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16-9.結界の改良

 ムクオの開発した魔法、彼の言うところの“ファイヤーボール・シャドウ”は、マコには使えなかった。人に対して試すのもどうかと思ったマコは、家畜として育てられているツノウサギやウリボウモドキに、高密度に圧縮した魔力を高速でぶつけたのだが、動物の持つ魔力(フィルム)を突破できない。

 魔力濃度や速度を変えたり、ムクオに見せてもらった時の濃度・速度を思い出して再現を試みたりと色々やったのだが、どうしても動物の魔力(フィルム)に阻まれる。


「うーん、人によって得手不得手があるってことだろうなぁ」

 マコは、オールラウンダーで、可もなく不可もなくと言った感じだ。魔力量が他人に比べて突出しているので、何でもできるように見えているが。


 魔法教室第一期の生徒では、ヨシエがマコと同じようにオールラウンダーという感じだ。ただ、瞬間移動は他人を伴えないし、魔力を広げられる範囲も狭いが、概ね何でもできる。


 イツミは、念話のために魔力をとにかく伸ばすことに努め、現在ではヨシエをも凌ぐ二百メートルほどまで伸ばせるようになり、さらに今も距離を伸ばしている。いつか、マコよりも遠くまで伸ばせるようになるかも知れない。


 ムクオは、最前マコに披露した通り、ファイヤーボール、と言うより魔力を撃ち出すことに特化している。しかし、魔力を撃ち出す威力は他人の魔力(フィルム)を突き抜けるほどで、マコにも真似できない。


 ジロウは、今のところマコの他に唯一、他人を伴っての瞬間移動ができる人材だ。距離も少しずつ伸びていて、そろそろ十メートルに届きそうだし、一緒に移動できる人間も、もう少しで二人にできそうだ、と本人が言っていた。


 ミツヨは、自分の身体を浮かせることに熱中していて、最近では身体を少し浮き上げて移動できるようになっている。マコなら、魔法を使うより歩いた方が楽だと思ってしまうようなことだ。

 身体を動かすにも魔法を行使するにも気力を消費するが、歩く程度なら身体を動かす方が気力を使わずに済む。ミツヨは運動エネルギーの変換については、身体を動かすより気力の使用量が少ないのかも知れない。


 他の住民たちも、日々の生活の合間に魔法の練習に勤しみ、自分の興味ある分野を伸ばし、それを生活に活かしている。


「それを考えると、ここはもう、あたしがいなくても何とかなるよね」


 残るは、魔鉱石の情報開示だ。魔鉱山が一つしかない上に、産出量も少ないので、一部を除いて非公開にしているが、マコが旅立った後に寝かしたままにしておくわけにもいかないので、時機を見て公開する必要がある。

(魔力機関を作れる人も一人二人はいた方がいいよね。それを教えるのも合わせて公表時期を考えないと)

 あまりゆっくりもしていられないが、慌てる必要もない。もうしばらく様子を見て、どれくらいの魔鉱石が集まるかを確認してから決めよう、と思うマコだった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 住民たちの魔法の成長に想いを馳せつつも、マコは自分の魔法の鍛錬も怠らない。故郷(いなか)に帰郷した時に失敗した結界の対策も、マコは考えていた。

 いつものように、我が家の居間の椅子に座り、テーブルに三十センチメートルほどの長さの鉄パイプを二本、立てる。鉄パイプの両端には、それぞれ魔鉱石を仕込んである。テントの周囲に立てたポールのミニチュア版というわけだ。


 鉄パイプに仕込んだ四つの魔鉱石に魔力を込めて、結界を形成する。魔力障壁は必要ないので、物理障壁だけだ。

 テーブルに立てた鉄パイプがずるずると動き、ぱたっと倒れて動かなくなる。動きはないように見えるが、テーブルの天板にめり込むように力が働いているはずだ。運動エネルギーが足りないので押し付けているだけになっているが。


「パイプに魔鉱石を詰めたら上手くいったけど、それじゃやっぱり重いし」

 すでに、それは試している。その時、三十センチメートルの鉄パイプでもかなりの重さになったので、二メートルのポールにすべて魔鉱石を詰めたら、マコの体力では持ち上げられない重量になるだろう。魔力を使えば楽に持てるだろうが。

 しかし、魔鉱石を詰める方法では、何かに負けた気がマコにはした。

(魔鉱石を頂点にしてその範囲内を結界で覆うっ! のが格好いいよね。魔鉱石の枠を作ってその内側を結界にするのは、なんか格好悪い)

 マコは、妙なことに拘っていた。


「えっと、あたしの魔力を込めた魔鉱石なら、結界の一部と認識される、のかな? で、魔力障壁の《固体・液体に触れたら》という条件から外れる、んだと思う。それなら、張った結界の魔力に最初から覆われている鉄パイプも結界の一部と認識されていいはずだけど、なぜかそうはならない。うーん」

 マコは頭を捻った。


「魔鉱石は魔力(セルフ)を最大に込めると周囲二ミリにも留まるでしょ。それで物理障壁の影響を受けないってことは、そこにある鉄パイプにも魔力(セルフ)が満たされていることになる、と。

 結界を張った時には、魔鉱石の間の空間にも魔力(セルフ)が維持されるけど、魔鉱石の近くにない鉄パイプには魔力(セルフ)が満たされない。つまり、魔力(セルフ)の支配下に置けるのは、どう頑張っても魔鉱石の周囲二ミリだけ、ってことか」

 もっとも、そうでなければ物理障壁が意味を成さない。飛んで来た石が物理障壁に触れた途端に魔力(セルフ)で満たされて、結界を通過するだろうから。


「鉄には魔力(セルフ)を込められない、魔力(フリー)は込められるけど、それだと結界の影響を受ける、うーん」

 ここ数日試していることを、マコは反芻した。それで、まだ試していないことがあれば、そこが突破口になるかも知れない。


 しばらくうんうんと唸っていたマコは、ふと頭を上げた。

「鉄パイプの方に細工して駄目なら、結界の方に細工をすればいいんじゃない?」

 それはまるで天啓のようにマコに下りてきた。発想の転換、コロンブスの卵。早速マコは、その考えを具体化してゆく。


「つまり、《固体・液体に触れたら》って基本条件はそのままにして、これに《材質が鉄のものを除く》と条件を追加すれば……あ、駄目だ。そしたら鉄パイプ以外の鉄も無視しちゃう。それにあたしが魔力で物の材質を区別できないんだから、そんな魔力(コマンド)にはできない。

 えっと、えっと、それなら鉄パイプに込めた魔力(フリー)魔力(ネームド)にして、《魔力(ネームド)を纏ったものは除く》にする。うん、これなら上手くいけそう」


 思い付きを早速試してみると、今度は鉄パイプはテーブルに立ったままだった。きちんと物理障壁として機能している。

「やったねっ。これで結界もほぼ完成かな。それと、気になってたんだけど……」

 マコは次の、簡単な実験を始めた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


〈マモル、ちょっといいかな? 実験手伝って欲しいんだけど〉

 マコからの念話が届いた時、マモルはマコの周辺を警戒していたから、マコの要請にすぐに応じることができた。

 マコは、マンションの敷地の隅で、二本のポールを立てて待っていた。


「マモル、ありがと。早速だけど、このポールの間を通ってみて。あ、少し魔力を広げて、服とか装備に通してからね」

 マコは、マモルが言葉をかける前に言った。その声は嬉しそうに弾んでいる。同時に、いつも身体を包んでいるマコの魔力が離れたことを、マモルは感じた。

「これって結界だろ? マコのお祖父さんの家でやった。もう結界を張ってあるのか?」

「うん」

「軋んではいないな。でも、通り抜けはできないんだろ? いや、一方通行だっけ」

「あれから色々改良してみたんだ。とにかく通ってみて」


 マコが何をしたのか、聞くよりは取り敢えず体験してみた方が早い。

 マモルは魔力をわずかに広げると、ポールの手前に立って、ゆっくりと片手を前に差し出した。見えない壁に突然ぶつかるのはさすがに避けたいマモルだった。

 しかし、前に伸ばした手は何の抵抗も受けずに、ポールの間を通過した。目測を誤ったかな?とマモルは足を前に踏み出す。いつの間にか、マモルの全身がポールの向こう側へ抜けていた。


「じゃ、今度は戻って来て。ポールの間を通ってね」

 マモルは頷き、今後こそ見えない壁にぶつからないように注意しつつ手を伸ばし、足を踏み出す。今度も、何の抵抗も受けずにマモルは結界を通り抜けた。

「マコ、結界は張ってないのか?」

「ううん、ちゃんと張ってあるよ。えっと、ほら」

 マコは腰をかがめて小石を一個拾うと、ポールの間の空間に向かって軽く放った。小石は、見えない壁に当たって、地面に落ちた。


「確かに、あるみたいだな」

 それに、マモルは結界を通り抜ける時、確かにマコの魔力を感じた。他人の魔力は意識をかなり集中しないと判らないマモルも、マコの魔力だけは敏感に感じ取れる。


「うん。えっとね、《特定の魔力(セルフ)を纏った物体は除外》するようにしてみたんだ。これなら、野営した時にマモルが結界の外に出ても、また入れるし」

「なるほどね。誰でも通り抜けられるのか?」

「それは無理。二人分だけ。あ、あたしは無条件に抜けられるから、あたしを入れると三人ね」


 鉄パイプに魔鉱石を詰めれば結界の影響を受けないことから、マコの魔力で満たされているマコ自身の身体は結界を素通りできるのでは?と考え、試した結果、それは正しかった。

 また、《魔力(ネームド)を纏ったもの》を除けるなら、《特定の魔力(セルフ)を纏ったもの》も除外できると考え、マモルの協力でそれを確認できた。


 また、数種類の固有の魔力(ネームド)を纏わせた物を用意して、除外できる数を検証したところ、三種類までは同時に除外できた。一つはポールに使ってしまうので、他に除外できる魔力は二種類、二人分になる。


「欠点って言うか、弱点は色々あるけどね」

「勢いが良ければ抜けられるのと、何度も物がぶつかると結界自体が消えることと、あとはポールや魔鉱石自体に力が加わった時、か」

マコの郷里で聞いた条件を思い出し、更に予想できる条件を追加して、マモルは答えた。

「うん、そう」

 ポールの部分は、どうしても結界を構築している魔力の膜が薄くなる。そこに力を加えられると、ポール自体にも衝撃が伝わり、倒れる可能性がある。また、直接衝撃を加えなくても、例えばポールの立っている地面を掘るだけで、バランスを失って倒れるだろう。

 ポールが倒れても結界は維持されるが、地表面に這うような結界では意味がない。


「これで、野営中でも安全確保できるよ」

「野営する羽目にならないのが一番だけどな」

 マコが全国を旅するための準備が、また一つが整った。

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