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16-1.情報交換

「マコ……本当にマコなんだね……」

「心配していたんだぞ……連絡も取れなくて。無事で本当に良かった」

 祖父母はマコを抱き締め、涙を流して愛しい孫娘の無事を喜んだ。

「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、痛いよ」

「あ、ああ、すまないな」

「ごめんね。嬉しくてつい」

「あたしも、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会えて嬉しい。心配してたんだよ。電話も使えなくなっちゃったし。そうだ。紹介するね」


 マコは二人の腕の中から出てくると、自衛官の三人を手招きした。

「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、この人は四季嶋マモルさん。あたしの旦那さんだよ」

 マコが満面の笑みで紹介すると、マモルはやや照れつつも、マコの隣で頭を深く下げた。

「はじめまして。四季嶋マモルと言います。マコさんとは三ヶ月近く前に結婚しました。披露宴にお呼びできず、申し訳ございません。これから、よろしくお願いします」


 ぴしっとしたマモルの挨拶に、祖父母は戸惑ったが、被っていた帽子を取って挨拶を返した。

「はじめまして。本条コウゾウです。よろしく」

「マコの祖母の、本条ノリエです」

 マモルは、二人としっかりと握手した。

「それから、こちらの二人が澁皮シュリさんと矢樹原スエノさん。マモルもだけど、三人とも自衛隊の人で、あたしの護衛をしてくれているの」

 シュリとスエノも、祖父母と挨拶を交わす。


「それで、しばらくいようと思うんだけど、部屋とお布団あるかなぁ?」

 マコは二人に聞いた。

「ええ。一人一部屋は無理だけれど、二人ずつで良ければ。お布団も、使っていないのがあるから」

「良かった」

「それは後にして、こんな所で立ち話も何だからお上りなさい。色々と聞きたいこともあるし」

 マコと祖母の会話に、祖父が割り込んだ。


「あ、そうだよね。えっとその前に、レイコちゃんにも会いたいよね」

「レイコも来ているのかい?」

「姿は見えないようだけれど」

 祖父母は自動車やその周りを見た。

「一緒には来てないよ。これから連れて来る」

「これから?」

「うん。説明は後でね」

 マコは自動車から魔鉱石入りの木箱を瞬間移動で手元に取り、地面に置いて地下に収めた。


「じゃ、ちょっと行ってくるね。お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、みんなを部屋に案内してあげて。五分もあれば戻って来られると思うから」

「待った」

 瞬間移動しようとするマコを、マモルが止めた。

「なぁに?」

「マコさん、さすがに一人では行かせられません。私が同行します」

 マモルではなく、シュリが答えた。

「あ、そうか。すみません、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会えたのが嬉しくて、つい。じゃ、今度こそ、行ってきます」

 マコは、シュリの手を握ると、その場から消えた。


「……マコは?」

 祖父──コウゾウは、しばらく口をぱくぱくさせてから、何とか言葉を紡ぎ出した。祖母のノリエは口を開いたままぽかんとしている。マコに会えたことを、夢だと思っているのかも知れない。

「マコは、今住んでいるマンションにレイコさんを迎えに行きました。すぐに戻ります」

 マモルが笑顔を絶やさないように答えた。

「いや、ですが、ど、どうやって」

「詳しい話はマコがレイコさんを連れて来てからにしますが、マコは魔法を使えるんですよ。ほかの人も使えますが、マコはとにかく色々使えます。それで、瞬間移動したんですよ」

「ま、魔法……?」


 俄かには信じられないことを言い出したマモルに、二人は目を白黒させた。孫娘の突然の帰郷から始まって、その孫娘の結婚、自衛官が三人も護衛についていること、マコの消失、魔法の存在と、立て続けに色々な情報を与えられて、何をどう受け止めればいいのか脳の処理が追いつかなくなった。

「とりあえず、家に上がってもらいましょう」

 ノリエの方が、先に衝撃から回復した。

「そうだな。お二人とも、こちらへどうぞ」

 ノリエが、もてなしの準備のためだろう、先に家の中へと入り、コウゾウがマモルとスエノを家の中へと案内した。


 マモルたちは、庭に面する部屋に案内された。座布団を勧められ、座ったところでマコの声が聞こえた。

「お祖父ちゃんっ。レイコちゃん連れて来たよっ」

 開かれた窓に目を向けると、マコが小走りに駆けて来る。その後ろから、レイコとシュリが歩いて来る。

「れ、レイコ」

 座りかけていたコウゾウが立ち上がり、のろのろと縁側に出て外に降り、サンダルを履いて歩いて行く。マコはすれ違って部屋の中のマモルに笑顔を見せた後、振り返って縁側に座った。


「れ、レイコ、良く無事で……マコのことも、良く守ったなぁ……」

「お父さんも、元気そうで良かった。心配したんだから」

 涙ぐんで抱き合う母と祖父の姿に、マコも指でそっと目の下を拭った。

「お水しかなくてすみませんね」

「いえ、お構いなく」

 盆に水を入れたグラスを持って来てノリエが、グラスをテーブルに置きながら、ふとその手を止めて縁側に座るマコを見た。そして、その向こうにいる娘の姿を。


「れ、レイコ……」

 少し前に夫が同じ台詞を吐いたとはつゆ知らず、一度座っていたノリエは立ち上がって、のろのろと、徐々に足早になりながら、縁側から庭へ下りてレイコの元へと駆け寄り、娘の身体を抱き締めておいおいと泣き出した。


(連れて来られて良かった)

 そう思いつつ、マコは縁側から飛び降りるとシュリを手招きし、玄関から家の中に一緒に入って、親子の再会の感動が落ち着くまで、水で渇きを癒しながら待っていた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 祖父母が落ち着き、全員が部屋のテーブルを囲むと、マコは改めて祖父母にマモルを夫として紹介し、レイコも祝福したことを伝えた。

 コウゾウとノリエは、娘が結婚を、いや、男の選択を間違えた過去を思い出し、マコがまだ十六歳という若さで先走ってしまったのではないかと気を揉んだが、マモルの誠実な態度に心を緩めた。


 それから、この一年のことを互いに報告し合った。最初に、マコがこの一日半の旅のことを、これはレイコも知らないことなので、先に話した。

「猛獣に無法者って、マコ、また無茶をして」

 レイコが呆れたように言った。

「無茶はしてないよ。マモルたちが完璧に守ってくれたから。でも、マモルたちには無茶をさせちゃったかな?」

 マコはちらっと自衛官の三人に視線を走らせる。


「いいえ、そんなことはありません。無法者は素人でしたから、私たちにとっては相手にもなりませんでしたし、猛獣もマコさんから魔法を習っていましたので、無駄に銃弾を消費することもなく撃退できました」

 シュリが、何でもないことのように言った。

「その、マコがレイコを迎えに行った時に、しき……マモルくんからも聞いたが、マコは魔法が使えるようになったのか? どうやって? それに、自衛隊の皆さんも」

 コウゾウが首を傾げた。

「こっちの状況を聞きたかったけど、それじゃ先に魔法のこと話しちゃうね。レイコちゃんも、いい?」

 レイコが頷いたので、マコは魔法を使うに至った経緯を話した。


「……つまり、『異変の原因は異世界が転移して来たこと』だと推測し、それなら『魔法が使えるに違いない』と“思い込ん”で、色々試したら使えるようになった、とそういう理解で正しいかな?」

 コウゾウは、マコが話したことをそう要約した。

「うん、合ってるよ」

「思い込みで、ねぇ」

 ノリエが呆れたように口を開いた。

「子供の頃に読んだ絵本の影響かしらね」

「うーん、それより、小学校高学年になってから読むようになった小説の方かな」

 それも、絵本という下地があってのことかも知れないな、とマコはここに暮らしていた頃のことを思い出す。


 ここに来た目的の一つに魔法を広めることもあったが、一旦魔法から離れて、互いにこの一年の出来事を報告し合った。この一年の生活は、どちらも余りにも内容の濃い一年だったので、掻い摘んでのことだ。

 祖父母の話で気になったのが、二ヶ月ほど前に起きたという動物の大発生だ。


「ウリボウがそのまま大きくなったような動物がいるんだが、知っているかい?」

「ええ。ウチの方にもいるわよ」

「それが、山から大量に下りて来て、畑を荒らし回ったんだよ。(うち)もそれで結構被害を受けたし、それはもう大変だった。猟銃を持った人がそれなりの数を仕留めてくれて、あとは農具やらを振り回して追い払ったんだが。あの時に弾をほとんど使い切ったと聞いているから、次があったらどうなるやら」


「こっちでもあったの?」

「そう言うってことは、レイコたちも?」

「ええ。ウチの方はウリボウモドキじゃなくてツノウサギだったけれど、あ、ツノウサギは解るかしら? ウサギよりは大きくて耳が短めでヒツジみたいなくるっとした角の生えてる」

「ああ。ここらでも見るよ」

「それが一万匹近くも押し寄せて来て、マコがいなかったらどうなっていたか」

「あたしだけじゃないよ。みんなが協力して撃退したんだから」

 マコはにこにこと、大人たちの会話に割り込んだ。


 久し振りに再会した家族たちの会話を聞きながら、自衛官たちは旅の途中に通った猛獣地帯を思い出していた。あそこで猛獣が増え出したのも数ヶ月前と、警備していた自衛官が言っていた。二~三ヶ月前に、異変とは違う何かが起きたのかも知れない。あるいは、レイコの言うように異変が重なったのか。単に、異世界の生物の繁殖期の可能性もある。

 動物の大量発生が一箇所に止まらず、あちこちで起きているなら、調査の重要度を上げた方がいいかも知れない。いや、上げるべきだろう。


 マコが特別魔法教室を行なっている間に、本隊と話を通す予定を、シュリは頭に刻み込んだ。

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