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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第四章 米軍と飛竜

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4-10.米軍の説明

 いつものようにヘリコプターで最寄りの小学校校庭まで送ってもらったマコとフミコは、マンションまでの暗くなってゆく道を歩いた。米軍基地への訪問も三回目ともなると、流石に迎えはいなかった。フミコの両親もようやく慣れたのだろう。いや、慣れようと自分に言い聞かせているだけかも知れない。

 暗い道の途中、マコは立ち止まった。フミコが気付いて振り返る。

「どうしたの?」

 その表情から、歳下の魔法教師を心配していることが窺える。

「あ、いえ、ちょっと疲れちゃって」

 あはは、とマコは笑顔を見せた。米軍基地で眠っていたのは二時間ほど。その後も出発までの一時間をベッドで過ごしていたが、飛竜二体を押さえ込むために魔力操作で使った気力が、回復し切れていないようだ。


「少し休む?」

「うーん、でも座ったら立てなくなりそう。頑張ります」

「それじゃ、肩貸すから」

「ありがとうございます」

 フミコも体力がある方ではないが、マコは自力でマンションまでの歩き切る自信がなかったので、素直に腕をフミコの肩に回す。

「あ、光はいいよ。わたしが照らす。ごめんね、気付かなくて」

「すみません、何から何まで」

 マコは照らしていた光を消した。それだけでも、気力に余裕が生まれた気がする。小さな光を灯す程度のことは、今のマコにとっては指を曲げるくらいに自然な魔力操作に過ぎないのだが、それでも気力のない今の状況では疲労を感じてしまうようだ。


 フミコに肩を貸してもらって歩きながら、マコは考えた。

(身体が疲れているわけじゃない……よね。だけど動くのが面倒臭い。魔力も充分残っているのに操作するのが面倒臭い。気力がなくなるって、こういう状態なんだろうなぁ、やっぱり。これからは気力も鍛えていかないと。魔力が有り余っているのに魔法を使えないなんて勿体無いし、大掛かりな魔法を使うたびに気を失ってちゃ不味いし、何より、こうして他の人に迷惑をかけちゃうもんね)

 しかし、どうやったら気力を鍛えられるのだろう? フミコに身体を支えられて歩きながらマコは考えたが、今は考えるのも面倒だった。

(はあ、今は無理だ。今夜ゆっくり寝て、明日から考えよう)


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「はーい」

 玄関の扉がノックされた音に気付いて、レイコが答えながら部屋から出た。そろそろマコが米軍基地から帰ってくる時間なので娘の帰宅と思ったが、マコならノックせずに扉を開けるだろう。もう陽も落ちた時間に誰だろう?と思いながら、玄関の扉を開けた。


「マコ? どうしたの?」

 開けた扉の向こうに、フミコに抱えられた娘のぐったりした姿を見つけて、レイコは思わず声を上げた。疲れて今にも倒れそうなフミコから、慌ててマコの力の抜けた身体を受け取る。

「フミコちゃん、ごめんなさい。マコが迷惑をかけたみたいで。でも、マコ、どうしたの?」

「あ、気にしないでください。どちらかと言えば、マコちゃんのお陰で命拾いしましたし。それにマコちゃん、途中までは一人で歩いていたんですけど、ここまで保たなかったみたいで」

「そうだったの。ありがとう」

「ごめんね、フミコさん、迷惑かけちゃって」

 レイコに抱き上げられたマコが言った。それだけ喋るのも億劫なようだ。

「ううん、いいの。ゆっくり休んで。それじゃ、失礼します」

「ごめんなさい、何のお構いもできなくて」


 フミコはマコに気掛かりそうな目を向けながら、扉を閉じた。

 レイコは娘を部屋に連れて行く。

「レイコちゃん、結構力があるね。レイコちゃんに抱っこしてもらったのなんて、何年振りかなぁ」

「それだけ喋れるなら大丈夫そうね」

 そう言いつつも、レイコはマコが疲弊し切っていることを理解していた。

 マコの部屋の前で彼女を下ろし、扉を開けてまた抱き上げる。暗い部屋の中で、ベッドの横に身体を丸めていたタマが頭を上げ、光を灯してテーブルに向かっていたヨシエが振り向いた。

「先生? どうしたんですか?」

「ちょっと疲れちゃったみたい。ヨシエちゃん、布団捲ってくれる?」

「うん」

 レイコに言われてヨシエが寝る場所を空ける。レイコはマコを寝かせて掛布団を掛けた。


「マコ、お夕飯はどうする?」

「いらない」

「解ったわ」

「先生、大丈夫?」

「大丈……夫……」

 そう言った時には、マコはもう深い眠りについていた。

「レイコさん、私、お母さんたちと寝た方がいいかな?」

 マコに気を使ったヨシエは、レイコを見上げた。

「多分、大丈夫だと思うわ。良く眠っているようだし、病気というわけでもなさそうだし」

「じゃ、今日も先生と一緒に寝ていい?」

「いいわよ。あ、もし明日の朝マコが目を覚まさなくても、起こさないであげてくれる?」

「うん、解った」


 レイコはヨシエの頭を軽く撫でてから、自分の部屋に戻った。娘の体調は心配だが、見たところ安らかに眠っているので明日にはけろっと起きてくるだろう。

 それよりもレイコは、フミコの言っていた『命拾いした』と言う言葉が気になっていた。米軍はいったい、娘に何をさせたと言うのだろう? 安全には充分に配慮するという約束なのに。こちらから文句を言いに行こうにも、移動手段が徒歩しかない今、乗り込むのは困難だ。それよりは、次にマコとフミコを迎えに来るのを待った方が良い。

 釈然としない思いを抱きつつも、自分の部屋に戻ったレイコは、蝋燭の光を頼りにデザイン帳代わりのノートに鉛筆を走らせているキヨミを促して、眠りに就いた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 翌朝、明坂母娘が授業や採集に出掛けた後、レイコはマコの部屋で娘の様子をずっと見ていた。まだ目を覚まさないマコを一人にしておきたくなかった。

 隣の部屋にキヨミもいるのだが、服飾関係以外では彼女は役に立たない。ヨシエの古い服を仕立て直してからというもの、何度か子供の服の仕立て直しを請け負っていて、今も一件の依頼を受けている。

 マコは安らかに眠っている。苦しそうな様子はないし、指で頬を突つくと払うから、多分大丈夫だろう。


 ベッドの傍に近寄せた椅子に座って娘を見守っていると、玄関の扉がノックされた。明坂母娘が出掛けてから、まだ一時間も経っていない。何かが起きたのだろうか? 一応、現在のマンションで指導的立場にあるレイコではあるが、色々なことが動き出している今、彼女が采配を振るう必要はほとんどなくなっている。

 レイコでないと判断できない大きな問題が起きたのだろうか。それとも、フミコがマコの見舞いに来てくれたのかも知れない。


 レイコはマコの頭を撫でてから、玄関に出た。


 訪ねて来たのは管理部の女性の一人だった。

「本条さん、すみません。実は米軍の方が訪ねて来られて、本条さんにお会いしたいそうです」

 予定では、次に来るのは二日後だ。恐らく、フミコの言っていた『命拾い』という言葉、それに、まだ眠っているマコの疲労にも関係することだろう。

 レイコは了承すると彼女には先に会議室に向かってもらい、起きたら用意してある食事を摂るようマコに書き置きを残して──キヨミに言付けようかとも考えたが、忘れられそうなのでやめた──から、家を出た。


 会議室には、七人の客人が待っていた。最初に訪れた女性士官、二人の女性下士官、マコを迎えに来る女性自衛官二人、それに銃を持った二人の男性兵士。

 レイコが室内に入ると、着席していた五人の女性が立ち上がった。向かい側にはマンションの管理部の男女が四名と管理人。空いている椅子にレイコが座ると、軍人たちは揃って頭を下げた。

「本日ハ、昨日起きたコトにつイテ、御礼と説明ニ参りマシタ」

 女性士官が言った。

「トコロで、マコさんとフミコさんハ?」

「マコはまだ休んでいます。フミコちゃんは仕事です」

 レイコが答えると、女性士官が申し訳なさそうな顔を見せた。


「どうぞ、椅子にお掛けください。それからお話をお伺いします」

 レイコの言葉で、軍人たちは椅子に腰掛け、士官に促されて女性下士官の一人が前日に起きたことを説明した。


 飛竜の卵を捕獲したこと。

 つがいと思われる二体の飛竜が基地を襲ったこと。

 マコとフミコを逃がそうとしたものの、用意した機体が破壊されたこと。

 銃弾を弾き炎を吐く飛竜を、避難途中のマコが押さえ込んだこと。

 卵を返すことで飛竜は大人しくなり、飛び去ったこと。


「死傷者も出まシタが、マコさんのお陰で最小限の犠牲に抑えられまシタ。本当にありがとうございまシタ」

「それはマコのしたことです。わたし共に礼は不要です」

 レイコの声は冷たかった。米軍から(もたら)された情報に驚きを隠せなかったマンション側の人々の表情が、レイコの口調で一瞬にして凍った。

「安全を約束すると言うあなた方を信頼して、娘の協力を許可したのです。それが守られないなら、協力関係は終わりです」

「本当に申しワケあリません。でスガ、マコさんの協力デこの異常現ショウのカイ明が進むのです。そうナレば、一気にモトに戻せるカモ知れませン」

「わたし共は変化した世の中での生活を確立しつつあります。元に戻るに越したことはありませんが、急ぐ必要はないんです」

「ココはそうかも知れまセンが、他の地域デはそうでナイ場所もあります。そのためニモ、モウ暫くご協力イタダきたいのです」


 レイコは一貫して冷たく対応していた。魔法を使えないのに、周囲に冷気が漂っているかのようだ。マンション側の参加者はレイコの態度に凍りついていたが、同時に、レイコが米軍の代表を相手に予想以上に強気に出ていることで、相手がいつ態度を豹変させるかと気が気ではなかった。

 米軍士官は冷静を装っていたが、少々焦りもあった。何しろ軍でも手を焼いた飛竜を一人の少女が拘束したのだから。今後も、良い協力関係を築いておきたかった。最終手段として強硬策も頭にはあったものの、思いも寄らない強力な力を見せたマコを、本人や家族の意に沿わない形で従わせるのは愚策だと判断していた。何しろ、昨日のことを見る限り、マコは能力を過小報告していることは確実だ。相手の能力の限界も知らずに強硬な態度に出たら、どんな逆撃を喰らうか判らない。

 加えて、自衛官も同席しているから滅多なことは言えない、と言う理由もある。


 両者ともなかなか譲らなかったが、最後にはレイコが折れた。ただし無条件ではなく、今後、米軍は巨大生物に手を出さない、少なくともマコの十キロメートル四方には近付けない、という条件を追加することで、矛を収めた。

 米軍側も、現在の最重要調査事項はマコの魔法であるので、その条件を呑んだ。飛竜の調査をするなら、日本の別の基地で行えばレイコの条件を満たすことができる。通信手段がないため、情報は一か所に集中させる方針だったが、少しくらいは緩めても問題ない。


 ややギクシャクしたものの、米軍との二度目の会談も無事に終わった。レイコを除くマンション側の参加者たちは、三度目がないことを心から祈った。



ちょっと余裕が出て来た(気がする)ので、次回からは週四日、日・火・木・土の07:40~08:00の間に投稿します。

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