表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第十一章 婚約と魔鉱石

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/177

11-6.新素材

 魔法の特別教室を開く前に、米軍基地で別れたスエノがコミュニティにやって来た。馬に引かせた荷車に荷物を載せた自衛官と共に。

 今日、運ばれて来たのは魔力電池用の鋼板だが、それだけではなかった。魔力電池の製作は他の人に任せて、マコは会議室で自衛官から木箱に入った何個もの黒い石を見せられた。


「以前、マコはさんに依頼されて調べた、油田の底から見つかった石です。先日、油田近くの自衛隊が少しばかり時間ができたと言うことで、調査してくれました」

「ありがとうございます。これって、何だろう?」

 見たところ、ごつごつとしたなんの変哲も無い黒い石だ。見ようによっては宝石の原石に見えないこともない。マコは、比較的小さな石片を取って、まずはじっくりと観察した。


「これがどんなものかは自衛隊の方でも調べたのですか?」

 レイコが自衛官に聞いた。

「一応調べはしたのですが、何しろそのための機械もまともに動かない状況なので、ほとんど何も判っていません。硬度が八あることと、その割に脆くてハンマーで強く叩くと比較的簡単に割れてしまうことくらいです」

「それだけ聞くと、ブラックダイヤモンドみたいですね。硬度は足りませんが」

「ええ。それにこの状況ですから、満足に調査する余裕もありませんし」


 レイコと自衛官の話を聞きながら、マコは観察を続けたが、何も判らない。そもそもマコは、鉱物に関する知識など無いに等しい。見ただけで何か判るわけもない。

 しばらく目視観察をした後、マコは魔力を石に注入して内側から調べ始めた。いくつかの元素が混じり合っているようだ。もっとも、ほとんどの石は複数の元素から成っているから、有益な情報とは言い難い。元素の比率でも判ればいいのだが、マコは元素の種類までは解らない。


 しかしマコは、自分に判るものを石の中に発見した。

(これは……魔力? 魔力(フリー)みたいだけど……ちょっと違うような……)

 魔力(フリー)なら、魔力(ダスト)に変えることができる。試しにマコは、石の中にごくわずか混じる魔力らしきものを魔力(ダスト)に変えようと試みたが、できなかった。

(うーん……)

 手に持った石をテーブルに置いて、別の一個を手に取る。これにも魔力を入れて探ってみると、最初の石と同じように魔力らしきものを内在していることが判る。


(どこにあるんだろう……?)

 意識を集中し、細かく探っていくが、通常の使用でせいぜい〇・一ミリメートル単位、頭が痛くなるほどに集中しても砂粒ほどにしか探れないマコでは、魔力の出所が判らなかった。

(原子レベルで魔力が絡まっているのかなぁ。それだと今のあたしじゃ手に余るなぁ。もっと精密操作できるように練習する……よりは、物理とか詳しい人に魔力の精密操作を訓練してもらった方が早いかも)


 マコが元素単位で物質を知覚できても、元素の種類が判らないでは、あまり意味があるとは思えない。それよりは、元素に強い人に、魔力で元素の区別をできるように慣れてもらって、さらに精密探査できるように鍛錬してもらう方がいいだろう、とマコは考えた。どちらにしろ、急ぐ必要性はないだろうから、これからの検討事項に入れておこう、とマコは脳内にメモした。


 どの石も同じかな? 他のも見てみよう、とマコは三個目の石を手にしようして、ふと、一個目の石が気になった。何が気になるんだろう?と一個目の石を見つめる。見ているだけでは判らず、魔力を伸ばそうとして、気が付いた。

(あたしの魔力(セルフ)が、残ってる?)

 石を調べる程度では魔力を大して使わないので、マコはそのまま切り離していた。それくらいの魔力は、調べている間に回復してしまうので、回収する意味もない。石に魔力を『留め』ようともしなかったので、石に残ったマコの魔力(セルフ)魔力(ダスト)に変わってしまうはずだ。残ったとしても、魔力(フリー)になるのが、これまでの常識だった。

 ところが今、その石の中にマコの魔力(セルフ)を感じている。


(試してみよう)と、マコは手に持ったままの二個目の石に魔力を込めた。『留め』ようとはせず、大量に送り込む。

 適当なところで魔力を切り離して、しばらく待つ。

 魔力(セルフ)は、身体と繋げたまま伸長した場合にはいつまでも魔力(セルフ)のままだが、放出して身体から切り離すと、数秒で魔力(ダスト)に変化し、自分で放出したにもかかわらず行方が判らなくなる。


 しかし、石に注入した魔力は二十秒経っても、三十秒経っても、石の中に留まっている。

 試しに、空間に魔力を放出してみたが、十五秒ほどで消えてしまった。マコの能力が上がっているわけではない。

(おまけに……)

 石には、普通の石では考えられないほど大量の魔力が残っている。いや、普通の石どころか、魔道具の作製に使っている鋼板や鉛版などよりもずっと多くの魔力を保っている。


(もうちょっと確認したい……)

 そう考えたマコは、起きている間は繋ぎっ放しの魔力を通じてマモルに念話で呼びかけた。

〈マモルさん〉

〈マコさん? はい、何でしょう〉

 魔法に慣れてきたマモルは、余計な質問もせずに、すぐに用件を聞いてくれる。

〈至急、一号棟の会議室に来てください。お願いします〉

〈はい、解りました〉

 一言も聞き返すことなく、マモルは応じてくれた。


 ほどなくマモルが会議室の扉をノックした。みんなが扉を振り返る中、マコは魔力で扉を開ける。

「四季嶋二尉。何だ?」

 自衛官の一人が問うた。マコは、マモルが口を開くより先に答えた。

「あたしが呼びました。この石について実験したいことがあって。マモルさん、お願いします」

「はい」

 マモルは扉の前で敬礼してから中に入り、扉を閉めてマコの所に歩いて来た。


「ご用事とは何でしょうか?」

 ほかに人がいるからだろう、マモルはマコに、二人でいる時よりも固い口調で言った。

「えっと、これを持って欲しいんです。それで、感じたことを言って欲しいんです」

 マモルが来るまでの間に限界以上に魔力(セルフ)を詰め込んでいた二個目の石を、マモルへ纏わせている魔力を回収してから彼に手渡した。

「……マコさん、今、魔力を引き上げたと思うのですが……」

「うん、そうだよ。今はあたしの魔力は、マモルさんに触れていないよ」

「そうですよね。けれど、この石を持っていると、手にマコさんの魔力が触れているように感じます」


「やっぱりっ」

 思わず叫んだマコに、ほかの人たちは怪訝な目を向ける。それには構わず、マコは自衛官の代表へと身を乗り出した。

「すみませんっ、この石、全部譲ってくださいっ。代金はえっと、これから先魔法の特別授業を開くんですけど、自衛官の人たちはあたしが教えるその特別授業の授業料を永久免除でどうですかっ」

「マコ、それだと代金として払い過ぎだと思うわよ」

 レイコが眉を顰めた。

「レイコさんの仰る通りです。どのみち使い道のない石ですので、対価無しでご提供しても問題はありませんが」

 自衛官も言った。


「いえ、これだけじゃなくてですね、この石をとにかく集めて、その集めた石を全部欲しいんですっ」

「は、はぁ。しかし、石を掘るのは別の部隊なので自分の一存では決め兼ねます。まずは連絡してみます」

「お願いしますっ。あたしに出来ることなら何でもしますっ。魔道具なら何百個でも作りますし、魔法を使いたいならあたしが直接行っても構いませんっ。とにかくお願いしますっ」

「マコ、少し落ち着きなさい」

 レイコが興奮するマコを窘めた。


「その石、そんなに大層なものなの?」

「判らない」

「判らないって……」

「でもこれ、この石、すごいよ。これがたくさんあれば世界が変わるよ」

「判らないのに世界が変わるのは判るわけ?」

「うん。えっとそうね、例えば……ちょっと待って」

 マコは一個目の石に魔力を伸ばし、その一部を楕円体に切り取って自分の掌に載せた。そこから注意深く、自分の魔力を抜き取る。


「マモルさん、この石を持ってください」

「はい」

 マモルに渡した二個目の石と交換した。

「この石に魔力を込めてみてください。ただ入れるだけじゃなくて、できるだけ大量に濃度を上げて」

「はい。やってみます」

 マモルは、会議室にいる全員の視線が集中する中で、掌に意識を集中した。


 マモルに限らず、魔力を操作できれば、体内の魔力(セルフ)を体外に出して一箇所に集めることや、物体の中に込めることは可能だ。ただし慣れないと、非常に気力を使ってしまう。

 マモルも、体内の魔力(ストア)の二倍くらいの濃度であればそれほど苦もなく物質に込められるようになったが、それ以上の濃度となるとかなりの気力と集中力を要する。


 マコに、できるだけ濃度を上げて、と言われたので、マモルは額に脂汗を滲ませながら、今までにない高濃度の魔力を、掌の上に載せた石に集中させた。一分間以上かけて魔力を込めたマモルは、これ以上は無理、というところで大きく息を吐いた。

「はぁ、はぁ、マコさん、これが、限界です、はぁ」

 荒く息を吐きながら、マモルは石をマコに渡した。

「ありがとうございます。大丈夫ですか?」

「ええ。問題、ありません」

 マモルは息を整えながら答えた。


「マコ、それで何ができるの?」

 レイコが聞いた。

「ちょっと見てて。って言うか、マモルさんの返事を聞いて。マモルさん」

「はい」

 短かい間で息を元に戻したマモルは、姿勢を正して言った。マコはマモルから数歩離れる。

「マモルさん、自分の魔力を感じてください。どこにありますか?」

「それはもちろん、自分の周りに。ですが……離れた所にも感じます。マコさんの辺りに。それにマコさんの魔力が触れているような感じもあります」

「やったっ。実験成功っ」

 マコは軽く飛び跳ねた。


「何が起きたの?」

 レイコが顔に疑問符を浮かべている。

「つまりね、この石にマモルさんの魔力がそのまま入っているの。魔法教室の指導要綱にも入れてあるけど、自分の魔力は身体から離してもそこにあるって判る、感じられるのよ」

「けれどそれは、すぐに消えてしまうのでは?」

 自衛官の一人が聞いた。マコは彼に頷いた。

「はい、そうです。でもですね、理屈は解らないけど、この石に魔力を入れると、消えずに本人の魔力のまま残るみたいなんですよ」


「そうなのですか。けれど、それがどのように使えるのですか?」

 スエノが聞いた。その質問にマコが答えるより早く、マモルが口を開いた。

「マコさんがそれを身に付けていれば、自分はマコさんの位置を離れていても常に把握できる、と言うことですね?」

「はいっ、そうですっ」

 我が意を得たりと、マコは声を上げた。

「どれくらい離れていても感じられるのか、とかの検証は必要ですけど。それにこの石、ものすごく大量の魔力を貯められる上に、二ミリくらいですけど外に漏れた魔力も残っているんですよ。使い道はまだわかりませんけれど、これを魔道具に使えば、今までにできなかったこともできるんじゃないかと思うんです」


「解ったわ。それではコミュニティとしても、正式にこの石を集めて戴けるよう、自衛隊に依頼します。対価は相談させて下さい」

 レイコもこの石の可能性にすぐに気付き、自衛官に言った。

「解りました。別部隊も関係するので即答はできませんが、前向きにこの石を集めるよう上に進言します」

「お願いします。ですが……『この石』と言うのも面倒ですね。何か適当な名前はないかしら」

「それなら、『魔鉱石』は?」

 レイコの言葉に、マコが即座に答えた。

「魔鉱石、ね。魔法に使える鉱石、と言うところかしら」

「よろしいのではないでしょうか」

 自衛官の代表も頷いて、この未知の石は魔鉱石と呼ばれることになった。



……ついにマコの手に魔鉱石がっ!!



それで、魔鉱石って、何?(^^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ