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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第四章 米軍と飛竜

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4-9.危機回避

「あの、卵に心当たりとか、ありませんか?」

 マコは二体の飛竜を拘束し続けながら、伸ばした魔力で周りの自衛官や軍人の頭部を包んでから、聞いた。巨体をずっと拘束し続けるのは、魔力消費はともかくとして精神力・集中力が不味い。マコとしては、早いところ飛竜にお引き取り願いたいところだ。

「卵、ですか?」

「The egg?」

 マコはさっと人々を見回し、女性士官に顔を向ける。女性士官はポーカーフェイス、と言うより戸惑ったのかような表情だが、魔力に揺らぎがあった。口に出した言葉以外に、何かを頭に思い浮かべたのだと、マコは確信した。


「あなたは卵を知っていますね」

 あまり日本語の得意でなさそうな士官を相手に、できるだけシンプルな言葉遣いを心掛ける。

「いいえ、ナンのことカ」

「正直に言ってください。ずっと捕まえておくのは無理です」

 ここで彼女に、逡巡が見えた。そんなことしてないでさっさと言ってよ、あたし、そろそろ限界だよ、とマコは苛立つ。

「今朝来た時、何か慌ただしかったけれど……」

 いつのまにかマコの傍に来ていたフミコが言った。そう言えば、倉庫の前に軍人たちが集まっていた。あれは倉庫ではなく格納庫? 何の? 疲弊したマコの頭の中で、いくつかの欠片(ピース)が一つに繋がる。


「飛竜の卵を取って来たんですね?」

「ナゼそれを……Oh」

「そうなんですね。その卵、すぐにここに持って来てください」

「シカシ、それハ……」

「早くっ。ここを潰したいんですかっ」

 自分でも驚くほどの声が、マコの口から迸った。それでも女性士官は躊躇っていたが、マコが苛々と爪先を踏み鳴らすと、心を決めたらしく、敬礼してから建物に向かって駆けて行った。

 早く、早く、と思いながらも、マコは魔力を二体の飛竜に注ぎ込み続ける。最初は足掻いていた飛竜も今は大人しくしているから、拘束を解いても暴れることはないかも知れないが、油断はできない。


 長時間の力への変換は、キヨミをマンションに連れてくる時に経験していた。その時に比べれば時間的には大したことはないが、キヨミプラス台車を持ち上げるのと、飛竜二体を抑え込むのでは、必要な魔力量が天と地ほどに違う。大量の魔力を一気に操作しているマコの集中力は、限界に近かった。


 十分ほどの時間が経過した。飛竜がぴくっと頭を上げようとする。建物の横から、士官が戻って来た。その後ろから、四人の兵士が駕籠のような箱を担いでいる。その中に卵があるのだろう。それを見て、いや、感じて、マコは(ああ、それでか)と思った。

 兵士たちは士官に指示されて、二体の飛竜の間に荷を置いた。ぱたんと箱が割れて大きな卵が現れる。

 それを見た瞬間、マコの意識が途切れた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「マコちゃんっ」

 フミコはよろめいたマコの身体を抱き止めた。それと同時に、地に伏していた飛竜が身体を起こす。びくっとフミコの身体が震えるが、心を奮い立たせて、マコを抱いたまま、きっと睨む。しかし、飛竜はフミコには目もくれなかった。

 銃を構えていた周りの兵士たちにも緊張が走る。しかし、女性士官が指揮官に合図し、指揮官が兵士たちに待機を命じて、緊張はそのままに二体の飛竜を見守っている。


 飛竜は卵を見ると──フミコにはその視線が慈愛に満ちているように感じた──片足を上げて卵を掴む。そのまま、翼を大きく広げた。

《総員、退避っ》

 指揮官の声が滑走路に響き、兵士たちが一斉に飛竜から距離をとる。

「粕河さんも離れて。急いで」

 シュリがマコを抱き上げ、スエノに手を引かれてフミコも駆けた。後ろから強風が追いかけてくる。

「伏せてっ」

 言われると同時にしゃがみ込むと、スエノが背中から覆い被さる。

 ばさっ、ばさっ、っと翼の羽ばたく音が聞こえ、風が強くなり、やがて弱まってゆく。


 スエノが立ち上がり、フミコに手を貸してくれる。

「ありがとうございます」

「これも仕事ですから」

 フミコは立ち上がって服の埃を払った。それから思い出して、シュリを見る。今の騒ぎでも、マコは意識を取り戻していないようで、シュリの腕の中でぐったりとしている。

「マコちゃんっ」

「大丈夫、気を失っているだけです」

 それを聞いて、フミコはほっと息を吐く。


「フミコさん、アリガトウございまシタ。お陰で被害ヲ最小ゲンに抑エラレました」

 女性士官がフミコに頭を下げた。釈然としない表情が混じっているように見えるのは、フミコの気のせいだろうか?

「いいえ。わたしは何もしていません。それより、マコちゃんを休ませてあげたいんですけど」

「はい、ソノつもりでス。あちらへ」

 指し示された元の建物へと、自衛官と共に歩き出す。途中、建物から女性下士官二人が駆けて来て、フミコたちの前に止まって敬礼した。

「元の部屋は無事デス。そちらの寝室をお使いくだサイ」

「了解しました」

 スエノが敬礼で答え、マコを抱えているシュリは口頭だけで答えた。


 途中、士官は一行から離れた。後始末があるのだろう。部屋まで付き添った下士官たちも、マコがベッドに寝かされたのを確認して部屋から出て行った。

 彼女たちのうち一人は、しばらくしてから女医と看護師を伴って戻って来た。

 女医の診断では、マコの体調に異常はなく、疲労で眠っているだけということだった。

 シュリとスエノも、下士官や医師と共に部屋から退出した。何かあればすぐに連絡するように言って。


 フミコはベッドの隣に持ってきた椅子に座り、マコが目覚めるまで見守った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 目覚めたマコの視界に最初に入ったのは、知らない天井だった。

「マコちゃんっ、気が付いたっ?」

「あ、フミコさん。おはよう」

「おはようじゃないよっ。心配したんだからっ。でも良かった。気が付いて」

「ごめんなさい、心配かけたみたいで」

 徐々に覚醒してくる頭で、マコは意識を失う前のことを思い出す。確か、飛竜を無理矢理押さえ込んで、卵を持って来てもらって、そこから後は、覚えていない。


「ちょっと待ってて。人を呼んでくる」

 マコが、意識を失った後のことを聞こうとした時、フミコは立ち上がって部屋からあたふたと出て行った。

 一人になったマコは身体を起こそうとしたが、疲労が回復しきっておらず、起き上がれなかった。体力的には、それほど疲労が溜まっているようには感じない。しかし、身体を起こすだけの気力が湧いて来ない。魔力を意識すると、体表面の魔力は半分ほどに減っている。体内の魔力も結構減って、濃度が薄くなっているようだ。

(結構、魔力使ったからなぁ)

 体長五メートルほどの飛竜がどれほどの力を持っているのか判らなかったので、飛竜を押さえ込む魔力はそれなりに高密度にしていた。その上、力に変換した魔力は消失してしまうので、押さえ込みを続けるために継続的に魔力を注ぎ込み続けなければならなかった。


 それでも、体内の魔力は(意識を失っていた間に多少回復したとはいえ)半分までは減っていないから、魔力だけを見れば今も魔法の行使に問題はない。しかし、魔法を行使する目的で集中力を使い続けた結果、身体を動かすことすら面倒くさい今、魔法を行使するために魔力を操作することも面倒でやる気になれない。できることは精々、今の魔力の状態に意識を向けることくらいだ。

(ああ、そっか。魔力を使うのに使っているのって、精神力とか集中力って言うより、気力なんだなぁ……)

 起き抜けの、まだ覚醒し切っていない頭でそんなことを考える。


 フミコが部屋に戻って来た。女医と看護師、それにシュリと米軍下士官一人を伴っている。

 医師の診察を受けている間に、徐々に頭の霧が晴れて来た。どれくらい眠っていたのだろう? 今は何時頃だろう? 窓の外はまだ明るいから、夜にはなっていない。まさか、丸一日以上寝ていたということはないだろう。

 診察を終えた医師が《問題なし、至って健康》と診断を下して看護師と共に出て行った後、隣の居間で待機していたらしい女性士官が入って来て、質問の時間が始まった。


 軍による質問と言うと、必然的に尋問だと思っていたマコだったが、米軍士官の口調は穏やかで、尋問にはならなかった。日本語の発音が聞き取り難いのは相変わらずだが。

 飛竜の卵を返させたことには苦情があるかと思ったが、それについては何も言われなかった。そうでもしなければ被害が広がっていたことを理解しているのだろう。恐らく、マコ以上に。

 それよりも、どうして飛竜の目的が解ったか、の方が不思議だったようだ。マコは「飛竜を押さえるために魔力で包んでいたら、何となく卵のイメージが頭に飛び込んで来た」と誤魔化した。尤も、嘘とも言えない。飛竜との念話による意思疎通はできなかったのだから。


「それにシテも、どうしてワイバーンはここがワカッタノかしら?」

 女性士官が独り言のように呟いた疑問に、マコは心当たりがあった。

「多分、魔力を追って来たんだと思います」

「魔力を?」

「はい」

 意識を失う直前、箱から現れた卵を見たマコは、卵が魔力を発していることに気付いた。身体から離れた魔力は拡散し、数秒の内に感じられなくなってしまうのだが、卵から発した魔力は拡散せずに糸のように伸びていた。恐らく、飛竜の巣まで続いているのだろう。巣がどこかは知らないが、そう近くではないと思われた。長距離に渡り魔力を拡散させずに維持しておくのは難しいのだが、飛竜の卵はそれをやっているらしい。

 飛竜は、その糸のように細い魔力を辿ってここまで来たのだろう。


「それにしても、どうして飛竜の卵を獲ってきたりしたんですか?」

 マコが聞いた。

「それはモチロン、研究のタメです。今の日本列島、朝鮮半島もデスが、未知の動植物でイッパイですので」

 それもそうか、とマコは思う。それに、まさかあんな危険な生物が襲って来るとは思わなかったのだろう。ただ、マコから見た感じでは、怒らせなければ、それほど危険な生物とは思えなかった。銃も効かない硬い鱗で覆われた上に魔法も使うとなれば、軍人たちが厄介だと感じるのは当然だろうが。


「ソレでは、もう暫クお休みクダさい。今日の以降のヨテイはキャンセルされましたノデ」

 そう言われて、マコは素直に休むことにした。帰るまでにはもう少し気力を整えておかないといけない。回復しておかないと、小学校からマンションまで歩けないだろうから。



■ネタ

 知らない天井……アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」から

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