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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第四章 米軍と飛竜

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4-5.身体計測と魔法実演

 マコとフミコの二人が通されたのは、中央に応接セットの置かれた広い部屋だった。他にドレッサーやクローゼットが置かれている。

「基地にいる間はこちらの部屋を自由にお使いください、とのことです。奥のドアの先はベッドルームになっています。着替えはここでもベッドルームでも、どちらでもお使いください。しばらくすると、呼び出しがあると思いますので、それまでに着替えておいて下さい。下着も脱いでおいて欲しいそうです。着替えはこれです。ご質問はありますか?」

 シュリに立て続けに言われたマコは、目を白黒させつつも、何とか平静を保とうとした。


「えっと、着替えって?」

「はい。今日はこれから身体測定だそうです。検査用の衣服に着替えて欲しいそうです。朝食は抜いて来られたのでしよね?」

「はい、そうでした。って、え、下着も脱ぐんですか? パンツも?」

「はい、そうして欲しいそうです」

 えーっ、と内心で思いつつも、ごねて時間が伸びるのも得策ではない。早々にマコは諦めた。

「大丈夫です。あなたを担当するのすべて女性で固めるよう手配したそうですから。その、先ほどの“博士”以外は」

 やっぱりあの人が『博士』なんだ、絶対マッドだよね、とマコは失礼なことを思う。

「解りました。着替えます。あ、後一つ、この部屋、監視カメラとかありませんよね?」

「はい、そう聞いています」

「ベッドルームにも」

「ええ」

「解りました。じゃ、着替えちゃいますね」


 自衛官が部屋から出て扉を閉めると、マコは着替える前に魔力を部屋一杯に広げた。

(あー、もう、嘘吐き~)

 嘘を吐いたのはシュリか、それとも彼女に伝えた米軍人か、判らないが。

「マコちゃん、着替えないの?」

「あ、着替えます。その前に」

 マコは、遠視で見つけた監視カメラや盗聴マイクの周りの魔力を、一気に高熱に変えた。カメラのインジケーターが消灯するのを確認してから、余った魔力を回収する。

「これで良しっと」

「何がいいの?」

「えーとですね」

 言い掛けて、ふと不安がマコの脳裏を過ぎる。カメラは兎も角、マイクは本当にすべて破壊できただろうか? マコはもう一度魔力を伸ばして、フミコの頭を包み込んだ。


〈フミコさん、聞こえます?〉

「え?」〈あ、念話ね。聞こえるわよ〉

〈カメラやマイクが隠されていたから、全部壊しました。少なくともカメラはもう無いはずです。マイクは判り難いのあるから全部か判らないけど〉

〈え? いいの? そんなことして〉

〈だって、着替えを覗かれるなんて嫌ですもん〉

〈でも、損害賠償とか〉

〈大丈夫ですって。あたしもフミコさんも隠しカメラとかは無いって聞いているんですから。無いものは壊せません。それに相手も、無いと言い切ったものの損害賠償なんて請求できませんから〉

〈はぁ、マコちゃんって意外に腹黒いのね〉

〈人聞きの悪いこと言わないでくださいよぉ〉「それじゃ、着替えてきます。荷物、ここ置いときますね」

 荷物と言っても、日帰りなので小さなポーチしかない。それをテーブルに置いて、マコは寝室に引っ込んだ。


 残されたフミコは、ソファーに座ってマコを待った。

(はぁ、マコちゃん並になるのはまだまだね。それにしても、監視カメラにマイクだなんて。異変で全部使えなくなったと思うんだけれど輸送してきたのかしら? 電気も普通に点いてるし、発電機の燃料も持ってきたのかな。流石は軍事大国よね)

 尤も、それでもこの広い基地のすべてが復旧できているわけではないだろう。稼働しているのは、基地機能のほんの一部のはずだ。外の航空機も、多くが飛行不可能な状態だろう。

(それでも、電気を使えるのは羨ましいな)

 マコが着替えを終えるまでの短い時間、フミコはかつての便利な暮らしに想いを馳せた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 半日の内に全身をくまなく検査され、マコは丸裸にされた気分だった。心電図を撮る時など、検査着の前をはだけられただけとはいえ、下着を身に着けていないのだから素っ裸とほとんど変わらない。他にも、身長や体重の他にスリーサイズまで測られるし、一体何に使うのだろう? 魔法の研究に必要だとは思えない。

 胃カメラや腹部エコー検査など、産まれて初めて体験する検査もいくつか受けた。ブロイラーの鶏ってこんな気分なのだろうか?などと、途中で現実から逃避しかけていた。

 シュリが言った通り、マコを検査した医師・看護師は、すべて女性だった。それだけがまだしもの救いだ。


 マコの検査にはフミコがずっと付き添った。基地内での移動は必ず二人一緒に、という条件をレイコが付けていたので。米軍側としても、纏めて行動していた方が監視にしろ警護にしろ楽だったから、レイコの提案はすんなりと通り、結果、検査を受けているマコの横には常にフミコがいた。

 他にも、女性自衛官の二人と、米軍の女性兵士──下士官?──二人が、どこへ行くにも必ずついて来た。監視兼護衛なのだろう。高校生の少女二人に四人もついているのは多いのではないか、とマコは思ったが。

 フミコには、「英語で不審なことを誰かが言っていたら教えて」とお願いしていたが、不穏な会話は今のところ、ない。マコはレイコから、米軍が本国へマコを移送する可能性を示唆されていたが、そんな様子もなかった。今後のことは判らないが。


「美味しいですね。バターロールなんて久し振り」

 マコとフミコは、監視兼護衛の四人の女性と共に遅い昼食を摂っていた。

 フミコは久し振りのパンに感激していた。そもそも流通が止まっているから、新しい食品が入って来ない。麦モドキはあるはずだが(パンの味が変わっていたがパンはあるので、麦っぽい植物もあるはずだ、とはマコの予想だ)、マンションの周りでは見つかっていないし、ホームセンターの変化した売り物にも、それらしい種はなかったらしい。

「ここの食材は本国から空輸しているんデスよ」

 最初にヘリコプターで訪れた女性士官よりずっと流暢な日本語で、監視役の女性下士官の一人が言った。マコが調べたところ、この二人の女性下士官は魔力を纏っているので、元々この基地で働いていたのだろう。


「なんだかみんなに悪い気がしてくるね。わたしたちだけこんな食事を戴いて」

 フミコが分厚いステーキを切り分けながら言った。

「いいんですよ。こんなけ身体を弄り回されたんだもん、食事くらい、いい物食べさせてもらわないと」

 マコはクリームスープに舌鼓を打ちながら言った。

「でも、大変だったのはマコちゃんだけなのに」

「気にする必要ありませんよ。あたしが無理にお願いしたんですから。そう思えば、フミコさんこそ遠慮なく戴くべきです」

 朝食を抜いていたマコは、よく食べた。フミコも何だかんだ言いながら、四分の一ポンドのステーキを残さず平らげ、二人とも、久し振りに満腹になった腹を摩った。異変以来、食事はいつも控え目にする習慣がついていたから。


「はぁ、よく食べた。午後は、魔法を使った時のいろんな測定ですよね」

「ええ。また着替えてもらうことになるけれど」

 シュリが申し訳なさそうに言った。

「もう、一着でも二着でも一緒です。どんな服だろうと着ますよ」

 マコは胸を叩いて請け合った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「聞いてないよぉ……」

 気安く請け負った十数分後、マコは涙目になっていた。今度の服は、首から下をすべて包む、黒いボディースーツだった。身体のラインが完全に見えている。ニプレスと股パッドがあるから、乳首の膨らみと股間の割れ目は隠されているものの、恥ずかしいことに変わりはない。

 しかも、着替えたマコが連れて行かれた五メートル四方ほどの白い壁の部屋には、奥の壁に大きなガラスが嵌っており、その向こうには例のマッドサイエンティストがいるではないか。こんな服装で異性の前に出るなど、恥ずかしいことこの上ない。彼の他はすべて女性なのがせめてもの救いか。


 マッドサイエンティストの他には監視役の下士官&自衛官と、それにフミコもいる。フミコに向けて、マコはぎこちない笑みを向けた。この状況で自然な笑みなど浮かべようがない。

 服に付いた端子に白衣の女性たちがコードを繋いでゆく。されるがままになりながら、マコはガラスの向こうのフミコに魔力を伸ばした。

〈魔力を繋いでおくから、何かあったら教えてください〉

〈解ったわ。その服、似合ってるわよ〉

〈やめてくださいっ〉

 ガラスの向こうでくすくすと笑うフミコに憤慨するマコ。

 スエノがフミコに何か言って、彼女が答えた。口に出す時の声は念話では聞き取り難い。けれど、どんな会話が成されているかは聞こえていなくても解る。


──どうしたの? 突然笑ったりして。

──いいえ。マコちゃんの格好が凄く似合っていたから。


 似合ってないよぉ~、などと思っている内に、額にも電極を貼り付けられて準備は終わったようだ。白衣の女性は部屋の中央の椅子を示してから、マコが腰掛けたのを確認して部屋から出て行った。


 ガラスの向こうで狂博士が女性下士官に何か言うと、彼女はマイクに口を寄せた。

「マコさん、何か魔法を使って下サイ」

 思いの外大きな声が聞こえてマコはびくっとする。見た目には判らないが、スピーカーがあるのだろう。しかし、漠然と『魔法を使え』と言われても、どうしたものか。

 マコは例によって掌を差し出すと、その上に五十センチメートルほどの光柱を出現させた。ガラスの向こうの下士官二人はほとんど表情を変えていないが、僅かに目を見張ったようだ。建物に入る前に見ていた自衛官の二人も、感心したような表情を見せている。

 そして、狂博士はと言えば、手を叩かんばかりに喜びを顔中で表現している。外ではこれ以上のことをしているのに。


「それは手から離せるカシラ」

 女性下士官の言葉を聞いて、マコは光の柱を掌から五十センチメートルほど浮かせて見せる。

「どれくらい身体から離せるのカシラ?」

「そうですね、だいたいですけど、十メートルくらいは」

 米軍機の気を引いた時のことを引き合いに出されませんように、と祈りつつ、かなり鯖を読んだ数値をマコは答えた。それを伝えられたマッドに違いない博士は、下士官にすぐに何かを伝えたが、彼女はマイクを使わずに博士に何か言い返した。意見の相違があるようだ。フミコが何も伝えてこないことからして、大したことではないのだろう。マコは光を消し、手を膝に置いて待った。


 しばらくの言葉の応酬の後、結局、下士官が折れたらしく、彼女はマイクのスイッチを入れた。

「マコさん、そこからこちらの部屋で魔法を使うことはデキるカシラ?」

「えっと、ガラスのそちら側に、ですか?」

「そうよ」

「できますよ」

 マコは右手を上げて掌を前に向け、ガラスを突き抜けて魔力を伸ばした。部屋の中央辺りに直径十センチメートルほどの魔力球を作り出し、光に変える。

 突然後ろからの光源に照らされた六人は、一斉に振り返った。彼らがマコに向き直るのを待って光を消し、手を膝に戻す。


「次のお願いデス。マコさんは……」

 珍獣扱いだなぁ、と思いながら、マコは次の指示を聞いた。

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