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15-9.世紀末の無法者

 三人の男に足止めされた三叉路を抜けて五百メートルほど進むと、家が疎らになり畑や林の広がる土地になる。マコが頼んだ通り、スエノは時速三十キロメートルほどの低速で自動車を走らせた。

 しばらく進んだところで、マコの魔力での探知に移動体が引っ掛かる。移動中、概ね直径十メートルで魔力を広げているマコだが、今は前と左右はそのままに、後方だけ百メートル以上に範囲を広げていたので、早めに判った。


「後ろからウマに乗った人が来ます。七頭ですね」

 マコが三人の護衛に警告する。

「大丈夫、気付いているよ」

 隣でマモルが言った。マモルも前席の二人も、魔力操作能力はマコに遠く及ばないから、魔力では後方から近付く騎馬を探知できない。それなのに後ろを見もせずに気付いているのは何でだろう?とマコは思った。が、今はそんなことを悠長に考えている時ではない。


「スエノさん、速度を維持して、ウマが前に出て止まったら、止まってくださいね」

「はぁ、解りました」

 ここまで来ると、自衛官たちにもマコの考えていることは解った。護衛としては、護衛対象の身を危険に晒すような行動を容認したくはないのだが、当の護衛対象が危険を引き寄せてしまうのだから仕方がない。この場合、引き寄せると言うより、あえて逃げない、と言うべきか。


「四季嶋くん、マコさんから離れないように」

 助手席のシュリが振り返って言った。

「了解。まったく、マコはお人好しなんだから」

 マモルは少し困ったような、諦めたような、それでいて安堵したような、複雑な表情でマコを見た。

「だってさぁ、あの状況を見て何もしないのもちょっとって思うし、でもあたしたちがあそこに住むわけにもいかないし。でも、あっちから襲って来たのを叩きのめすなら、何の問題もないでしょ?」

(それにマモルたちも、自衛官として民間人が困っているのを放っておくのも心苦しいだろうし)

 心の中で付け加えて、マコは椅子の傍から木の棒を取る。


 いくらも経たずに騎馬が自動車に追い付き、追い越し、馬首を返して止まった。スエノもブレーキを踏み、自動車を止める。

 騎馬の六騎は自動車の前に扇形になって道を塞ぎ、一騎が前に出てくる。武装はバットのほか、金属パイプや木刀など、長物が多い。ちょっと見には判りにくいが、メリケンサックを着けている男もいる。

〈後ろから増援が来ます。徒歩って言うか、走って。数は十、ううん、十一人。武装は似た感じ〉

 マコは後方に広げたままの魔力に掛かった情報を、自衛官たちに念話で伝えた。三人は僅かに頷くだけでそれに答える。


「よぉ、いいもん持ってるじゃねーか。オレたちが貰ってやるから下りな。女は一緒に貰ってやるから、下りるのは男だけでいーぞ」

(うわぁ、本当、世紀末無法世界映画みたい)

 マコはこっそりと独り言ちた。

「あんたたちには悪いけど、そう言うわけにはいかないわね。あんたたちこそ、そのウマを全部置いて消えてくれない? 後からついて来られても鬱陶しいから」

 シュリが挑発するように言って、自動車から降りる。スエノも運転席から降りた。二人とも、魔力を広げて臨戦態勢に入っていることを、マコは見て取る。二人とも自衛官として体術にも長けているから、魔力は念の為に展開しているのだろう。


「女は男に従ってろ。お前も従わせてやるから、さっさと言う通りにしな」

 気分を害した風でもなく、淡々とリーダーらしき男は言った。その間に、徒歩の男たちも追い付き、後方から自動車を取り囲んだ。

 マコはマモルを見る。マモルは、渋々という表情で頷くと、後席から荷台を通って自動車の後方に降りた。マコも木の棒を持って後に続く。


「あんたらが退いてくれないと、力でねじ伏せなきゃならないんだけど。怪我したくないなら素直に道を空けてくれないかしら」

 シュリの言葉に前方の男たちが笑う。

「おいおい、こっちは十八人いるんだ。四人の、それも三人は女にどうにもできないだろ」

 マコはマモルの斜めやや後方で、展開している魔力を操作する。自分の周囲一メートルに、正面を除いて物理障壁を展開、さらにその外側に一メートル空けて全面に魔力障壁を展開する。両手で握った木の棒に魔力を流し込み、中に仕込まれた金属の筒に魔力を込める。同時に、両手を覆う魔力(ホールド)を薄くする。


「そう思うなら、掛かって来れば? それとも、のされるのが怖い? それなら、道を空けなさい」

 シュリが挑発する。

「はっ。女子供に誰が怖がるもんかよ」

 リーダーらしき男はのしのしとシュリに近付き、その手首を掴む。次の瞬間、シュリは手首を捻って男の手から逃れ、逆に男の手首を掴んで背中に捻じり上げた。

「痛てっ。何しやがるっ」

「あんたが先に手を出したんでしょう。ほら、身の程が解ったらさっさと引き上げなさい」

「くそっ。やっちまえっ」


 リーダーが命じた途端、シュリはその首筋に手刀を叩き込んで意識を刈り取る。馬から下りていた男たちは手にした得物を振り被ってシュリとスエノに襲い掛かるが、リーダーを一瞬で戦闘不能にされたことで瞬間的に躊躇いが生じる。自衛官にとって、その隙は無限の時間にも等しかった。


 リーダーの命令と同時に、後方の徒歩部隊も動き出した。声は届いていたものの、リーダーが倒れたことは自動車の陰になっていたため、前方の連中と違い動きに躊躇はない。しかし、動き出すのはマモルの方が早かった。

 一瞬のうちに男たちの一人の懐に入ったマモルは鳩尾に肘を打ち込み、倒れるのを待たずに隣の男の首筋に鋭い蹴りを入れる。

 脚を戻した次の瞬間には少し後方にいた男の前に飛び込み、正拳をたたきこむ。


 マコもマモルと同時に動いていた。とはいっても、元々内向的だったマコに、マモルのような動きができるはずもない。

 マコは、木の棒を握った手を左右に引く。右手の柄から金属の筒が刀のように伸びている。楕円形の断面を持つ筒は、マコの武器として大工に作ってもらったものだ。殴り掛かってきた拳を物理障壁で防ぎ、その拳を金属の筒で叩く。

「ぐはっ」

 ダメージを与えるほどの威力はなかったのに、男は地に伏した。マコの金属筒に込めた《接触する同じ魔力に同じ命令を与え、一秒間に十パーセントの確率で下向きの運動エネルギーに変わる》魔力(コマンド)を与えられて。全身に錘を付けられたようなものだ。


 続けて、マコは二人目、三人目と倒してゆく。自衛官の三人のような体術は持ち合わせていないので、魔力で死角を無くし、敵の攻撃を確実に物理障壁で防ぎ、自分の魔力に触れないように握った金属筒を敵の肌に押し当てる。

 魔力(セルフ)が減ってくれば立ち上がれるだろうが、マモルが同時に相手取る敵の数を減らせれば十分だ。


 マコとマモルが自動車後方で男たちの相手をしている間に、前方ではシュリとスエノが男たちを制圧していた。

 リーダーの昏倒で、一瞬男たちの動きが止まった間に、二人はそれぞれ一番近い敵に肉薄した。

 シュリは得物を持つ手首を掴んで捻り上げ、同時に膝蹴りを腹にお見舞いし、体勢を崩したところに首筋に手刀を叩き込む。男の鉄パイプを奪い取ると、殴り掛かろうと迫って来る二人の男の攻撃を軽く避けて背後を取り、一人の後頭部に鉄パイプを叩き込み、もう一人が振り返った瞬間に、顔面に鉄拳をお見舞いした。


 スエノは男の正面から横に回り込み、後頭部を回し蹴りで急襲する。男が倒れるのを見もせずに、次の相手が振り回す金属バットを身体を沈めて交わし、アッパーカットで顎を殴り上げる。残る一人が振り下ろした棍棒を、身体を捻っただけで交わし、頭を両手で掴んで飛び上がり、膝蹴りを顔面に叩き込む。


 前方の七人の戦闘能力を奪うと、シュリはロバウマの後ろに回り込み、敵から奪い取った鉄パイプでその尻を力一杯叩いた。

「フヒーーーンッ」

 ロバウマは叫び声を上げると、一目散に走り出す。スエノも手伝って、七頭のロバウマは元来た方角へ一目散に駆けて行く。


 自動車の後方で戦っていたマモルは、蹄の音に気付いてロバウマを避けつつ、慌てる敵を蹴り倒し、殴り倒す。マコも広げていた魔力でロバウマの暴走を知り、四人目の敵を倒した直後に、ロバウマが避けている自動車の陰に隠れてやり過ごした。

 七頭の獣が走り抜けた時には、マモルは五人目の敵を倒していた。残る二人のうち一人に背後から組み付いて首を絞め堕とし、最後の一人は前から駆け付けたシュリの踵落としで無力化された。


 全員が地に伏した時、マコに無力化された男たちが起き上がり出す。魔力が減って、地面に抑え付ける力が弱まったのだろう。最終的には魔力生成能力と運動エネルギーへの変換が拮抗する時点で安定し、常に全身に錘を付けたような状態になるはずだ。

 その四人の男たちは、すでに戦意を喪失していたが、マモルとシュリは容赦無く意識を刈り取った。


「簡単に終わりましたね。こいつら、どうしましょう?」

 シュリがマコに聞いた。

「これだけやっておけば、あとはさっきのコミュニティの人たちでなんとかできると思いますけど。ウマが帰ったから、なんかあったことは解ると思うし。あ、それと、全員に重石を付けておきますね」

「重石、ですか?」

「はい。前にうちのコミュニティで暴れた人に付けた魔力錠みたいなものですね。あ、あの時はマモルしかいなかったっけ」

 マコは説明しながら物理障壁を解除し、自分が相手をした以外の男たちの肌に、金属筒を押し当てていく。


 全員に魔力の枷を与えた後、マコは金属筒に込めた魔力(コマンド)魔力(ダスト)に変えて、金属筒を鞘に戻した。マモルたちの魔力に触れないように展開していた魔力障壁も解除する。自動車の進行経路に転がっている男はマモルたちが道の端に退かした。


「じゃ、行きましょう。今日中に着けるかなぁ」

「今からだと、ぎりぎりですね。明日の午前中には着けるでしょう」

 四人は自動車に乗り込み、旅を再開した。

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