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私が魔法の開拓者(パイオニア)~転移して来た異世界を魔法で切り拓く~  作者: 夢乃
第十一章 婚約と魔鉱石

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11-5.ひと月の状況と今後の方針

 マモルと正式に付き合うことをレイコに報告したマコ──報告したのはマモルだったが──は、その日の午後に、不在の間に試作された自動車を見に行った。

 試作された自動車は、木製の馬車のようだった。

「こんにちは。これ、もう動くんですか?」

 マコは、自動車鉱山──昔の自動車が山になっている場所が、そう呼ばれるようになっていた──の近くに作られたガレージで、試作自動車を弄っている技師に聞いた。


「ああ、マコちゃん、昨日帰って来たんだってね。お帰りなさい」

「ただいま。なんだか昔、本で見た世界最初の自動車みたいですね」

「あそこまで立派じゃないけどね」

 技師は苦笑いした。

 自動車は、荷馬車に運転台が付いたような形状をしていた。ハンドルも付いているし、運転台を覗くとアクセルだかブレーキだかのフットペダルも見える。

 車輪も馬車のような木製で、ビニールの木の樹液から作ったタイヤが嵌められている。


「新しく作ったんですね」

「ええ。昔の自動車を持ってくるのは大変ですし、そもそも金属加工が大変ですからね。それならと木で作ったわけです。一部シャフトやギアなんかは自動車から外して使っていますが」

「走るんですか?」

「まあ、一応は。ちょっと待って」

 技師は弄っていた部品を取り付けると、運転台に乗り込んだ。

「マコちゃん、どうぞ、乗って」

「はいっ」


 マコは、少し高い位置にある運転台の助手席側によじ登った。

「気を付けてください。あまり速度は出せませんが」

「はい」

 マコは左側の手摺を掴んだ。

 技師は運転台中央の把手を握ると、しばらく待った。マコがその先を魔力で探ると、魔力機関になっている。つまりは魔力を充填していると言うわけだ。

 把手から手を離した技師は右足でフットペダルを踏み込み、右手をハンドルに置いて左手でレバーを倒す。魔力機関とは別の把手を握ると右に倒し、魔力機関の把手を再度握った。


「発車します」

 そう言って一拍置くと、足をゆっくりとフットペダルから上げながら、左手をゆっくりと押し込んだ。徐々に自動車が走り出す。

「わあっ。走りますねっ」

 思わずマコが叫び、技師は微笑んだ。すぐに真顔を戻って少しずつ速度を上げて行く。

 時速二十キロメートルほどの低速で、自動車は、元々駐車場だった住宅街をひと回りして、ガレージの前に戻って止まった。途中からついて来た子供たちが数人、寄って来る。


「まほうつかいのおねーちゃん、おかえりー」

「このじどうしゃ、ねーちゃんがえんじんつくったんだろ?」

「ぼくものせてー」

と姦しい。

「ほらほら、まだ子供を乗せるには危ないから、完成したらな」

 技師が子供たちを追い払う。

「みんな、氷室にお土産のチョコレートがあるから一人一個ずつ貰ってね。一人一個だよ」

 マコが言うと、はーい、と返事しながら、子供たちは散って行った。


「やっぱり子供ってこういうの好きですよね」

「ええ。でも最近は少なくなりましたよ。毎日いろいろ弄ってはいるんですが、見た目はあまり変わらないから、飽きて来たかな」

「そうなんですね。それで、問題とかあります?」

「まあ、色々ありますけどね。まずは操作性が悪いことですね。魔力機関に付けた把手がアクセルなわけですが、手でアクセルを操作してブレーキを足で、と言うのは操作感がね。それに、手を離しても戻って来ないのも自動車としては使いにくい」

「なるほど」


「ただ、これは自動車の構造を変えれば何とかなると思っている。それよりマコちゃんに関係しそうな問題は、魔力機関に使う潤滑剤だね。どうしても漏れるから補充が必要なんだけれど、表面積が大きいから結構量が必要でね。それに、潤滑剤のお陰で迅速な操作がやりにくい。もう一つ、充填した魔力の残量が判らないことだね。まあ、魔力に目覚めていれば誰でも補充できるから、魔力残量の件はそこまで問題にならないと思うが」

「可動部の表面積が大きいから、潤滑剤の量が多いのと動きが鈍い、それに魔力残量ですね。考えてみます」

「よろしく頼むよ」


 自動車から降りて、マコは魔力機関の改良方法を考えながら、マンションへと歩いた。

(うーん、どうすればいいだろう……魔力機関の本体と筒部分の摩擦を何とかすれば良いんだよね。何かいい方法ないかなぁ……)

 しかし考えても出てこない。

(作りながらじゃないと上手く思いつかないなぁ。そうだ。いっそのこと……)

 いいことを思い付いたとばかりに、まずは現状確認をしなければ、と不在中の状況を聞くためにレイコの元に急いだ。


 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 マコのいない間に、マンションの小学四年生以上の人々のほぼ全員に、魔法の基本的な使い方を教え終えていた。今は、近隣のコミュニティ──もはや、同じコミュニティと言っても構わないほど密接に関わっている──から通いで来る人たちや、引き続き自衛官たちに教えている。

 そのことを確認したマコは、思い付いたことを実行に移すことにした。元々、細々と行なっていたことではあるが、規模を大きくした上で内容を拡充するつもりだ。


 マコは魔法教育の指導要綱のノートを広げると、新しい要綱を考え始めた。作るのは、魔道具作製方法に関する要綱だ。

(魔力機関そのものについては教えないことにして……

 ええっと、道具に魔力(コマンド)を込めることで魔道具になる、と言うのがこれまでだから、教えるのは次の『魔力を魔力(コマンド)に変える命令』を与える魔力(コマンド)の使い方と組み合わせについて……とすると、新しい魔力灯を作らないといけないか……魔力機関で思い付いたノウハウを元にして、今までとは違った蓄積型魔力灯を作ることにしてっと)


 蓄積型魔力灯や魔力機関の作製方法を伝授することは、危険を孕んでいる。魔法を悪用した人にマコが装着している魔力錠の発明に繋がるためだ。

 魔力錠を作るだけなら問題は無いのだが、その過程で、連鎖的にすべての魔力を継続して無力化する魔道具を作り出し兼ねない。その危険を冒すことはできない。

 ただ、『すべての魔力』を連鎖的に無力化することは、実は不可能ではないか、と最近のマコは考えている。まだ確証はないが。確認しようとして、もしも間違っていたら、誰かの魔力を一時的とは言え完全に奪ってしまうことになり兼ねないため、躊躇している。


 魔力機関に与えた命令は確率的なものがないので、命令の与え方を間違って魔力を一時的に無力化してしまう危険はあっても、それが継続する心配はない。それに、命令を与える先の魔力を魔力(フリー)に限定すれば、誰かの魔力を無力化することはない。

 誰かが魔力錠に至る魔力(コマンド)を思い付き、それを悪用する危険性は皆無ではないが、魔力機関の作製方法をマコが独占していては、今後、自動車の生産が軌道に乗っても、マコがボトルネックになって生産が滞ってしまう。それよりは、マコのほかにも魔力機関を作れる人がいた方がいい。


 もう一つ、魔力機関を作る方法を教えることで、生徒の中から改良された魔力機関を発明する人が出てくるかも知れない、いや、出て欲しい、とマコは考えた。それにより、マコ一人で考えるよりも魔力機関の改良までの時間を短縮できるだろう。


 元々、魔法に関することがマコに集中してしまったのは教える魔法を絞ったためで、マコの自業自得なのだが、これからそれを解決しようと言う試みだ。

 問題は、魔道具を作れる生徒が少ないことだ。今までに三十人ほどに魔道具の作り方を教えているが、実際に魔道具を作れるようになったのは六人だけ。こればかりは教えてみないと、才能があるのかどうかが判らない。効率は悪いが仕方がない。


 他に、瞬間移動のできる人員も増やす必要がある。必須ではないものの、今は金属の加工……平たく言うと、廃棄自動車からの削り出しには、瞬間移動が一番手っ取り早い。

 ただ、魔道具作製と同じく、教えても使えない人もいるので、これも効率は望めないだろう。


 さらにもう一つ、魔力を知覚させられる人も増やしたい。こちらは今のところ、マコの他にはジロウ一人だけだ。

 マンション住民の魔力の知覚と教育は、マコが欧州に出掛けている間にジロウや教師役にした生徒たちが頑張ってくれたお陰で終わっているが、今後は自衛隊から、より広範囲への魔法の教授が求められるとマコは考えている。もしかすると、米軍からの要求もあるかも知れない。

 万一そうなれば、マコとジロウ二人の手には負えなくなる。その前に、他人の魔力を知覚させられる人を増やしたかった。


(他にもあるけど、まずはこの三つかな。確率が低い上に最後の一個はそもそも希望者が少なそう……とにかく先ずは、覚えたい人の募集をかけて、それから考えよう。その前に、蓄積型魔力灯を改良しないとね)


 方針を決めたマコは、とりあえず蓄積型魔力灯・改を作るための材料を調達に出掛けた。久し振りのキヨミの散歩のついでに。

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