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13-6.夏用の魔道具

 翌日の昼食を済ませた頃には、マコもかなり回復していて、家の外にも出られるほどになっていた。長時間の運動にはまだ耐えられないので、あまり家から離れられないが、いざとなれば瞬間移動で帰れるので、運動目的で積極的に外に出ている。

(四、五日寝てただけで、筋肉ってこんなに衰えちゃうのかなぁ。お年寄りならともかく、まだ十六なのに。もしかしてこれも、異世界人の身体的特徴なのかな? 落ちた筋力の回復が遅いとか……それとも、あたしがまだ異世界人の身体に慣れていないからとか、気力を使い果たした後は回復が遅いとか)


 考えても解らないし魔法に直接関係もしないからと、考えることを、散歩と一緒に終わりにすることにして、家へと足を向ける。

「先生」

 帰る途中、散歩中のヨシエとキヨミに会った。今日も散歩がてら、マコの見舞いに来る途中だったようだ。マコがマモルと二人で暮らすようになってから、いや、その前もマコ不在時には、キヨミを外に連れ出す役目をずっとヨシエが果たしてくれている。今でもたまにはマコがキヨミを迎えに行って連れ出すこともあったが。


 二人と合流して家に帰ったマコは、寝室には行かずに入ってすぐの居間で、二人とお茶にした。冷やした水しかないが。

「マコちゃん、もうすっかり大丈夫そうねぇ」

「いえ、まだ少し歩っただけで疲れちゃって。もうしばらくはのんびりさせてもらいます」

 キヨミの笑顔に、マコも笑みをもって答えた。


「えっと、先生、今日は聞きたいことがあるんだけど」

 コップの水を半分ほどを胃に流し込んだヨシエが言った。

「なあに?」

「えっと、昨日、小母さんから、扇風機とかクーラーの代わりになるようなものを作れないかって、相談されたんだけど、どう作ったらいいのか解らなくって……」

 困った顔のヨシエに、マコは微笑んだ。


「ヨシエちゃんなら作れるよ」

「でも解んないの。ミツヨお姉ちゃんや他の魔道具を作れる人とも相談したんだけど……」

「いやいや、簡単だって。いい? レイコちゃんが欲しいのは夏の暑さを凌げる物でしょ? 扇風機やクーラーに縛られる必要はないわけね」

「扇風機やクーラーじゃないもので……私にも作れるもの……」

 まだ悩むヨシエに、マコはもう少しヒントを出すことにした。あまり遅くなって、夏が終わってしまったら仕方がないし。


「冬は、身体を温めるために何を作った? それと同じ物を作ればいいんだよ。温めるんじゃなくて冷やさないといけないけどね」

「冬に作った物……あ、そっか」

「解ったのかしら?」

 瞳を輝かせるヨシエに、キヨミが優しく聞いた。

「はい。すごく簡単なことでした」

「そうだよ。魔法っていうのは思い付きなんだから、発想をほんの少しだけ変えればいいんだよ」

「はいっ。早速やってみますっ」


 ヨシエは勢い良く立ち上がった。

「あ、えっと……」

 そこでキヨミに目を向ける。キヨミはふっと微笑んだ。

「いいわよ。一人で大丈夫だから」

 一人にしておくとどこか頼りないキヨミではあるし、放っておくと食事も忘れて服のデザインをしたり、ミシンを使っていたりする。しかし、彼女も異変までは一人暮らしをしていたのだから、常に付き添いが必要なわけではない。きっかけがないと、趣味に籠ってしまうだけで。


「すみません、すぐに試したいから。先生、失礼します。ありがとうございましたっ」

 ヨシエは慌てて玄関へと駆け寄り、ちょうど帰って来たマモルとぶつかり、頭を何度も下げてから駆けて行った。

 それを見送ったマモルが扉を閉めて、部屋に入って来る。

「こんにちは、狛方(こまがた)さん。いつもマコを見舞ってくれてありがとうございます」

「いいのよ。マコちゃんは昔から知ってる仲だし」

 キヨミはにこにことマモルに答えた。


「それはそうと、ヨシエちゃんはどうかした? 随分と慌てていたようだけど」

 自分で水を汲んで来て、椅子に掛けながら言った。

「レイコちゃんから、扇風機の代わりになるような物を頼まれたのよ。どうやればいいのか思いつかなかったから、ヒントをあげたの。それで、やり方が解ったから、早速試しに行ったんじゃないかな」

「そうか。マコは自分ではやらないのかい?」

「全部あたしがやっちゃったら、みんなが成長しないからね。少しは自分で考えてくれなくちゃ」

「なるほどね。マコもみんなの成長を考えているんだ」

「それはそうだよ。風邪ひいたりして、またあたしが何日も寝込んじゃうことがないとも限らないし」


 そうでなくても、これまでにも一週間や一ヶ月と留守にすることは何回かあった。これからもそういった機会はあるだろう。そんな時、残った人々で魔力を使う新しいことをやる必要もあるだろう。それを考えれば、住民全員に魔法の基礎教育が行き渡った今、マコはあまり出しゃばらない方がいい。


「あたしじゃないと無理そうなのはあたしがやるけどね」

 今はキヨミがいるのでマコは明言を避けたが、魔鉱石を使う必要のあるものだとマモルには解った。

「マコちゃん、頑張り過ぎちゃ駄目よ。またレイコが悲しむから」

 魔鉱石のことを知らないキヨミは、マコがまた魔法を使い過ぎないようにと釘を刺す意味で言った。

「はい、気を付けます」

 それでも、レイコも言っていたように、マコはこれからも無理をするだろう。その必要があれば。


 そうならないように、魔法についてもっと考え、効率良く使えるように鍛えないと、とマコは思うのだった。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「先生っ」

 翌日の朝早く、ヨシエがミツヨと共にマコを訪れた。

「あ、まだご飯の途中? ごめんなさい……」

 しゅんとするヨシエに、マコが笑いかける。

「大丈夫。もう終わるところだから。急ぐんでしょ? どうぞ入って」

 ヨシエはまだ小学五年生なので、これから授業がある。ミツヨも教師役を勤めている。それなのに、貴重な朝の時間を使って訪れたのだから、急いで伝えたいことがあるのだろうとマコは思った。


「先生、これ、できた」

 ヨシエが差し出したのは、数枚の鋼板。

「できたのね。どうかな?」

 マコはヨシエの手から鋼板を受け取った。触った部分が冷たい。

「うん、しっかりと冷えてるね。冷た過ぎないし、ちょうどいい感じ」

「最初は冷え過ぎたりして、大変だったんです。熱くするのと感覚が違って。そこはヨシエちゃんが頑張ってくれたんですけどね」

 ヨシエの肩に手を置いたミツヨが言った。

「魔力懐炉よりも〇・一ミリ薄いんだね」

「それが難しかったんです。微妙な調整が難しくて、何回も失敗しちゃった」

 照れたように言うヨシエの頭を、マコは撫でた。

「〇・一ミリ単位で調整できれば充分だよ」


「ワタシも瞬間移動ができれば材料を切り出すところからできるんですけど」

 ミツヨが残念そうに言った。

「でも、私も瞬間移動は三十センチくらいだし」

 瞬間移動を使える住民はマコのほかに八人がいるが、移動可能距離は約十センチメートルから数メートルほど。ヨシエも使えるものの、移動可能な距離は三十センチメートル前後だから、自動車鉱山から材料を切り出したり、薄い壁を抜けるくらいしか用途がない。それでも、魔道具の材料を切り出すには充分な能力だ。


「これからも魔力操作の練習を続けていけば、少しずついろんなことができるようになるよ」

 マコの言葉に、二人は頷いた。

「それとね、あたしも実は作ってたんだ」

「何をですか?」

「うん、こんなの」

 マコは、奥の自分の部屋に魔力を伸ばし、昨夜の内に作っておいた物を瞬間移動でテーブルの上に移動させた。

「えっと、これ、扇風機?」

 ヨシエがマコを見た。

「うん。魔力蓄積型の、魔力扇風機。まだ試作品だけどね。こっちの円形の木枠の中に魔力を充填すると、羽根が回るんだよ」


 マコが作ったのは、直径十センチメートル、高さ十センチメートルほどの木製の円柱の上に、直径二十センチメートルほどの金属製の三枚羽根が付いた物だ。試作品のため羽根が上を向いているが、横向きにして円柱部分を台に固定すれば、普通に扇風機として使える。

「試していいですか?」

「うん、いいよ」


 マコが頷き、ミツヨが円柱に魔力を込めると、羽根が回転を始めた。

「これは……蓄積型の魔力灯と同じですか?」

 ミツヨが聞いた。

「うん、そうだよ」

 最初の蓄積型魔力灯は、魔力を確率で光に変換していたが、魔力機関を作った後は、円板の内側から外側へと魔力を移動させて、円板の端の部分の魔力を光に変えている。

 それにより、徐々に暗くなることはなくなったが、持続時間が短くなっている。


 魔力扇風機は、持続時間の点を改善するために、木製の円柱──中身はくり抜かれていて円筒になっている──の中に鋼板を渦巻状に丸めて入れてあり、外の羽根と中央の軸で繋がっている。蓄えた魔力は鋼板の中央から軸を通って羽根の外側へと移動し、そこで運動エネルギーに変換され、円筒の中の鋼板と一緒に羽根が回る。

 本当なら、魔力機関を使えば良いのだが、潤滑剤を節約するにはどうしても魔鉱石を使う必要がある。魔鉱石を使わずになんとか出来ないか、と考えた結果、この形に落ち着いた。


「えっと、風を送るなら、羽根を回さないで直接風にしたら駄目?」

 回転する羽根を見ながら、ヨシエが聞いた。

「いい質問だね。それもちょっと考えたんだけど、魔力で風を直接送るには、ある一定の面積全体に同時に魔力が送られるようにしないといけないし、それで風を出しても、効率が悪いのよね。試してないから、予想だけど。それで羽根を回すようにしてみたの」


 ヨシエは疑問顔で首を傾げた。今の説明ではマコの思考過程を理解できなかったようだ。しかし、いつまでも留めておくわけにはいかない。朝は忙しい。

「解らなかったら、また後で聞きに来て。そろそろ授業の時間でしょ?」

「そうですね。朝の忙しい時間にお邪魔してすみませんでした。それでは、失礼します。ヨシエちゃんも、行こ」

「うん。お邪魔しました。また来る」

「うん、またね。勉強もしっかりね」

 マコは、二人の教え子を見送った。


「マコ、いつの間に扇風機なんて作ってたんだ?」

 空気になっていたマモルが聞いた。

「昨日、お夕飯の前にマモル、自衛隊の宿舎に行ったでしょ? その間にね」

「あの間に?」

 その時、マモルが家を空けていた時間は三十分程度だ。

「レイコちゃんに聞いた時から考えていたからね。頭の中でいろいろ試してたから、割と簡単だったよ。実用にするなら、もうちょっといろいろ必要だけど」

「そうか。マコは、魔法のことになると行動が早いな」

「一応、魔法の第一人者だからね」

 マコは笑顔でマモルに答えた。



マコの使える魔法:

 発火

 発光  ─(派生)→ 多色発光

 発熱

 冷却

 念動力 ┬(派生)→ 物理障壁

     ├(派生)→ 身体浄化

     └(派生)→ 魔力拡声

 遠視

 瞬間移動

 念話

 発電


マコの発明品(魔道具):

 魔力灯 ─(派生)→ 蓄積型魔力灯

 魔力懐炉

 魔力電池

 魔力錠

 魔力枷

 魔力機関─(派生)→ 魔力機関・改

 魔力冷却版(new)(アイデア出し。後にマコも作る)

 魔力扇風機(new)

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