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14-6.魔鉱石感知能力

 マモルが運転する、マコを乗せた自動車は、先行する自動車の後について住宅街を抜ける道を走っていた。

「なんか荒れてるね。誰も住んでないのかな?」

 マコは、左右の家の様子を見て言った。

「俺も概要を聞いただけだけれど、ここは野犬の群が住み着いていたそうだ。おそらく、ここの住民は近くのコミュニティに避難したんじゃないかな」

 マモルがマコに答えた言葉は、現実を正確に表しているとは言えない。実のところ、自衛隊が最初にここに踏み込んだ時には人間の骸がいたる所に転がっていた、と報告されていた。無惨な姿となった遺骸は自衛官たちの手で手厚く葬られてたので、今は腐臭もしない。


「住み着いている割にはあまりいないね。二頭くらい見たけど」

 マコは周りを見回した。少し前に、壊れかけた建物の陰から見えた程度で、ほかに野犬の姿はない。

「最初は四~五十頭もいたらしい。この道はおそらく何度も通ることになるだろうからと、駆除したんだよ」

「あ、そうなんだ」

 マコは運転台から周りの景色を眺めた。思い出すのは、誘拐された時に襲ってきた野犬の群と、一夜を明かした無人の集落のことだった。あの場所には野犬は住み着いてはいなかったが、あの集落も、野犬や、あるいはより危険な野生動物に襲われたのかもしれない。


「人を襲うような野生動物って多いのかな」

 マコは独り言のように言った。

「どうかな。物流が止まって人間が採集や狩猟をするようになったから、餌が減って凶暴化している可能性はある。が、きちんと調査しているわけでもないから、何とも言えないな」

「そうだよね。あたしたちの所はマンションで人が多いから、襲われにくいから参考にならないもんね」

「人口がある程度少なくて、動物がある程度多くないと、襲っては来ないだろうからね。草食動物でも数が揃えば襲って来ることは、この間のことでも判ったが」


「うん、ツノウサギの大量発生は大変だったね。あれが肉食動物だったら怪我人だけじゃ済まなかったかも。他でもあるのかな?」

「どうかな。報告はないが、情報の伝達が遅いから、どこかではあるかも知れない。欧州(ヨーロッパ)の地竜の例もあるし」

「あ、確かに。あれも野生動物が人間の集落って言うか軍事基地だけど、襲った例だもんね」

 どちらも、マコがいなければ被害はもっと広がっていただろう。欧州米軍基地の時は、民間人が残されていなければ米軍の物量で対応できたかも知れないが、それは異変の外からの力に頼ることになる。今後、全世界が異変に呑まれたら、人類に対応する術はあるのだろうか?


(いやいや、人間の最大の武器は、兵器でも魔法でもなくて知恵なんだから、みんな何とかするよね。最初は犠牲が出るかも知れないけど……)

 ツノウサギの時のように、何の準備も無しに突然ことが起こったら、犠牲は免れないだろう。

(みんなが魔法を使えるようになれば、防衛の戦術の幅が広がるよね。でも、自分で魔法を使えるようになるのは難しいみたいだし……何とかしたいけど)

 マコが責任を負うべきことではないものの、魔法の先駆者を自認するマコとしては、何かできないものか、と考えるのだった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 海辺の道に出て西へと進む。途中、何度か休憩を取って魔力機関への魔力補充を行なった。マコがいるので、魔力の補充に困ることはない。

 道程の半分ほどを過ぎた所で長めの休息を取り、昼食にした。

「ここって、東名高速道路ですか?」

 マコは麦(らしき穀物)から作られたパンを手にして聞いた。

「いや、東名道はずっと北ですよ。ここは国道一号線です。元、と言った方が正しいかも知れませんが」

 前の自動車を運転していた自衛官が答えてくれた。

「そうなんですね。異変前は家と学校の往復くらいしかしてなかったから、家の周りの地理にも疎くて」

 マコは無知を誤魔化すように笑った。


「この辺りでは製塩とかしないんですかね?」

 マコは少し先に見える海を見ながら言った。

「どうでしょうね。ここから少し西に行った所に元々塩田がありましたから、ここではそれほど必要ないのかも知れません」

「そうなんですね。自動車が普及したら、塩の製法なんかも教えてもらえるかな」

 後半は独り言のように、マコは言った。

「マコさんは、製塩も始めるつもりなんですか?」

「あ、いえ、ウチと塩を取り引きしてるコミュニティがありますよね? そこにノウハウを教えてもらえないかなって。まだまだ品質が安定してないから」

 首を傾げる自衛官に、マコは答えた。


「そうですね。ただ、そのためには魔法の使い方も広めなければなりませんね」

「そうなんですよね。今のところ魔力の知覚を促せるのが、あたしを含めて三人しかいないのがネックなんですよね。それと、移動手段が限られていること」

「ですね。けれど、移動手段の方は何とかなるのでは?」

「はい。今回ので魔鉱石がたくさん手に入れば。そうするとやっぱり、魔力覚醒を促せる人の不足が問題ですね」


 自動車も遠隔通信手段もなかった時代も人々は生活していたのだから、今のままでも生きていくのに困らない社会の形成は可能なはずだ。しかし、そう言った文明に慣れ親しんだ人々が、いきなりその恩恵を取り上げられては、満足な生活は難しいだろう。

(それを解決する手段になると思うんだけどな、魔法が。悩むなぁ)

 異変の前のように日本を繋ぐというレイコの計画に魔法で協力したいと思っているマコだったが、道のりはまだまだ遠い。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「あれ? マモル、ちょっと停まって」

 再び走り出した自動車で、マコが突然声を上げた。同時に前方に魔力を伸ばし、先行する自動車にも停車するように伝える。

「どうした?」

 尋ねるマモルをしばらく待たせて、マコは意識を集中した。前の二人も自動車から降りてやって来る。少し経ってからマコは顔を上げた。

「……レイコちゃんに渡した魔鉱石の魔力を見失ったの。あたしの魔鉱石感知の距離はこれくらいが限界みたい」


 それを聞いたマモルは、荷物の中から地図を出した。

「マンションがだいたいこの位置、今いるのが……この辺りですかね?」

「もう少し、この辺りだな」

 マモルの確認に別の自衛官が答える。

「だとすると距離は……九十キロから百キロってところだ」

「ありがと。あ、マンションの方角ってこっちの方?」

「もう少し南寄り、この方向だな」

 マコが指差す方角を、マモルが地図を見ながら修正する。


 マコは、持ってきた魔鉱石の欠片を荷物から取り出すと、掌に載せたそれに魔力を込めた。続いて、三人の自衛官が見守る中で、掌の魔鉱石が消失する。

 十秒ほど待って、マコの掌に魔鉱石が再び出現した。

「すみません、お待たせしました。行きましょう。あ、せっかく停まったから、ついでに魔力の補充もしておきますね」

「……その前に、今の一幕を説明して戴きたいのですが」

 整備員が苦笑いを浮かべながら言った。


「あ、すみません。えっとですね、魔鉱石に魔力を込めておくと、離れていてもそれを感じたり操作したりできるんですよ。操作するのはかなりの練習が必要ですけど。それで、マンションに置いてきた魔鉱石が感じられなくなったので、ちょっと実験してみたんです」

「実験とは、どんな?」

「魔力を込めた魔鉱石を複数使ったら、中継して感知距離を伸ばせないかなって思って、この魔鉱石に魔力を込めて一キロくらい戻った所に瞬間移動させてみたんです。でも、上手くいかなかったです。

 上手くいけば、小さい魔鉱石を等間隔に並べれば遠距離の念話もできるかな、って思ったんですけどね」


 しかし、そう上手くはことは運ばなかった、と言うことだ。魔法と言っても、架空の物語と違って、現実ではかなりの制限がある。その制限の一つを打ち破れないかと考えたのだが、無理だったようだ。

(そもそも、魔力操作能力の限界を魔鉱石で一度超えているんだもんね。同じ方法じゃ、そう何度も超えられないか)


 走行を再開した自動車の運転台で、マコは異世界ノートを開いた。

(えっと、人数は少ないけど、魔力操作能力と魔鉱石感知能力はっと)


     操作能力  感知能力

 シュリ 四・八三m  四四〇m

 スエノ 四・二〇m  四八五m

 マモル 五・六二m 一二〇〇m


(それであたしが)


 マコ  一・二km 一〇〇km


(澁皮さんと矢樹原さんのデータだけ見ると、魔鉱石感知能力は魔力操作能力の百倍くらいなんだよね。でも、マモルは二百倍くらいあるし、あたしは、えーっと、八十倍くらい? やっぱりこの二つの能力に相関関係はなさそうだなぁ)

 やはり別能力として考えた方が良さそうだ、と改めてマコは思う。


 ノートをしまって景色を眺めながら身を任せる。旧国道一号線を走っているということもあり、コミュニティを形成していると思しき場所がいくつかあり、人々が自動車に目を見張っていた。それもそうだろう、異変以来、まともに動く自動車はまだ三台しかないのだから。形状は、馬のいない幌馬車と言ったところだが。


「見えた。あそこだな」

 途中、旧国道一号線から別の道に入り、さらにしばらく進んで陽が西に傾き始めた頃、丸太小屋が見えてきた。四本の木材を四角錐に組んだものも。テントも何張りも見える。

「あたしたちのマンションのログハウスと同じような感じだね」

「でも、ベッドと布団はないそうだから、寝心地は期待するなよ」

「うん。あ、マモル、あっちの人の前でそんなこと言っちゃ駄目だよ」

「言うわけないだろ」


 やがて、二台の自動車は家に囲まれた広場に停まった。

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