表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/177

12-3.問題解決

「あ、そっか、それならできそう」

 夕食中、何の脈絡もなく発せられたマコの言葉に、マモルは箸を持つ手の動きを止めた。

「どうした? できそうって、何が?」

「あ、ごめんなさい。これ見てたら、昼間悩んでいたことが解決できそうって思って」

 マコは、皿に乗っているウリ坊モドキの角切りにされた肉を箸で指して言った。

「これで?」

「うん。思いついてみると、どうしてこんな簡単なことが判らなかったんだろうってくらい、簡単なんだけど。今日半日、時間を無駄にした気分」

「いや、無駄じゃなかったと思うよ」

 マモルは角切り肉を箸で摘まみ、口に入れて咀嚼した。最初の頃は、味はいいがどこか違和感の残る味だったが、今はもう、違和感はない。マコの言う、転移して来た異世界に、意識が慣れたのかも知れない、とマモルは思う。


「それってどうして? おやつの時間にこのお肉食べてたら、思いついたかも知れないのに」

 マコの疑問に、マモルは口の中のものを食道へ送り込んでから口を開いた。

「俺も上手くは言えないけど、人間の脳と言うのは、限界まで緊張した後でほんの少し気が緩むと言うか、気持ちが解れた時に、いいアイデアが浮かぶんだそうだよ。だから、マコが半日悩みに悩み抜いて脳を極限まで緊張させていたから、今の食事の時間でその緊張が解れて、解決方法を思いついたんじゃないかな」


「ふうん、そうなの?」

「本当にそうなのか、俺自身じゃ確認できないけど、脳科学者だったかな、そう言うことを言っている人は何人かいるね」

「そうなんだ」

「むしろ、たった半日で解決に至れたのは、マコが優秀だからじゃないのかな」

「えー、そんなことないよ。問題がそこまで難しいことじゃなかったってだけだよ」

 そう言いつつも、マモルに褒められてマコは嬉しそうだ。


「それで、何を思いついたのかな?」

 マモルがマコに、面白そうに尋ねる。

「えっとね、ここのとこ考えてた魔力機関の改良なんだけど、その最後の部分って言うのかな。潤滑剤無しでって言うか、少なくて済むようには魔鉱石を使ってできる見込みは立ったんだけど、それだと常に最高出力になっちゃって。それを解決できないかなって考えてたの。それが、このお肉の角切りを見たら、小さい魔鉱石をたくさん使って、動く数を増やしていけばいいって思いついたの」


「なるほどね」

 マコの説明は順を追ったものではなかったので、どのような問題があってどんな風に解決できる目処が立ったのか、マモルは完全には理解できたわけではないものの、マコが魔力機関を作る様子を最初から見てきたマモルには、彼女の言わんとすることは何となく解った。

「だけど、作るのは大変そうだね」

「そうなの。細かい作業になるから。出力曲線が滑らかにならないくらいならいいけど、魔力機関の本体って言うか回転部分にぶつかると壊れちゃうし。それに、魔鉱石は小さいのでも使えるから無駄がなくなるけど、大量に作るにはやっぱり量が少ないし」


「そこは、魔鉱石をどれだけ採取してもらえるか、と言うことになるわけだね」

「そうなの。もう連絡はしてもらってるけど、返事は芳しくないんでしょ?」

「うん。何に使えるか判らない石の採掘より、周辺の復興が優先されて。ふむ」

 マモルは食事の手を止めて、何やら考え込んだ。

「どうしたの?」

「うん。今ある魔鉱石で、自動車を動かせるような魔力機関はいくつか作れるんだよね」

「えっと、最初に考えていたのだと一個も怪しいけど、今思いついた方法なら二個、ううん、三個は作れるかな? 他の材料も用意できることは前提だけど」


「つまり、自動車一台分は間違いなく確保できるわけだね」

「うん、大丈夫だよ。今の魔力機関を改造すればいいから、他の材料も揃ってるし。多少は作り変える必要があるけど、鉄板と木材で何とかなると思うし」

「それなら、まずは改良した魔力機関を作って、自動車をとにかく完成させる。そうしたら、その自動車で油田近くの駐屯地に採掘要請に行けばいい。今はどうしても行動範囲が限られるからね。自動車の現物を見て、それに魔鉱石が必要だとなれば、優先して掘ってくれるよ。対価として自動車を提供する、と言えば、それこそ力を入れて」


「あ、そっか。魔力灯は代用品あるし魔力懐炉はしばらくは要らないけど、自動車は代替品が馬車だけだもんね。作った自動車を見せれば、その気になってくれるよね」

「うん。隊には俺から提案しておくよ。まあ、実用に足る自動車ができれば、俺から言わなくてもそうするだろうけど」

「うん、お願い。あたしは早く魔力機関を完成させなきゃね。明日早速、試作品を作っちゃうよ」

 そうでなくとも、マコはすぐにも作り出しそうな勢いだったが。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 翌日。マコは早速試作した魔力機関を持って、自動車を試作している技師のガレージを訪れた。

「こんにちは。改良型の魔力機関の試作品を持って来ました。これで、潤滑剤と操作性の問題は何とかなるんじゃないかと思うんですけど」

「ああ、マコちゃん、いらっしゃい。どんなのができたんです?」

 技師は、工作していたものを作業台に置いて、マコを振り返った。

「はい、これです」

 マコは持って来た魔力機関を、作業台の空いている場所に置いた。


 外見は、以前の魔力機関とあまり変わらない。外側の円筒が、最初から内側の円柱と重なっているくらいだ。そのため、以前よりはコンパクトになっている。

 底面の片方には、これまでの魔力機関のようにハンドルがあり、反対側にはピッチ角のないプロペラが付いている。回転の確認のためだ。

 他に、円筒の横にもハンドルが付いている。


「えっとですね、中はこうなってます」

 マコは片方の底面のハンドルを握って引いた。円筒がスライドし、中の円柱が姿を現した。

「これまでの魔力機関と似ていますね」

「はい。材料の関係上、今の魔力機関を改造して使うことになるだろうから、似てた方が都合が良くて。前のは、円筒をスライドさせて出力調整していたから、運転中に円筒が動くことになりましたけど、今度のは動作中は完全に閉めたままになります。開けるようにしたのは、込める物体が見えないと上手く魔力を込められない人もいるから。おじさんは平気みたいですけど」

「ああ、確かに。おれも最初はできなかったけれど、いつの間にか慣れたね」


「他の人も慣れればできると思うんですけどね。えっとそれで、今までのはこの円筒と円柱の間は〇・二ミリ程度の隙間しかありませんでしたけど、これは二ミリ空いてます。駆動中はスライドの必要がないことと、隙間が二ミリあるので、軸受を除けば潤滑剤は要らなくなると思うのですが、どうでしょう?」

 マコは技師を窺った。

「ふむ。振動の大きさは一ミリ以内には収まる、と言うより収めないと自動車自体の振動が激しくて使い物にならないからな。それだけあれば充分ですね」


「良かった。じゃ、動かしてみますね」

 マコは円柱部分に魔力を込め、円筒を戻して固定した。円筒の横のハンドルを握ると、ゆっくりと動かす。それに合わせて円筒の外側が回転する。底面のプロペラが回転を始めた。

「ほう」

 さらにハンドルを動かして円筒を回させて行き、回転角がある程度に達するとプロペラの回転速度が増す。


「一つ問題点があって、回転速度なんですけど、少しずつ増速していくわけじゃなくて、ある程度円筒を回すと突然増速する感じなんですよね。今は、三十度ごとに三段階です」

「三段階の速度しか出せないわけか」

「はい。あ、でも、本番用のはもっと細かくなりますよ。この試作品は小さいから円柱の円周が短いので三段階ですけど、本番のはずっと大きいから、部品も細かくすれば、えっと、六十段階とかで調整できるかな。その倍はいけるかも」

「出来るだけ細かい方がいいが、六十段階以上で調整できれば、まずはいいかな。ちょっと、おれにも触らせてくれるかい?」

「はい、どうぞ」


 マコが魔力機関を停止して場所を空けると、技師は円筒を開けたり魔力機関を動かしたりして色々と確認した。

「これなら、アクセルもフットペダルに持っていきやすいな。スプリングを付けて戻るようにして……マコちゃん」

「はい」

 技師はマコを振り返りもせずに問いかけた。

「外の円筒はここまでしか回転しないのかな?」

「あ、はい、九十度だけです。構造的に、九十度か六十度にしかできなくて」

 やろうと思えば、百八十度も可能だが、バランスが悪くなる。また、より小さい角度ならできるのだが、今度は出力調整が難しくなるだろう。


「いや、動く角度が判ればそれでいい。今作っている機構は変える必要はあるが」

「すみません」

 マコは恐縮した。

「いや、返って簡単になるから気にしなくていいですよ。それじゃ、今の魔力機関を新しいタイプに変えるのにどれくらい時間が掛かります?」

「そうですね、細かい作業が必要ですけど……早ければ一日、掛かっても三日あれば」

「それなら、これから魔力機関を下ろしておくので、午後にでも取りに来てください。おっと、重いから運ぶのに何人か集めた方がいいかな」

「あ、大丈夫ですよ。瞬間移動で運んじゃいますから」

 マコは笑顔で答えた。


「マコちゃんの魔法は便利だねぇ。自動車の魔力機関は、これと違って結構重いのに」

「瞬間移動に物の重さは関係ないんですよ。大きさは関係するんですけどね」

「そうなのか。おれも自動車が一台仕上がったら、特別教室を受けてみるかな」

「是非、そうしてください。特別教室で教えてることは、人によってはなかなか出来ないんですけど、始めないことには出来るものも出来ませんからね」

「確かにそうですね。それじゃ、午前中には下ろしておくから、いつでも持ってって下さい。おれがいない時でも構わないので」

「はい、解りました。この試作品はここに置いていきますね」


 マコは、ガレージを後にした。自衛隊で使っている魔力機関も改良型にしないといけないかな、と思いながら。



マコの使える魔法:

 発火

 発光  ─(派生)→ 多色発光

 発熱

 冷却

 念動力 ┬(派生)→ 物理障壁

     ├(派生)→ 身体浄化

     └(派生)→ 魔力拡声

 遠視

 瞬間移動

 念話

 発電


マコの発明品(魔道具):

 魔力灯 ─(派生)→ 蓄積型魔力灯

 魔力懐炉

 魔力電池

 魔力錠

 魔力枷

 魔力機関─(派生)→ 魔力機関・改(new)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ