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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第十四章 魔鉱山

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14-9.魔鉱山の改善

 翌日、マコが起きた時には、乗ってきた自動車の一台から魔力機関がすでに下ろされていた。朝食を摂った後、魔力機関から本体となっている金属の円柱を瞬間移動で取り出し、魔鉱石の塊から同じ形状・大きさの円柱を取り出して魔力機関に納める。《込めた魔力を魔力(フリー)にする》ことも忘れない。

「終わりました」

「早いね」

 マコが言うと、整備員が感心したように言った。

「魔法を覚えて、もうすぐ一年ですからね。慣れですよ」

「そればかりじゃないと思いますがね。本体部分、もう一つ作れますか? 今日明日でもう一基、作っておきますから」

「はい、解りました」


 マコは、魔鉱石からもう一つ円柱を切り出す。

「内側の円筒にも魔鉱石が必要ですけど、それはどうします?」

「それは組み上げた後でお願いします。自分が貼り付ければいいのでしょうが、精密作業には機材が足りなくて。マコさんに頼りっ放しですみませんが」

「構いませんよ。それじゃそっちは、後でですね」

 どちらにしろ、魔力(コマンド)を込めるのは魔力機関を形にした後の方がいい。マコは、整備員に後を任せて、魔法教室の天幕に向かった。


 魔法教室は前日と同じだ。違ったことは、民間人の何人かがフライパンや鍋、やかんなどを持参していたことだ。

 魔力感知能力を引き出し、基本的な講義を終えると、それらの道具を魔道具にするよう頼まれたマコは、快くそれを受け入れた。これも、魔鉱石を採掘し譲ってもらう対価の一部でもあるし、元々そのつもりだったこともある。


 授業の合間には、何人かが魔法について質問に来た。マコは一人一人、それに対応した。

 それ以外の時間は採掘の様子や魔力機関の作製の状況を確認したり、マコの知らない、ここでの生活の知恵を学んだりした。


「テントや小屋の中に虫が入って来ないなって不思議だったんですけど、これなんですね」

 天幕や丸太小屋の周りに置かれた小さな木製の容器の中に入れてある、刻んだ木の葉。その香りが虫を寄せ付けない、と説明されてマコはふんふんと頷いた。木の葉の下に焼いた石を入れておくことで、香りが遠くまで広がる。

 こぶし大の皿を四、五メートル置きに並べておくと、ほぼ完全に虫を防げるそうだ。


「この葉っぱ、二、三枚もらっても構いませんか?」

 マコは、説明してくれた女性に聞いた。

「構いませんよ。それだけでいいんですか? 二、三枚じゃすぐに終わっちゃいますよ」

「あたしたちのコミュニティ、結構遠いので、近くに同じのがないか探してみようと思います。見つからなかったら、また考えます。元がマンションなので人数が多いですから、必要な量をもらったらとんでもない量になりそうですし」


 それに今回は、とにかく魔鉱石を持ち帰ることが目的なので余計な荷物を積んでは帰れない。木の葉であれば重量は少ないが、大量になれば容積は大きくなる。魔鉱石の量を削ってまで持ち帰るほどの価値はない。それに、去年まで使っていた蚊取線香が残っていることもある。


 もっとも、『価値がない』とマコが簡単に考えてしまうのには、他にも理由があった。無意識のうちに余剰魔力を熱や冷気に変換しているマコは、同時に小さな虫が魔力(ホールド)に触れた時に、無意識に力に変えて弾いていた。そのため、虫の羽音を鬱陶しく思いはしても、この夏はまだ、虫刺されを体験していなかった。それもあって、(異世界の虫って人を刺さないのかな?)と他の住民たちに比べて呑気に構えていたのだった。


(これが裏山にでも生えていれば、虫の羽音に悩まされることもなくなるね)

 それ以上の効果が齎されるはずだったが、そんなわけで、マコはそこまで思い至らなかった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 午後の魔法教室が終わった後、テントに住んでいる人たちに案内されて、彼らが元々暮らしていたマンションやアパートに行き、使わなくなった自動車や冷蔵庫から金属板を切り取って持って来た。自動車があるので、移動や運搬に苦労はなかった。人々の注目は浴びていたが。

 持ち帰ったそれで、魔力冷却板や魔力灯、蓄積型魔力灯を作って提供する。


「私たちも自分で作れるようになるといいんですけどねぇ」

「コツさえ掴めば、作れるようになりますよ。練習あるのみです」

 しみじみと言う小母さんを、マコは元気付けた。

 実際のところ、マコの住むコミュニティでも魔法職人は二十人に満たないことを考えると、魔道具を作れるようになるハードルは高いと考えられる。しかし、モチベーションは高く持ってもらった方がいいので、マコは余計なことは言わなかった。


 そもそも、マコからして何も知らないところから魔道具を作れるようになったし、ここに来てからも魔力を知覚させて魔法の使い方を座学で教えただけで実践は自主学習としたのに、みんな魔法を使えるようになっている。それなら、魔道具の作製も手取り足取り教えずとも、できるようになるはずだ。

 そこまで詳しくは言葉にしなかったが、マコは小母さんに、魔法教室で教えたことを振り返り、魔力操作の練習と合わせて使い方を工夫していくように伝えた。


 夕食の前に魔力機関の工作を見に行くと、魔力機関を巻き上げ機に繋いでいるところだった。間に何個かのプーリーを挟んでいる。

 今日はその工作を行なっていたため、昨日と同じく手動で魔鉱石を引き揚げていたが、明日からは自動化できそうだ。


「明日は様子見で、二個程度でしょうが、上手く動けば明後日からは一日四個は取り出せるでしょう」

 魔力機関と巻き上げ機の接続を終えた整備員が、マコに気付いて話し掛けて来た。

「もっと速くはなりませんか」

「坑道も狭いですし、ロープの耐久力もありますから」

「そうなんですね」

 現場の縦穴の奥を直接目視はしていない(危険だと言うことで見せてもらえない)マコは、自衛官たちの判断に任せることにした。無理を通して事故が起きては悪い。


「あの、魔力機関と滑車を繋いでいるベルトは何を使ったんですか?」

 マコは、魔力機関とプーリーに掛けられている茶色のベルトを指差した。少し離れているので魔力機関を含めた構造物全体を示していることになってしまうが、何を指しているかは伝わった。

「あれは、持って来たビニールの木の樹液から作りました。こんな風に使うとは思っていませんでしたが」

「そうなんですね。ビニールの木って見つかってから大活躍ですよね。この辺りにもあるのかな」

「持って来た枝と葉を参考に探してみるそうです。オイルの木も」


 自動車のタイヤはビニールの木の樹液を使っているので、メンテナンスを考えると現地調達できた方がいい。潤滑剤も同じだ。物流が生きているならば、必ずしも現地調達の必要はないが、今はそれがほぼ完全に止まっているのだから。


「新しい魔力機関の作製は明日からですか?」

「そうなりますね。予定通り、自動車の他に二基を提供します」

 それをどう使うかは、現地の自衛隊に一任する。と言うより、彼らに譲渡するのだから、その後のことは干渉のしようがない。一基はこのまま、魔鉱石の採掘に使われるだろう。


「今日の分も、もう切り出しちゃっていいですか?」

「そうですね、少しお待ちください」

 整備員が、現地の自衛官に確認してから、マコは魔鉱石から円柱を切り出した。さらに、乗って来たもう一台の自動車の魔力機関も、その本体部分を魔鉱石に変える。

 これで、魔力機関の出力は二十倍程度になっているはずだ。正確には、運動エネルギーに変換される魔力機関の魔力濃度が二十倍になっているので、本当に出力がそれだけ上がるかどうかは判らないし、自動車に搭載した時にどれだけ速度が上がるかも、試してみないと判らない。自動車に積めるだけの魔鉱石の採掘には数日は掛かるので、それまでには試運転も十分にできるだろう。


(帰りは、早く帰れそうかな。そのうち、最高速度試験とか必要かな。木製だから、先に車体に限界が来そうだけど。金属加工が昔くらいに戻って、自動車の車体を作れるようになってからかな。それより、残っている車体に合わせたサイズの魔力機関を作れば、そのまま載せられないかな)

 整備員と別れたマコはつらつらと考えるが、異変前の自動車の車体を流用することは、当然そう簡単ではない。何しろ、自動車に使われていた石油由来の部品が大量に無くなってしまったので、エンジン以外にも用意するものは多くある。

 だからこそ、マンションで自動車を作った技師も、自衛隊も、新しい車体を作ったのだ。もっとも、自衛隊は最初は古い自動車に載せて試しはしていたが、結局新しい物を作ったのだから、どちらがより簡単だったのかが解るというものだ。


 夕食を摂り、陽が落ちると、マコはマモルと共に、早々に床に就く。

「魔法職人と魔鉱石が少ないのがネックだよね」

「日本の物流の再開か?」

「うん」

「そうだな。まずは馬車を使った移動が主流になるんじゃないかな」

「でも、馬って殆どが競走馬じゃない? 馬車を牽かせても長時間は牽けないんじゃないの?」

「そうでもないらしい。異変の後、馬も姿が変わっただろ?」

「あ、そう言えば。なんかロバっぽくなったよね」

 マコは、魔道具作製のために、マンションにトラックの荷台を牽いて来た馬の姿を思い出した。


「そう。それで、最初のうちは馬車を牽かせたらすぐにバテていたけれど、半年ほどの訓練で割と長時間でも牽けるようになったよ」

「へえ、そうなんだ。体格が変わって筋肉の付き方も変わったのかな。じゃ、最初は馬車をメインに、少しずつ自動車を増やしていく感じかな」

「それがいいんだろうな。いきなり元に戻すのは無理だから、ゆっくりと、だよ」

「うん、そうだね」


 レイコのためにも急ぎたいマコだったが、それで歪みが出てしまっては元も子もない。マモルの言う通りゆっくりと復興に協力していこう、とマコはマモルに寄り添った。マモルも小柄な妻を優しく抱きしめた。

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