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14-8.魔鉱山にて

 魔鉱山での午後の魔法教室を始める前に、マコは魔鉱石の採掘現場を見学に行った。

 採掘と言っても元が油田のため、石油を汲み上げていた穴を広げた上に、太い木材で四角錐状の木組を作り、滑車とロープを使って引き上げている。

 当初は狭い縦穴だったために、当初マコの元に齎された魔鉱石は小さな物だったが、追加の魔鉱石の最初の使い途が魔力機関の本体であることから、大きな塊で採掘するために、縦穴はかなり広げられている。


 木組から下がるロープは一本ではなく、数個の滑車から何本も地下に降りている。動滑車を複数個使っていることが窺える。それだけの重量があるということだ。滑車から伸びたロープは、地上に固定された大きな巻き取り機に繋がっていて、自衛官が四人がかりでゆっくりと巻き上げている。


 近付くと危険だと言われて、マコはマモルに見守られつつ、駐屯地から一緒に来た整備員の隣に立って見学した。

「どれくらいの深さにあるか聞きました?」

 マコは整備員に聞いた。

「三百メートルと少し、と言うところですね。巻き上げているロープの具合から見て、半分以上は上がっているから、今日中には引き揚げられるでしょう」

「そうですか。えーっと、穴の大きさからして、大きくても一メートル四方くらい、それが一日一個。うーん、もうちょっと効率を上げたいですね」


 実のところ、マコは現在回収中の魔鉱石の大きさを正確に把握していた。魔力を縦穴に伸ばして探ったので。

(瞬間移動させれば一瞬だけど、あたしがずっとここにいるわけにもいかないし、ここの人たちに採掘してもらわないと。でも、慌てて落としたら不味いし。機械を使えればいいんだけど。……ん? 機械? あるじゃない)


「あの」マコは整備員に声を掛けた。「ロープを巻き取るのに、魔力機関を使えませんか? 一旦自動車から下ろして、巻き取り機の動力に使ったら。あ、それよりも、今採取している魔鉱石で新しい魔力機関を作った方がいいかな。その方がパワーが出るし」

「なるほど。ここの担当と相談して来ましょう。魔鉱石を材料に使うと、どれくらいパワーアップするか判りますか?」

「そうですね、大きさが同じなら、ざっくり二十倍くらいです」

「そんなに? それなら確かに、自動車の魔力機関を下ろすより新しいものを作った方が早そうです。すぐに計画を立てます」

 整備員は足早に去って行った。


「マコ、そろそろ午後の授業に行った方がいいんじゃないか?」

 マモルが言った。

「うん、そうだね。時計がないと不便だよね」

「機械式の腕時計は残っているけれど、一度ゼンマイが切れると時刻合わせができなくてね。合わせるのはなかなか大変だな」

「ほかの時計と一緒に合わせるくらいしかできないもんね。あとは正午で合わせるのかな。もっとも、そこまで正確に合わせる必要もなくなっちゃったけどね」


 正確な時間が判らないと、待ち合わせに困る。今はコミュニティ内の人くらいしか会うことはないし、広場に大時計も設置されているので、それほど不便を感じることはないが、こうしてコミュニティの外に出ると、時計がないことを不便に感じる。

(一度便利に慣れちゃうと、その道具がなくなった時に困るよね。魔鉱石でなんとかできるといいけどな)

  異変前から変わった不便なことを切実に感じつつ、マコは魔法教室のために天幕に向かった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 午後の魔法の授業が終わった後、午前中に授業を受けていた人々が仕事の合間に練習を続けていたらしく、暗くなり始めた頃から、そこここに魔法の光が灯った。

 いつものように鋼板も持って来たが、魔道具にして配るには数が少ないため、不公平感が出るので、それは魔鉱石の対価には含めなかった。代わりに、材料を用意してもらった場合には、その場での魔道具の作製を請け負い、魔力フライパンや、蓄積型魔力灯、魔力冷却版などをいくつか作った。


 今までは、種火を残しておいて公園内や周りの森で枯れ枝を拾って来て火を使っていたそうだが、枯れ枝を集める必要がなくなるので、その分の時間を別の仕事に当てられる。冬になれば状況は異なるだろうが、夏に薪を集めて備えることもやりやすくなるだろう。まだ魔力を操作できるだけの人も、魔法の恩恵に感激していた。


 その日の夕食は、魔法教室にも使った天幕とその周りに集まって、まるで大宴会のような様相になった。料理の種類はマンションと同じく多くのレパートリーがあるわけではないが、魚が多かった。海が近いので入手しやすいのだろう。森で獲った獲物と物々交換をしているのかも知れない。

 天幕を囲うように、上空三メートルほどの高さに円形に灯っている光は、もちろんマコの魔法だ。常に魔力を補充する必要はあるが、この程度なら何ほどのものでもない。

 ここにテントを張って暮らしている住人は四十人ほど。それに今は、常駐している自衛官が約二十人。時々交代しているので“常駐”とは言わないかも知れないが。


 その全員プラス魔法教室のために来ていた二十人も合わせた八十人のうち、半数以上が天幕とその周りに集まっている。中心にいるのはマコで、魔法に関する質問が止まることなく飛んでいた。

 もう一つ、自衛隊の整備員を中心にした輪もできていた。そちらでは、魔力機関を自動車に使う際の技術的な会話が為されている。魔鉱石そのものよりも自動車に注目が集まるのは仕方がないところだろう。何しろ、魔鉱石の有用性はここの人々にはまだ話していないのだから。


 魔鉱石は、魔道具の材料として有用なだけでなく、大容量の魔力タンクになる。魔道具を作ることは誰にでもできると言うわけではないが、魔力タンクとしてなら誰でも使えるだろう。今はまだ魔力を感じられるようになって間もないから、魔力タンクとしての使用もあまり意味がない。

 しかし、エネルギーへの変換だけでもできるようになれば、魔力量の少ない人でも魔法を使わない時に貯めておくことで、必要な時には継続的に魔法を使えるようになる。


 また、魔鉱石感知能力が高ければ、魔力操作能力が弱くても、遠距離から魔法を使うこともできる。それに、魔鉱石の力を広めれば、マコが気付いていない利用法を思い付く人が現れるかも知れない。

 そのためには、魔法使いが増え、なおかつある程度の量の魔鉱石が採れなければならない。

(そう考えると、二面作戦を取らないといけないかな。それとも、考える必要ないかなぁ)

 夕食を終えて、後片付けの間も光で辺りを照らしている間も、マコは色々と考えていた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「今日掘り出された魔鉱石は結構大きかったな」

 割り当てられた丸太小屋の中で、就寝の前の夫婦水入らずの時を過ごしている中、マモルがマコに言った。

「うん。あの大きさなら、魔力機関を二個作れそう」

 今日掘り出した魔鉱石は、ごつごつとしてはいるが、概ね、長軸が一メートル強の楕円体だった。


「一日かけてあれ一個じゃ、なかなか量が集まらなそうだけど」

「でも、今日のあれで魔力機関を作るんだろう?」

「うん。技師の人、あ、整備員さんだっけ、あの人と話して、自動車の魔力機関を魔鉱石製に変えて、それを下ろして巻き上げてもらうことにした」

「それは俺も聞いてたよ」

 マモルはずっと、マコの護衛として傍にいたから、当然聞いている。


「最初は調子を見ながらゆっくり上げるって言ってたし、一日二個くらいがいいところかな」

「明日はそれくらいかな。でも、少しずつ多くなるだろう」

「うん。それでもロープが摩耗していないかどうかとか、一回使うたびに調べるようだから、そんなに数を増やせないよね」

「そこは仕方がないな。下にも自衛官が二人待機しているし、落ちたら危険だからな」

「うん、解ってるよ。安全第一じゃないとね」


 一度事故が起これば、その後始末で余計に時間がかかることになる。そうでなくても、魔鉱石の採掘で人命が犠牲になっては意味がない。何しろ、マコが魔鉱石を求める目的の一つは、これを使って生活の利便性を上げることにあるのだから。もちろん、最大の目的は、魔鉱石を使ってどんな魔道具を作れるのか色々と試したい、ということだったが。


「それにしても、魔鉱石って不思議だよね」

「どのあたりが?」

 マコの言った言葉にマモルは疑問の言葉を口にした。

「えっと、鉄鉱石にしろ銅鉱石にしろ、鉱石っていろいろと不純物が混じってる物じゃない? でも、魔鉱石って全部が魔鉱石なんだよね。魔鉱石じゃなくて魔鉱って言うべきかな?」

「そう言われてみると、あの塊は黒一色で別の色は混じっていなかったな。光の当たったところが別の色に見えていたくらいで」


「うん、そうなのよね。鉱石って言うより、石って感じ。お陰で、そのまま瞬間移動で加工できるけど」

「そう言えば、魔鉱石の加工方法も考えるって前に言っていたけど、あれはどうなった?」

「まだだよ。内緒にしてたし。でも、溶かしてって言うのは無しかなって思ってる」

「どうして?」

「鉱石じゃなくて石なら、溶かしたら分解されちゃうんじゃないかなって。もしかしたら、魔鉱だけ分離できて、魔鉱石以上の何かになるかも知れないけど。まあ、試してみないと判んないね」


「ここで魔鉱石を大量入手できれば、それも試せるわけだな」

「うん、他にも色々とね。魔鉱石の情報公開をいつにするか、って言うのも考えないといけないけど」

「……今回の一回きりじゃ、まだ足りない、か」

「うん。漁船の魔力機関も改造してあげたいし、自動車も何台か作りたいし。そうすると、今回分はすぐになくなっちゃうよね。他の油田も全部魔鉱山として動かしたいけどね。道のりは長いよ」

 しかし言葉とは裏腹に、マコの声は弾んでいた。

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