノ合流までは問題アリマせん。

 ソレから、ヘリコプターが破壊サレたため、日本ヘノ帰還が遅れるミコミです。本隊トノ合流は今日はムズカシイデスが……」

 マコの、この世の終焉を見たかのような表情に、士官は思わず言葉を失った。


「え……今日、帰れない、ですか……?」

「本隊がコチラの発見ニかかる時間シダイですガ、明日にはカエレる見込みデス」

「れ……レイコ……ちゃん……」

「マコさん? ドウカされましたか?」

「い……い……い……」

「マコちゃん?」

「本条さん?」

 室内のすべての瞳がマコを見つめる。


「いやーーーーーーーーーーー!!!」

 マコの叫びと同時に、部屋にいた全員の身体が壁へ叩き付けられた。

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