16-0.再会
異変の起きた朝、夫婦は何が起きたのか解らなかった。水は出ない、ガスも出ない、電気も点かない。そもそも、電気と水道はともかく、ガスは家の外にタンクのあるプロパンガスなのだから、突然使えなくなるのはおかしい。
モノが壊れている、自動車も動かない。そもそもタイヤもダッシュボードも消えてしまっては、どうしようもない。
隣家や、他の家も訪ねたが、状況は同じ。街に確認に行こうにも、先日の大雨で流れた東の橋が架かるのは、翌日の予定だった。
西南北を囲む山を越えて外を確認に行く者もいた。獣道しかないが、険しくもないので、彼らは無事に山を越え、そして戻って来た。その結果判ったのは、集落の外も状況は変わらない、ということだけだった。
集落で話し合いが持たれた。そもそも状況の詳細が判らないので、話し合いは取り留めもなく進んだが、結論は決まっていた。
それが解っていた夫婦──の夫──は、騒つくだけの集会所のテーブルを軽く叩いて場を静めると、集落だけで生活基盤を立てるしかないと言い切った。
反対するものはいたが、かと言って対案があるわけでもなく、夫の提案を元に今すべきことが話し合われた。
かつて、娘の不祥事で、村八分とまではいかないものの白い目で見られたことのあった夫婦は、集落の指導的立場になった。なんとなく決まったそのことに我慢できない者たちは、あるいは山を越えて、あるいは夫婦の指揮で作られた仮設の橋を渡って、集落から出て行った。尤も、彼らの中には、外でも大した違いはないと気付いて、戻って来る者も多かったが。
集落は少しずつ生活を取り戻していったが、夫婦の心には常に気がかりがあった。十年前に集落から出て行った、最近は年に数回会うだけだった娘と孫娘、二人の安否が。慣れない生活に日々追われながらも、夫婦は可愛い二人が心配でならなかった。
その、心配でたまらなかった孫娘が、目の前にいる。夫婦は孫娘を抱き締め、滂沱たる涙を流すのだった。