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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第五章 自衛隊との協力

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5-7.大量生産

 魔道具の作り方を教えられたものの上手くできなかった五人の生徒たちは、次の日曜日にも個別に、あるいは相談し合って、いろいろ試していたようだ。マコもその一日の内に彼らから色々と質問を受けた。

 自分と生徒たちの違いがどこにあるのか解らないものの、マコは色々と考えてアドバイスをした。それが、どの程度役に立ったかは、甚だ疑問だったのだが。


 次の月曜日から、本格的に魔力懐炉の製作に掛かった。魔法使いも動員しているが、小学生は授業を受けているし、中学生以上も伐倒や狩猟を手伝っているので、元々二十人しかいないこともあり、人数は五人と少ない。

 自動車置場に集まった生徒たちを前に、作業の説明を始めた。

「まず、瞬間移動を行えるあたしとジロウくん、サトシさんの三人で、自動車からボンネットとドアを取り外します。丸ごと全部じゃなくて、長方形に取れる部分だけね。

 他の三人は、あたしたちが取った板を魔法で上下から潰して、真っ平らな板にしてください。まずはそこまでね。

 今日の予定は、あたしが十台、ジロウくんとサトシくんは五台ずつ。まず最初に一台、あたしが見本を見せるね」


 マコは、場所を生徒たちに場所を空けさせると、一台の自動車からボンネットと四つのドアの車体部分だけを魔力で包み、地面に瞬間移動させた。続けて一番上のドアを魔力で五十センチメートルほど持ち上げ、上下から一気に圧縮する。やや歪な形ながらも、一枚の平らな鋼板が出来上がった。

「こんな感じ。簡単でしょ?」

「いや、それを簡単にやってのけるのは先生だけだって」

 サトシが言った。彼は高三であり、また、今は魔法教室ではないのでマコとしては“先生”呼びは勘弁してもらいたいところだが、魔法使いとして集めているので我慢する。


「別に一気にやる必要はないから。一枚ずつ、慎重にやって。怪我をしないように、注意してね。あ、そうそう」

 マコは、今潰した鋼板に魔力を纏わせ、十枚の小さな板を切り出した。もちろん、瞬間移動で。重ねたそれらに魔力を注入し、魔力懐炉を作る。

「寒いからこれ、持ってて」

 魔力懐炉は、持ち主の魔力を強制的に熱に変える。しかし、この程度の魔力懐炉なら使用する魔力は微々たるものだ。寒さで魔力の操作が上手くいかない方が不味いだろう。

「先生は寒くないんですか?」

 生徒の一人が聞いた。

「あたしは、魔法で発熱しちゃうからね」

 多少の魔力のエネルギーへの変換なら、マコはほとんど無意識の内にやってのける。それをしながら他の作業をこなすことも苦にならないので、今は魔力懐炉の必要性を感じない。寝る時にはお世話になるだろう。


「それじゃ、よろしくね」

 ジロウとサトシは、自動車からの鋼板の切り出しに取り掛かった。二人とも、瞬間移動できる距離は数メートル。しかも、二点間の移動距離がそれだけだ。魔力自体はそれより少し遠方まで伸ばせるのだが、例えば、身体の右側方五メートルの位置にある物体を、左側方五メートルの場所に移動することはできない。そのため、二人とも自動車に近寄って魔法を使っている。

 二人が、鋼板一枚二枚を自動車から切り出すのと、残る三人が切り出された鋼板をプレスするのを少しの間見守り、問題なさそうなことを確認して、自分も作業に入った。


 マコは、二人の新米魔法使いと違い、かなり遠距離まで魔力を伸ばすことができるし、魔力さえ届けばどこでも瞬間移動できるので、積まれた自動車の奥の方から鋼板を切り出すことにした。一台の自動車から、一度に三枚から五枚の鋼板を切り出し、積み上げてゆく。後ろでプレスしている魔法使いは、マコ、ジロウ、サトシの一人ずつについているが、マコのところだけ未処理の鋼板が増えてゆく。

「よしっと、これで十台終わり」

 マコが十台の自動車から鋼板を取り終わった時、ジロウとサトシは、それぞれまだ三台目に取り掛かったところだった。


 マコは、自分で剥がした鋼板の内、まだ圧縮されていない鋼板を半分、念動力で隣に動かした。瞬間移動を使った方が魔力消費は少ないのだが、念動に比べて、より精神を集中する必要がある。つまり、気力をすり減らすことになる。普段はそれほど気にせずに魔法を使っているが、これから魔力懐炉用に鋼板を大量に加工する必要があるため、気力を節約することにした。

「こっちはあたしがプレスしておくから」

 マコの外した鋼板を圧縮していた女の子に言って、マコは鋼板を潰してゆく。

(ざっとこんなもんね)


 自分で引き受けた自動車五台分の鋼板の圧縮を終えたマコは、生徒たちの様子を見て回った。

「ゆっくりでいいからね。無理はしないでね」

 最初にかけた言葉をもう一度掛けてから自分で圧縮した鋼板の山に戻る。山というほどには高くないが。

(うーん、どうしよ。この程度の量だし、一気にできるかな?)

 その前に、と、台車に載せて持ってきた四個の木箱のうち二個を地面に下ろす。

(重ねたままでもいいんだけどね)

 木箱の一つと重ねた鋼板を魔力で包み込む。魔力は〇・四ミリメートル厚のA6サイズに細かく分割し、瞬間移動で鋼片の切り出しと木箱への収納を一気にやるつもりだ。


(これでよし。瞬間移動っ)

 がしゃんっとわずかな音を立てて、木箱が鋼片で埋まった。自動車五台分の鋼板から切り出した鋼片は、ざっと千枚というところだろう。

(ここまでできれば後は簡単)

 木箱に入った鋼片すべてに魔力を注ぎ込み、一気に魔力懐炉を作り上げた。手袋を外して魔力懐炉を取り出してみると、きちんと暖かい。

(大丈夫ね。千枚一気切り出しはちょっと大変だけど)

 何しろ、瞬間移動の元と先、千個ずつに魔力を分散した上でそれぞれ対応付けなければならない。切り出してバラすだけなら千個を一つと見做すこともできるが、木箱の中に入れるとなると別個に操作する必要がある。今はすべて同じ形状、大きさだったから可能だったが、個々の形状が別々だったら、同時瞬間移動の数は精々数個が限度だろう。


「先生、終わりました」

 マコの切り出した残りの鋼板を潰し終えた生徒が言った。

「ありがとう。あっちももうすぐ終わりそうね。その前にこれもやっとこうか」

 台車を近くまで押して来たマコは、台車に載ったもう一つの木箱に、さきほどと同じ要領で約千枚の魔力懐炉を作り上げた。

 その間に、残りの鋼板の処理も終わっていたようなので、地面に置いた二個の木箱を台車の魔力懐炉の入った木箱の上に重ねて載せ、ジロウたちのところまで運んで行く。


「あの、先生、どうして地面ががたがたなのに、台車はこんなにスムーズに動くんですか?」

 首を傾げる女子魔法使い。

「台車の車輪の下に魔力を敷いて、上向きの力に変えてるのよ」

 キヨミをマンションに連れて来る時に使った方法だ。あの時は台車の下、そこそこ広い範囲に魔力を広げていたが、魔力操作に長けて来た今は、車輪の下とそのやや前方にピンポイントで魔力を展開するだけで済んでいる。

「え……すごい」

「台車全部を空中に持ち上げたら、返って魔力を使っちゃうでしょ? これなら最小限で済むからね」

「そうかも知れませんけど……操作が大変そう」

「慣れよ、慣れ。毎日瞑想して、魔力操作の練習して、それに色々魔法を使っていれば、同じことでも楽にできるようになるよ」

「はい、頑張ります」


 四人が切り出して潰した鋼板の前に台車を止め、マコはさきほどと同じく鋼片を切り出す。

「え。ちょっと先生、それどうやったわけ?」

 ジロウが聞いた。

「ちょっと待って。先にもう一山やっちゃうから」

 魔力懐炉にするのは後回しにして、最後の五台分の鋼板も細かく分割して木箱に収め、まとめて二千枚ほどの魔力懐炉を作り出す。


「これで良しっと。それで、さっきのジロウくんの質問ね」

「はい。その、箱の中に一気に金属板が出たの、ボンネットから瞬間移動で切り出したんですよね?」

「うん、もちろん。それが一番楽だからね」

「けど、ボンネットから切り出した形と、箱の中に重ねられた形、明らかに違いますよね? どうやったらそんなことできるんですか?」

 ジロウだけでなく、他の四人もマコの言葉を待っている。授業中でもないのに熱心なのは、いいことだな、とマコは思いながら説明する。


「簡単だよ。あ、口で言うのは簡単、かな。実践は結構難しいね。

 普通、瞬間移動は魔力を二箇所に集めて、その二箇所の間で交換するでしょ? じゃ、二箇所でなくて四箇所に魔力を集め、AとA’、BとB’を同時に交換したら、どうなる?」

 マコはしゃがんで石を掴み、地面に雑な絵を描いて説明した。

「二つの物を、同時に別々に瞬間移動できる?」

「はい、サトシさん、正解」

 マコは石を捨て、立ち上がって手を叩いた。

「いや、でもそれ、かなり大変じゃ? 二個くらいならなんとかなるかもだけど、これ何枚あるわけ?」

「一箱、ざっと千枚?」

「それを苦も無くやるって……やっぱり先生は規格外だよ」

 サトシの言葉に、みんな頷く。


「いや、でも、苦も無くってことはないよ。自動車十台分をまとめてやらなかったのは、そこまで集中力なかったからだし」

「それでも、だよ。流石は最強の魔法使いってとこだよな」

「最強ったって、まだ二十人そこそこなんだから。あたしより強力な魔法使いもどっかにいるよ」

 謙遜してはいるが、自分より強力な魔法使いは少なくともこのコミュニティにはいないのではないか、とマコは感じている。相手に触れずに判るのは体表面の魔力の厚みだけなので実際のところは判らないものの、厚みだけならマコの魔力の半分にも達している人を見たことはない。


 しかし、そんなことはどうでもいい。今は、生活のためにみんなで協力するだけだ。

「じゃ、後片付けして戻ろうか」

「後片付けって?」

 生徒の一人が首を傾げる。

「魔力懐炉を作った後の、ボンネットとかドアとか。危ないから手で持たないで念動を使ってゴミ捨て場に持ってくよ」

「え……もう魔力、ほとんど残ってない感じなんですけど……」

「私も……」

 みんな、鋼板の圧縮で魔力を使い果たしたようだ。

「サトシさんとジロウくんは? 瞬間移動だけならそんなに魔力を使わないでしょう?」

 マコの言葉に二人は首を横に振った。

「そんなことないです。瞬間移動した後の魔力の回収って、大変ですよ」

「そうだよ。すぐに消えてっちまうし」

「そうだったの? うーん、瞬間移動の後も魔力操作の集中を切らさなければ、回収できるはずだよ。練習あるのみだね」

「「はーい」」

 瞬間移動会得者の二人は返事をした。


「じゃ、今日のところはあたしが後片付けするよ」

 マコは念動力を使って穴だらけになったボンネットやドアを一箇所に集め、木材用のゴミ箱の横に作られた金属用のゴミ箱にまとめて瞬間移動させた。

「これで良しっと。じゃ、戻りましょう」

 マコが押そうとする台車を生徒が引き取り、押してくれた。

「やっぱ先生は尋常じゃないよな」

「追いつけるイメージが全然わかねぇ」

 男子生徒たちが小声でそんなことを話していた。

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