4-0.拡大する通信障害
日本国内の米軍基地から本国への民間人の移送は、その三分の二を済ませたところで中断された。残された帰国予定者たちからは不満の声が噴出した。それもそうだろう、本国へと帰れば、ここでは使えなくなった文明の利器を存分に使えるのだから。
その不満を抑えるために、米国は本土からいくつかの生活必需品を送ることで応えた。不満を完全に抑え切ることは不可能でも、それはある程度の効果をもたらした。民間人とは言っても、そのほとんどが軍人の家族だから、ある程度の我慢を受け入れる余地はあったのだろう。
移送が中断された理由は、本国で起きた通信障害だった。
民間人の帰国を始めてから二週間後には、通信に乗るノイズが多くなった。しかし、通信ノイズなどというものは環境の変化で増減するものだから、その頃はまだ、問題視されることはなかった。
しかし、通信の不調は日を追って酷くなり、さらに二週間が経った頃には一部地域で完全に通信が不可能になった。その場所は、日本の米軍基地から帰国した人々の住む、仮設住宅街だった。
確証は無いものの、日本列島、それに朝鮮半島で異変が起きた時、その異変の範囲内に在住していた人間が通信障害の原因だと考えられ、その後、実験を重ねて、その確かさが確認された。
帰国させた国民を日本へと逆送還することも検討されたが、市民の反発が想像されたために、その案は却下された。しかし、帰国した人々は一箇所にまとめられ、その区画から離れることは禁止された。
すでに他の地域に転居していた人もいたが、彼らも探し出されて仮設住宅街へと押し込まれた。
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同じことは、ロシアや中国でも観測された。異変の発生地帯から脱出した人々が正常な地域で暮らしていると、やがてその地域で通信ができなくなる。このことに気付いた中国は朝鮮半島寄りの国境を封鎖し、ロシアは沿海州との往来を禁止した。
しかし、人流を止めても、通信障害は朝鮮半島および沿海州から、ごくゆっくりと広がって行った。この広がりがやがては止まるのか、それとも地球を覆うまで広がり続けるのか、答えられる人は誰もいない。




