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11-7.魔法を使うための能力

 駐屯地から来た自衛官たちが帰った後で、マコは魔鉱石の塊から、マモルに渡したものと同じ大きさの魔鉱石を三個切り出した。二個は、スエノに渡す。

「これ、一個は矢樹原(やぎはら)さんが魔力を入れてください。もう一個は澁皮(しぶかわ)さんに。それを、マモルさんに魔力を入れてもらったこれと一緒にあたしが常に持っていれば、あたしがいる場所、正確にはこの魔鉱石がある場所が判ります」

「解りました。後ほどお持ちします」

「護衛の大きな力になりますね」

 マモルも言った。

 特にマモルの場合、マコの魔力も感じる──厳密に言うと、マコの魔力に触れると心地良くなる──ので、魔鉱石がマコの手にあるのかどうかも判る。


 もう一つの魔鉱石には、マコが自分の魔力を込めた。

「マモルさん、これを持っていてください。あたしの魔力を込めてあります」

 マモルと二人になってから、マコはそれをマモルに渡した。

「は、はい。ありがとうございます」

 マモルに渡した魔鉱石を通じて、マモルの魔力を感じる。これで、眠っている時に離れてしまっても、常にマモルを感じていられる。


「それから、後で実験にお付き合いお願いしたいんですけど」

「はい、どんな実験でしょう?」

「どれくらい離れた状態で、魔鉱石の魔力を意識できるか調べたいんです。人によって距離に違いがあるか、とかも調べたいし。マモルさんは今、魔力をどれくらい伸ばせます?」

「自分は今は五メートルほどです。いや、もう少し伸ばせますね」

 マモルは魔力を伸ばしているようだ。マコは自分の魔力でマモルの魔力を探った。


「五メートルと六十センチってところですね。後は……自然体でいる時のマモルさんの魔力(ホールド)はどれくらいですか?」

「マコさんが測った方がいいかも知れませんね。自分は精密測定がまだできませんから。……どうでしょう? これで自然体です」

「えっと、一・八、ですね」

 後で異世界ノートにまとめておこう、とマコは数値を頭に刻み込んだ。


「それから、魔力量も判るといいんですけど、これが難しいんですよね。あと、魔力の回復力か。うーん、どうやって測ろう……」

 そもそも、どう数値化すれば良いのか解らない。

「魔力の測定方法ですか。今までに聞いたマコさんの話では、測定値がいくつかあるようですが」

「うん、そうなの。えっとですね」

 マコは黒板の前にマモルを連れて行った。


「まず、体内に蓄積している魔力があります。この量を総魔力量と呼びます。それから……」

 マコは黒板に書いていった。


・総魔力量…………体内の魔力(=魔力(ストア))の総量。マコは相手の体内に魔力を通して、その濃度と身体の大きさでなんとなく測っている。

・魔力保持能力……体外の魔力(=魔力(ホールド))保持量。魔力(ホールド)の厚みで測定。

・魔力生成能力……または魔力回復能力。単位時間当たりの魔力(セルフ)生産能力。測定方法は見当もつかない。マコも、自分の魔力生成能力がどれだけなのか判らない。

・魔力操作能力……魔力を体外へと伸ばす能力。身体から魔力を伸ばせる距離で測定。


「大きくはこんなところですね。魔法をもっと掘り下げたら、もっと細分化することになると思います。今でも、魔法操作能力は全方位に広げるならどれくらいの範囲までできるか、っていうのを分けた方がいいかな、って思いますし。魔鉱石に込めた魔力の感知距離も別にするかも」

「なるほど。以前マコさんの言っていた、魔法を理論的に考える、と言うことですね」

「はい、そうです。その一部ですね」

 マコはマモルに笑顔で応じた。

「魔法教室ではここまでは教えていませんけど、魔法自体を研究してくれる人がいたら、ここら辺のことも伝えて考察して欲しいですね。今はみんな、魔法を生活にどう活かすか、で精一杯ですけど」


 マコが魔法の使い方を色々と考えていられるのは、偏に彼女の魔力量と操作能力が人並み外れているからに他ならない。他の人が苦労する魔法の使用を、マコは片手間でできるから、その分魔法の考察に使える。

 もちろん、レイコが異変の初期からマンション内をまとめ上げ、新しい体制を整えてくれたことが、マコの魔力量以上に大きい理由ではあるが。

(暴動が起きていたら、のんびり魔法の使い方なんて考えていられなかったもんね。ベルギーで会った彼みたいになっていたかも。隣のコミュニティを襲った人とか)

 それを思うと、マコはレイコにも、レイコに従って秩序を保ってくれたマンションの住民たちにも、感謝しても仕切れない。その分、もっと魔法を突き詰めていかないと、とマコは思うのだった。


「それじゃ、澁皮さんと矢樹原さんが魔鉱石を持って来てくれたら、実験をお願いします」

「解りました。それでは一旦自分も警備に戻ります」

「はい、いつもご苦労様です」

 敬礼するマモルに、マコも笑顔で敬礼した。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 夜。マコは自分の持ち物から巾着袋を探して、三人の自衛官に魔力を込めてもらった魔鉱石を入れた。

(これから毎日、忘れないように持ち歩かないとね)

 寝る時はどうしよう、とマコは考える。楕円体なので、身につけたまま寝ると、踏んだ時に痛むだろう。しかし過去、夜中に誘拐された経験があるので、できれば就寝中も身につけておきたい。

(うーん、三人に言って薄く削ろうかな。でも割れちゃうかな。ビニールの木の樹液でコーティングすればいいかな。あとで確認してみよう)


 魔鉱石を机に置いて、ノートを広げる。自衛官三人に協力してもらった実験結果は、次のようなものだった。


澁皮シュリ

・魔力保持能力………一・五(mm)

・魔力操作能力………四・八三(m)

・魔鉱石感知距離……四四〇(m)


矢樹原スエノ

・魔力保持能力………一・二(mm)

・魔力操作能力………四・二〇(m)

・魔鉱石感知距離……四八五(m)


四季嶋マモル

・魔力保持能力………一・八(mm)

・魔力操作能力………五・六二(m)

・魔鉱石感知距離……八〇〇(m)以上


 魔力総量は、三人ともあまり変わらない。マコと比較して、微量、と言うところだ。

 マモルは、マンションの敷地の端から端までの距離でも魔鉱石の魔力を感知した。今日は敷地内から出ないことにしたため、それ以上は判らない。後でもう一度測定することにして、今日は実験を終えた。

 シュリとスエノの結果だけ見ると、個人差はあっても、魔力操作能力のおよそ百倍程度が限界に思える。しかしマモルは、百六十倍以上も感知できるらしい。これから考えると、保持能力や操作能力との因果関係はなさそうだ。


 マコが魔鉱石を持っているために感知能力が上がっている──マコの魔力がマモルのそれに触れていると、マモルはそれを感じる──可能性も考え、魔鉱石をシュリやスエノが持って試してみたが、結果は変わらなかった。

 保持能力や操作能力はシュリやスエノと大きな違いはないから、何か別の要因があるのは確からしい。

(そうするとやっぱり、魔力感知能力として別の能力にした方がいいね。ほんと、魔力ってどうなっているんだろう?)


 しかし、サンプルが三人では、結論を出すには早い。他の人でも試す必要があったが、ある程度の量の魔鉱石が集まるまでは、あまり広めないことにして、会議に出席していた住民や自衛官にも魔鉱石の性質について口外しないようにお願いしていた。

(調べるなら米軍あたりに投げちゃうのがいいんだろうけどなぁ。マッド博士なら嬉々として調べてくれそう。でも、そうしたら魔鉱石を米軍って言うか、マッド博士に独占されそう。知られる前に、出来るだけ集めておきたいなぁ)


 マコもまだ具体的には理解していないものの、魔鉱石を使えば画期的なことが出来そうな気がしている。今、懸案になっている魔力機関の問題を解決できるかも知れない。自動車も、目処が立てば量産することになるだろうから、そのためには魔鉱石を大量に確保しておく必要があった。


(それにしても、魔鉱石って何なんだろ? 油田にあったってことは石油や天然ガスが変わったものだよね。でも、分子原子って基本変わっていないはず。米軍基地でいろいろ調べた時、少なくとも空気の組成が変わっていないことは確認されてるし。そもそも変わっていたら、自動車の車体やマンションの壁も崩れているだろうし。

 中にある魔力は何なんだろう? 植物が堆積して石油になる……今は別の説もあるんだったかな。でも、植物の堆積に因るとしたら、魔力は植物の魔力が残ったのかな? 微生物とかバクテリアとかかも。魔力(フィルム)はないと思うけど、異世界の生物だとしたら、魔力生成はできるはず)


 しかし、考えたところで答えは出ない。それこそ、マッドサイエンティストにでも、魔鉱石と共にこの仮説を伝えれば、喜び勇んで調べてくれるだろう。けれど、それをやる前に魔鉱石をマコが独占したい。どのみち、魔鉱石の起源が何であろうと、マコがやることは変わらない。

 それなら、とマコは魔鉱石の由来を考えることをやめた。それは、生活がもっと軌道に乗ってからでいい。それより、魔鉱石について色々と試すことにした。

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