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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第三章 コンタクト

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3-5.課外授業

 生徒たちはそれほど苦労することなく、魔力の力への変換を覚えた。マコにとって意外だったのは、小学生組三人はすぐに使えるようになったのに、中学生組二人は少々梃子摺っていたことだ。最初に『運動エネルギーへの変換』云々を言ったものの、物理法則の運動エネルギーと魔力のエネルギーへの変換とが頭の中で上手く結び付かなかったらしく、苦心していた。マコが「鉛筆の下に敷いた魔力を手だと思って、それを持ち上げるようにイメージして」と助言したところ、すぐに出来るようになった。しかしマコは(あたしの、魔力⇔エネルギー変換理論は間違っているのかな?)と悩むことになった。


 念動力を教えた翌日は、裏山での建材用の木の伐倒への参加だ。マコがレイコに要求した通り、生徒たち五人も一緒に。つまり、今日は課外授業ということになる。

 伐倒を担当する六人の屈強な大人たちと共に、裏山に入る。採取や狩猟のチームとは別行動で、杉っぽい木が大量に生えている場所だ。杉っぽいものの、元の植物が何かは判らない。そもそも、マコが裏山に入るのは異変が起こる前も含めて初めてなのだから、この辺りにどんな木が生えていたのかも知らない。


「本条さんからは聞いたが、嬢ちゃん、本当に大丈夫かい?」

 伐倒チームを率いている大工の男がマコに聞いた。彼は鋸と縄を持っている。他の男たちも、概ね同じ装備だ。鋸の代わりに鉈の者もいるが。

「初めてなので判りませんけど、多分大丈夫です」

「なんか頼りねぇなあ」

 マコの言葉に大工は言ったものの、莫迦にしたような様子ではない。魔法で木を倒すことに半信半疑、と言う感じだ。駄目で元々、楽に倒せるなら儲け物、くらいの感覚だろう。


「この木を頼む」

「はい。えっと、どっちに倒します?」

「向こう側がいいな」

「解りました。離れていてください。みんなもね。でもよく見ていること」

 大人たちと生徒たちを木を倒す線上から離してから、マコは魔力を伸ばしてゆく。みんな、マコに注視している。今までマコが見せた魔法は、光らせたり火を出したりと、見た目だけで実用的なものではなかった。料理に魔法を使っていることはレイコとキヨミしか知らない。そのため、大人たちも子供たちも興味深々といった面持ちでマコに視線を集めている。


 その視線を感じながらも、マコは木の片側に魔力を寄せた。

(ん?)

 ちょっとした違和感を感じたものの、それを後回しにして幹に這わせた魔力を力に変える。

 どごっ。

 鈍い音がして、木の幹に少し傷が付いた。

(よし)

 手応えを感じたマコは、改めて魔力を注ぎ込む。

「今の……失敗か?」

「いえ、今のは試し切りです。次が本番です」

 近寄って聞いた大工を見もしないでマコは答え、魔力を注いでゆく。

(さっきのであれくらいだから……これくらいの量で大丈夫かな? よし、改めて)

 どごごっ。

 直径四十センチメートルほどの幹に、太さの三分の一ほどの切れ込みが入った。切れ込みはかなり薄く、よく見なければ見落としてしまうかもしれない。


(もう一回っ)

 さらに一撃、先ほどより少し上から斜めに魔力を当てる。再び音が響いた後、マコは三角形に切り取られた部分を魔法で取り除き、更に反対側に魔力を集めて、一気に力に変える。

 めきめきめきめき。

 倒れる木に魔力を纏わせ、速度を遅らせて地面に倒す。

「ほぉ、すごいな。鋸でちまちま切っているよりずっと早い」

 子供たちが尊敬の眼差しで拍手する中、大人たちが感心したようにマコを見る。

「まだまだ出来ること少ないですけど。それに、この子たちが上手く魔法を使えるようになったら、他の子や大人の人にも教えていく予定ですから、そのうち誰でも使えるようになると思いますよ」

「まるで魔法の国だな」

 マコが言ったようになれば、まさに魔法の国だ。しかし、その道のりはまだ遠い。今は目の前の出来ることをやるだけだ。


「じゃ、みんな、今度はみんなの番だよ」

 マコが言うと、大人も子供もも揃って驚いた顔をした。

「この子たちにも、木を切り倒させるのかい?」

「先生、こんな太いの、まだ無理だと思います」

 疑問と困惑が広がる。

「あ、そうじゃなくて、みんなには枝を落として欲しいの。みんなの魔力だとこれだけ太い幹を切るのは大変だけど、枝ならできるよ」

「でも先生、物を切る方法はまだ習ってないんですけど」

「それはね、あ、ちょっと待って」


 マコは、大工の男に伐倒する木に目印を付けておくように頼んでから、改めて生徒たちと向き合った。

「ええとね、やり方は鉛筆を持ち上げたのと同じ。昨日は薄く広く敷いた魔力を力に変えたでしょ? 今度は魔力でチョップする感じ。出来るだけ薄くして」

 マコは手刀を作って枝の手前に起き、一気に切る真似をした。枝がポロリと落ちる。

「このイメージで切れると思うよ。ミツヨちゃん、やってみて」

「はぁ、はい」

 少々自信のなさそうなミツヨだったが、枝の付け根に近寄り、マコのやり方を真似て手刀を作った。マコが魔力を伸ばして探ると、ミツヨの魔力はきちんと枝の付け根に伸びている。


「えいっ」

 小さな掛け声とともにミツヨが手を振ると、枝がポロリと落ちた。

「やったっ」

「すげぇ」

 ミツヨが歓声を上げ、周りの子供たちも拍手する。ミツヨは歳下の子供たちに持ち上げられて、満更でもなさそうだ。

「じゃ、あたしが木を切ってくから、みんなは枝を落としていって」

「はいっ」

 子供たちの元気な声(ヨシエだけは相変わらず頷くのみ)を聞いて、マコは次の木を切りに行った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 木を切りながら、マコは木に探りを入れていた。

(木にも、魔力がある……ほんの少しだけど)

 木を切るために魔力を伸ばすと、確かに木も魔力を纏っていた。〇・一ミリメートルにも満たない、極めて薄い魔力であるものの、確かにある。それは、ついでに調べてみた下草にもあった。

 それにもう一つ。

(魔力が中に入らない……)

 魔力は、大抵の物を透過する。しかし、木の幹は魔力を透過しなかった。他に魔力を入れられないものと言えば、人間や動物の身体だ。要するに、魔力を自ら生み出している物には魔力を入れられない。つまり、植物も魔力を自ら生み出していることになる。


 ただ、例外もある。

(手を繋いだら、あの子たちの身体の中に魔力を通せたから、接触すれば大丈夫かな?)

 枝を落としている生徒たちを横目に見つつ、彼らの魔力を引き出した時のことを思い出す。正確には、魔力を感じさせるようにした時のことだ。

 マコは手を前に出して、次に切る杉モドキの幹に触れた。魔力を流し込む。

(あ。流れてく)

 しかも、生徒たちに流した時より抵抗がない。植物は、動物に比べて他者の魔力への抵抗力が弱いのかもしれない。


 そのまま、魔力を根元まで通し、手を幹から離す。一度注入した魔力は弾き出されたりはせず、木の中に残っている。放っておけば、数秒で消えるだろう。

(えいっ)

 木の内側、根元付近の魔力を力に変え、内側から右の一部を楔状に切り取って受口を作る。

(やあっ)

 追口側も内側から切断する。めきめきと木が倒れてゆく。

(外から切るより、こっちの方が魔力消費が少ないかな。流した魔力を回収しないと無駄になっちゃうけど。屈むのは面倒だし……あ、足を当てれば……靴履いてるから無理か……)

 試しに次の木で爪先を幹に当ててみたが、案の定、木の内部に魔力を通すことはできなかった。


(せっかくだから、もう一つ試したいことがあるのよね)

 取り敢えず目の前の木を切り倒し、印の付けられた木の中からちょっと離れた物を選ぶ。その木の幹に手を当て、魔力を幹に注入してゆく。枝には入れない。さらに爪先から魔力を伸ばし、地面に木の形に合わせて這わせてゆく。

(これで、やれば……えいっ。えっ?)

 瞬間移動させようと魔力の交換をしたのだが、何も起こらない。

(抵抗された……感じ? じゃ、これなら)

 さらに魔力を追加注入し、今度は枝の先から土の中の根まで、マコの魔力を行き渡らせる。地面に這わせた魔力も形を合わせる。もう一度、えいっと瞬間移動を試すと、マコの目の前から杉モドキが消失し、地面に横たわるように現れた。土の中にあった根まで。

「やった。できた」

 しかし、根が残っていては建材として使うのに一手間かかるだろう。マコは根元で切断すると、さっきの要領で根を土の中に戻した。


 次の木でもマコは実験を続けた。

(今度は、木の幹だけにして、代わりに魔力の濃度を高めて)

 マコの手から、大量の魔力が木の中に流れ込んでゆく。

(よし、このくらいで。えいっ)

 ふっと消えた木が瞬間移動し、地面に横たわっていた。今度は根はない。その上、枝もない。

「やったっ。成功っ。あわわわわわわわっ」

 上空から大量の枝が落ちて来た。マコは慌てて逃げようとし、それでは間に合わないと頭の上に魔力を展開、上向きの力に変えながら魔力を補充する。魔力でできた見えない天井に枝がぶつかる。しばらくして、枝の雨は収まった。


「大丈夫か? どうした?」

 大人の一人が近寄って来た。

「あ、驚かせたらすみません。ちょっと別の魔法の使い方で木を切れないかなぁって試してました」

 マコはてへへ、と頭を掻いた。

「怪我はしてない、な?」

「はい、大丈夫です」

 マコは腕を曲げ伸ばしして無傷をアピールした。

「それなら良かった。気をつけろよ」

「はーい」

 マコは必殺女子高校生スマイルで答えた。引き籠もり気味の自分には似合わないかな、と思いながら。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 伐倒を終え、昼を過ぎるくらいの時間にみんなと帰って来たマコは、昼食の後、自分の部屋で机に向かい、異世界ノートを開いた。なお、伐倒した木の一部はまだ裏山に残されていて、大人たちが午後に運んでくることになっている。


 マコは、異世界ノートの瞬間移動について書き込んだページを開いた。


・魔力を二方向に伸ばし、二箇所の魔力を入れ替えることで空間ごと入れ替わる。

・その空間に物があれば、物も含めて入れ替わる。

・物の半分だけを魔力で包むと、物は切断される。


 この最後の内容が、マコが瞬間移動を封印しようと考えた理由だ。しかし今日、新しい事実が判った。


・植物も魔力を持っている。

・自前の魔力を持つ生物には、遠隔で魔力を注げない。

・直接触れれば、魔力を注げる。

・瞬間移動するとき、生物の全体に魔力を注いで全身纏めてなら、可能。

・生物の一部分だけの瞬間移動は、基本的に、できない。

・ただし、大量の魔力を注ぎ込めば、可能。


 判ったことの一部を上手く隠せば、瞬間移動を公開してもいいかも知れない。そうすれば、今後のことがもっと楽になる。何より、みんなが希望した魔法を使えるのに、自分だけそれが叶わないというのでは、瞬間移動を使いたいと言ったジロウが可愛そうだ。

 マコは、授業の計画を考え始めた。

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