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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第四章 米軍と飛竜

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4-3.随員選定

 米軍との会談で、マコは翌週から週に二日、米軍基地を訪れることになった。他に一名の同行も認められた。米軍基地で具体的に何をやるかの詳細は決まっていないが、少なくとも基本的な身体検査と、魔法を使用した時の身体データおよび空間データを複数のセンサーで計測することはほぼ確定らしい。

 それと引き換えにもたらされた情報は、この異変が南西諸島を除く日本のほぼ全土に渡っており、外部からの生活支援が絶望的と言う事実だった。尤も、レイコはそれを想定していたし、自給自足の生活へ向けて動いていたから、それほどの衝撃は受けなかった。


 マンション側の住民に大きな衝撃を与えたのは、日本各地、主に大都市圏で暴動に近いことが起きていると言う事実だった。

「本当ですか?」

「ハい。初めノ一週間ホドは、精ゼイ食リョウ品店からムダンで持ち出ス程度でシタが、最近デハ他の集団カラものヲ奪うようナコトも起きテイます」

「……日本でもそんなになるんだね」

 マコがぽつりと呟いた。マコの感覚では、日本人は何が起きても大人しくしている感覚があった。暴力沙汰が起きたとしても、それは個人の範囲内のことで、集団による“暴動”と呼べるほどのものが発生するとは、思いもしなかった。かつて災害時にテレビに映った避難所の光景は、あくまでも外からの支援があってこそ、でしかなかったのかも知れない。


「都市部イガいでモ、場所にヨッテは起きテいまス。グ体的な数は確ニンはしていまセンが、死者も多数デています。暴動いガイでも」

 マコたちの住むマンションも、レイコと言う指導者がいなかったら、それに、裏山に恵みが出現しなかったら、同じようなことが起きていたかも知れない。


 この状況に、米国は日本に対して何の支援もしない、と決まったそうだ。

「どうしてですかっ」

 管理部の一人が思わず椅子から立ち上がり、机を叩いて大声を出した。

「あまりニモ範囲が広ク、巻き込まれタ人が多イノで、支援のしヨウがナイのデス。日本ト同じく我ガ国の同盟コクの韓国も同じ状況下にありマスが、合わせテ一億八千万もの人口を支援スる余裕ハ、サスガにアリません。日本に居住スル民間米人のシエんすら、ままナラナイのです」

 そう言われて、立ち上がった男性も矛を収めた。完全には納得できた表情ではなかったが。


「日本セイフとも情報の共有ハしていますガ、ソレ以上の支援はシテいません」

「政府は機能しているのですか?」

 レイコが聞いた。

「イチ応、首脳ブは集まっテ対策会議をオコナっているようデすが、出来ることはほとんどないようです。各自治タイで何とかセヨ、と言う方針のヨウです」

 それは方針とは言えないではないか、とは思ったものの、今更政府に頼る気もないレイコは、政府の動きについて、それ以上聞かなかった。


 レイコが不思議に思ったのは、話し合いの間中、マコを米国本土へと連れて行くと言う話題を相手が出さなかったことだ。情報を提供してもらう“対価”として、マコを週二回米軍基地に連れて行くことで合意はしたものの、軍や政府の言うことを鵜呑みにはできず、対話の間もそれとなく探りを入れていた。

 聞く限り、彼らはマコ以外の魔法使いを見つけていない。悪く言えば“貴重な研究素材”になり得るマコを、常に目の届くところに連れ去るのではないか、と心配していたが、そんな素振りをちらとも見せなかった。

 本心を隠しているだけかと最初は考えていたが、本当にそんなつもりはないらしい。そればかりか、日本人に国外へと出て欲しくない様子が見て取れた。その理由までは判らないものの、少なくとも米軍によってマコが国外に連れ出される心配は無さそうだ、とレイコは判断した。


 日本人を外に出したくない理由は何だろう? 確かに、一億人以上が一斉に国外に出たら、米国だけでなく世界中が困るだろうが、使える、あるいは興味深い人材少数を連れて行くことくらいは、米国なら躊躇いもなくやりそうな気がした。そうしない、またはできないのも、恐らくこの異変に関係しているのだろう、とレイコは予想した。何にしろ、マコが連れ去られる心配がないなら、それに越したことはない。


 会談は、一時間ほどで終わった。米軍人たちは、校庭に待っていたヘリコプターへと乗り込み、去って行った。

「マコ、悪いわね。人身御供みたいな感じにさせちゃって」

 レイコがマコの肩に手を置いて言った。

「ううん、気にしなくていいよ。日帰りでいいみたいだし」

「でも、何回行くことになるか判らないわよ。一応、一ヶ月だけ、って約束だけど、守ってくれる保証はないし、あるいは、期間延長と引き換えに何かしらの便宜を図って来るかも知れないし」

「平気だって。いざとなったら逃げてくる、って言ったでしょ。今なら、逃げようとするあたしを捕まえることなんて、警察でも軍隊でも無理だから」

「それは、相手がマコの実力を知らないからでしょ。いいこと? 何もマコの力の全部を見せる必要はないのだから、ちゃんと出し惜しみしなさいよ」

「うん、そのつもり。ちゃんと隠しとくよ」

 実のところ、マコに不安がないと言ったら嘘だったが、それでもマコはレイコに笑みを向けた。苦労している母に余計な心配をかける必要はない。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「じゃ、今日はここまでね。みんな、瞑想と魔力操作と変換の練習をしっかりすること」

「はーい」

 生徒たちの返事を聞きながら、あたしもすっかり教師らしくなったなぁ、とマコはしみじみと思った。決して人付き合いの得意ではない、いや、苦手な自分が、曲がりなりにも教師らしく振舞っていられることには、マコ自身も驚いていた。人間、やれば何とかなるものだ。

 しかしそれも、教えているのが魔法という、今のところマコしか知らない知識だからだろう。これが主要五教科などなら、自分の理解が正確かどうかすら判らないし、授業を受け持っても生徒から間違いを指摘される方が多くてまともに教えることはできないだろう。そのことはマコ自身も、よく理解していた。


「あ、フミコさん、ちょっとお話しがあるの」

 マコは、会議室から立ち去ろうとしていた第三期の生徒の一人、高校二年の粕河(かすかわ)フミコを呼び止めた。

「はい、何ですか? 先生」

「いや、授業は終わったんだから『先生』は()めましょうよぉ。あたしの方が歳下なんですし」

 マコが懇願する様子を見て、フミコはくすくすと笑った。

「歳下でも先生には違いないでしょ? 学校の外でも高校の先生には『先生』って言うし」

「そうですけどぉ」

 ジト目を向けるマコを見てフミコはまた笑い、それから真顔に戻った。目にはまだ笑みを湛えているが。


「それでマコちゃん、わたしにどんなお話し?」

「お話しって言うか、お願いなんですけど、取り敢えず、座りましょう」

 二人は、並んだ椅子に座った。この後、この部屋で住民会議も開かれるが、始まるまでまだ少し時間がある。それまでには用件は終わるだろう。

「えーとですね、あたし、来週から週二日、米軍基地に行くことになりました」

「米軍基地? そう言えば今日、飛行機だけじゃなくてヘリコプターも見たけど」

「そう、それです。実はですね……」

 米軍との交渉の件は、まだ住民たちには知らされていない。この後の会議で公表される予定だ。それなので、フミコが事情を知らないのは当然だった。マコは事の仔細を掻い摘んで話した。


「それで、随伴を一人認めてもらったんですけど、それをフミコさんにお願いしたくて」

「え? わたしが? どうして?」

 マコの依頼に、フミコは戸惑いの表情で答えた。

「えっとですね、米軍基地に行くのはいいんですけど、あたし、英語全然駄目なんです。それで、フミコさんは英語の成績がいいって聞いたから……」

「でも、英語のできる人なら他にもいるし、それに向こうにも通訳がいるんじゃないの?」

「そうなんですけどね、えっと、あっちで身体検査とかもあるらしいんですよ。それで、服脱いだりするかも知れないから、女性の方がいいなって言うのが一つ。それに、通訳がいても、全部は教えてもらえないこともあるんじゃないかなって。だから、英語の解る人がいいんですよ。それに何より、フミコさんとは仲良くさせてもらっているし」


 マコの話を聞いて、フミコは俯いた。しばらく沈黙が続いた。その沈黙に耐えられなかったのは、マコの方だった。

「駄目……ですか?」

「そんなことは……ない……けど」

 再びの沈黙。これは駄目かな。無理強いは良くないし。

 マコが諦めかけた時、フミコは頭を上げた。

「うん、判った。なんと言っても先生の頼みだもの、わたしが一緒に行くよ」

「やったっ。ありがとうっ。でも『先生』はやめてぇ」

 椅子から飛び跳ねんばかりに喜んだ直後の懇願に、フミコはまた笑った。


「あ、でも」

 笑いを収めたフミコは、また真面目な表情でマコを見た。マコも姿勢を正す。

「お父さんとお母さんに伝えて、了解してもらったら、ね。無断で行くわけには流石にいかないから」

「それは……そうですよね……」

 マコは、魔法教室第三期が始まる前に会ったフミコの両親を思い出す。厳格そうな父親と、きつそうな母親。どちらもマコの苦手なタイプだった。

「あたしも一緒にお伝えした方が、いいです、よねぇ……」

 マコの煮え切らない態度に、フミコはその内心をすぐに察したようだ。

「大丈夫。わたしから言うから。反対されても説得するし」

 そう言ってもらえると、マコとしても助かる。しかし、マコは首を横に振った。

「ううん、あたしが頼んだことなんだから、あたしも一緒にお願いしますよ」

「そう? 無理する必要はないけど」

「大丈夫、ちゃんと責任はとらないと」

 マコは自分の気を引き締めるために、力強く頷いた。

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