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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第三章 コンタクト

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3-1.瞬間移動

「先生、できた」

 三日目の授業のために教室ならぬ会議室に入ると、珍しくヨシエが自分から話し掛けてきた。

「できたって……魔力の球を作れたの?」

「うん」

「おお、やったね。みんなは?」

 マコはみんなを見回した。

「オレはまだ、少し膨らませるだけ」

「アタシも」

「ワタシは、丸くできたけど掌に載ってる感じです」

「ボクもそうですね」


 ミツヨとジロウは魔力球を作れるものの、掌から離すことはできず、ムクオとイツミはまだ球を作れないようだ。魔力を身体から離すことが苦手なのかも知れない。けれど、それも毎日の訓練で慣れてゆくだろう。

「それじゃ今日は、まずみんなが魔力球をどれだけ作れるようになったか見てみようか。まずはヨシエちゃん」

 歳上から、と思ったマコだったが、見上げるヨシエのキラキラした瞳に負けて、まず彼女を指名した。

「うん」

 ヨシエの返事は静かで落ち着いて聞こえたが、普段の彼女と比べるとかなり興奮しているのが判る。よほど嬉しいのだろう。


 ヨシエは両手を揃えて掌を上に向けると、意識を集中し始めた。マコもみんなも静かに見つめている。一分ほど経ってから。

「できた」

 ヨシエの返事に、マコは掌を下に向けた右手をかざし、ヨシエの掌に向けて魔力を伸ばしてゆく。手をかざす必要はないのだが、その方が確認していることを他の生徒に理解させやすい。ヨシエは、掌から十センチメートルほど離れたところに直径三センチメートルほどの魔力球を作っていた。


「おお、結構離せるんだね。すごいよ」

 マコが褒めると、ヨシエは嬉しそうに口許に笑みを浮かべた。

「先生、見えないんだけど」

 ムクオが不満そうに言う。

「うーん、魔力は目に見えないからね。じゃ、こうしたらどうかな」

 マコは、ヨシエの掌から魔力球までを自分の魔力で覆って、それを光に変えた。

「ほわぁ……」

 ヨシエの口から吐息が漏れる。

「これで見えるよね。この光の内側がヨシエちゃんの魔力ね。でも凄いね。あたしも最初は身体からこんなに離せなかったよ」

 ヨシエが嬉しそうに微笑む。


「はい、じゃ他のみんなも見てみようね」

 マコは光を消して、残りの四人にも魔力の操作を実演してもらった。四人とも自己申告通り、掌の上に魔力を盛り上げたり、球体にはなるものの掌に乗っているくらいだ。それでも、筋はいいんじゃないかな、とマコは思った。尤も、生徒はまだこの五人だけなので、彼らの筋がいいのかどうかは判らないが。


「じゃ、実技はここまでで授業を始めるよ。みんな座って。今日は何を話そうかなぁ」

 マコも魔法使いになりたてだし、まだ色々と試行しながらの部分がほとんどなので、三日目ともなると授業内容に困ってくる。魔力からエネルギーへの変換はまだ早いだろうし。それでも、異世界ノートに書き込んだ内容から、魔法を使うのに必要そうなことを話してゆく。

 マコの教師姿もなかなか様になってきた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「それじゃ、今日はここまでね。明日は日曜だからお休みにして、次は明後日ね。休みでも、瞑想と魔力操作の練習はやってね」

 いつもの通り、マコは一時間ほどで授業を切り上げた。

「あれ? 明日って日曜でしたっけ?」

 ジロウがやや驚いた声を上げる。

「うん、そうだよ。ほら、あそこ、カレンダーあるでしょ?」

 マコは会議室の壁に掛けてあるカレンダーを指し示した。管理人が毎日、日付を潰してくれている。ちなみに、本条家のカレンダーにもレイコが斜線を入れている。ネットワークや電子機器のほとんどが使えなくなった今、そうでもしないと日付を見失ってしまう。


「休みなんていらな~い。早く魔法使えるようになりた~い」

 イツミが大きな声を出した。

「それでもいいんだけどね、でも、休みは大切よ。生活にリズムを付けるためにもね。だから、日曜日はお休み。これは決定ね。自分で復習するのはいいわよ。早く魔法を使いたかったら、瞑想と魔力操作をしっかりやること。もちろん、休憩を挟みながらね」

「はぁい」

 渋々ながら、イツミは首肯した。


「先生、魔力操作ってどれくらいになれば次の段階に進めるんですか?」

 ミツヨが手を上げて、指名される前に質問した。

「そうね、これくらいかな。見えるように光らせるよ」

 掌を出して魔力を集め、光に変える。魔力を操作して直径五センチメートルほどの光球を作り、掌から二十センチメートルほど浮かせた。時間にして五秒ほど。今のマコが本気になれば、もっと大きい光球をより離した場所にさらに短時間で作れるだろう。

「これくらいできたらね」

「先生ほど慣れてないんだから、もうちょっとおまけして欲しいなぁ」

 ジロウが頭を掻いた。

「何言ってるの。あたしが本気になれば、こうよ」

 マコの掌から複数の光の棒が伸びて広がり、その先に大小の光球が生まれ、周りに光の線がうねうねと絡まる。さらに何ヶ所かで小さな炎が燃え上がる。光と炎の森は、数秒間で消えた。


 一瞬の静寂の後、誰からともなく拍手が起こり、すぐに生徒たち全員が拍手する。

「先生、すご~いっ」

 イツミが顔を綻ばせて一所懸命に手を叩いている。

「これが先生の実力か……」

 手を止めたジロウが呆然と言った。

「あたしだってまだまだだよ。魔力操作は今見せたみたいに慣れてきたけどね、範囲はまだ狭いし、光と炎を出すくらいしかできないし。だから、みんなにも一緒に考えてもらえるように、さっき見せたくらいの魔力操作はできるようになってもらわないとね」

「は~い」

 いつものように、重なる声は四つだ。声を出していないヨシエも瞳を輝かせてこくこくと頷いている。授業を始めてまだ三日しか経っていないが、マコはすっかり生徒たちとの触れ合いに慣れていた。

 (あたし、人見知りのはずなんだけどな)と思いつつも、マコは生徒たちと過ごす時間が楽しくなっていた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 子供たちには「休むことも大切」と言ったマコだが、自分は魔法の探求に余念がない。今日の授業が終わった後も、食事の時間を除いてずっと魔力の使い方を考えては試している。

 前日からできるようになった、体内魔力の放出と回収も、何度も試している。それが功を奏したのかどうか、魔力を飛躍的に遠くまで伸ばすことができるようになった。前日までは五~六メートルが限界だったのに、今では二十メートルも遠くまで伸ばして操作することができる。ただ、魔力を球状に広く拡散させると、回収する際にかなりの取り零しが出るので、それは今後の課題としている。紐状に伸ばすだけなら、ほとんどロス無しで回収できる。面状に広がっていないので目立たないだけかも知れないが……


 さらに、最初の授業で生徒たちが希望した魔法についても試している。

 空中浮遊は難しくなかった。身体の周りを魔力で覆い、上向きの力──運動エネルギー──に変換するだけだ。今のミツヨの魔力操作能力では厳しいだろうが、魔力を遠くまで伸ばす必要はないので、その内、彼女も習得できるだろう。

 ファイアーボール──炎弾──も、それほど苦労しなかった。炎は危ないので、試したのは光弾だが。魔力球を作り、魔力を外側から光に変換、そのまま魔力操作で弾くように動かすことで、光の玉がふよふよと飛んで行った。魔力が身体を離れると数秒で消えてしまうことが問題だが、素早く弾く練習を重ねれば、数メートルから数十メートルの射程は得られそうだ。

 それに、無理に身体から離す必要もない。魔力の糸を繋いだまま炎に変えた魔力を身体から離していけば、伸ばせる限界まで射程は伸びるし、その上で切り離した魔力を弾き飛ばせば更に射程は伸びる。魔力を炎に変えつつ操作する必要があるが、マコが思い付きだけで出来たのだ。ムクオもそう遠くない内に習得できそうだ。


 残るはテレポート──瞬間移動──と、テレパシー──心話・遠話──の二つだ。マコはまず、瞬間移動から試すことにした。これができれば水汲みも楽になりそうだし。

(魔力はエネルギーに変換できる……変換したエネルギーで瞬間移動……うーん、全然方法が思い浮かばない……)

 寝る前のベッドの上での瞑想しながら考える。マコの周りでは魔力がアメーバーのようにうねうねと蠢いている。体表面に纏っているにしては量が多いから、体内から出したり入れたりしているのだろう。見えないが。

(いやいや、エネルギーに変換しない使い方もあるよね。周りに広げれば魔力の満ちた空間全部を把握できるし、伸ばした魔力の先に大量に魔力を送り込めば遠視もできる……そうした方法でなんとかならないかな……)


 しかし、どうにも思いつかない。マコは、創作の世界にヒントを求めることにした。

(瞬間移動……テレポート……ワープ……大エネルギーを使って空間に穴を開けてワームホールを通って時間短縮……そもそもワームホールって実在するの? うーん……SFは駄目か。ファンタジーで……転送先を思い浮かべてそこに移動……仕組みが解らない……ファンタジーの魔法って理屈が良く解らないのが多いよね……転送先に物質があると爆発する、なんてのもあったなぁ……それは困る……やっぱりSF? ワームホール以外では……移動元と移動先の空間を入れ替える、なんてのもあったっけ……空間を入れ替える……魔力を入れ替える……!!)


 ぱっと目を見開いたマコは、ベッドから飛び降りて机に向かい椅子に座った。魔力を放出して消しゴムを探し当て、引き出しから出したそれを机に置いて頭の上に光を灯す。

 両手を開いて右手は消しゴムにかざし、左手は机の上の何もない空間に向ける。右手から魔力を放出して消しゴムに浸透させ、左手からも同量の魔力を出して右手から出した魔力と同じ形に整えた。

(これでどうかな。慎重に……落ち着いて……えいっ)

 右手の前にあった消しゴムが消失し、左手の前に現れた。

「やったっ!!」

 マコが行なったのは、右手と左手で作った同じ形の魔力の塊の交換だ。そもそも交換できるかどうか判らなかったし、できたとしても魔力を充填したものも一緒に移動できるかも未知数だったが、上手くいった。

 ひとしきり、マコは喜んだ。


 それから少し気持ちを落ち着けて、もう一度同じように魔力を両手から放出する。今度は左手の前に消しゴム、右手の前には何もない。先ほどの半分の大きさに注意深く両手の魔力を調整し、(えいっ)交換する。

 マコは無言で、その結果をじっと見つめた。

(……これは……残念だけど、みんなには教えられない、かなぁ……見つからないように自分でこっそり使うだけにして、それ以外では封印、かなぁ……)


 しばらく考え込んだマコは、消しゴムを机の端に寄せると異世界ノートを開いて書き込みを始めた。机の端には、綺麗に真っ二つになった消しゴムが転がっていた。



マコの使える魔法:

 発火

 発光

 発熱

 冷却

 念動力

 遠視

 瞬間移動(new)

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