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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第十三章 政府と飛竜のコンタクト

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13-3.覚醒

 目覚めは突然だった。寝床で仰向けになっている自分を意識し、ゆっくりと目を開ける。屋根の木組みが見えた。

「先生?」

 続いて、覗き込む女の子の顔と声。

「あ、れ? ヨシエちゃん? おはよう?」

「せんせい……先生っ」

 マコが少女の名前を呼ぶと、ヨシエは顔をくしゃくしゃにして、横になっているマコの身体に抱きついた。


「はわぅっ」

「先生っ……ぐすっ……先生っ」

 上半身に乗りかかられてマコは変な声を出したが、ヨシエはそれに気付かないかのように泣きじゃくった。

 マコはヨシエの頭を撫でようと手を持ち上げ……ようとして、動かせないことに気付いた。

(はわゎ……腕が凄く重い……動かすのめんどい……)

 目を覚ましたばかりだからか、腕を少し動かすことすら億劫だ。それなら、と身体を動かすことは後回しにして、視線だけ動かし周りの状況を確認する。


 部屋は、マモルと住んでいる住宅の寝室だ。ヨシエの隣にはキヨミが座ってマコに優しい笑みを向けている。ショートヘアが、なんだか見慣れない気がした。腰まであった髪を短く切ったのは春先だから、もう随分経つのに。

 ベッドを挟んで二人の反対側には、スエノがいた。ほっとしたような顔でマコを見つめている。

「マコさん、気分はいかがですか?」

「え? 普通、です」

 スエノの問に返事をしてから、そう言えばいつ、帰って来て寝たんだっけ?とマコは考える。


(確か、ツノウサギの大群を退治してたんだよね。それで自衛隊の応援が着いたって聞いて、ツノウサギの数も減って来て……それからどうしたっけ? もしかしてあたし、みんなが頑張ってるのに寝ちゃった?)

 みんなが頑張って働いて、否、戦っているのに、一人だけぐーすか寝てたりしたら……

「あ、あの……みんな、怒ってません?」

 マコの疑問に、スエノはきょとんとした。

「怒る? なんで?」

「え、だって、ツノウサギでまだ大変なんじゃ……」


 スエノはマコを安心させるようにゆっくりと口を開いた。

「マコさん、ツノウサギの襲撃から数えて今日で五日目です。マコさんは丸四日以上、眠っていたんですよ」

「は?」

 マコの頭に疑問符がいくつも浮かび上がる。確かに、一晩や一日寝ていたにしては、ヨシエの反応が尋常ではない。丸四日も食事をしていないなら、腕を動かすのも面倒なことに、納得もいく。


「す、すみません、そんなに寝てたなんて知らなくて」

 こうしちゃいられないと身体を起こそうとするが、ヨシエが縋り付いているので起き上がれない。そうでなくても、身体を鉛のように重く感じて、布団も捲れそうにない。

「無理をしないで、まだ横になっていて。本条さんに知らせて来るから」

「あ、はい、すみません」


 スエノが立ち上がるのとほとんど同時に、玄関の扉が開く音が聞こえた。足音が近付いて来て寝室の扉が開き、マモルが飛び込んで来た。

「マコっ」

 マコに縋り付いていたヨシエが驚いて頭を上げる。マコは部屋の入口を見た。自然と顔が綻ぶ。

「マモル」

 マモルは突撃する勢いでベッドの横に来た。スエノが場所をマモルに譲り、部屋から出て行った。


「マコっ。良かった、気が付いて。気分は? どこか痛くないか?」

 マモルはスエノの座っていた椅子に腰掛けると、布団の中のマコの手を握って言った。

「四季嶋さん、落ち着いて、ね?」

 キヨミがほわっと言った。

「す、すみません、興奮してしまって」

 自衛官として、民間人に対する時には平常心でいないとならないのに、とマモルは昂ぶった心を抑える。


「マモル、心配させてごめんね」

「マコが目を覚ましてくれただけでいいよ。まずはゆっくり休んで」

「うん」

 マモルの触れた手から心地良い感触を感じる。そうするまでもなく、マモルが常に身に着けている魔鉱石からも感じていたが、直接触れられると、それがより顕著になる。

 マコは、欲望のままに魔力を手の先から伸ばし、マモルを包み込んだ。

「マコ? 大丈夫?」

 マモルの言葉に、ヨシエとキヨミは疑問を浮かべた。


「うん、大丈夫。身体を動かすのは億劫だけど、魔力だけなら平気」

 答えながら、マコは自分の状態を分析する。

(気を失ったのは気力を使い果たしちゃったから、だよね。それから四日も眠ったから回復したけど、何も食べていないから体内の脂肪や筋肉を生命維持に使っちゃって、体力が落ちてるんだろうな)


「あの、先生、何かしたの?」

 ヨシエがマコとマモルの顔を見比べながら聞いた。二人の間に何があったのか、他人からは解りようがない。

「マコが、自分……俺の身体を魔力で包んだんです。倒れてずっと寝たままだったのに、起きていきなり魔力操作なんてして大丈夫かと思ったのですが」

「大丈夫。ゆっくり眠ったお陰で、魔力は充実してるから」

 寝たままなのは気になるが、口振りは普段通りのマコの様子に、マモルはようやく落ち着いた。


「キヨミさんとヨシエちゃんは、お散歩の途中?」

 マコは、視線の向きをを二人に変えて言った。ヨシエがこくりと頷く。

「毎日寄らせてもらってるの」

 キヨミがにこにこと言った。

「ありがとうございます」

「いいの、よ。ついでだから」

 キヨミのことだから、無理矢理連れ出される散歩のついででもなければ、わざわざ見舞いになど来ないだろう、と思ってマコは苦笑いした。


 そこで、玄関の扉がノックされる音が聞こえた。マモルが立ち上がったが、家人を待たずに、扉を開閉する音と近付いて来る足音。部屋の扉がノックされ、立ち上がっていたマモルが開いた。

「マコっ」

 飛び込んで来たレイコは、ヨシエの反対側からマコに縋り付いた。

「マコ、大丈夫? 気分は? どこか痛くない?」

「レイコちゃん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

「本当よ。こっちの気も知らないで、いつまでも寝てるんだから。でも良かった。マコが無事で。ここ数日、生きた心地もなかったんだから……」

 そんな大袈裟な、とマコは思ったが、涙ぐむ母にそんな言葉はかけられなかった。

「本当にごめんなさい。でも、もう大丈夫だから」

 そう答えると同時に、心配させないように、効率良い魔力操作と気力の充填にもっと頑張らなくちゃ、とマコは思う。


「本条さん、場所をよろしいですか? マコさんの容態を看ますので」

 レイコと一緒に来ていた看護師の言葉に、レイコは滲んだ涙を手で拭いてから、彼女に椅子を譲った。

 看護師は布団を捲って、今までのように脈拍や体温を測定し、問診した。レイコは、また医師に来てもらいたそうだったが、医師を連れて来たとしても似たようなことしかできなかっただろう。


「マコさん、手の先から魔力を伸ばしています?」

 看護師が聞いた。彼女は魔力の感知にも長けているようだ。

「はい。その、マモルと魔力を繋いでいると、落ち着くから……」

 言いながら恥ずかしくなって、マコは頬を染めた。

「疲れませんか?」

「はい。むしろ、力をもらえるような感じ」

「解りました。でも、疲れを感じたら無理はしないように。体力を付けることを一番に考えて」

「はい」


 診察を終えた看護師は、道具を片付けて(いとま)を告げた。

「ヨシエちゃん、私たちも、帰ろうかしら」

「うん。先生、お大事に。またお見舞いに来るね」

「キヨミさん、ヨシエちゃん、ありがとう。またね」

 キヨミとヨシエも、散歩に戻って行った。

 マモルとレイコは、ベッドの左右の椅子に、マコを見守るように座った。


「本当に良かった。無理はしないように……って言っても、マコのことだからまた無理するんだろうけれど」

 レイコが安心したように、同時に困ったように言った。娘には無理をして欲しくはないが、それでも、あのツノウサギの大群を一時間に満たない短時間で掃討できたのは、マコが無理を押した成果だ。マコの働きがなければ、近隣コミュニティの畑も食い荒らされ、食糧不足に陥ったであろうことは疑う余地がない。

 マコのお陰で住民たちが助かったのは事実だが、そのために娘が危険に晒されるようなことは看過したくない、しかしそのために多数の人々が困ることになるのも戴けない、けれど母親としては赤の他人がどうなろうとも娘には健康かつ幸せでいて欲しい、とレイコの胸中は複雑だった。


「マコ、何か欲しいものはある?」

 マモルがレイコの反対側で、優しく言った。

「えっと、何か食べたい」

「あ、それはそうよね。気付かなくてごめんなさい。すぐに何か用意するわ」

 マコがマモルに答えると、すぐにレイコが立ち上がった。

「レイコさん、俺が支度しますよ」

「いいのよ。母親としてやってあげたいの。それに、マモルさんにはしっかりとマコを護衛してもらわないと」

「そう、ですか。それでは、お願いします」

 マモルも立ち上がりかけたが、レイコに言われて浮かせた腰を椅子に戻した。


「マコ、あまりレイコさんに心配かけるんじゃないよ」

 マモルは二人きりになった寝室で無理をした妻に言った。

「うん、ごめんなさい。マモルにも心配かけて、ごめんなさい。魔力がありあまってるから、ああいう時はどうしても無茶しちゃうんだよね。無理しなくてすむように、もっと気力を意識できるように頑張ってみる」

「気力ね。それは、意識できるようなものなのかな」

 マコの言葉に、マモルは首を捻った。

「あたしも、どうすればいいのか判んないけど、できないとまた同じことになるかも知れないし」


 マコは気を失う前のことを思い出す。気力が減ると、集中力も落ちて魔力の操作が雑になり、精密操作が難しくなる。しかし、ツノウサギに対応していた時には、気持ちが昂ぶっていたからなのか、意識の途切れる寸前まで、魔力の操作精度はそれほど落ちていなかった。それで余計に気力を消費し、回復に四日以上もかかったのかも知れない。


「同じことにはならないって約束はできないけど、出来るだけそうならないように頑張るよ」

「俺としては、約束して欲しいところだけど。俺も全力でサポートはするよ」

 マモルは困ったように言ったが、マコに無理強いすることはなかった。マコがいなければツノウサギの被害が甚大になっていただろうことは、マモルにも解っていたから。せめて、自分が常に支えられるようにしよう、と思うマモルだった。


「ご飯できたわよ」

 レイコがお盆を持って部屋に入って来た。

「ありがとう」

 マコは、マモルに手を貸してもらって身体を起こす。

「ツノウサギ汁にしたわ。柔らかくなるまで煮詰めたから大丈夫よね。焼肉は、もう少し体力が回復してからね。まずは手を拭いて」

 レイコはテーブルにお盆を置いて、熱く絞ったタオルを差し出す。魔法で浄化したから大丈夫だけどな、と思いながらも、マコはそれを手に取……ろうとして、腕を持ち上げられず、諦めた。


「マモル、ごめん、手を拭かせて。手を上げるのも面倒」

 マコの要求に、マモルは笑顔で応じてくれた。

 マコは、二人掛かりで手を拭いてもらい、食事も二人に食べさせてもらった。これじゃ、丸っ切り病人だなぁ、などと思いながらも、身動きもままならないマコは、二人に甘えるのだった。

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