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5-1.魔法の強さと魔力量

 目覚めはすっきりとしていた。これほどぐっすりと眠ったのは久し振りかも、とマコは大きく伸びをしながら思った。カーテンは閉じられているが、隙間から漏れている光は朝のそれではない。

「寝坊しちゃった、かな? えっと、昨日はどうしたっけ?」

 そこまで考えて前日の出来事を思い出した。

(そっか、フミコさんに連れて来てもらって、そのまま寝ちゃったんだ。レイコちゃん、心配してるだろうなぁ。フミコさんも。レイコちゃんに説明して、フミコさんにもお礼言っておかないと)


 ベッドから降りたマコの腹の虫が鳴った。

「お腹減った……そう言えば、昨日はお夕飯も食べてなかったっけ」

 ふと、机の上の紙片に目が止まる。見ると、レイコからの伝言だった。

「ご飯用意してあるんだ。ありがと、レイコちゃん」

 作ったのはヨシエちゃんかな?と思いながら、カーテンを左右に開いて広場の日時計を見下ろし、まだ昼前であることを確認する。

「午後の授業には間に合うね。その前にレイコちゃんに昨日のこと話す時間あるかな」

 カーテンを纏めながら、今日の予定を頭で確認する。


 そう言えば、ぐっすりと眠って気力が回復したためか、身体を動かすことが億劫ではない。空腹で体力が減っているのは自覚できるが、今なら小学校までくらい、軽く往復できそうだ。

 体表面の魔力も、普段の厚みを回復している。ただ、体内に意識を向けると、魔力がやや薄くなっているように感じる。

(昨日はかなり魔力を使った感じはしたもんね。どこから補充されるのか解んないけど、一晩で回復し切る量じゃなかったってことかな)

 それでも、今の魔力濃度から判断すると、今日の内には回復しそうだ。昨日の時点で半分ほど使っている感じだったことを考えると、マコが魔力を使い切った場合、完全回復には二日かかることになる。尤も、使用した魔力量も現在の魔力量もマコの感覚なので、精度の保証はまったくないが。


(とにかく先ずはご飯だね。顔だけ拭いて、着替えは後でいいや)


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 マコがレイコと落ち着いて話すことができたのは、夕食の時だった。それまでにも何度か顔を合わせたものの、昼食の後はすぐに魔法教室に出ていたし(レイコは、休んだ方がいいんじゃない?、と言ってくれたが)、その後はレイコが臨時で会議を開いたり、マコもフミコを訪ねたり、簡易住宅の建設を手伝っていたりと、忙しくしていたため、ゆっくりと話す時間が取れなかった。


 謝罪の言葉は明坂家の三人とキヨミにも、昼食の時に伝えていたが、夕食の時にもマコは改めて頭を下げた。

 それから米軍基地で起きたこと、マコがやったことを説明した。午前中に米軍人が来て概要はすでに聞いていると知らされてマコは驚いたものの、米軍ではマコが具体的に何をしていたかを把握しているはずもなく、飛竜をどのように撃退したかを詳しく話した。尤も、マコの話を現実のこととして実感できたのは、魔法を使えるヨシエだけで、大人たちは空想世界のことのように聞いていた。


「先生、すごい。私にもできるかな」

「うーん、ヨシエちゃんには無理かなぁ。まず魔力が足りないと思う」

「先生の魔力、すごいもんね。でも、飛竜って大きいのに、先生より魔力少ないの?」

「うーん、どうだろう? 多分、飛竜の方が多いんじゃないかな?」

「でも先生が勝ったんだよね」

「勝ったって言うか、軍人さんが卵を持ってくるまで押さえてただけだけどね」

「でも、押さえておけたんでしょ?」

「うん。飛竜が魔法で対抗してきたら、押さえ切れなかったと思う。でも、体力だけだったから、あたしの魔法で何とかなった感じかな」

「魔法を使わなかったんですか?」

「暴れるのにはね。炎を吐くのに使ってただけ」

「どうして先生に対抗して魔法を使わなかったんですか?」

「あたしは飛竜じゃないから判んないけど、多分、魔力の使い方を解ってないんじゃないかな。ヨシエちゃんもあたしが教えるまでは、魔力球を作るのもできなかったでしょう?」

「うん。じゃ、飛竜が先生から魔法の使い方を習ったら、先生より強くなる?」

「かも知れないね。言葉が伝わらないから、教えられないけど」


 実際、飛竜が魔力を力に変えて抵抗してきたら、マコには一体の飛竜も押さえ込むことは不可能だったろう。飛竜は体表に、マコを凌ぐ約五センチメートルの魔力を纏っていた。その上、体長五メートルもあるから、体表面の魔力だけでも膨大な量になる。もしかすると、それだけでマコの全魔力に匹敵するかも知れない。

 その体表面の魔力を、マコとは逆に上向きの力に変えていたら、マコの魔法は呆気なく弾かれていたはずだ。

 しかし、飛竜の炎の吐き方を見て、魔力の使い方はお粗末だと判断したマコは、飛竜が大量の魔力を一度に力に変えるような使い方はできないと確信した。だからこそ、魔法で飛竜を押さえ込むという手段に打って出る決断をできた。


「魔力が少なくても、使い方次第ってことですか?」

「うん、そう。魔力の量も無視はできないけど。あたしくらいの魔力量がないと、五メートルもある生物を長い時間包み込み続けるのは無理じゃないかな」

 ヨシエも、魔力量は多い。今までの生徒の中で一番魔力量が多いのは、おそらくヨシエだ。次いで、ミツヨ、ジロウと続く。第一期の生徒に魔力量が多いのは、体表に纏っている魔力の厚みで選んだ結果だろう。尤も、魔力の厚みは魔力量と完全には比例しない。ミツヨとジロウの体表面の魔力は、ヨシエよりも厚いのだから。


「レイコちゃん、今日の会議で動物の魔法のこと、みんなに伝えたんでしょ?」

 マコの飛竜退治の話題が一段落してから、マコが聞いた。

「ええ。今度はフミコちゃんとマコの二人がはっきり見たと言うことだし、米軍でも確認しているから。火を吐く動物がいることと、それが恐らく魔法によるものであること、それに、飛竜に遭遇しても相手をしないで逃げることを最優先にすること、の三つね」

「魔法なことは『恐らく』なの?」

「今マコに聞くまで確信がなかったから。米軍でもどうやって炎を吐いているのかは不明、と言っていたし」

「ああ、そっか。魔力を感じられないと魔法だとは判らないか」

 体内で作り出した可燃性のガスを口から吐いて、牙か何かを打ち合わせて火種にした、なんて可能性もあるか、とマコは以前読んだ漫画に登場する動物を思い出す。


「本条さん」

 ヨシエの母が口を開いた。

「はい、なんですか?」

「先程、『今度は』と仰いましたが、以前にも飛竜が火を吐くという情報があったのですか?」

 彼女の口調には、レイコをやや咎める響きが混じっているだろうか?

「ああ、それですね。実は、以前にも、マコが米軍基地でそれらしき情報を小耳に挟んだそうです」

「あたしはフミコさんから聞いたんですけど。あたし、英語ぜんぜんだから」

 マコが補足する。レイコはマコに目で頷いて続けた。

「ですが、その時には兵隊が漏らしたことを聞き咎めただけなのと、聞いた内容も、『火吹きトカゲ』だっけ?」

「『火吹き大トカゲ』」

「そうだったわね。その単語だけだったので、火を吐く生き物がいるという確証はなかったんですよ。それくらいなら今まで通り、『魔法を使う動物がいるかも知れない』と変わりませんから」

 ヨシエの母は、それで納得したようだ。先程の質問が詰問口調になっていたことをレイコに謝罪した。レイコちゃんはそんなこと気にしないのに、などとマコは思っていた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「先生、魔力ってどうしたら増えるの?」

 部屋に戻って後は寝るだけ、という時に、ヨシエがマコに聞いた。

「うーん、それはあたしにも判んない」

「先生はどうしてそんなに魔力があるの?」

「それも判んないのよね。毎日、瞑想と魔力操作の練習はしてるけど」

 それで魔力が増加しているのかどうか、マコにも判らない。身体に纏っている魔力の厚みは微妙に厚くなっているが、体内も含めた魔力総量が増えているかというと、どうにも判らない。

 身体の中には、魔力が満遍なく同じ濃度で存在している。魔法の行使で体内の魔力を使うとその部分は一時的に薄くなるものの、すぐに均される。つまり、体内の魔力量は、事実上魔力の濃度に等しい(身体の体積も関係するが)。

 その体内魔力濃度を測定する機器など存在しないのだから、マコの感覚に頼らざるを得ないのだが、人間の感覚では精密に測定することもできず、そのためマコも、自分の魔力の増加あるいは減少をまったく自覚できていない。

(飛躍的に増えれば判るんだろうけど)


「でもね、魔法って魔力の量も大切だけど、使い方はもっと大事なんだよ」

 肩を落とすヨシエにマコは言った。

「飛竜はあたしよりずっと沢山の魔力を持っていたけど、あたしは魔法で飛竜の上を行けた。それは、飛竜が初歩以下の魔力の使い方しかできなかったけど、あたしは毎日魔力操作の練習をしていたし、色々な使い方を考えてきたからね。あたしが飛竜を押さえた方法は、あたしくらい魔力を持ってないと無理だけど、魔力が少ないなら少ないなりにやり方はあるよ。出来るだけ柔軟な魔力の使い方ができるように、毎日の瞑想と魔力操作訓練を続けること、これが魔法を使う上で大切なこと、だよ」

「はい、わかりました」

 マコの教えに、ヨシエは素直に頷いた。落ち込んだ気持ちは完全には回復していないようだが。


「それにね」そんなヨシエに、マコは悪戯っぽい口調で言葉を続けた。「魔力を沢山持っている相手に、少ない魔力で勝てたら格好いいと思わない?」

 それを聞いたヨシエは少し驚いたように一瞬固まって、それから笑顔になった。

「うん、そうですね。先生、すごい」

「凄くはないよ。バトルヒロインアニメなんかでもそういうのあるでしょ」

 女子小学生の素直な称賛を受けて、マコは照れるのだった。

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