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2-9.授業内容の修正と新たな疑念

各話サブタイトルに番号を振りました。

下書きしている時は付けていたのを、投稿時に削除していたのですが、やっぱりあった方が良いですね。



 十分ほどの瞑想の後で、座学に移る。

「まずみんなに質問。昨日あたしが教えた魔力に関することで、多分間違っていることがあります。それは何でしょう?」

「いきなり最初が間違ってたって、先生大丈夫かよ」

 ムクオがあたしを咎める。

「いーの。判んないことだらけなのは昨日から何回も言ってるでしょ。間違ってることを修正するのも授業の目的だよ。それでムクオくん、昨日あたしが言ったこと、どこが間違ってた?」

「そんなん判んねーって」

「いやいや、みんな判るはずだよ。昨日のことをよく聞いていて、で、さっきので魔力を感じたなら。誰か判る人」


 生徒たちは牽制するように目を見交わした。けれど、手を上げる子も、発言する子もいない。

「別に間違ってたっていいんだよ。ってかそもそも、あたしが間違ったのは確定なんだから。って言うより、間違ってくれた方があたしも仲間ができて気が楽なんだけどー」

 冗談交じりのマコの言葉にみんなが笑い、それから少しして、ミツヨとジロウが手を上げた。それに、ヨシエも控え目に。

「じゃ、ヨシエちゃん、言ってみて」

 マコに指名されたヨシエはおずおずと立ち上がった。

「えっ……まりょく……らだの……」

「あ、ちょっと待って」

 マコは急いでヨシエの側に歩み寄って屈み込み、彼女の口に耳を寄せた。ヨシエがぼそぼそとマコに囁く。


「うん、そうだね。その通り。あたしは昨日、魔力は身体の周りにある、って言ったよね。でも実際には、身体の中にあるようです。もう、なんで間違えてくれないかなぁ。あたしばっかり間違って恥ずかしいじゃないの」

 場がまた笑いに包まれる。

 笑い声を聞きながら、マコは黒板に前日と同じ絵を描いた。

「はい、注目。これがあたしの昨日言ったことですね。身体の周りに魔力を纏っている、と。実際、あたしの身体の周りにも、みんなの身体の周りにも、魔力はありますし、今はみんなもそれを実感していると思います」

 みんな頷く。何しろ先ほど、マコの直接の手解きで感知できるようになったばかりだ。


「けれど、同時にみんな感じたように、魔力は身体の中にもありました」

 黒板に書いた人体図の中に、身体に纏う魔力を表した同じ色のチョークを使って、体内を斜線で埋める。みんな、頷きつつノートに書き込みをしている。

「ちなみに、魔法を使うと魔力は減ります。わざわざ言わなくても、みんな予想してると思うけど。使った魔力はどうなるかって言うと、身体のどっかで作られて補充されます」

「先生」

 イツミが手を上げた。

「はい、イツミちゃん」

「身体のどっかってどこですか?」

「判んないから“どっか”なの。もう、解ってて言わないでよねー」

 頬を膨らしてみせるマコ。それから真顔に戻り少し笑みを浮かべて。

「だから、あたしより先にどこで作られてるか判ったら、有名になれるかもよ。『世界で初めて魔力発生のメカニズムを解明!』とかって」

「えー、先生には敵わないよぉ。まだ、さっき魔力が判るようになったばかりなのに。それに先生、あたしたちの五倍も魔力あるんでしょ」

 イツミがぷぅっと頬を膨らせる仕草に、マコは、可愛い、と微笑んだ。

「あたしだって、それからまだ十日くらいしか経ってないんだよ。たったそれだけの違いなんて一年もすれば無いようなものだし。それに魔力の量だけどね、それも間違ってたと思うの」


 黒板に描かれた、斜線の入った人形(ひとがた)の絵を、マコはチョークでとんとんと叩いた。

「身体の内側にある魔力が本体だとすると、外側に数ミリだけ漏れた魔力なんて微々たるものよ。あたしもさっきまでは、魔力は身体の表面だけにあるって思い込んでたから、その厚みで魔力量を判断してたけど、魔力の殆どが身体の中にあるとなると、身体の外部の厚みじゃ判断できないからね。もしかすると、あたしよりみんなの方が魔力が多いかも知れないよ」

 生徒たちの目に、期待の光が籠る。

「それで、魔法ってどう使うんですか? 先生は炎を出したりできますけど」

 ジロウが言った。

「そうだよな。あれができればファイアーボールもできそうだし」

 ムクオが追随する。


 しかし、迅る生徒たちをマコは抑えた。

「それをするにはみんなはまだ早いよ。早いって言っても、魔力を感じられるようになったし、明日か明後日にはこの中の何人かは出来そうな気がするけど」

「本当ですか!?」

 ミツヨが身を乗り出した。

「だから慌てない。ではこれから、魔法を使えるようになるためにみんなにやってもらうことを教えます。一つは瞑想ね。これを毎日やって、魔力をより強く感じられるようにしてください」

 実のところ、瞑想で魔力を感知しやすくなるのかどうか、マコは判らない。しかし、自分で毎日やってみて向上している気がするから、やって損はない。集中力を高める訓練にはなるだろうし。


「それからもう一つは、魔力操作の練習ね。えーと」

 マコはチョークを持って、黒板に絵を描いた。上に向けた掌を横から見た図だ。

「一部の魔力に意識を集中すると、魔力を自由に操れます。かなり集中しないといけないから、本当に『自由に』するには何日か練習が必要だろうけど。その練習ですが、手の周りの魔力を掌に集めて、持ち上げていきます。少しずつ持ち上げる量を多くして、まずはこんな形にするまでが目標かな」

 黒板に描いた掌の上に、細く伸びる線とそれに繋がる丸い図を描く。

「こうね。掌の上に魔力の木を生やす感じかな」

「先生」

「はい、ジロウくん」

 手を上げたジロウに、マコは即座に対応する。

「掌と丸い魔力の間も、魔力で作るんですか?」

「うん、そうだよ」

「それ、無しにしちゃ駄目なんですか?」

「やってもいいよ。みんなにできるならね」

 悪戯っぽくマコは言った。

「先生、それ、ワタシたちを馬鹿にしてます?」

 ミツヨが胡乱そうな目でマコを見た。

「別にそういうわけじゃないよ。そうだなぁ、見てもらった方が早いかな」


 マコは掌を差し出して魔力球を作った。

「今、黒板の絵みたいにしたんだけど、みんなには判らないよね。あたしも目じゃ見えないし」

 生徒たちが頷く。

「ここで、魔力を光に変えます」

 魔力球と、それに魔力の細い柱の部分をも光に変えて、みんなに見せる。

「ここで、この細い魔力を切り離すと」

 光る魔力球を切り離す。光はすぐに暗くなってゆき、三秒とかからずに消失した。

「こんな感じ。身体から離すと、魔力って発散して消えちゃうのよね。努力すると、少しは形を保っているんだけど。あたしも最初は、一秒ちょっとで消えてたし。だから最初は、身体に繋ぎ止めたままの丸い魔力を掌の上に作ること、これがみんなの目標ね」

「はい」

 四人の声が揃った。ヨシエは相変わらず、頷いただけだった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 昼食の後、予定通りにキヨミと散歩に出かけた。マンションの前の広場を見て回るくらいだが。

「マコちゃん、あの服は着てかないの?」

「あ、あれは魔法教室の時に着てます。今は外に出るから、木の枝とかに引っ掛けて破れたりしたら()だから」

「破れたって繕ってあげるし、新しいのも作ってあげるのにぃ」

「ありがとうございます。でも、せっかくキヨミさんに貰ったものだし、レイコちゃんのお古でもあるから、大切にしたくて」

 その上、オークションに出したらどれだけ値が上がるか、という一品である。マコにはとても、外に着て行く気になれなかった。


 マコ以上の引き籠もり体質のキヨミは、下手をすると八階から一階まで階段を下りることすら覚束ない。マコはレイコの身体を魔力で包み、時々、力──運動エネルギー──に変換して彼女の身体を支えた。そうでもしないと階段の途中で「疲れたぁ、帰るぅ」と駄々を捏ねかねない。そうらないように事前に手を打ったわけだ。


「ふぅ、前に来た時と何か違うわね」

 キヨミを連れて来た時には彼女は半ばうとうとしていたし、マンションの前で台車から降りた時には陽が陰り始めていたから、キヨミが明るい陽の中で変化した世界を間近に見るのはほとんど始めてだ。

「新しい生活のために色々変えてますからね。井戸の横に洗い場ができたのが最初かな。あ、その前にテントはいくつかありましたね。それから炊事場も作ってテントも増えたから」

「ふうん。キャンプみたいね」

「キャンプだったらいいんですけどね。これでずっと暮らすのは大変ですよ」

「そうよねぇ。あ、あれなんて木? 珍しい気がする」

「タマが大きくなったみたいに、木も変わったんですよ。あたしも知らないです」

「そうなのねぇ。あ、タマちゃん」

 最近は一匹で出歩いているタマが、マコとキヨミを見つけたらしく、とてとてと駆けてきた。左後肢に桃色の太いリボンを巻いているので離れていても判別できる。そのリボンには、マンションの名前と棟と部屋番号、それに『本条』の名前をキヨミが縫い付けていた。

「タマちゃんもお散歩?」

「グワァゥ」

「一緒に行く?」

「グワァゥ」

「じゃ、行こっか」


 二人と一匹になって、広場を見て回る。と、地面を大きな影が横切った。

「え?」

 キヨミが頭を上げて、手を額に当てる。

「何? あれ? ドラゴン?」

「飛竜って呼んでます。ドラゴンと言うよりワイバーン寄りなんですけど、ワイバーンだと通じない人もいて」

「ふわぁ、タマちゃんで驚いていられないね。あんなのが降りてきたら大変じゃないの?」

「そうですけど、降りたとこは見たことないです。ずっと飛んでられるわけでもないだろうから、どっかには降りてるんでしょうけど」

「そうだよねぇ。あれも何かの動物が変身したのかなぁ。あんな大きい鳥、いなかったよねぇ」

「タマも大きくなりましたからね。元は小さい何か……」


 ふと、マコの脳裏に何かが引っかかった。もしもアレが、既存の動物が変化したものでなかったとしたら……

 何しろ、原油が(おそらく)消えてしまったのだ。異世界に対応するものがないという理由で原油が消えたとしたら、元々の世界に対応するもののいない異世界の動物はどうなるだろう? それこそ、異世界の元の動物のまま、文字通り転移してきたのではなかろうか。だとすると、そういう動物は魔法を使える可能性が高い。意思も意識も元の動物のままだろうから。

「マコちゃん、どうしたの?」

「え? いえ、なんでもありませんよ。あっちの方、行きましょうか」

「うん」


 歩きながら、マコは今の思いつきを深くは考えないことにした。レイコに伝える必要はあるが、急ぐ必要はない。動物が魔法を使う可能性については、すでにみんなに周知しているのだから。

(部屋に帰ったらノートに書いておかなくちゃ)

 忘れないように心に書き留めつつ、マコはキヨミとタマとの散歩を続けた。

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