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16-8.魔力の弾丸

 米軍基地での魔法教室、というより魔力知覚は、六日で終えた。もちろん、その期間で六千人からいる軍人、軍属、民間人を相手にできるわけがない。

 毎日、魔力保持能力と体内に魔力を通した時の感覚から、魔力量の多いと思われる人に、夕方になってから魔力知覚の訓練を施した。

 魔力が多くても、他人の魔力(フィルム)を突き抜けて体内に魔力を通せる人は、なかなかいない。


 それでも、五日目に見出した中年の女性にその才能があり、六日目にマコと一緒に軍人たちに魔力を知覚させてゆき、任せても問題ないと判断した。午前中は二人で対応し、午後はマコが横で見守る中、その小母さんだけで対応してもらったのだが、マコと遜色のない手際の良さを見せていた。

《割と簡単だわね》

 英語でそう微笑んだ小母さんに、(これに関してはあたしより適正あるかも)とマコは思ったものだ。魔力量も多く、ヨシエに匹敵するとマコは見積もっていた。


 魔力知覚の人材も見出し、約束通りにマコたち四人は米軍基地を後にした。フミコが静かなことがマコは気になったが、元々、フミコはどちらかと言えば大人しい性格なので、深く考えることもなく、今やほとんどヘリポートと化している小学校の校庭に降り立った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 魔法教室が縮小傾向になったからと言って、マコにコミュニティでの役割がなくなるわけではない。レイコは「マコは自由に魔法の研究をしていなさい、それが一番の貢献なんだから」と言うし、マコも日々、魔法の探求に勤しんでいるが、何しろマコの魔法はとにかく強力なので、重い荷物の運搬や魔道具の作製などに駆り出される。


 特に、魔力機関はマコしか作れる人がいない──魔鉱石の詳細を隠しているため自業自得の面はある──ので、自動車が完成するたびに、マコは新しい魔力機関を作っている。

 もっとも、自動車を作っている技師も、新しく作製するたびに色々と改良を施しているため、自動車の作製期間が縮むことはなく、頻度は少ない。


 増えているのは、土地の造成や木材の運搬の助っ人だ。丘を切り崩しての住宅地の建設は、マコが郷里に帰省していた時も米軍基地に出張していた間も続けられていたが、基礎工事に思いのほか時間がかかり、家屋の建設が始まっているのはごく一部だ。

 その、基礎工事や建材の運搬を、マコはしばしば手伝った。


 もちろん、魔法の探求にも余念がない。広範囲に広げた魔力を意識せずに維持するための練習は続けているし、結界の改良にも頭を悩ませている。


 今日も、家で魔鉱石を前にマコが頭を悩ませていると、玄関の扉がノックされた。

「はい、どうぞ」

 扉の上に仕掛けた魔鉱石の魔力を使って魔力拡声で応じた。

 扉を開けて入って来たのは、第一期の魔法教室の生徒の一人、ムクオだった。入って来る前からマコには判っていたが。

「先生、今、暇?」

「暇ってほどでもないけど、行き詰まってたところ。なぁに?」

「先生に見せたい魔法があんだよ。ちょっと外来てくんない?」

 ムクオは靴を脱がず、玄関に立ったまま扉も閉めずに言った。

「うん、いいよ」

 なんだろうな、とは思いつつ、マコは椅子から立ち上がった。


 ムクオは、マコを敷地の端の自動車鉱山の近くへ連れて行った。以前はうず高く積まれていた自動車も、だいぶ解体されて半分以下になっている。

「えっと、ここら辺でいいかな。向こう側に人がいない方がいいから」

 ムクオは辺りを見回すと、比較的大きな石を見つけてその前にマコを促した。


 マコを家に訪ねる時にはすでに持っていた、長さ三十センチメートルほど、十五センチメートル角程度の木片を、ムクオは石の上に立てようとするが、なかなか安定しない。

「先生、この石、平らに削ってくれない?」

「連れ出しておいて頼むわけ? もっとしっかり準備しておきなさいよね」

 苦笑いしながら、マコは瞬間移動を使って石の上部を平らにカットした。触れた時に指を切らないように、角を取ることも忘れない。

「あんがと。これでしっかり立つな。先生、ちょっと離れて、見ててくれよ」


 マコが数歩下がると、ムクオはすたすたと数メートルほど木片から離れた。そこで木片を振り返ったムクオは、右手を上げて人差し指を伸ばす。マコは取り敢えず、魔力も使わずにただ見ることにした。

「ほい。先生、どう?」

「え? 何かやった?」

 マコは首を傾げた。

「へへ。先生にも解らない? その木、半分に割って中を見てみなよ。あ、先生なら割らなくても魔法で探れるのかな」


 得意そうに言うムクオに言われて、マコは魔力を木片に伸ばした。木片の内側を慎重に探査すると、中央付近の直径二センチメートルほどの領域が焼け爛れている。

「へえ。濃度を高めた魔力を打ち出して、命中させてから火を点けたのかな?」

「さすが先生、やっぱり割らなくても解るんだな」

 得意そうな態度を崩さず、ムクオは言った。


「結果が解りやすかったからね。でも、どうしてこれをやろうとしたの?」

「こないだの、もう何ヶ月も前だけど、ツノウサギの暴走の時さ、アニキに、なんつうの? 戦力外通告? ってのされたんだよ。オレ、動物を狩るのにファイヤーボールしかまともに使えないから、群れてる動物が、火がついたまま走ったら危険だって」

 その時のことを思い出したムクオは、悔しさを顔に滲ませて言う。


「それでさ、色々考えて練習して、この魔法を考えたんだ。ファイヤーボール・シャドウってとこ?」

 ハイドとかインビジブルの方が合っているんじゃないかな、とマコは思ったが、それについては口に出さずに、ムクオの説明で気になったことを聞いた。

「良く考えたと思うよ。でも、それだと狩りには使えないんじゃない?」

「え? なんで?」

 ムクオはきょとんとした。


「だって、魔力を飛ばしても、動物の魔力、魔力(フィルム)を突き抜けないでしょ?」

「え? そんなことないけど。オレ、この前、これでツノウサギ仕留めたし」

「え? ほんと?」

 今度はマコが鳩豆を喰らったような顔になった。


「ムクオくん、これで動物狩れるの?」

「そうだよ」

「ちょっと待って」

 マコは魔力を伸ばしてムクオと木片をまとめて包み、さらに木片を魔力障壁(魔力(フィルム))で覆う。

「今の、もう一度やってくれる?」

「いいよ」


 マコは今度は、魔力でじっくりとムクオを観察する。

 ムクオは腕を上げ、指先から魔力を一二〇センチメートルほど伸ばした。それが彼の魔力操作能力の限界だ。その先端の魔力濃度が濃くなってゆく。ある程度溜まったところで、先端の濃くなった魔力がムクオから離れてまっすぐに飛び、マコの魔力障壁を突き抜けて木片に命中、その中央付近で炎に変わった。

 視覚だけで見たのでは何が起きているのか判らないことを、マコは魔力でしっかりと確認した。


「ほんとだ。凄いじゃない」

「先生、なんで今ので解るんだよ」

 何かした風ではないマコに、ムクオは苦笑いを浮かべて聞いた。

「今、魔力を広げて見てたからね」

「でも、動物相手に通用するって解ったんだろ? なんで?」

「前にムクオくんに試してもらったことがあるでしょ? 木の枠の中に魔力を通せるかっていうの。そうだ」

 マコは、あれから家に置きっ放しになっている木枠を手元に瞬間移動させた。


「前にこれの中に魔力を伸ばして通過できるかっていうの。今ならムクオくん、できるんじゃない?」

 マコは木枠の内側に魔力障壁を作り、ムクオに向けて差し出した。

「そうかな? やってみるよ」

 ムクオは掌を差し出して、木枠に向けて魔力を伸ばす。マコも魔力で周囲を包んで観察する。

 掌から伸びたムクオの魔力は、魔法障壁に当たるとそれ以上は進まない。


「駄目だ、そこより先には行けない」

「うーん、それじゃ、先に魔力を集めて濃度を上げたら?」

 マコに指示されるままに、ムクオは魔力を注入してゆく。

「駄目だよ、先生、濃くしても突き抜けるのは無理」

「それじゃ、そこから魔力を撃ち出してみてくれる? 火に変える必要はないから」

「うん」


 ムクオが、込めた魔力をファイヤーボールの要領で射出する。

「あっ。突き抜けたっ」

 ムクオの魔力が木枠を通り越し、かなり離れて魔力(ダスト)となって消えた。

「と言うことは、ムクオくんは魔力を身体から撃ち出すと魔力(フィルム)を突き抜けられるのかな。そうだ、今度は魔力濃度を濃くしないでやってみてくれる?」

「先生、なんかオレで実験してない?」

 苦笑いしつつも、ムクオは言われた通りに掌から魔力を撃ち出す。魔力はマコの魔力障壁に当たって停止し、魔力(ダスト)に変わっていった。


「ある程度の魔力濃度がないと駄目みたいね」

 確かに、ムクオがファイヤーボール・シャドウを使う時の魔力濃度は尋常ならざるものがある。ここまで高濃度にするのは、マコには容易だが、他の人では、ヨシエでも大変だろう。


「でも、これができるなら、他の人に魔力を感じさせるのもできるんじゃない?」

「それって、両手を繋いでって奴?」

「うん、それ」

「それは無理じゃね? さっきの先生の魔力も突き抜けられなかったし」

「かも知れないけど、実験してみようよ。あ、時間は大丈夫?」

「平気だけど」

「ここじゃ恥ずかしいから、ウチに行こう」

「……はいよ」

 新しい魔法を自慢しようと思っただけなのに面倒なことになったなぁ、先生は魔法のことになると目の色が変わるんだから、とムクオは内心で思いつつ、マコについて行く。


 家に入ると、マコは早速ムクオと向かい合い、両手を握った。

「やっぱりこれ、恥ずいよな」

「あたしも恥ずかしいんだから、我慢して」

 ムクオは、マコの左手を握った右手に魔力を集め、マコの体内に流し込もうと試みる。

「……駄目だ、上手くいかない」

「魔力を撃ち出してみたら?」

「先生の手を突き抜けちゃうと思う」

「そっか。えっと、じゃ、こうしたら?」


 マコはムクオから身体を離し、両手を前に伸ばした。ムクオにも同じようにさせて両の掌を合わせる。

「これなら、あたしの腕の途中で止められるんじやわない?」

「やってみる」

 ムクオの掌の魔力濃度が上昇し、次いでマコの腕の中へ勢い良く入ってくる。それが肘の辺りで止まったことを、マコは魔力(ストア)で感じている。


 やがて、マコの体内のムクオの魔力(セルフ)は、魔力(ダスト)となって消滅した。

「駄目?」

「うん。先生の中に魔力が残っているのは判るんだけど、操作できない」

「そっか。それじゃ、撃ち出す時に、魔力を繋いだままとかできるかな?」

「やってみる」

 マコに言われるままにムクオは試すものの、上手くいかない。打ち出した魔力から伸びる薄い魔力が、マコの魔力(フィルム)を通過できない。


「うーん、それじゃあ……」

「先生、ちょっと待った」

 次の手を考えるマコを、ムクオが遮った。

「何?」

「オレ、もう魔力がほとんど残ってねーよ。今日はもう、無理」

「あ、ごめん。そんなに使わせちゃった?」

「オレは先生みたいに魔力多くねーんだから」

「ごめんってば。じゃ、今日はここまでにしておこう。ありがとね、新しい魔法を教えてもらった上に、色々と実験に付き合ってもらって」

「いいって。先生がいなきゃ、そもそも魔法なんて使えなかったんだからさ。じゃ、オレは帰るよ」

「うん、またね」


 ムクオが帰った後も、マコは自分で色々と試していた。

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