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15-3.結界

「前にさ、思っていることがあるって言ったでしょ? 気持ちがまとまったら話すって」

 マモルと一緒に食器を片付けながら、マコは言った。

「うん。確か夏祭りの時だったかな」

「それってさ、さっきの魔法教育のために全国を旅することだったの」

「そうなのか」

「うん。あの時は、そういうのも必要だろうなぁ、って考えてはいたけど、あたし一人で五人ずつ五日の授業をやってたんじゃラチがあかないから、必要だとは思っても、言い出せなかったのよね」


「それで、魔鉱山の魔法教室はスタイルを変えたわけか。モデルケース的に。人数を増やして、時間も短縮して、重要なこと以外はみんなの自主性に任せる、と」

「勘のいい旦那さんは大好きよ」

 洗い物を終えて、マコはマモルに飛び付いた。

「わっ。危ないよ。まだ皿を拭いているんだから」

「えへ、ごめん。なんか嬉しかったから」

 マコはマモルから離れて、夫が最後の皿を拭き終わるのを待った。


「それじゃ、お祖父さんの家と言うか街で、魔法教室をやるわけか。結構時間がかかるんじゃないか?」

 椅子に座ったマモルは、向かいではなく隣に座ったマコに言った。

「そうだね。人口は五百人くらいなのかな? 町全体ならその二十倍くらいみたいだけど、お祖父ちゃん()の町内なら。もうちょっと少ないかも。それに、異変で人口が減ってる可能性もあるし」

「五百人か。対象者を約半数、一日四十人に教えるとして、一週間程度だな」

 マモルはざっくりと計算した。


「そうなるね。どれくらいあっちにいるかは判らないけど。あ、それから」

「何?」

「機会があったら、さっき言ったことと違っちゃうけど、実は、野営も体験しておいた方がいいかな、って思うんだよね。毎日ここに帰っては来られるんだけど」

「それは、全国を回ることになったら、いちいち帰って来られないから?」

「うん、そう」

 毎日、誰かの家に泊めてもらえるとは限らないし、そもそも人家のない場所で夜を迎えることになるかも知れない。そうしたら、否応もなく野宿になるのだから、機会があれば体験しておいた方がいい、とマコは考えた。


「けれど、それはあまり薦められないな」

 しかしマモルはマコの考えに渋い顔をした。

「やっぱり?」

「うん。夫としても護衛としても自衛官としても。この辺りは少ないが、それでも野犬の群はいるし、眠っている間に襲われたら、正直マコを守り切れるか自信がない。その時は守り切っても、俺が負傷したら次はないかも知れない。そう思うと、素直には頷けないよ」


「マモルのそういうところも好き。えへ」

 マコのお願いに駄目出しをしたにもかかわらず、マコに微笑まれてマモルは不思議そうに妻を見た。

「ここでなんでお礼が出てくるんだ?」

「だってさ、普通の男の人だったらここは『何がなんでも守ってやる』って言いそうなものでしょ? でもマモルは正直に、できないことはできないって言ってくれるからね」

「……それって普通、頼りないって思われないかな」

 それが解って言っているのだから、我ながら情け無いよな、とマモルは思う。


「そんなことないよ。見栄を張らずにできないことはできないって言える人は信頼できるし、最高に格好いいよ」

「そ、そうか」

 満面の笑みで素直な気持ちを伝えるマコに、マモルは照れた。

「野営の是非はまた後にして、今日はもう寝るか?」

「そうだね。陽も短くなったもんね」

 今はマコが魔力を光に変換しているので部屋の中は明るいが、外は真っ暗だ。まだ暑い日は時々あるが、季節は秋に入っている。異変前なら宵の口にもならないような時間だが、魔法が使えるようになった今も、日の入りからそれほど時間を置かずに床につく人がほとんどだ。


 二人も、今日は布団に入ることにした。本当に眠りに就くのは、少し先になるだろう。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 マコが祖父母に会うために帰郷することについては特に問題なく決まったが、すぐに出発というわけにはいかなかった。

 二人の住む土地まで、直線距離であれば百十キロメートルほどだが、主要道路を選んで進むと百六十キロメートルを超える。その上、道路事情も完全には判らないので、移動距離はさらに増えるかも知れない。

 そのため、マモルは本隊にマコの小旅行計画を伝えると共に、できる限りの情報を集めてルートの選定をしている。


 移動に自動車を使うが、まだ一台しかないので、二台目の完成を待つ必要もある。これも、それなりに時間がかかりそうだ。

 特別魔法教室は、二日だけ休みを入れることにした。残りの日は、基本的に瞬間移動で毎日帰って来て授業を継続する予定だ。


 そして、自動車の完成を待つ間も、マコは魔法の探究に勤しんでいた。今考えているのは、“結界”だ。故郷への旅行では、野営する案は却下されたが、全国行脚することになれば、望まなくとも野営が必要になる。その時、物理障壁を張っておけば、危険の大部分を排除することができるだろう。

 しかし、魔力を広範囲に広げて維持する方法では埒が明かないと判断したマコは、別の方法を模索することにした。


 椅子に座ったマコの前のテーブル上に、数欠片の魔鉱石が転がっている。その中から二個を取り分けて、目の前に三十センチメートルほどの間隔を空けて並べた。

「えっと、まずは魔力を込めてっと」

 二個の魔鉱石に目一杯まで魔力を込める。見た目は何も変わらない。

(そう言えば、自動車の魔力機関に込めた魔力の残量が判るように、ってのもやらないといけなかったっけ。まあいいや。優先順位は低いから後回し)

 以前、自動車技師から頼まれた機能をふと思い出したマコだったが、自己スルーする。


「ええっと、どうしようかな。両方の魔鉱石から魔力を伸ばして、結び付ける、とかできるかな」

 二つの魔鉱石の魔力を意識し、伸ばしてゆく。魔鉱石から伸ばせる魔力の距離は約十メートルだが、今は隣の魔鉱石までだ。

 両側の魔鉱石の魔力を相手方に繋ぎ、そっと意識を離す。

「……上手くいってる気がする」

 通常なら、魔力から意識を外すと魔鉱石の周囲二・一ミリメートルの外にある魔力は魔力(ダスト)に変わって消えてしまうのだが、今は意識を外しても二つの魔鉱石の間に魔力のラインが引かれているのを感じる。


「あ゛~~~、こんなに簡単なことだったなんて~~~」

 マコはテーブルに突っ伏した。今まで、無意識に広げた魔力を維持できないかと色々試してできなかったことが、魔鉱石を複数使うことで簡単にできてしまった。最初から魔鉱石を使う方法を思い付くんだった、と思うと、マコは気が抜けた。

 しかし、すぐにがばっと身を起こす。

「過去を後悔するのはやめよう。少しはあたしの魔力保持能力も向上したんだから、無駄じゃなかったし。

 えーっと、これだけじゃ使えないから、次はっと」


 マコは、さらに一個の魔鉱石を置いた。三個の魔鉱石がおおむね正三角形の頂点となるように並べる。

 続けて、三個目の魔鉱石から二個の魔鉱石に魔力のラインを伸ばす。

「うん、大丈夫、繋がってる。両側から伸ばさなくても、片側からだけで大丈夫みたい」

 念のため、しばらく放置してみるが、魔力の三角形は消えることなく維持できている。


「よし。次は、線じゃ結界として機能しないから、面にするには」

 ここまでくると、あまり考えることなく三個の魔鉱石から魔力を放出させ、三角形の中に面上に魔力を満たして行く。そこで魔力の放出を止め、またしばらく観察した。魔力の膜は、消えることなく残っている。

「できた~~。魔鉱石超便利。きっと他にも使い道はあるよね。色々考えていこっと。取り敢えず、この結界について色々調べなくちゃ」


 結界を形作る魔力は、魔鉱石の魔力濃度と同一になるように均された。結果として、魔鉱石に込めただけの状態よりも濃度が薄れているが、魔力を新たに注ぎ込むと、魔鉱石に溜め込める限界まで回復した。


 膜の厚みは、二・一ミリメートルまで増すことができた。四・二ミリメートルまでいけるんじゃないかな?とマコは何度か試したが、二・一ミリメートルが限界のようだ。


 結界の膜の頂点となっている魔鉱石を動かすと、膜の形も合わせて変わり、魔力濃度も一時的に濃淡ができるものの、すぐに均一化された。ただ、大きく広げた状態で魔力を最高濃度まで注ぎ込み、三角形を小さくすると、魔鉱石の最大濃度以上の魔力は魔力(ダスト)となって霧散した。


 魔鉱石の間隔をどれくらいの距離まで広げられるかも試した。魔鉱石については、まだ『魔力を大量に貯められる、魔力機関の作製に有効な材料』くらいしか公表していないので、まずは家の中だけでの試行だ。

 マコは、「魔鉱石から十メートル離せるんだから、二十メートルくらいはいけるんじゃないかな」と期待していたが、結果は五・一メートル。外に出る必要もなく家の中だけで確認できた。

(魔鉱石に対する魔力操作能力とはまた別なのかな。それとも、その半分くらいなのか)

 それを確認するには、魔鉱石の能力をもう少し公表して複数の住民の協力を仰ぐ必要がある。


魔力(セルフ)のまま貯えられることは公表しちゃってもいいかな。魔鉱山の人たちには教えたし、自衛隊にも教えたし。問題は米軍のスパイだよね。特殊な機能があるって知られたら、マッド博士が取りに来そうだし)

 今は、自分がどの程度使えるかが判ればいいからと、後回しにすることにして、マコは検証を続けてゆく。


 膜にした魔力を魔力障壁あるいは物理障壁として展開することも可能だ。これで、文字通りの結界を張ることが可能になる。

(裏山との境に作った柵の代わりに使えないかな? 普段は何もなくて、ボタンを押せば結界を展開するとか)

 少し考えたがすぐには思いつきそうにないので、異世界ノートに覚書として書いておく。


 また、魔鉱石を四個にして三角錐の頂点に配置すると、空間に魔力を満たせることも判った。

(これって防犯に使えるかな? ……うん、使えそう。あんまり必要ないけど、魔鉱石の倉庫に仕掛けておこうっと)

 魔鉱石の欠片を数個、倉庫の柱の中に瞬間移動させて、結界を張る。物理障壁は展開せず、魔力障壁(魔力(フィルム))のみにした。物理的には壁で隔離されているから、魔力の侵入だけ防いでおけばいい。


「取り敢えずこんなとこかな。そろそろお昼になるし、ご飯の用意しよっと」

マコは魔鉱石を片付けて、椅子から立ち上がった。



マコの使える魔法:

 発火

 発光  ─(派生)→ 多色発光

 発熱

 冷却

 念動力 ┬(派生)→ 物理障壁

     ├(派生)→ 身体浄化

     └(派生)→ 魔力拡声

 遠視

 瞬間移動

 念話

 発電

 魔力障壁

 結界(要・魔鉱石)(new)


マコの発明品(魔道具):

 魔力灯 ─(派生)→ 蓄積型魔力灯

 魔力懐炉

 魔力電池

 魔力錠

 魔力枷

 魔力機関 ─(派生)→ 魔力機関・改

 魔力冷却版

 魔力扇風機─(派生)→ 魔力冷風機

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