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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第十五章 故郷へ

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15-10.帰郷

 その日は、マコの故郷の二十キロメートルほど手前で陽が暮れた。以前であれば、この程度の距離なら夜間であろうと躊躇うことなく先に進むことを選んだだろう。しかし今は、道路状況がどうなっているか判らない上に、どんな危険があるかも完全には判らない。走行中に、突然地竜に襲われたりしたら、魔法使いと経験豊かな自衛官三人がいても、誰かが怪我を負いかねない。

 急ぐ必要があるわけじゃないし、とマコも納得して、魔鉱石を地中に埋め、三人全員と手を繋いで、中間地点に仕掛けておいた魔鉱石を経由した二回の瞬間移動でマンションに帰った。


 帰ったマコはレイコに、帰郷は明日になることを伝えた。レイコも予想はしていたようで、落胆した様子は見せなかった。

「出掛ける前は『もしかすると今日は着けないかも』って思ってたけど、本当に着けないとは思わなかったよ。高々百六十キロ程度の道のりなのに」

「それだけ大変だったんでしょう? いいわよ、今は話さなくて。明日、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんと一緒に聞くから。今日は早く寝なさい。疲れたでしょう」

「そんなことないよ。朝もいつもと一緒だし、いつも眠る時間までまだあるし」


 そう言ってレイコと別れたマコだったが、自分では気付かない疲労が溜まっていたらしく、その日はマモルとの夜毎の営みも忘れて、ベッドに入った途端に眠りに就いていた。


昨夜(ゆうべ)はごめんね。先に寝ちゃって」

翌日、朝一番にマコはマモルに謝った。

「気にすることないさ。普段と違うことをして疲れたんだろう」

「それ言ったら、海や魔鉱山に行った時だってあったのに」

「それは知らないところに泊まったから、気が張っていたんだろう。こっちに帰って来た日は早くに眠っただろう?」

「そうだけど、今夜からはしばらくあっちに泊まる予定だから、二人の時間をあんまり取れないかな、それは悪いなって思って」

「俺のことは気にするな。訓練や任務で何かを我慢することは慣れているから。マコこそ、色々溜め込まないようにな。俺がいつでもフォローするから」

「うん、ありがと。マモル、大好き」

「俺もだよ」


 甘い夜を過ごせなかったせいか、二人は朝から甘ったるい雰囲気を醸し出していた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 二日目は、中継地点を介さずに昨日の到達地点に直接瞬間移動した。マンションから直線距離で九十キロメートル程度の距離だったので、マコの魔鉱石感知距離には届いていたためだ。マンションに戻る時には、きちんと中継できるか確認のつもりで経由したが、二度も確認する必要はない。


 埋めておいた魔鉱石を回収して、旅を再開する。

「どれくらいで着きそうですか?」

「そうですね、道が狭くなっているから念を入れてあまり速度を出しませんが、何事もなければ一時間はかからないでしょう」

 マコの質問に、ハンドルを握るシュリが答えた。助手席ではスエノが地図を広げ、マコの隣にはマモルが座っている。


 走っているのは田舎道。道幅は対向車が来ても余裕ですれ違えるほど広さがあるので、言うほど狭くはないが、左右は田圃で低くなっていることもあり、シュリは慎重に運転している。

 田圃には麦か稲のような穂を付けた作物が実っている。マンション近く、と言うより自衛隊駐屯地近くのコミュニティでも、麦や稲が変化したと思われる作物を育てているので、それと同種のものだろう。見た目はほとんどそのままなのだが、加工して食べてみると味が微妙に違うので、何かしら変化しているらしい。


 しばらく進むと、道路は街中に入った。道幅も少し広がっている。人の営みも見え、コミュニティとして機能しているようだ。

「あれが、レイコちゃんの通ってた小学校と中学校かな」

 マコが学校の校舎に見える建造物を指差して行った。

「マコも通っていたのか?」

 マモルが聞いた。

「ううん。あたしが小学校に上がる時、レイコちゃんも大学卒業して引っ越したから、あたしは通ってないよ。だからこの街も、ほとんど馴染みがないんだ。小さい頃にお祖父ちゃんやお祖母ちゃんに連れられて来た記憶が薄っすらあるくらいで」


 年に何回かはレイコと一緒に帰省していたので、小さい頃に住んでいた記憶よりも帰省した時の記憶の方がマコには強い。前に来た時との違いを見極めるように、マコは通り過ぎる街並に視線を送っていた。

 マモルは、周囲を警戒しながらも、外に意識を向ける歳若い妻を見守っていた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 家の数が少なくなったところで、道の端を歩いていた男が手を上げたのを確認して、シュリは自動車を止めた。

「何か御用ですか?」

「……これ、自動車っすか」

 シュリの問が聞こえたのか聞こえなかったのか、男が言った。

「ええ。ちょっと特殊で、動かせる人は限られていますけれど」

 シュリの言う『動かせる人は限られている』には、実は、魔法を使えることのほかにもう一つ理由がある。


 自動車の運転自体は、異変前のものとあまり変わらないように造られているので、誰でもできる。しかし、魔力機関の本体を魔鉱石に変えたことで、魔力を完全に充填できる人が少なくなった。魔力機関に蓄えられる魔力容量が格段に増えたことで、一人の魔力では足りなくなったのだ。

 そのため、マンションの住民でも、一人で自動車に魔力をフル充填できるほどの魔力保持者は、三割程度しかいない。フル充填しなくても自動車は動くし、足りなければ複数の人が充填すればいいので問題はないが、一人で運用するには、人によっては時間を空ける必要がある。


「御用はそれだけですか?」

「あ、いや、そのっすね、この先に行くんすか?」

 男は、シュリの言葉で自動車から彼女に目線を移し、それから視線を泳がせつつ、言った。

「はい、そのつもりですが」

「あ、そうっすよね。この道を通ってるんだから。でも、この先、行き止まりっすよ」

「え?」


 スエノが地図を確認する。

「異変前の地図ですが、これを見るとこの道は先の集落までずっと続いているようですが」

「ああ、えっとですね、道はあるにはあるんですが、去年の夏、異変の直前に大雨が降って、橋が流されたんすよ。仮の橋は架けたけど、この自動車じゃ渡るのは無理っすね」

「……ここの橋ですね」

 スエノが地図を見ながら言った。シュリもそれを確認し、後席のマコをちらりと見る。シュリの言いたいことを察して、マコは頷いた。


「ありがとうございます。取り敢えず橋まで行って、渡る方法を探してみます」

「そ、そうっすか。頑張ってくださいっす」

 男が自動車から離れるのを待って、シュリはアクセルを踏み込んだ。


「あの人、シュリさんに一目惚れしてたみたいね」

 マコは、当人に聞かれないようにマモルにこそこそと言った。

「そうだったかな? 俺は気付かなかったけれど」

「うん、まず間違いなく」

「そうか。くく」

「なぁによぉ」

 小さく笑ったマモルの肩を、マコは小突いた。


「いや、他人のことは良く見ているんだなって思ってね」

「どう言う意味?」

 マモルの言葉の意味が解らず、マコは首を傾げた。

「海辺のコミュニティに最初に行った時、マコに告白した男がいただろう? あの時マコは、告白されるまで気付いてなかったようだからさ」

「え」

 マモルの返事にマコは過去の記憶を検索し、それを思い出して一気に頬が熱くなった。


「もう、思い出させないでよっ」

 恥ずかしくなったマコは、マモルに抱き着き、その胸に顔を埋めて赤くなった頬を隠した。

「はは、悪い悪い、もう言わないよ」

「もう、絶対だよ」

 マコはマモルの胸に顔を埋めたままもごもごと言った。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 男の言った通り、街を抜けて二百メートルほど進んだ場所を流れている川に架かっていた橋は、見事に崩れていた。川幅はおよそ五十メートル、土手と土手の距離は八十メートルほどだろうか。

 四人とも自動車を下りて、土手の縁から川を覗き込んだ。

「見事になくなってますね」

「ええ、そうね」

 川幅が僅かに狭まっている部分に、丸太を組み合わせた橋が架けられている。

「あれが仮設の橋ですか。さすがにあれを渡るのは無理ですね」

「そもそも、この土手を下りるのが難しいし」

 そうは言ったものの、誰も手詰まり感を見せていない。


「ではマコさん、予定通りで構いませんか?」

「もちろん。まとまってた方が楽なので、取り敢えず自動車に乗りましょう」

 四人は再び自動車に乗る。シュリとスエノが交代した。

「じゃ、手をお願いします」

 マコが差し出した手に、三人が触れる。マコは、接触した部分から三人の体内に魔力を流し込み、さらに自動車全体を包み込み、川の対岸へも伸ばす。

「行きます」


 次の瞬間、自動車は四人を乗せたまま、対岸へと瞬間移動していた。

「みんなこれができたら、とても便利よね」

 シュリが言った。

「ですよね。でも、できる人少なくて。練習あるのみです」

「そうね。まぁ、いいわ。今は進みましょう」

 スエノの運転で、自動車が畑の間の田舎道を走り出す。途中の分岐をマコの指示で曲がり、二つに別れた集落の内、家並の少ない側へと向かう。

 畑仕事をしている人が、手を止めて自動車を見る。スエノは止まらずに走らせた。


「次の角を曲がって、右側の二軒目です。はい、そこです」

 マコの指示で、自動車は一軒の家の庭に乗り入れて、停車した。庭の横の家庭菜園程度の畑で作業をしていた男性が、庭に出てくる。マコは自動車から飛び降りた。

「お祖父ちゃんっ」

「ま……マコ?」

 男性、マコの祖父は、目玉を落としそうなほどに驚いた表情で、飛び付いたマコを抱き締めた。


「マコ、本当にマコなんだな」

「うん、あたしだよ。マコだよ」

「おお、マコ、会いたかったよ」

 祖父の目に涙が滲み出た。

「どうしました? “マコ”って聞こえたけれど……ま、マコ?」

「お祖母ちゃんっ」

 畑の奥から出てきた女性、マコの祖母は、手にしていた籠と鋏を取り落とした。籠から野菜が転がり落ちる。両目に涙を浮かべて、一歩、二歩、足を出し、それから徐々に駆け出す。


 マコも、祖父から離れて駆け寄った。

「お祖母ちゃん、ただいま。元気だった」

「マコ、おお、マコ、本当にマコなんだね」

「そうだよ。マコだよ」

 その二人を、祖父がまとめて抱き締めた。

「良かった。本当に良かった」


 家族の再会を、三人の自衛官は眩しそうに見つめていた。

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