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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第十三章 政府と飛竜のコンタクト

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13-7.やって来た使者

 ヨシエの作った魔力冷却板は、その日の内に魔道具を作れる住民たち──魔法職人と呼ばれるようになった──の間で共有され、瞬間移動を使える住民と力を合わせて、数十枚の魔力冷却板が作られた。

 一日の生産量がその程度では、全住民に行き渡るのがいつになるか判らないので、マコも一気に千枚の魔力冷却版を作製した。今なら、これを繰り返して一日一万枚はいけるかな?と思ったマコだったが、レイコに余計な心配をかけてしまうかも知れないと考えて、自重した。他の魔法職人一人が作った魔力冷却板の百倍以上の数を作っておいて、“自重した”と言えるかどうかは疑問だが。


「これで、夏もなんとか越せそうね」

 マコを訪ねて来たレイコが、肩の荷を下ろしたように言った。

「そうは言っても、まだまだ数は少ないでしょ。あたしも取り敢えず、十日くらいは毎日作るよ。一万個あれば、なんとかなるでしょ」

「そうね。自衛隊からの依頼もあるけれど、それは別口で考えているわ。数によってはマコにもお願いするかも知れないけれど、大丈夫?」

「うん、もう平気。筋力の回復はもう少しかかりそうだけど、明日には敷地内なら歩き回れそうな感じ」

「無理はしないでよ」

「解ってるって」


 魔力扇風機も、少数ながら作ることになった。安全のため、羽根を覆うカバーが必要になるが、これは工作の得意な住民に依頼して、竹で作る。竹と言うか、“ホボタケ”と名付けられた異世界の植物だが。生えている場所からして元の植物は竹らしいし、形もその名の通りほぼ竹で、ただ、葉の先が五つに分かれていて、カエデの葉のような形をしている。

 そのホボタケを使って竹籤(たけひご)を作り、魔力扇風機のカバーにする。

 軸の潤滑剤は、オイルの木と名付けられた木の葉から採れる粘度の高い液体を使っている。これは、料理油としても使われている。


「暑さ対策として他にできるのは、水を魔法で氷にするくらいかしら」

「今のところ考えられるのはそれくらいかなぁ。他に何かできないか考えてみるけど」

「いえ、今はいいわ。マコは体力の回復と、後は好きなように魔法のことを考えていて」

「それでいいの?」

「いいわよ。マコみたいにね、何かに突出した人は集団に組み込むより一人で動いた方が成果が出るのよ。その人の性格にも寄るから、一概には言えないけれど」

「ふうん。それでキヨミさんには、自由に仕事してもらってたんだね」

「そんなとこね」


 マコは元々、キヨミほどには内に籠っていないし、魔法教室を始めてからは苦手だった人付き合いにも慣れてきて、今や苦手意識も無くなっている。それだけを考えれば、マコは集団の一員としての行動もこなせるだろう。

 しかし、マコは他人に比べて魔力が突出しているので、魔法で他人と合わせても、それ以外のことで協力するにしても、“強力な魔法”を活かすことができなくなってしまう。それよりは、単独で好きなように活動させた方がいい、とレイコは判断していた。


「でも、他も魔力冷却板を欲しがるよね。欲しい人がいたら売るんでしょ?」

「もちろん、そのつもりよ。農業にしろ畜産にしろ、ここで育てている分は売るほどないし、そうすると売れる物と言ったら魔道具くらいしかないし。技術や知識もあるけれど、それは広まったら終わりだから」

「つまり、魔道具をこのコミュニティの名産……じゃなくて工芸品かな、そういうものとして周知させようってこと?」

「そんな感じ。それには、もう少し流通が広がらないと意味がないけれど、今のうちから少しずつね」


 それには、魔道具を作れる人をもっと増やさないといけないな、とマコは考える。取り敢えずは身体を早く元に戻して、魔法の特別教室を再開しなくちゃ、と思うマコだった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 運動のため、マコが敷地内を歩いていると、金属ゴミの捨て場の前に自動車が止まっていて、数人の男たちが荷台に金属片を載せていた。

「これ、どうするんですか?」

 マコは作業中の男の一人に聞いた。

「ああ、マコさん。反射炉がきちんと機能しそうだってんで、持って行くんだよ」

「あ、そうなんですね」

 そうなると、自動車鉱山からも車体を外して持って行ってインゴットにするのかな、そうなったら今までより魔道具もいろいろ作れるようになるな、魔力機関の材料にも困らなくなるかも、とマコは考えた。


 少しだけその様子を見学してから、マコはまた歩き出した。手伝おうかな、とも思ったが、彼らの仕事を奪っては悪い。

(ここだけじゃなくて、周りも復興してってるんだね。元に戻るわけじゃないから“復興”は変かな。どっちにしろ、ここだけでの復興は無理だもんね。みんなで出来ることを分担してやってかないと。その分担が、ここは魔道具かぁ)

 前日レイコから聞いた話も思い出しながら敷地内を歩く。


 地面を大きな影が横切った。頭を上げると、飛竜の巨体が過ぎ去ってゆく。

(今日も元気に飛んでるね。いつも何してるんだろうね)

 考えてみると、二体の飛竜が米軍基地を襲ってから、半年以上が経っている。あれは恐らく、米軍が盗み出した卵を取り返すために襲ったのだろう。あの時持ち帰った卵は無事に孵ったのだろうか。それとも、まだ殻を破っていないのか。飛竜の孵化までの期間が判らないので、見当も付かない。


 小学校方面へと続く道の前に差し掛かる時、その道から三台の自転車が走って来た。その内の一人は自衛官のようで、隊服を着用している。

(隣のコミュニティの人かな? にしては自転車のタイヤ、木製っぽいけど……)

 そう思いながら歩いていると、自転車の三人が止まり、一人が自転車を下りて、マコの方へと歩いて来た。


「お嬢ちゃん、ちょっといいかな?」

 近付いて来た男に声を掛けられて、マコは足を止めた。

「はい、なんでしょう?」

「ここのマンションの代表者と言うか、取り纏めている人に会いたいんだが、どこに行けば会えるだろう?」

 近隣のコミュニティの住民なら、レイコがここを仕切っていることを知らない人は、今やほぼいないことを考えると、それなりに遠くから来ていることが窺える。


「どこにいるかな。ちょっと探してみますけど、その前に、どちら様でしょう? それと、どんな御用でしょう?」

 そう言いつつ、マコは魔力を伸ばして敷地内を探索する。レイコは畑の傍にいた。ツノウサギ襲撃からの回復状況の確認でもしているのだろう。

 それを確認して、レイコに魔力を繋いでおく。

「失礼。私は日本政府の者だ。日本の復興に関して、こちらの責任者と相談したい」

 そんな大層なこと、町内会の集まりみたいなコミュニティの纏め役に相談することなのかな?とマコは思ったが、口出しすることでもないので、「ちょっと待ってください」と言っておいて、繋いだままの魔力を通してレイコに念話で話しかけた。


〈レイコちゃん、日本政府から来たって人がレイコちゃんを訪ねて来たんだけど、どうする? 会う? 帰ってもらう?〉

〈日本政府? 何かしら?〉

〈日本の復興に関してとか言ってるけど〉

〈復興はいいとして、日本の? 話が大きいわね。いいわ。一号棟の会議室で会うわ。今どこ?〉

〈敷地の、東の出口のとこ〉

〈それなら、わたしが戻る方が早いわね。入口で待っているから、そこに来るように伝えて。あと、管理部の人にも三人来てもらって〉

〈解った〉


 他に、訪れた人数を伝えたり、管理部の誰を呼ぶかを聞いてから、マコは男に言った。

「会うそうです。一号棟、えっと、向こうの背の高いマンションの入口で待っているので、あそこに行って下さい」

 マコは振り返り、一号棟を指差して言った。

「……解った。すまんね」

 何か言いたそうにした男は、しかしその思いを口にせず礼を述べると、他の二人と共に自転車で一号棟へと向かって行った。


「何なのかな。まあいっか。面倒そうだし、気にしないでおこ」

 三人を見送ったマコは独り言ちると、散歩を続けた。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 レイコがマコから来訪者の連絡を受けた時、来たか、という思いと、今更?、という思いが半々だった。

 以前、自衛隊経由で聞いた異変に対する政府の方針『各自治体にてそれぞれ対応』ということから考えれば、政府がわざわざ地方の自治体と連絡を取るとは思えない。たとえ連絡を取ったとしても、このような町内会レベルの小さなコミュニティは放置されるだろう。

 しかし、ここはマコが魔法に目覚めたことで、特異な復興を遂げている。復興と言うより、発展と言った方がいいかも知れない。おそらく、他にこのような発展をしているコミュニティはないだろう。


 異変前のインフラがほぼ壊滅した世の中でも、魔法を併用することで異変前の生活にある程度は近付けることができる。魔道具などはそのいい例だ。魔力懐炉や魔力灯は、自衛隊が各地に配布しているので、このコミュニティのことはそれなりに広まっているはずだ。現に、ごく僅かではあるが、遠くのコミュニティからも魔道具の買い付けや魔法を習いに人が来ている。


 つまりは、このコミュニティは他に比べて復興(発展)が早いはずで、そんな自治体があれば政府がいつかは接触してくるのではないか、とレイコは考えていた。絶対に、と言うわけではなく、半々くらいの確率で。

 と同時に、異変発生から十ヶ月を過ぎて、さすがに今から訪れることはないだろう、とも考えていた。異変直後は混乱していた日本各地も、これだけの時間が経てば、それぞれにある程度は纏まっているだろう。場合によっては暴力による纏まりかも知れないが。


 そんな状況下で、今更政府としてわざわざ地方の小さな自治組織に協力を求める必要などないだろうし、そもそも、政府は首都の自治体の一部として吸収されているのではなかろうか? もっと早い時期ならともかく、なぜ今頃になって来るのだろう? それがレイコの思いだった。


 しかし同時に、今である理由も解る気がした。場合によっては、理不尽な要求を突きつけられるだろう。それを呑むわけにはいかないが。

 どちらにしろ、会ってみないことには始まらない。レイコは、自分の住むマンションの入口で、訪問者を待った。

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