14-0.三度目の異変
シドニーからオークランドへと向かう大型旅客船がその航路の半ばを過ぎた頃、異変は起こった。
「せ、船長っ。計器のカバーと、針が、消えましたっ」
突然の意味不明な報告に、船長は何を言われているのか理解できなかった。
「何を言っているっ。もう一度言えっ」
「ですから、計器のカバーと針が消失したんですっ」
わけが解らない。何が起きたと言うのだ。
「船長っ、速度が落ちていますっ」
今度の報告は操舵手からだ。
「なんだと? 機関室にエンジンの状況を確認しろっ」
「……駄目ですっ。通じませんっ」
線内通信用の受話器を手にした船員が報告する。
「すぐに確認してきますっ」
船長が命じる前に、行動を開始する船員。しかし彼がブリッジを出る前に、扉が勢い良く開かれた。
「船長っ。機関停止しましたっ。燃料消失っ。再稼動不可能ですっ」
またもや船長は言葉を失った。
「燃料消失とは、どういうことだっ」
「どうと言われても、言葉の通りです。エンジンが停止し、原因を調べていたところ、燃料が無くなっていることが判明。その他は調査中です」
さらに、電気系統の故障や一部の備品の消失が、報告として上がってくる。一体何が起こったのか。長年、海に出ている船長も、次の行動の判断を咄嗟に決めかねた。
「船長っ、あれをっ」
そこへさらに、海上を監視していた船員が声を張る。ブリッジのすべての視線が、その方向を向いた。
「……何だ、あれは……」
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冬にも関わらず、客船の甲板には多くの人の姿があった。イルカの群が船と並行し、予定にないショーを見せていたためだ。しかし、そのイルカショーは突然の終わりを迎える。
空中に飛び出したイルカが海中に没する。次に飛び出したのは、イルカではなかった。
「え? あんなに大きいヒレのイルカ、いた?」
「イルカじゃなくない? 尾ビレ、二股なんだけど」
次々に飛び跳ねる、見たこともない海生生物。先ほどまで船と並走していたイルカは一頭もいない。
突然、その海生生物が蜘蛛の子を散らすように船から離れて行く。スマートフォンやデジタルカメラで撮影しようとしながら、突然の動作不良で慌てていた人々が残念そうに溜息をつき、そして次の瞬間、それは驚愕の声に変わる。
客船の左舷前方に現れた、ヘビのように長大な首。翼のように大きなヒレ。
人々が見ている前で、それは海中に没すると再び姿を現し、頭を後ろに大きく反らした。その頭が勢い良く前方に振られると同時に、大きく開けられた口から飛び出る無数の水球。
それは空中でこおりつき、氷槍となって舷側に突き刺さる。鈍い音と揺れが客船を襲った。
「きゃあああああああっ」
悲鳴が響き渡った。甲板を逃げ惑う人々。それを嘲笑うように、海竜は再び頭を反らし、水球を吐く。
「いゃあああああああっ」
甲板の一角から噴き出る炎。炎は水球を呑み込み蒸発させ、海竜をも包み込んだ。
「ピギャアァアアアアアアッ」
海竜は即座に海中に没する。巨大な影が海中を蠢き回り、少し離れた場所から頭を出す。数秒間佇んだ海竜は、もう何もすることなく海面下に潜り、姿を消した。
しかし船員も乗客も、そんなことを気にしている余裕はない。彼らは、沈みかけた船からの脱出に奔走することになる。
「異世界からは逃げられない」とは、こういうことさっ!(二回目)




