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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第十五章 故郷へ

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15-6.猛獣討伐

 マコとマモルとスエノの三人が小休止に入ってしばらくすると、シュリが戻って来た。普段ならマモルとスエノは敬礼で迎えるところ、必要な時以外は自衛隊の身分を隠しているので、それは省略。

「一応、通してくれることになったわ」

 スエノが用意しておいた折り畳み式の椅子に腰掛けながら、シュリは言った。

「その言い方からすると、条件がありそうですね」

 シュリの言葉遣いを察したマモルが聞いた。


「ええ。護衛を四人、付けるそうよ。断ったけれど、どうしてもって」

「自動車の速度について来られるんですかね?」

 マコは、ほとんど何も考えずに、浮かんだ疑問を口にした。

「ええ。だから、出発は少し待って欲しいそうよ。駐屯地から馬を連れて来るそうだから」

「ああ、そうなんですね」

 それを待たずに先に進みたかったものの、ここの自衛隊とシュリたちが険悪な関係になっても不味いので、マコは大人しく頷いた。


「護衛って言うことは、話にあった猛獣が出たら、退治してくれる、ってことですよね」

「可能なら退治するかも知れないけれど、猛獣を仕留めるかどうかはともかくとして、私たち、正確にはマコさんを逃がすことを目的に動くでしょうね」

 シュリの説明にマコは頷いてから、考えに耽る。

「マコさん、何か気になることでも?」

 スエノが首を傾げた。


「うーん、えっとですね、あんまり褒められたことじゃないんですけど、万一猛獣が襲って来た時にですね……」

 マコは、護衛の三人に考えていることを話した。

「それは、確かに褒められたことじゃないわね。マコさんにしても、私たちにしても」

 シュリが言うと、マコは少し残念そうな顔をした。

「やっぱり、駄目ですか?」

「いえ、採用します。ここの部隊はいい顔をしないでしょうが、結果を見せれば問題ないでしょう」

 シュリは、にやっと意地の悪そうな笑みを浮かべて言った。いつも、きりっとしているか優しい笑みを浮かべている彼女の、そんな表情は珍しい。マコも、自然に頬が緩んだ。


「それなら、そういうことで。あ、ここの人たちには話しておきます?」

 マコは聞いた。

「いえ、絶対に反対されるから、黙っていましょう」

 シュリは悪戯っ子のような笑みのまま答えた。

「じゃ、もし猛獣に遭遇したら、そう言うことで、お願いします。スエノさんとマモルも、よろしくお願いします。まあ、襲われないのが一番いいんですけどね」


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 しばらくして近くの駐屯地から四頭の馬に乗った自衛官がやって来た。少し馬を休ませた後で、自動車は開かれた柵の間を抜け、馬に乗った自衛官も後に続いた。

 柵は、さらに奥にもう一つあり、それも抜けると、馬は自動車の斜め四方に位置取り、時速二十~三十キロメートルほどの速度で走り出す。


 自動車のハンドルはマモルが握っている。後席のマコの隣にはシュリ。

「あたしもその内、自動車の運転を習いたいですね」

 マコが言った。

「運転なら、私たちがやりますよ」

 シュリは外を警戒しながら、マコの話に付き合った。

「それもいいですけど、自分でも運転してみたいんですよ。故郷(いなか)に帰ると移動手段が自動車しかなくて、いつもレイコちゃんや祖父母に連れてってもらうしかありませんでしたから」


 移動手段としては自転車もあるが、自動車に比べて行動範囲が限られる。マコは、十八歳になったらすぐに自動車運転免許を取ろうとと思っていたが、旧世界のそれは永遠に取れなくなった。不要になったと言い換えてもいい。それなら、今からでも運転技術を習っておくのはいいと思った。魔法を広めるために全国を回ることになったら、自分でも運転できた方がいいし。


「えっと、八キロくらいで危険地帯は終わるんでしたっけ」

「そう言っていましたね。この速度なら三十分もかからないでしょう」

「スピードメーターないけど、判るんですか?」

「ええ。景色の流れる速さで、大雑把には」

 すごいなぁ、とマコは思う。それほど速くはない、ということはわかるものの、速度までは大雑把にすら判らない。自分で運転するならそれも判るようにならないといけないな、とマコは思う。


 何事もなく一行が進めたのは、柵を通り抜けてから十分弱だった。魔力を周囲百メートルに渡って広げていたマコが、大型動物の群を感知する。

「前方やや右、距離約八十メートル、動物の群ですっ」

「速度落とせっ」

 シュリが鋭く命令する。自動車が徐々に速度を落とし、続くシュリの指示で停車した。四頭の馬も止まる。


 マモルとスエノが自動車から降りた。続いて、マコとシュリも。

「何かありましたか?」

 馬に乗った自衛官、伍関二尉が聞いた。

「右手の森の中、果樹園ですかね、大型の動物がいます。前方五十メートルほど。近付いているので、多分こっちに気付いています。数は十一」

 できるだけ簡潔に、と心掛けて、マコは伝えた。


「総員下馬っ。戦闘準備っ。皆さんは後ろへっ」

「いや、お待ちを」

 伍関二尉をシュリが遮った。

「まずは我々にお任せを。我々で対処しますので、万一に備えて、後方に布陣してください」

「いやしかし、拳銃、それも三丁では対応は不可能です。ましてや民間人を守りながらなどっ」

 ほかの三人の自衛官も馬から下り、鞍につけてきた自動小銃を装備してすでに配置につき、銃を構えている。


「問題ありません。魔法が使えることはお伝えしましたよね? 十一頭程度の猛獣なら、それだけで十分です」

「急いでくださいっ。もうすぐ出て来ますっ」

 マコが、あまり声を大きくしないように意識しつつ、それでも鋭く言う。

「時間がありません。自分と矢樹原二尉は自動車前方へ、四季嶋二尉はマコさんの護衛と、右手を警戒、伍関二尉以下四名は二手に別れて前方と右手のバックアップ。行動開始っ」

 伍関二尉は何か言いたそうではあったが、シュリの方が階級が上でもあり、大人しく従うことにした。彼女の言う通り、口論している時間が惜しい。


 シュリとスエノが三メートルほど前に出て拳銃を抜き、しかしそれを構えずに右手は下に垂らして左手を前に出す。自動小銃を装備した二人は、彼女たちの斜め後方で小銃を構えた。

 マモルは、マコの右手一メートルの位置ですぐ横の果樹園を警戒し、その左右で二人の自衛官が小銃を構える。


「来ますっ」

 マコが言うまでもなく、自衛官たちは下生えを踏みながら木々の間を走っている複数の影に気付いていた。前方十メートルほどの地点から道路に飛び出した、七頭のライオンに似た獣が、シュリとスエノ目掛けて全速で走って来る。

 僅かに先行する二頭がシュリたちの前方五メートルほどまで近付いたその時。


 ジュバババッ。


 その二頭は突然身体を跳ねさせると、地面に倒れこんで動かなくなった。

「マモルっ、右から四頭、来るっ」

「了解っ」


 前方の五頭は、二頭が突然倒れたことで怯んだのか、一瞬動きが緩慢になる。が、すぐに前にも増した勢いで突進する。しかし、その一瞬の間に魔力を再展開していたシュリとスエノの電撃により、さらに二頭が地に倒れ伏す。

 残る三頭は地を蹴り、空中を跳んでシュリとスエノに上空から遅いかかる。

 が、しかし。


 どどどっ。


 三頭の獣は、見えない壁、マコが周囲に展開していた物理障壁に頭から思い切り追突し、地面に転がった。


 その間に、横の果樹園から飛び出した四頭の獣のうち二頭が、マモルの電撃を受けて地面に倒れる。さらに駆け寄る二頭も、マコの物理障壁に頭をぶつけて地面に落ちた直後に次のマモルの攻撃で感電し、動かなくなった。いや、四肢が痙攣している。


 前方で物理障壁にしたたかに頭をぶつけた三頭のうち、一頭は動かなかったが、二頭がよろよろと立ち上がろうとする。そこへ、シュリとスエノの三度目の雷撃が容赦なく襲い掛かり、敢え無く地に突っ伏した。


 最初の獣が道に出てから僅か十秒ほどの出来事だった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「目標に注意しつつ、状態を確認。生きていたらとどめを刺せ。四季嶋二尉はマコさんを警護。マコさん、物理障壁の解除を」

「はい」

 四人の地元自衛官が呆気に取られて声も出せない中、シュリが良く通る声で命じた。

 自衛官たちはすぐに動き出した。マモルは銃を右手に下げたまま、マコの傍に来る。マコも物理障壁を解除し、周囲の警戒だけを続けた。


 自衛官たちは、まだ息のあった三頭の獣の命を刈り取り、獣の死骸を道路の端に寄せてから、戻って来た。

「行きましょう。マコさん、乗ってください」

「はい」

 全員が乗車、あるいは騎乗し、一行は再び進み出した。


「あの、さっきの死骸、どうするんですか?」

 マコとしては当然、食料の足しにするものと思っていた。異変前ではそんなことを考えもしなかっただろう。

「後で取りに来るそうです。一応、魔法で凍らせておきましたし、日陰に移動したから一日くらいは大丈夫でしょう」

 シュリは笑顔で答えた。

「道の横に退けた後で何かしてるなぁ、って思ったら、そんなことしてたんですね。シュリさんも魔法に慣れて来ましたね」

「マコさんの魔法を近くで見てきましたからね」


 考えてみれば、シュリもスエノも、そしてマモルも、マコの視界に入っていない時でもマコを陰ながら見守っている。交代で休憩を取っているから、全員が常に、とはいかないが、それでもマコが魔法を使っているところを、マンションの住民の誰よりも見ているかも知れない。

「マコさんには遠く及びませんけれどね」

「年季が違いますからね。って、あたしも使えるようになっても一年くらいだけど、シュリさんたちの倍くらいは経験がありますから」

「そうですね。自在に使えるように、精進します」

「頑張ってください」


 魔法の真髄は、魔力量よりも魔力を展開する速さと精度にあると、マコは考えている。シュリもスエノも、獣の身体に合わせてかなり正確に魔力を展開していたし、速度も速かった。マモルも、二頭の獣を同時にほとんど無駄なく魔力で覆っていた。

(うかうかしてると、そう遠くないうちに追いつかれちゃうよね。別に、あたしが一番である必要はないんだけど、魔力量が多いのに魔法が下手じゃ、情け無いもんね。あたしも頑張らないと)


 そんなことを考えるマコを乗せて、二度目の猛獣の襲撃を受けることはなく、一行は危険地帯を通り過ぎた。

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